“全損扱い”からの復活。ベテラン整備士と走り続ける幸せなスズキ・ツイン

  • スズキツイン右フロント3:7

昭和の時代から整備士として長くクルマと関わってきた「ファクトリーN・AK250」さん。現在は、愛車のスズキツインとともに、旧車イベントの見学や神社仏閣巡りを楽しんでいるそうです。

ファクトリーN・AK250さんのツインは、専用のボディカラーと内装を組み合わせた「ガソリンB カラーパッケージ」。事故で「全損扱い」とされていたこのツインは、ファクトリーN・AK250さんの技術と周囲の協力によって修復され、愛機となって約5年が経ちます。

今回は、ファクトリーN・AK250さんとツインのカーライフを紹介します。

  • スズキツイン左フロント4:6

――クルマを好きになったのはいつごろでしたか?

戦後の高度成長期で、私は小学生くらいでした。地元の工業地域が急速に発展して、社宅や団地がどんどん建ち始めていました。映画の『ALWAYS 三丁目の夕日』のような風景そのもので、未舗装の道をクルマが通るたびに砂埃が舞っていました。

私の家は、祖母が駄菓子店を営んでいました。祖母がいつも水あめを仕入れに行く店があり、その店の隣にあった米穀店にホンダ・T360がいて、独特なエンジン音を響かせながら走る様子は、今でもよく覚えています。

――“THE昭和”な風景ですね。

周辺の工業地域の工事現場で働く職人さんたちの中には、上層部の方々も多かったです。出向で来ていたそういう方たちが近所に住んでいて、ハコスカGT-R(日産3代目スカイライン)やトヨタ・2000GTといった、当時最先端のクルマに乗っていました。

そうした皆さんは現場に出ている間、クルマにイタズラされるのを心配していたんです。そこで、祖母は店の空き地を使い、愛車を預かっていたんですよね。

そんな縁もあって、子どものころは職人さんたちにずいぶん可愛がってもらいました。休みの日にはクルマに乗せてもらうこともありました。お土産にプラモデルをもらったり、鈴鹿や富士へレースを観に連れて行ってもらったこともありましたよ。

――クルマに親しんで育ったんですね。整備士を目指すきっかけは?

うちにクルマを預けていた人から「手に職をつけたほうがいい」とアドバイスされたのがきっかけで、整備士の専門学校に進みました。

専門学校では、通常の整備士課程に加えて、モータースポーツの現場でも通用するようなチューニング技術も学びました。

2年生のころにレース経験のある先生が赴任してきて、その先生が有志を対象に課外授業を行ってくださいました。そこではパーツの交換や追加で性能を上げる方法だけでなく、ポート研磨やバランス取りなど、純正部品を加工しながらいかに最適な状態にもっていくかというノウハウなどを学びました。

その後は現場に出ながら、レースやラリーにも関わってきました。アナログなキャブレターの時代から電子制御やハイブリッドが普通のものとなった現在まで、軽トラックから大型トレーラー、大衆車からレーシングカーに至るまで、クルマが変われば整備も変わっていくので、その都度知識を増やして対応してきたという感じですね。

――愛車歴を教えてください。

仕事も含めて、これまでたくさんのクルマに乗ってきたので、思い出深いクルマもたくさんあります。初めての愛車だったホンダ・ 1300クーペ7は、シングルキャブのエンジンを4連キャブのエンジンに載せ替えていました。

縁あって購入したバラードスポーツCR-X 1.5i(ホンダ)は「無限CR-X PRO」というエアロパーツが装着してあって、鈴鹿サーキットへ行ったときに同じ見た目のマーシャルカーが走っていて驚いた記憶があります(笑)。このクルマで家族旅行にも行っていましたし、ファミリーカーとして大活躍でした。

