手に入れて31年。人とクルマの縁の歴史を紡いできた愛車、1966年式 ホンダ SM600



大切に接すれば、誕生してから優に半世紀を超えるクルマでも現役バリバリに走ることができる…。ただそれにはオーナーの情熱だけでなく、さまざまな人とのご縁がないと成立しないことも事実です。

今回、取材することができたgarage51さんが30年以上所有している愛車とのエピソードが、そのことを教えてくれたように思います。

―― まずは、garage51さんの愛車について教えてください

愛車は「1966年式 ホンダ・SM600」です。現在の走行距離は約7.8万kmです。いま56歳なので、25歳で手に入れて手に入れてから今年で31年間所有していることになるんですね。

―― まさに人生をともに歩んできた愛車ですね。SM600を手に入れる前にはどんなクルマを…?

もともとバイクが好きで、17歳のときから峠道を走っていました。10代の終わりに事故を起こしてしまい…。そこからはクルマにも興味を持ちはじめるようになったんです。そうして手に入れたのが、デビューしたばかりのスズキ・アルトワークスでした。まだエンジンの排気量が550ccだった時代のモデルです。

―― アルトワークス!速かったですよね

テレビのCMでたまたま見掛けたんです。試乗してみたら“こりゃ面白い”と思いまして(笑)。これならバイクが乗れなくても楽しめるということで、すぐに購入しました。バイクでサーキットを走っていましたし、このアルトワークスでもジムカーナに参戦しました。そのうちアルトワークスもいじるようになり、自動車雑誌にも載せてもらいましたね。あとは、スズキ・ジムニーですね。

―― ジムニーではどういった楽しみ方をされたんですか?

当時、スズキ・サムライ(ジムニーのアメリカ版)をベースにCalルック(※キャルルック。90年代にアメリカ・カリフォルニアで生まれたポップな改造)にして、車高をベタベタに落とすのが日本でも流行りまして。結局、ジムニーも2台乗り継ぎました。そこからは現在も所有しているホンダのNです。

―― いわゆる「Nコロ」ですか?

そうです。排気量360ccの空冷エンジンを搭載したN360です。その後にSM600を増車して現在に至る…という流れです。

―― いずれも所有歴が30年を超えていますね。もともと1台のクルマと長く付き合う方なんですか?

いやいや(笑)。それまでは車検を通したことがないほど頻繁に乗り替えていました。新車を手に入れても初回車検の前にいじりまくって、それで満足したら次のクルマに乗り換える…。その繰り返しでした。

でも、あるときばかばかしいと思うようになったんですね。ずっと乗っていられるクルマが欲しい。そんなとき、自動車雑誌を読んでいて目に留まったのがホンダのNコロだったんです。このクルマを手に入れたのは23歳でした。

―― そこからエス(SM600)とつながっていくことになるのですね

当時はホンダのNよりSの方がよりバイクっぽいくらいの知識しかなくて、N360を購入したショップの方に、別のお店を紹介していただいたんですね。

紹介されたショップを訪ねてみると、オーナーさんが「他のSは見ましたか?」とおっしゃるんですね。私がSは初めてですと伝えると「そしたらもっといろんなクルマを見てから決められた方がいいですよ」って。この方なら信頼できる人だと思い、手に入れたのが現在の愛車であるSM600です。

―― SM600って珍しいモデルですよね

S600の豪華版がSM600なんですね。S600を買うつもりで、たまたま最初に見たのがこの個体だったんです。先ほども申し上げたとおり、ショップのオーナーさんが信頼できるって思えたのが購入の決め手でした。

このモデルはラジオやバックランプなどが標準装備で、ボディカラーも特別色のアルペンブルーメタリックなんです。ただ、私が手に入れたときは黄色でしたけど(苦笑)。

―― まさに一期一会。ご縁ですよね。ちなみに…記念となる初ドライブはどちらへ?

鈴鹿サーキット内にあったホンダコレクションホールに行きましたね。当時は大阪に住んでいたので、鈴鹿までのドライブはちょうどいい距離でした。

―― いわゆる「聖地巡礼」ですね。N360との違いはいかがでしたか?

