新車と見紛うばかりの状態を、40年以上も保ち続けるサバンナRX-7
1970年代は、自動車メーカーにオイルショックや排気ガス規制という試練が課された時期。特に1960年代までクルマ人気の核をなしていた高性能車は、排気ガス規制をクリアできず、次々と姿を消していく、そんな時代であった。
スーパーカーブームが巻き起こったのも同時期で、高性能な国産車不在故に、夢の世界のクルマ=スーパーカーに子供達の興味が集まり、大きなブームとなったのではなかろうか?
そんな1970年代の終わりとなる1978年に、衝撃的というに相応しい国産車が突如デビューした。サバンナRX-7(SA22C型)がそれである。
ロングノーズの先端は大きくスラントし、スーパーカーと同じリトラクタブルヘッドライトを組み合わせた2ドアクーペというスタイリングは、まさにスポーツカーそのもの。しかもそのビジュアルに相応しい、0-400m加速のタイムが15.8秒というタイムを記録する動力性能も兼ね備えていたのだ。
ちなみに15.8秒というタイムは、排気ガス規制以前に登場した初代フェアレディZの高性能グレードである240ZGと同等のタイムであり、排気ガス規制により牙を抜かれていた当時のライバルと比べ、明らかに速いタイムであった。
そんな速さを可能にしたのが、マツダがコスモスポーツで市販に成功し、開発を続けてきたロータリーエンジン(RE)だ。12A型となる2ローターエンジンは、排気量573cc×2ローターなので1146ccながら120psのパワーを誇る。
低いフロントノーズを有するデザインを実現できたのも、コンパクトなREがあればこそ。
さらにはフロントアクスルよりも後方にエンジンを搭載するなど、重量バランスなども考慮された。そんな設計がなされていたことで、コーナリング性能なども高く、その見た目に相応しい、スポーツカーとなっていたのだ。
排気ガス規制やオイルショックで息を潜めていたクルマ好きたちが、久々に見た目も走りも楽しめるRX-7に注目するようになり、RX-7だけではなく、他メーカーのスポーツモデルも活況を呈するようになっていったのである。
これは日本国内だけではなく、RX-7が輸出された北米などでも同様。スポーツカーにとっては逆境だった時代に、RX-7は成功を収め、再びスポーツモデルが注目される時代の扉を開けたのである。
そんな初代サバンナRX-7の初期型が、今回のイベント会場に展示されていた。綺麗に磨き上げられたクルマばかりが並ぶ中でも、一分の曇りもない、まるで40年以上前、RX-7がデビューしたばかりの1978年にタイムスリップしたかのように錯覚するほど、キリッとした出で立ちで、ひと際目を惹く。
しかも装着されているナンバープレートは、当時の和歌山ナンバーとなる『和』ナンバー。当然、自動車種別分類番号は2桁の『55』と、当時のままのプレートが付く。これはお話を伺うしかないと、オーナーであるロミオさんに声を掛けた。
新車からずっと乗っているのか? と伺うと「3年ぐらい前に手に入れたんです。自分が3人目のオーナーです」というお答えが返ってきた。手に入れた経緯を伺うと「淡路島でロータリーのイベントがあって、ルーチェで参加したんですが、ルーチェの前にこのRX-7が停まっていたんです。新車みたいにきれいで、それも『和』ナンバーなんで声を掛けて話をしたんです」
ちなみに、ロミオさんがその時に乗っていったルーチェというのは、ルーチェとしては最後のモデルとなるHC型ルーチェ。『三次ベンツ』といったニックネームで呼ばれたモデルで、ロータリーのイベントに参加していたのだから、当然RE搭載モデルとなる。このルーチェは20年以上所有されているそうだ。
話をRX-7に戻すと、その時点ではまさか譲ってくれるなどと思いもしないので、同じRE好きとして、連絡先を交換してその場は別れたそうだ。
「少し間があってから、RX-7を見にこないかと連絡があったんです。そして見に行ったら、『ロミオさんなら、ナンバーもそのままで引き継いでもらえるし、大事に乗ってくれそうだし』と譲ってくれることになったんですよ」
そんなミラクルな経緯を経て、ロミオさんの元にこのRX-7が来たという。
RX-7のお好きなところを伺うと、意外なご返答が返ってきた。
「実はRX-7が出た時から、特に好きというワケじゃなかったんです(笑)。特にスタイルがね。前からの見た目はいいんですが、後ろからの見た目がどうも好きじゃない(笑)」
とは言え、マツダというメーカーはお好きだという。
