キャロル360は自慢の看板息子!前オーナーから受け継いだ意思を大切に守り続けるうどん屋店主の物語
香川県に住む海侍さんは、うどん屋の店主として現在働いている。
丸亀市と坂出市に店舗を構え、69年式のキャロル360(前期)を店頭まで運び、時には店舗間を行ったり来たりするのだそう。
海侍さんとキャロルの間には一体どんなストーリーがあるのでしょうか。
今回は、海侍さん×キャロルのお話です。
――キャロルとはいつ出会ったんですか?
あいまいですが……3、4年前くらいだったと思います。最初は動かない状態だったので、クルマ屋をやっている友達に修理をお願いしたんですよ。それで、ようやく乗れるようになったのは、1年前くらいだったと思います。
――そもそも、どのようにしてキャロルの前期モデルを手に入れたんですか?
友達の知り合いのおじいさんが「ちゃんと大事にしてくれる人に、キャロルを譲りたい」と、受け継いでくれる人を探しているお話を、友達からいただいたので、それを僕が受け継いだという感じです。僕からお願いしたわけでは無かったので、金銭のやり取りはなかったのですが、お酒とおつまみをお土産に持って、クルマを引き上げてきたんですよ。
――譲ってくれたおじいさんとは、元々面識があったんですか?
僕は面識がありませんでした。そのおじいさんは、元々、クルマ関係の仕事をしていたみたいで、昔乗っていたキャロルをずっと持っていたみたいなんです。暇な時に直して乗れるようにと、ずっと部品を集めていたみたいで…。結局、直す元気が無いので、クルマ屋をやっている僕の友達に話が来ていたみたいです。
――そのお話を聞いた時はどう思いましたか?
「ちゃんと乗れるようにして、その人に見せてあげたい」という気持ちでした。ただ、キャロルを預かったあとは、クルマ屋の友達も忙しくて、キャロルがずっと置かれたままになってしまっていた時期があったんですよ。
譲り受けてから3年くらい経った頃、そろそろ乗れるようにしてあげたら?って、周りも心配し出して…。80歳近いおじいさんだったので、僕もなるべく早く直してあげなくちゃっていう焦りがあったんです。
それで、友達だけではなくて、他にも旧車に詳しい、繋がりのある人にも協力してもらって、修理が順調に進展したという感じですね。
完全に直るまでに、4年くらいかかりましたよ。
――そのおじいさんには、直ったこと、伝えられたんですか?
キャロルが走れるようになった時、SNSに投稿したんです。そしたら、おじいさんの近所に住んでいる人が、僕のインスタを見て、おじいさんにも伝えてくれました。しかも、僕が働いているうどん屋に、おじいさん夫婦を連れて、実物を見に来てくれたんです。
――無事、キャロルの姿を見せられたんですね。
僕も嬉しくて、エンジンをかけて音を聞かせてあげようと思って、エンジンをかけたら「懐かしいわ」って言ってくれて。それが嬉しくてね…。1度おじいさんの家まで、キャロルで出向きたいと思ってはいるんですけど、なかなか行けなくて…。
――直ったキャロルは、海侍さんご自身も気に入っているんですか?
正直、キャロルが欲しいとは、その時は思っていなかったんですよ。でも、すぐに愛着が湧いたんですよね。あの可愛いフォルムに、なぜ今まで興味を持たなかったんだろうって思うくらい、今では気に入っています。愛車に迎え入れてから、旧車のイベントの動画とかを見ていても、キャロルが居たら目で追っちゃいますね(笑)。
――キャロルの愛嬌にやられたんですね(笑)。特に愛着が湧いた部分は、どこなんですか?
ほぼ見た目ですね。斜め後ろから見た時に、天井から下に向かってスパッと真下に下がっている感じが、とても僕に刺さりました。普通はリアガラスって、斜めにしぼんでいってトランクって感じじゃないですか。あのボディラインが、昔持っていたサニトラを思い出して、可愛らしいなって思ったんですよ。
――360ccのクルマが特別好きだったとかは、なかったんですね?
