今日も荷物を積み、歌を乗せて。トヨタ・デリボーイと各地を巡るシンガーソングライターの物語
「物理的に移動する“乗り物”というより、一緒に生活してきた“相棒”みたいな感覚ですね」
そう話すのは、シンガーソングライターとして活動しながら、カメラマンとしても仕事をする高橋亨明さん。週末は東北・関東を中心にライブで各地を巡り、平日は撮影の現場や事務作業。音楽と写真、どちらも“好き”を仕事にした暮らしを続けています。
そんな高橋さんの愛車は、トヨタのデリボーイ。平成2年式で、乗り始めてから約14年。楽器や音響機材を積み、仲間やスタッフを乗せ、町から町へ。移動のすべてを支えてきた存在です。
今回は、東日本大震災をきっかけに出合ったデリボーイが、高橋さんの活動と人のつながりをどう変えていったのか。お話を伺いました。
――まずは、高橋さんの普段の活動について教えてください。
音楽を仕事としてからはもう24年目になります。ギターを持って自分の歌を作って歌う、シンガーソングライターとしての活動ですね。週末はだいたいどこかの町でライブをしていて、東北と関東が多いです。ラジオパーソナリティをやったり、イベントを主催したりもしています。
カメラマンの仕事は、コロナ禍がきっかけでした。音楽の仕事が一気になくなったときに「どうしていこうかな」と思って、もともと趣味でカメラはやっていたので、犬の散歩をしている人に声をかけて「撮っていいですか?」というところから始めたんです。そこから家族写真や動物の写真、物件撮影など、平日に現場を入れるようになっていきました。
――愛車のデリボーイとは、どんな出合いだったのでしょう?
出合いは、2011年の東日本大震災がきっかけでした。当時は日産のフィガロに乗っていました。すごく小さくてレトロで、好きだったんですけど……震災が起きて「いざというときに、自分や大事な楽器を載せて逃げられないクルマに乗ってるな」って気づいてしまったんです。
行きつけのカフェでその話をしていたら、オーナーさんが「物置として置いてあるクルマ、動くよ」って言ってくれたのがデリボーイでした。車検は切れていたけど、元のオーナーさんから「高橋くんが今のクルマを手放したらそのお金でどうにか乗れるように協力するよ!」と言ってもらって、2011年の5月から僕のところに来た、という流れです。
――デリボーイに乗ってみて、どんな魅力を感じましたか?
現代のクルマとはまったく違う作りで、コラムシフトのマニュアル式だし、どこに行っても同じクルマをほぼ見ません。年数が経つほど、さらにそうなっていきますよね。
それがもう、男の子心をくすぐるというか……“ブリキ感”みたいな、他にない魅力があるんです。
あとデリボーイって、たしか生産台数が7,000台くらいで打ち切られていて数が少ないんですよ。だから目立つ。僕は人前に出る仕事をしているので、「あの人のクルマだ」って覚えてもらえるのは大きいです。極端に言うと、信号待ちで並んでたのを見て「いましたよね」ってSNSで連絡が来るくらい(笑)。
――日常では、どんな場面でいちばん使っていますか?
いちばん多いのは、ライブのために楽器や機材を積んで移動するときです。実家が音響会社だったこともあり、僕もミキサーやスピーカーを積んでいって、コンセントさえあればどこでもライブができる。ポータブル電源も買ったので、本当にどこでもやれます。
だから、楽器と音響機材を積んで、共演者やスタッフを乗せて、会場や町へ行く。デリボーイはそのまま“活動の現場”まで連れていってくれる相棒ですね。
――一方で、維持は大変だと伺いました。修理の苦労もありますか?
ありますね。部品がもう作られていないものが多いんです。正規品はもちろんないし、リビルト品も、乗っている人が少ないから、作っても在庫リスクが大きい。結果として、直すのに手間がかかることが多いです。
いちばん大きかったのはワイパーですね。雨の日に動かしたら不具合が出てしまって。
同じデリボーイ乗りのつながりで、まず三重県鈴鹿の整備工場を紹介してもらいました。でもそのときは部品がなくてお手上げかも、となって。そこからさらに長崎に「ほぼデリボーイ専門」みたいな車屋さんがいると聞き、電話したら「直せますよ」と言ってくれたんです。
ただ「クルマがないと直せない」と。結局、クルマを三重まで走らせて持っていって、長崎から陸送で取りにきてもらい、長崎で修理してもらいました。ワイパーを直すだけで、仙台から長崎へ。距離で考えるとすごいですよね(笑)
でも、その修理がきっかけで、後日長崎にライブに行ったときに、その車屋さんや仲間が見にきてくれて、飲みにも連れていってくれました。このクルマに乗っていなければ出会えなかった人たちと、ちゃんとつながっていったんです。
――そこまでしても「乗り続けたい」と思う理由は何ですか?
何回か「もうダメかも」って思ったことはあります。買い替えも考えました。
でも、次に探し当ててしまうクルマが、もっと古いクルマになっちゃうんですよ。そうなると、もっとお金がかかるし、もっと修理が大変かもしれない。だったら「どうにかして直して、このクルマに乗り続けよう」って考えるようになっていきました。
平成2年式だから、車齢はもう36年くらいになります。走行距離は今、32万kmを超えたくらい。目標は50万kmです。
――デリボーイは見た目も個性的ですが、カスタムのこだわりもありますか?
あります。コロナ禍で配信ライブが流行ったとき、みんなが同じことをやり始めたので「埋もれるな」って思ったんです。
僕は音響にこだわっている、カメラでもきれいに撮れる。じゃあ、あとは“どこでやるか”だろうと。クルマの中で配信ライブをしようと思って、デリボーイの内装に、画家の友達に直接絵を描いてもらいました。動物がたくさんいる絵で、車内の半分くらいが“彩られてる”んです。
その絵を背景に、車内で配信ライブをすると、子どもたちや絵が好きな人が「すごい!」って言ってくれたりします。僕にとっては、クルマが“遊び場”にもなっていますね。
外装も、元は真緑でした。ぶつけて色が剥げたときに「同じ色が出せない」と言われてしまったのですが全塗装は高額で……。だから、画家の友達と、元オーナーのカフェのオーナーさんと僕の3人で、刷毛塗りで2日かけて茶色に塗りました。刷毛の跡が残るくらいの“ブリキのおもちゃ感”を出したかったんです。今の色にしてから5年くらい経っています。
――デリボーイと、これから行ってみたい場所はありますか?
今は、無理させるのが怖いなと思いながら付き合っています。昔は青森まで行ったこともありますけど、今は仙台から南北に300kmくらいの移動が中心ですね。
ただ、ここ数年で海の町に行く機会が増えて、海と太陽とクルマがあるロケーションにとても惹かれるようになりました。新潟へ行ったとき、日本海の夕日と一緒にデリボーイを撮ったことがあって、あれがとても感動的で。
朝日なら太平洋側、夕日なら日本海側。そういうチャンスがあれば、クルマと一緒に海を眺めるシーンをもっと増やしたいです。最近気になっているのは、福島県いわき市の豊間海岸。海がとてもきれいで、そこにデリボーイでたくさん行きたいなと思っています。
デリボーイは、高橋さんにとってライブ機材を運ぶ“働くクルマ”でありながら、出会いのきっかけになったり、表現の舞台になったりもする存在でした。
ワイパー修理でクルマが“海を渡り”、その先で人とつながっていく。手がかかる分だけ、出来事が増えていく。そんな一台です。
【X】
高橋亨明さん
(文:新里陽子 編集:平木昌宏 写真:高橋亨明さん提供)
トヨタ デリボーイに関する愛車記事
-