ホンダ・T360は、先にも話しましたように、幼いころに走っていたのが印象的で、専門学校時代にはツインカムエンジンの教材車として使用していたこともあり、またホンダ四輪車の原点ということもあって、特に思い入れの強い一台です。縁あって所有して、かれこれ50年以上になりますね。

――そんなファクトリーN・AK250さんとツインの出合いを教えてください。

もともと友人の奥さんのクルマだったんです。友人から「事故で『全損』と判定されているけれど、何とか直せないものか。専門家として一度見てほしい」といわれて確認に行きました。

  • スズキツインフロントバンパー

パッと見は、バンパーがメインとなるフロントまわりの損傷でしたが、そのダメージの入り方からラジエーター周りの冷却系、足回りとフロントのフレームにも影響が出ていると、すぐに判断できました。

  • スズキツイン修理プロセス

車体をひととおり確認したうえで、修理方法や作業の段取り、仕上がりのイメージを組み立ててみて「修理できる」と判断しました。友人と相談の結果「時間はかかってもいいからあなたの手でしっかり直してやってほしい」とのことで、このクルマを引き取って修理することとなりました。

  • スズキツインフレーム修正

仲間の協力を得て修理場所を確保。単管パイプを組み、フレームを引っ張り出せる環境を整え、手元にある道具と経験を活かしてフレーム修正を始めました。途中、台風でテントが飛ばされるアクシデントもありました。

  • スズキツイン保管場所

ある程度まで修正が進んだところで、手元にある道具で修正できない部分は、知人の板金工場に持ち込んでフレーム修正機を使いました。

また、屈曲が大きく再使用は難しいと判断したフロントメンバーは唯一、新品を手配。割れていたバンパーは再生・塗装。こうして「全損扱い」とされていたツインを、無事に復活させることができました。

  • スズキツインフロントメンバー修理

――大事なところは専門家に頼るとしても、ほとんどご自身でされるのですね。

レースやラリーの経験から、何としても直したい、動かしたい、走らせてやりたいと思ってしまうんですよ。それに、自分の手と目でクルマの状態を把握しておきたい気持ちが、若いころからあります。直したところがわかったうえで乗るほうが、安心だとも思いますから。

――復活したツインを見た周囲の反応はいかがでしたか?

修理前の状態を知っている仲間からは「ここまで直せるのか」と驚かれましたね。また、直したことを知らない人からは、どこを直したのか分からないとも言われます。

当然ですが、実際に走らせても違和感はまったくありませんし、ディーラー勤務の友人整備士に見せたときも「聞かなければ、どこがどう壊れていたのか分からない」と言われましたね。

その後、修理完了したツインを友人宅に送り届けたのですが、友人の家の事情で乗り続けることができなくなったそうで「せっかくここまできれいに直してくれたんだし、このまま乗ってやってくれないか」という話になり、ツインは我が家の一員となったわけです。

――あらためて、オーナーから見たツインの魅力を教えてください。

可愛いところですね。丸くてチョロQ(タカラトミー製ミニカー)みたい。運転席に座って前を向いているかぎりは、他の軽自動車とさほど変わらない感覚ですが、後ろを振り返るとすぐにガラスハッチがある景色がツインならではだと思います。同世代のスズキ車の台形タイプとは異なる楕円形のルームミラーも珍しいですよね。

  • スズキツインバックミラー

走らせると、ショートホイールベースの特性としてハンドル操作やアクセルの加減が挙動に出ます。以前乗っていたバラスポ(CR-X)を思い出すことがありますね。

  • スズキツインとラパン

――修理を終えてから、手を入れた部分はありますか?

ツインの“街乗りコミューター”というキャラクターは理解してはいるのですが、バイパスを走っているとリヤの動きがひょこひょこ落ち着かないと感じる場面があって気になっていました。

そこで、今までの経験を活かし、木材を使ってリヤスポイラーを自作。挙動が安定するように改良しました。

――自作と聞くと、少し意外です。

材料は、ホームセンターで普通に手に入る汎用品です。耐久性や扱いやすさを考えて選んでいます。整備士として、保安基準を意識したうえで寸法や取り付け方法には気を使っています。

――リヤスポイラー以外に手を入れた場所は?

