マイナー車好きオーナーのコレクションに加わった2代目バイオレット
日本車にとって昭和期の後半は、上昇志向の時代。高嶺の花だった自動車が、一家に一台の自家用車となり、乗り換えではより大きなクルマ、より豪華なクルマが望まれるようになった。各自動車メーカーもその要望を叶えるべく、新型車を大型化し、装備の充実を図っていく。
しかし使い勝手のいい大きさや、購入予算というものは人それぞれである。例えば日産であれば、3代目の510型ブルーバードは、4代目の610型、通称『ブルU』へのフルモデルチェンジで、車格を1ランクアップさせた。しかし、 3代目のサイズ感や価格帯には引き続き大きな需要があり、その顧客を逃さないようにと、日産は3代目ブルーバード同等の車格となる新型車種『バイオレット』を1973年にデビューさせたのである。
さて、ここでの主役となる2代目バイオレット。ボディバリエーションは、4ドアセダン、3ドアハッチバッククーペ、ライトバン、それから5ドアハッチバックの4タイプとなる。
エンジンは、排気量が1.4〜1.6リッターがメインとなり、1.4リッターに4気筒OHVのA型エンジン、1.6リッターには4気筒SOHCのL型を採用する。
シャーシは、初代バイオレットが兄貴分となるブルーバードと同様のフロントにストラット、リヤにセミトレーリングアームを組み合わせた4輪独立懸架を採用。2代目は、弟分のサニー同様のリヤを4リンクコイル式リジッドとしている。
そんな2代目バイオレットだが、初代同様に海外ラリーに参戦するなどのモータースポーツでの活躍はあったものの、実際に販売されていたモデルはいわゆるファミリーカー的なキャラクターであり、趣味的に所有するといった車種ではなかった。
そんな背景から、デビューから半世紀近くを経た現在では、旧車が集まるイベントでもなかなかお目に掛かれない、言うなれば絶滅危惧種的存在。そんな2代目バイオレットの希少さに目を付けたのが、オーナーのS.Kさんである。
「バイオレットの他にも、2台の旧車を所有しているんです」というS.Kさん。何をお持ちなのかを伺うと「ヒラメセリカと、エクサのオープンバックです」と、おっしゃる。
ちなみにヒラメセリカとは、3代目セリカの前期型に付けられたニックネームで、いわゆるリトラクタブルヘッドライトとは異なり、格納時もヘッドライトが見えるのが外観上の特徴。その見た目から、ヒラメと呼ばれている。後期型は、通常のリトラクタブルヘッドライトになり、そのニックネームもブラックマスクに変化。人気の高さで言えば、当時も、そして現在もブラックマスクが優勢となっている。
エクサの方は、パルサーの派生モデルで、初代はパルサーエクサ(EXA)。S.Kさん所有のエクサは、パルサーの名前が無くなった2代目エクサである。日産エクサは、基本構造としてはノッチバッククーペだが、Cピラー以降をクーペとキャノピーに付け替え、1台で2つのスタイリングを楽しめるという発想で誕生したモデルとなる。
残念ながら日本国内では、Cピラー以降を自由に付け替えるという機構は認可されなかったが、クーペとキャノピーがそれぞれ販売されており、S.Kさんが所有するのはクーペの方となる。
バイオレット、セリカ、そしてエクサも、お世辞にも人気車種ではない。セリカはともかく、バイオレットとエクサは、いわゆるマイナー車と呼ばれる属性と言えるだろう。
「マイナー車が好きなんです。スカイラインのハコスカやケンメリ、それからフェアレディZは確かに名車なのは間違いないです。けれど自分は、そういうわかりやすい名車には興味がないんです。ヒラメセリカやエクサ、そしてバイオレットみたいなマイナーな車種に興味が湧いてしまうんですよ」
どうやらS.Kさんは本物のマイナー車好きのようである。
「ヒラメセリカとエクサが一通り仕上がって、新たなマイナー車をいじりたいという虫が騒ぎはじめまして(笑)、バイオレット、オースター、リベリタビラあたりに興味があったんで、インターネットで探していたんです」
マイナー車好きらしい車名が並ぶが、それだけに現存台数も少ないのは言うまでもない。しかし2024年2月に『これは!!』という個体を発見した。