-
今日も荷物を積み、歌を乗せて。トヨタ・デリボーイと各地を巡るシンガーソングライターの物語
2026.02.05 愛車広場
-

-
何気ない移動が“レジャー”に変身! トヨタ デリボーイがくれたステキすぎる非日常な日々
2022.05.10 愛車広場
バンの愛車でこだわりカーライフ
-

-
今日も荷物を積み、歌を乗せて。トヨタ・デリボーイと各地を巡るシンガーソングライターの物語
2026.02.05 愛車広場
-

-
ダイハツ・アトレーは最高にマッチしたクルマ!一か八かのカスタムと、最愛の息子と車中泊旅!!
2024.08.05 愛車広場
-

-
エアコンも設置!? 震災きっかけで購入したNバン。いざという時に、誰かの役に立つために
2024.06.15 愛車広場
関連記事
-

-
今日も荷物を積み、歌を乗せて。トヨタ・デリボーイと各地を巡るシンガーソングライターの物語
2026.02.05 愛車広場
-

-
「空気のような存在」日産キャラバンと送るキャンピングカーライフ
2026.02.04 愛車広場
-

-
「もしも特別仕様車があったなら」。理想の1台に仕上げたアルトラパンSSとの22年・22万キロ
2026.01.30 愛車広場
-

-
自然体で付き合ってきた15年。いすゞ アスカとの“信頼関係”
2026.01.27 愛車広場
-

-
「オープン×VTEC」を叶えてくれたS2000。乗るたびに増えていく宝物
2026.01.26 愛車広場
-

-
家族が増えて“クルマの選び方”が変わった。今の暮らしにプリウスという選択
2026.01.23 愛車広場
-

-
乗り継ぎの末にたどり着いたGR86。相棒となら通勤時間が楽しみに変わる
2026.01.22 愛車広場
-

-
「自分が楽しいのが一番!」シビックと一緒に四季を駆け抜け、一瞬一瞬を写真に収めるオーナーの物語
2026.01.20 愛車広場
-

-
“全損扱い”からの復活。ベテラン整備士と走り続ける幸せなスズキ・ツイン
2026.01.19 愛車広場