旧車は好きですけど、360ccにこだわっていたとか、そういうのはなかったですね。実際に運転してみると、このスピードでよく昔は成り立っていたなって驚きましたね。それと同時に、今ってすごく便利になったんだなって気付かされたというか。そういう気付きも旧車ならではで、面白いですよね。
――ところで、SNSで見たのですが、普段からうどん屋さんにキャロルを停めているんですか?
そうなんです。僕が経営しているうどん屋は、丸亀市と坂出市の2ヶ所にあって、ほぼ毎日、キャロルかミニカを置いています。
実は、このミニカも僕が所有しているクルマなんです。お店に旧車を停めておくと、それ目当てに来てくれるお客さんがいらしてくれたりするんですよね。この間も、鉄仮面に乗って、わざわざ県外から来てくださったお客様がいて「旧車が旧車を呼び寄せている」んだなって。今ではお客様を呼ぶ、看板息子的な存在になっていますね。
お客様の層も、お年寄りが多いので、懐かしがってくださるというのも嬉しくて…。店から店までクルマで約15分で行けるので、キャロルとミニカを入れ替えることもありますよ。
――でも、お店に置くとなると、盗難とかが怖いですね。
もちろん、盗難対策はしていますよ。
それでも心配な時は、家に持ち帰っているんですけどね。
そういえば、去年、外国人がキャロルを売って欲しいと言ってきて、勝手にワイパーのところに名刺を挟んできたりすることが続いたんですよ。その時は警戒して、しばらく家に持ち帰っていました。
――お客様から旧車についてお声がけしてくれたことはあるんですか?
「昔、コイツに乗っていたんだ」っていう人はいましたよ。あとは「昔乗っていたけど、この子はスピードが出ない」とかね。僕は体が大きいので「お前が乗ったらもっと走らんやろ!」みたいなツッコミをいただいたこともあります(笑)。
あ!それと、一時期キャロルを置いていない時期があった時に、普段は声をかけてこないお客様が、心配してくださったこともありましたね。
今まで口には出さなかったけど、このお客様はキャロルを見に来ていたんだなって、ちょっと暖かい気持ちになりましたよ。
お店の中では熱帯魚も飼っていて、それを目的に来てくれる人もいるんですよ。元々、うどん以外の楽しみも得られるうどん屋にしたかったので、実現できているのかもって、実感できたのが嬉しかったです。
――海侍さんがキャロルに乗っていて、楽しいとか、幸せを感じる瞬間ってどういう時なんですか?
丸亀市の方の店舗の近くを、キャロルで走っていると、小学生くらいの子たちが手を振ってくれるんですよ。「いつものおっちゃんや」って感じで手を振ってくれるんですけど、それが嬉しいな(笑)。
ちょっと変わったクルマだから、子供も覚えていてくれるんだろうね。あとはもうね、乗っていると、とにかく遅いから…(笑)。例えば、道に出たい時も瞬発力がないから…。もうちょっとだけパワーがあれば完璧ですね。まあ、それも含めてキャロルなので、割り切ってはいるんですけど(笑)。
――愛がとても伝わります(笑)。キャロルが居なくなったら寂しいんじゃないですか?
今は自分のそばにあるのが当たり前だから、気付かないけど、無いと寂しいんでしょうね。たまに、エンジンをかけてキャロルを眺めていると、癒されるんですよ。お店の熱帯魚とかもそうなんですけど、僕って、癒しを常に求めているのかも(笑)。趣味でやるスポーツとかは、あまり好きじゃなくて…。それだったら、1人でアロワナを眺めながら癒されたいんですよね。クルマを見る時も正にそんな感じで、同じアングルだけじゃなくて、360°移動しながら見たりもします。
キャロルは老若男女から本当に人気者で、それが僕も誇らしいというか、自慢の息子みたいな、そういった感覚なんですよね。それが満足感にもつながっているんだと思います。
「おじいさんから受け継いだ意思は、引き続き大切にしていきたいです。」
エンジン音を聴かせてあげたあの日、まだ仕事中だったため、深くは話せなかったという海侍さん。
多くの言葉は交わせなかったけれど、キャロルのエンジン音や、店頭での人気ぶり、海侍さんの思いやりを見て、きっと安心したのではないでしょうか。
キャロルが今後も、うどん屋の看板息子として大活躍するのを楽しみにしています!
【Instagram】
海侍さん
(文:秦 悠陽)
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