好きなミュージシャンの影響で手に入れたユーノスコスモは、自分の身体の一部
好きなミュージシャンがきっかけでクルマ好きになったというHiroyukiさん。人との縁と、偶然を偶然で終わらせない行動力により、少し不思議な愛車人生を歩みます。今回はHiroyukiさんとユーノス(マツダ)コスモ、オートザム(マツダ)AZ-1のお話です。
――鮮やかなレッド(のボディカラー)ですね。最近、オールペンをされたんですか?
はい、2年前にしました。
――もっと近々に施したと思いました。それではまずHiroyukiさんが、クルマに興味を持った経緯を教えてください
私は高校生のころ、バンドをやっていたんです。
――SNSでもギターの話とか、されていますね
えぇ。その頃から「CRAZE」というバンドが好きでした。自分たちでも彼らの楽曲を演奏していました。
(CRAZEの)ギターの瀧川さんはマツダRX-7(FD)を所有し、ドラムの菊地さんもRX-7(FC)を所有していたんです。ファンなら「RX-7とは、どんなクルマだろう」と、知りたくなるじゃないですか。調べてみたら、この2台はとても格好良く、俄然、クルマに、特にロータリーエンジンのクルマに興味を持つようになりました。
――なるほど。Hiroyukiさんは現在、ユーノスコスモとオートザムAZ-1に乗られています。これまでの愛車歴を教えてください
20歳になってから免許を取得。もちろんFCかFDの購入を検討したんですが、当時は「頭文字D」の影響もあって、両車の中古車価格はとても高くて、大学生に出せる額ではなかったんです。
そんな時、たまたま目にした個人売買の情報誌に、トヨタのスプリンタートレノ(AE86)ブラックリミテッドが掲載されており、破格の価格で買い手を募集していました。「これはチャンス!」と連絡を取り、無事に買い取ることができました。
購入したトレノは、すぐにいじり回しましたね。足回りの交換から始まり、友人に手伝ってもらってエンジンを降ろし、見よう見まねでポートを研磨したり……。ガレージの一角を占有したことで親に怒られましたが、最終的には「これは血だな」って認めてくれました。いや、あきらめられたのかな。
――「血」とは?
母方の祖父が工業用ロボットの工場を経営していたんです。その影響もあって、小さい頃から機械いじりは好きでした。
そのトレノですが、AE86オーナーが中心のネット掲示板で「ドリフトの練習走行会に参加しよう」って話が持ち上がり、これに参加。ところが縁石に乗り上げて横転し、トレノを全損させてしてしまいました。身体は無事だったのですが、やっぱりショックでしたね。
トレノを部品取りにすることを前提に、個人売買でカローラレビン(AE86)を購入。すぐに同じようにいじり回しました。しかし、2年ほどでパワステが壊れてしまって。その直前にも自分の整備ミスでエンジンから出火するというトラブルがあり、これ以上、修理代がかかるのが辛くなってしまい、売却して乗り替えることにしました。
――次はどのようなクルマに乗ったのですか?
オークションサイトを見ていたら、日産フェアレディZ(GS30)が出品されていました。「湾岸ミッドナイト」のファンだったこともあり、軽い気持ちで入札したら、そのまま落札。納車後、キャブをウェーバーに変更するなど、色々と手を加えながら2年ほど乗っていたのですが、やっぱり2シーターのクルマに乗りたくなり、再びネットオークションでフェアレディZ(S30)を購入して乗り替えました。
そのS30は、はじめから色々と手が加えられていた状態で、GS30からエアコンを移植して乗っていました。走れば楽しいクルマだったのですが、これもまたよく壊れ、所有していた期間の半分くらいは修理のために乗ることができなかったんです。それで維持に限界を感じ、乗り替えを決めました。
そろそろRX-7に乗ろうとも思ったのですが、いい巡り合わせがなく……。そんな中、中古車販売店でコスモを見かけたんです。
15年落ちでしたが、元々が高級車ですから内装の質がとてもいい。快適で乗り心地のいいクルマにも乗りたかったので、ATであることもプラスです。なにより、これまでずっと興味のあったロータリーエンジン、しかも3ローター! どんな走りをするのだろうという大きな期待を抱いて、購入を決めました。
――この(写真の)ホワイトのコスモが、現在も所有されるコスモなんですね
はい、3年ほど前にボディにサビが出てきたのでオールペンをしようと決意しました。製造から、ちょうど30年を経ていたので、いい機会かなと。マツダを象徴する「ソウルレッドクリスタルメタリック」で塗り直しました。
紹介してもらったボディショップに依頼したのですが、仕事を丁寧に行ってくれたため、完了まで1年近くかかってしまいました。もちろん待った分、完璧な仕上がりになったので満足しています。
――いかがですか、コスモの乗り心地は?