フロントリップスポイラー、サイドの整流板も手作りしました。いずれも大きな変化を狙ったものではなく、車体を安定させるための調整です。

  • スズキツインとラパンサイド比較

――ツインとどんなところへ出かけていますか?

“シティコミューター”なので、街乗りや買い物には本当に便利です。あとは、旧車イベントの見学や神社仏閣巡りにも行ってます。

  • 鳥居イメージ

神社やお寺によっては狭い道を通っていくこともあるのですが、コンパクトで小回りも利くツインなら狭路でも気を使わないですし、駐車にも困りません(笑)。

  • スズキツイン駐車イメージ

ワインディングを走ることもあります。クルマの状態確認を兼ねたドライブですね。においや振動など、いつもと違うサインがあれば点検します。クルマは人の体と同じだと思っていますので、できるだけいい状態にしておくことが大事です。少しでも違和感があれば無理をさせません。

ツインには水温計がないので、ヒーターの効き具合を目安にしています。いつもと同じタイミングで暖かい風が出るかどうかで、冷却水の循環やエンジンの状態を確認しています。

――まさに愛車との対話ですね。ツインと走る前のルーティーンってあるんですか?

ツインに限らず「運行前点検」は必ずします。メーターの各チェックランプ、天候に応じての各種機能の確認、タイヤの空気圧、各種ランプの確認まで。

イベント見学の前は遠出になることも多いので、だいたい一週間くらい前から準備します。春と秋の季節の変わり目には一度ジャッキアップして、足まわりを確認しますね。昔からの習慣です。

――運転中に心がけていることは?

いろいろありますが、例えばステアリングの頂点に入れているマーキングを見て、どのくらい切り込んでいるかを把握し、できるだけ舵角を少なくするよう意識していますね。

レースと公道は違いますが、いかにスムーズに運転するかという考え方は共通していると思います。そうすれば同乗者も快適ですし、クルマにも余計な負荷をかけず安全運転につながります。

  • スズキツインステアリングマーク

――ツインが言葉を話せるとしたら、どんなことを言っていると思いますか?

「また走れるぞ」と喜んでくれてるといいですね(笑)。でもクルマって、言葉はなくとも音や振動なんかで自分のことをいろいろ伝えてきてくれるんですよ。それに気づいてあげられるかどうかだと思いますね。

さっき「人と同じです」と話しましたけど、クルマは動物にも例えられますよね。チーターもいればゾウもいる。性能やサイズ、得意なことはそれぞれ違う。だからそのクルマに合った世話をするわけです。そういうところが、クルマの魅力やおもしろさだったりするのかな、とも思います。

――幸せなツインですね。今後どのように付き合っていきたいですか?

できるだけ純正の良さを生かしつつ、苦手とする部分は試行錯誤で改善して、我が家のツインであるこのクルマらしさを大事にしたいです。

シティコミューターだけど、高速もワインディングも遠征も苦にならない“GT仕様”のようなイメージで、ゆっくり仕上げていきたいですね。

自分なりに良い状態をキープしながらイベントにも参加して、ツインの良さを知ってもらう機会もあったらうれしいですね。

  • スズキツインと備中国分寺五重塔

「クルマ」という存在に向けられる、ファクトリーN・AK250さんのあたたかな眼差し。

クルマはオーナーを選べませんが、どう扱われてきたかは佇まいや走りにあらわれるのだと、取材をしながら感じずにはいられませんでした。

一度は全損扱いとされたツインは、長年クルマと向き合ってきた整備士ファクトリーN・AK250さんのもとで息を吹き返し、今日も元気に走り回っています。

(文:野鶴美和 写真:ファクトリーN・AK250さん提供)