N360の経験があったので運転自体は苦になりませんでした。でもSM600は高回転型のエンジンなので、とにかく回さないと走らないんです。なんたってレッドゾーンが9500回転ですからね。

あえてS800ではなく、SM600にしたのも、こちらの方が高回転型のエンジンだったからです。よりバイクに近い感覚が味わえると思ったんですね。

―― それはもうタマランですね(笑)。大事なSM600、手に入れてから目標があったそうですね

40歳までにはボディをきれいに仕上げたいという目標がありました。

SM600を手に入れてから1年くらい経ったある日、10代の頃からお世話になっている板金屋さんと久しぶりに会う機会があったんです。「SM600を手に入れて、40歳までに仕上げたい」ことを伝えたんです。

すると「予算はどれくらいだ?」とおっしゃるんですね。私が予算を伝えると「その金額でやったるわ!」と。なんでも、パネル交換ばかりで面白くないから、叩いて直す板金作業ができるというわけで「イチからやるから俺にも楽しませてくれ(笑)」と。半分仕事、半分趣味みたいな感覚だったんでしょうね。

―― 旧知の板金屋さんのお陰で、40歳までの目標が前倒しになったわけですね

依頼するときに板金屋さんにお伝えしたのは「要所要所で作業の様子を見せてほしい」ということでした。覚悟はできているから、ボロボロのところも見せてほしいと話したんですね。

黄色のボディカラーを剥がしてみると…オリジナルを含めると4回塗られていることが判明しました。元色のアルペンブルーメタリックの上にシルバーが2回、そして黄色というわけです。それをすべてはく離したところ穴だらけ(苦笑)。ボディの腐食を4層の塗装が保護していたようです。ボディのサイドシルも錆だらけでした。

結局、1年くらい掛かりましたが、きれいに仕上がりました。ボディカラーは白にしました。完成したのは27歳のときでしたね。

―― 結果的に…かもしれませんが、ずっとお乗りですよね?

そうですね。「ずっと乗っていられるクルマ」だったわけですし。たまたまN360とSM600が自分の性に合っていたんでしょうね。あと、周囲の人にも恵まれたことも大きいですね。

―― 大変失礼ながら、この30数年間のあいだに手放そうかなと思ったことはなかったんですか?

それはなかったんですけど…。8年ほど前にSM600のショップのオーナーさんが、それから少し経ったあとにN360のショップのオーナーさんと相次いで他界されたときは辛かったですね。クルマを見るのも辛くて、そのうち車検が切れて乗らなくなったほどでしたから。

―― すみません。心中お察しいたします

その後、少しずつ気持ちが落ち着いてきて「俺がこの2台を大事に所有することが2人の供養になるかな」と考え、もう1度車検を取り直したんです。新たな主治医探しの問題がありましたが、隣県の旧知の方がメンテナンスできるということでお願いしています。もちろん、亡くなったショップのオーナーさんとの関係を知った上で、です。安心して愛車を託せる人もいますし。まだ乗せていませんが、ゆくゆくは娘に引き継ぎたいですね。

―― まさに人とのご縁があってこそ、ですね。お嬢様が次期オーナー候補ですか!?

娘は家を出て別のところで暮らしていますが、帰省したときはバイクも乗りますね。娘が小学校高学年になったあたりからバイクの後部座席に乗せて走ったりしたんですけど、自発的に免許を取っていましたね。バイクの免許だけでなく、クルマの運転免許も限定解除(MT車もOK)です。去年、クルマ関連のラリーイベントにも娘とエントリーしましたし。

―― なんと!世のクルマ好きのお父さんたちが心底羨ましがりますよ!

娘も楽しかったようで、また父と娘でエントリーすることになりそうです(笑)。

人、そしてクルマとの縁を大切にしてきたことがひしひしと伝わってきました。60年近く前のクルマがこうして大切に扱われ、そして愛娘へと受け継がれていく…。まさに理想的なカーライフを送っていらっしゃるgarage51さんが心底うらやましいと感じた取材でした。

<取材・編集 株式会社キズナノート>

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