これ以上ないくらい、快適ですね。乗り方にもよりますが、リッター4キロという燃費だけが玉に傷です。
――それは確かにキツいですね……。トレノ、レビン、フェアレディZと、ずいぶんと手を入れている印象です。コスモにも手を入れられているんですか?
S30の経験を教訓とし、コスモの手入れは「いかに壊れないよう維持し、乗り続けるか」をテーマにしています。なのでコンディションを新車に近づけるレストアが中心ですね。具体的にはエンジンをリビルドエンジンに交換、あわせてターボタービンも交換。ミッションをオーバーホール、ブレーキマスターシリンダー交換、オルタネーター交換、等々……。まぁ、挙げたらきりがありません。
実はコスモのデザインは、初めは今ひとつ好きではありませんでした。ですが色々と手をかけているうちに、大好きになっていましたね。それまでのクルマと違って、いじる場所が少ないのは、寂しくはありますが。
年式が年式なので細かいトラブルも多いのですが、ひとつずつ直し、これからも長く乗り続けられればと思っています。
――たしかにコスモのデザインは、今の状態で完成されていますものね。ではAZ-1を購入した経緯を教えてください
AZ-1を購入した年は、コスモと同じ年です。元々、増車の予定は無かったのですが、良くしていただいている取引先のお客様より「息子がAZ-1を手放すつもりらしい」と、話をふってもらえたのがきっかけです。この方は私がS30に乗っていたころから面識があり、ご自身もMGに乗られるクルマ好きだったので、よくクルマの話をしました。
私がAZ-1に興味を示すと、息子さんに話をつけてくれ、購入に至りました。この時、私は転職することが決まっており、退職金がそのままAZ-1に姿を変えてしまいましたね(笑)
前オーナーのお父様は、少し前に病気で亡くなってしまって……。今やAZ-1は形見のような存在です。私がクルマに乗れるうちは誰にも譲りませんし、大切に乗り続けたいと思っています。
――それは大切にしたいクルマですね。乗られてみていかがでした?
やっぱりガルウィングは格好いいですね! 軽くて、とても楽しいクルマです。ただ、少し怖さも感じたので、安全のためにロールケージを装着しました。
AZ-1はコスモより若くはありますが、製造から30年を経ている旧車です。ヤフオクとかで交換用の部品を見かけたら、すぐさま購入し、ストックしています。おかげで自宅の一部屋は、コスモとAZ-1のパーツに占拠されてます(笑)
――愛車歴は以上でしょうか?
いえ、AZ-1のあとにトミーカイラZZ(ズィーズィー)を購入し、所有していました。
――トミーカイラZZ!? また、レアなクルマですね
たまたま行ったオートバックスでデモカーが展示されていたんです。実は私は昔からガライヤに憧れていたのですが、最終的に市販されなかったため、当たり前ですが購入できずにいました。そこにガライヤの兄弟車、かつ同じオートバックスカラーのZZとの出会いです。ガライヤの代わり、というわけではありませんが、聞けば購入も可能ということだったので、その場で契約しました。
――どのような乗り心地でしたか?
性能は極めて高く、走る、曲がる、止まるのすべてがとても楽しいクルマです。その上で乗り心地も最高でした。ただ、やっぱりZZは公道を走れるレーシングカーですね。日常で使うにはきびしい一面もありました。
――と、いいますと?
ZZはフルEVで、フル充電から80kmほどしか走行できませんでした。今よりずっと、公共の充電設備が整っていない時代です。
――それは、かなり移動距離が制限されますね
はい。また、雨も吹き込んでくるため、基本的には晴天時にしか乗ることはできません。次第に維持がつらく感じるようになり、「程度の良いうちに、新しいオーナーの元で可愛がってもらえた方がいい」と判断。手放しました。
あと、まだ手元に届いていないのですが、ZZと入れ替わりで縁があり、レストア中の車両があります。
――ほほう、レストア中ということは旧車でしょうか?