「親父の弟さんが、和歌山のマツダの社長をしていて、親父が乗っていたクルマも、親戚が乗っているクルマもマツダ車ばかりの環境で育ったんです。でも親父はクルマにあんまり興味のない人で、車検などのタイミングで、弟さんが『次はこれに乗っとけ』みたいな感じで新車を持ってきてくれる。中学の頃は軽四のシャンテが我が家のクルマでした」
そんなマツダ車に囲まれて育ったことで、免許を取ってから数年の間はマツダ車を乗りついでいたそうだ。
「当時はセダンが好きだったんで、HC型のルーチェに乗っていました。結婚を機にファミリアに乗り換えたんですが、20年ぐらい前にネットで同じルーチェを見つけて、これも何かの縁だと、それを手に入れて今でも所有しています。淡路のロータリーのイベントに参加した時も、そのルーチェでした」
マツダは好きだが、RX-7にはあまり惹かれなかったロミオさんが、このRX-7を譲り受けた理由も伺ってみた。
「自分はマツダのマイナーな感じが好きなんです。旧車のイベントに行っても日産とかトヨタと比べたら、マツダ車ってマイナーじゃないですか? ルーチェもそんなマイナーさが好きで乗っているんです。そんなマツダの中では、RX-7はメジャーな方に属しているので、これまでそんなに興味はなかったんです。
でも。この譲り受けたRX-7は、デビューから1年ぐらいしか採用されていないチェック柄の内装とか、今じゃなかなか見かけない前期型のボディとか、何より未再生なのに新車のような状態を保っている。マイナーっていうのは違うかもしれませんけど、RX-7の中では他とは被らない希少な存在なので、譲り受けることにしたんですよ」
ロミオさんが仰っているように、この1978年式のRX-7は完全なる未再生車。とは言っても、単に長期間眠っていたというものではなく、しっかりとメンテナンスをされながら生き続けてきた類稀なる車両となる。
「チェック内装は、シートの表皮とかが破れやすかったみたいで、1年後にはモケットの表皮に変わってしまうんですが、このクルマは破れていません。自分も破れないように気を使いながら乗っていますが、これまでの二人のオーナーも大切に乗ってくれていたんだと思います」
ロミオさんが手に入れてからも、しっかりと必要に応じてメンテナンスを行なっているという。
「他のクルマも診てもらっているマツダのディーラーで、メンテも車検もやってもらっています。シール類とかゴム製の部品は、どうしても時間と共に傷みますから、そういった部分をしっかりと交換してもらっていますよ。直近だと、クラッチのマスターシリンダーが抜けてしまったんですが、純正部品はもう出ないので、代わりになる部品を探してもらって、修理してもらいました」
各部、新車のような状態を維持するにはどんなことに気を使っているのかも気になる所だ。
「内装はさっきも言ったように表皮が破れないように注意しています。それから紫外線が当たらないように、動かす時もカバーを掛けていますね。基本的に保管しているのは倉庫で、ルーチェや他に持っているカペラやコスモLと一緒に停めています。埃が積もったとか、今日のようにイベントに参加した後には水洗いして、エアブローでしっかり乾かすぐらいで、ボディに関してはあんまり特別なことはしていません」
実は撮影のために外していただいたのだが、内装にはあらゆる部分を覆うように、カバーが掛けられていたのだ。
また、ロメオさんの娘さんが、ボディコーティングのお店をしており、ロミオさんご自身もコーティングにお詳しいのだが「このRX-7はコーティングしていません。やればもっと艶は出ると思いますけど、純正オリジナルの塗装ならではの柚子肌が無くなっちゃうんで、コーティングはこれから先もすることはないですね」
実動かつ、未再生のままでオリジナルを保つ。
新車で乗り始めて10年ぐらいなら、それほど難しいことではないが、40年以上が経過した旧車となると、非常に難しいクルマとの付き合い方となる。ロミオさんであれば、大好きなマツダ車の1台として手に入れた1978年式サバンナRX-7を、今後も新車と見間違えるレベルの状態を保って、所有し続けてくれることであろう。
(文: 坪内英樹 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
第四回 昭和の乗り物大集合in片男波海水浴場2024
取材場所:片男波海水浴場(和歌山県和歌山市和歌浦南3丁目1740)
[GAZOO編集部]
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