「神奈川県のお店で、このバイオレットが売りに出ていたんです。ちょうど神奈川に行く用事があったので、嫁さんと一緒に現車を見にいきました」
ちなみにS.Kさんの奥様は、取材当日たまたま別の用事があり今回のイベントに同行されなかったそうだが、普段はお二人で旧車イベントに参加されているそう。そんな奥様なので、現車確認にも同行されたというわけである。
「販売されていたバイオレットは、足まわりがカスタマイズされていて、いわゆるローダウンと太いアルミホイールが装着されていたんです。けれど、それは私の好みではないので、ノーマルに戻してもらえることを確認して、嫁さんも『買っていい』と言ってくれたので、その場で購入することにしました」
カスタマイズされた部分の復元と車検整備を経て、晴れて納車となったのは4ヵ月後の6月のこと。車高はノーマルとなり、純正ホイールキャップが装着されたスチールホイールとなったバイオレットの姿は、S.Kさんを満足させるに十分なものであった。
2ドアクーペとなるボディは、乗車空間とトランクが独立しているように見えるデザインだが、実はハッチバックで、リヤウインドウ上部からガバッと大きく開く。
「さすがにリヤハッチのダンパーは抜けてしまっていたので、開いた時には竹刀で(笑)ハッチを支えています」
エクスリア同様に1970〜80年代の日産車らしいデザインとなるインテリアも、ヤレがないワケではないが、欠品もなく、ステアリングやシフトレバーといったカスタマイズされやすい部分も、しっかりオリジナルの整った状態を保っている。
エンジンは4気筒OHVの名機、A型エンジンを搭載。こちらもオリジナルを保っているが、乗りはじめた直後から、信号待ちなどでアイドリングが保てないという不具合が発生したそうだ。
ノーマル車とはいえ旧車。しかもマイナー車だけに、そう簡単に修理依頼を受けてくれるアテは見つからないのではないだろうか?と伺ってみると「実は以前、テラノに乗っていたことがあって、その時から付き合いのあるディーラーさんなんです。エクサもそのディーラーで診てもらっています。バイオレットの納車前には『今度、バイオレットを買うからまたお願いしますね』と言ったんですが、エクサよりさらに旧いだけに、少々嫌な顔して『ちょっとよう触らんかも?』と言われました(笑)。とりあえずアイドリングの不調はキャブレターの調整でなんとかしてくれましたね」とのとと。
「NAPS(日産公害防止システム)時代のA型エンジンなので、当時から走らないと言われていましたが、すごく軽く回って軽快に走ってくれます。ただ、ミッションが4速なので、80km/hとか100km/hで走っていると車内は結構騒がしいですよ(笑)」
エンジンだけではなく、ハンドルも軽いそうで「パワステは付いてないんですが、ヒラメセリカはすごくハンドルが重くて、車庫入れなどで苦労させられますが、バイオレットは楽に車庫入れできます」
マイナー車を手に入れ、少しずつ調子よく乗れるクルマに仕上げていくことに楽しみを見出しているS.Kさん。手に入れてまだ半年の仕上がり具合を伺うと「100点満点中、まだ65点ぐらいですかね。内外装もまだまだ細かい部分で手を入れたいところがあります」
例えば、サイドウインドウのウェザーストリップもそのひとつ。経年劣化と摩耗でガラスがガタつくので交換したいそうだが、マイナー旧車だけに当然新品パーツはなく、流用できる部品を探している最中だという。
「モータースポーツでも活躍したA型エンジンなので、エンジンのカスタムにも興味があります。今でも気持ちよく走りますが、もっと速くなるなんて話を昔から聞いているので、機会があればやってみたいですね(笑)」
今後、S.Kさんがバイオレットをどのように仕上げていくのか? この先も楽しみは無限大に広がっていそうだ。
(文: 坪内英樹 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:片男波海水浴場(和歌山県和歌山市和歌浦南3丁目1740)
[GAZOO編集部]
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