FCをベースとした「GReddy Ⅳ(以下、グレッディ4)」というクルマです。
――グレッディ4? ひょっとしてRE雨宮の?
そうです、そのグレッディ4です。
――それは……すごい出会いがあったものですね
本当にそう思います。きっかけはRE雨宮のイベントで、コスモのエアロについて相談をしたんです。後日、その件で話を詰めるためにRE雨宮に訪れたら、その……言葉は悪いのですが、ボロボロになったグレッディ4があったんです。ぶつけられた傷の修理のために持ち込まれたとのことでした。
FCで3ローターでシザーズドア。私の好きが詰まった一台です。なによりCRAZEの菊池さんが乗っていたグレッディ3の弟分! このグレッディ4は売り物なのか聞いたところ、スタッフさんがオーナーに連絡を取ってくれ、売ってくれるという話になりました。
――エアロの相談のために訪れたのにデモカーを買っちゃうなんて、とんでもない話になりましたね……
もし私がコスモを所有していなかったら。そして私の目の届くスペースにグレッディ4が置かれていなかったら、出会うことは無かったんですよね。「この二度と無い偶然を逃すものか!」という気持ちでいっぱいでした。
今はレストア終了の連絡を、心待ちにしている状態です。
――納車された際には、是非、見せてください。次にHiroyukiさんがこれまでに参加し、思い出深かったオフ会やイベントがあったら教えてください
あまりオフ会やイベントには参加しないのですが、「ロータリー魂」と「AZ-1.CARA. OWNERS.MEETING」には参加したことがあります。
「ロータリー魂」の名物コーナーのひとつに、RE雨宮の雨さんが直々に気に入ったクルマを選ぶ「RE雨宮特別賞」があり、昨年の開催でコスモが獲得したのが嬉しかったですね。雨さんとはグレッディ4の件で面識があったのですが、「ウチのお客さんのクルマだったのか、気が付かなかった」と、おっしゃっていました(笑)。
ロータリー魂は今年の開催で終了してしまったので、寂しい限り。RE雨宮特別賞をいただけたのは、本当にいい思い出です。
あと、オフ会やイベントではないのですが、AZ-1を譲り受けてから10年を経た年、元オーナーのお父様のお宅へ遊びに行ったんです。体調が悪かったにもかかわらずもてなしてくれ、AZ-1の里帰りを喜んでくれました。こちらも忘れられない思い出です。
――素敵なお話をありがとうございます。それでは話は変わりますが、HiroyukiさんはSNSを、どう活用されていますか?
主に情報集めですね。コスモの技術的な疑問に対し、海外オーナーが積極的に解決方法を教えてくれるので、とても助かっています。
――Hiroyukiさんはクルマとギターのほか、よくタガメの画像がポストされています。飼われて長いのですか?
いえ、飼い始めた翌年に、タガメは「特定第二種」に指定されました。それが2020年の話なので、まだ5年くらいでしょうか。その前にカブトムシを飼育しており、そちらは10年以上、続けていましたね。私は昔から昆虫も好きで、大学生のときには「生物同好会」にも入っていました。
――趣味が幅広いですね。タガメは何匹くらいいるんですか?
今は30匹くらいでしょうか。SNSはタガメの情報集めにも活用しており、なにかと先駆者の皆さんに助けられています。
――ありがとうございます。それでは最後になりますが、Hiroyukiさんとコスモ、AZ-1との関係を教えてください
コスモは家族の一員……いや、もう身体の一部ですね。コスモの痛みは、私の痛み。自分の身体のように手を入れて、コンディションを保っています。AZ-1は古い友人の形見です。コスモもAZ-1も、ただの乗り物ではなく、私の人生に無くてはならない存在ですね。
グレッディ4と出会えたことで、愛車歴にも一区切りがついたHiroyukiさん。しかし困難とは分かりつつも、ガライヤを迎え入れる夢をあきらめないそうです。これからはAZ-1とコスモ、そしてグレッディ4と一緒に、様々なイベントに顔を出し、SNSで報告されることでしょう。
【X(旧Twitter)】
Hiroyukiさん
(文・糸井賢一)
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