1/1スケールはオトコのロマンだ!俺の大事なオモチャは1973年式トヨタ・カローラ レビン(TE27型)

オトコのロマン。クルマの趣味しかり、カメラ、自転車、腕時計、お酒、骨董品や美術品、はたまた異性に夢中になるのもありだろう。

しかし、少し冷静になって考えてみて欲しい。オトコのロマンというものは総じて無駄と思われるものが多くはないだろうか?大抵は楽しんでいるのは本人だけで、周囲にはまったく理解してもらえないこともしばしばだ。しかし、当の本人は「俺からこれ(ロマンの対象)を奪い取ったら、本気でダメになる」と信じて疑わない。家族やパートナーだって大切な存在であることは間違いないし、本人もそれはよく分かっている。でも、「それはそれ。これはこれ!」なのだ(笑)。

そんなオトコのロマンをとことん追求したオーナーに出会うことができた。愛車は1973年式トヨタ・カローラ レビン(TE27型/以下、レビン)。明らかにノーマルの佇まいとは違うオーラを纏っていることはひと目で分かる。しかし、からし色に近いゴールドメタリックのボディカラーは不思議と派手さは感じない。むしろ、レビンのフォルムを引き立たせているように映る。

「おはようございます」。待ち合わせ場所には、レビンのオーナーとその奥様、小学校時代からの幼馴染みだというご友人が駆けつけてくれた。ご友人の愛車はセンス良くカスタムされた日産・ブルーバード(510型)だ。

実は、レビンのオーナーやその奥様とはこの日が初対面ではなく、とあるイベントで出会った。各オーナーによって、目一杯の愛情を注がれたクルマたちが並ぶ会場で、かなり目を惹く強烈なオーラを放っていたのだ。

現在、44歳になるというオーナー。クルマは1973年式なので、ほぼ同年代だ。なぜ、このレビンを手に入れることになったのか、その経緯を伺ってみた。

「運転免許を取得して初めて手に入れたクルマが、トヨタ・ハチロク(AE86型)だったんです。若いときは、このハチロクでドリフトするなど、それなりにやんちゃなこともしてきました。転機となったのは、ソレックス製のキャブレター音を聞いてしまったことでしょうか。一発でキャブレター独特の吸気音と排気音に魅せられてしまったんです。これで古いクルマに興味を持つようになりました。そこで、元々キャブレターが装着されている、通称『27レビン』に乗り替えました。これは、現在所有しているものとは別の個体です。その後は、日産・ローレル(HC33型)や、もう一度ハチロクに乗り換えたりしつつ、現在のレビンに至ります」。

今でこそ、自家用車は2年ごと(新規登録時のみ3年)だが、かつては初年度登録から10年を経過したクルマは1年ごとに車検を受けなければならない時代があった。これは旧車オーナーにとって経済的に大きな負担となる。まして、若くして事業を起こし、さらに家族を養う身となったオーナーにとって、オトコのロマンよりも、父親としての判断を迫られることもあったようだ。

「1年車検が重荷となって手放したものの、でもやっぱりレビンの存在が忘れられなかったんです。あるとき、身近な人からドンガラ状態のレビンがあると聞き、錆もなく程度も良好だったので、もう1度手に入れることにしたんです」。

その個体こそ、現在の愛車となったレビンだ。気づけばもう20年の付き合いになるという。今でこそ笑い話になるが、オトコのロマンを貫くのも楽ではなかったようだ。

「不本意ながら、売ろうかなと思ったことはこれまでに何度もありましたよ。独立直後で資金難だったとき、真っ先に現金化できるとしたらこのクルマしかないわけです。妻にも売却を促され、いよいよだと覚悟を決めたそのとき、すべてを察してくれたんでしょうね。逆に止められたんです。『ここで手放したらもう買えないよ』って。驚いたと同時にありがたかったですね。何とか売却せずに踏み留まることができました。その後も子育てに追われたりして、ナンバーを切ってガレージに眠らせていた時期もありましたし・・・」。

さまざまな紆余曲折がありながらも、いまだにレビンが手元にあるのは、オーナーがこのクルマに対して本気で愛情を注いだ結果であることは間違いないように思う。国産旧車オーナーの多くが抱えている純正部品の確保も、このレビンとて例外ではない。今でこそ、インターネットオークションを駆使すれば、家に居ながらにして部品が手に入るようになったが、それまでは全国津々浦々、オーナー自らレビンを所有している人を訪ね、部品を譲ってもらったことが何度もあったと語る。遠くは沖縄まで赴いたこともあるそうだ。こうして集められたレビンの部品たちは、クルマとともにガレージに収められている。その多くは、部品のストックというより、コレクションに近い貴重な部品ばかりのようだ。

「主人は家族よりもこのクルマが大切ですからね(笑)。子どもたちが小さいとき、このクルマに近づこうものなら、必死にかばっていましたから。もちろん子どもではなく、クルマの方を、です(苦笑)」。

奥様の絶妙なフォロー(?)を、隣で苦笑いしながら聞いているオーナーは何ともバツが悪そうだ。しかし、奥様の理解と寛大な気持ちがあったからこそ、維持できているのだということがひしひしと伝わってくる。取材の合間も、オーナーのコメントに絶妙なタイミングでフォローを入れてくれた。これぞまさしく、長年連れ添ったご夫婦ならではの「あうんの呼吸」であり、このレビンも含めて、ご家族の絆の強さが伝わってくる。何しろ、この取材のために奥様が同行してくれるくらいなのだから。高校生のお嬢さんは、オーナーが所有する、このレビンと同世代のカローラバンに乗りたいと言っているそうだ。しかし、今年の春から中学生になるという息子さんはまったくクルマに興味がないと嘆く。多くのクルマ好きにとって羨ましい限りの環境にいるのだ。ぜひ、魅惑の世界に足を踏み入れてくれることを願うばかりである。

そんな家族同然の存在であるこのレビンだが、主治医の助けを借りつつも、オーナー自身「このクルマで触ったことがないネジはない」と言い切るほど、隅々までコンディションを把握しているという。しかも、若き日のやんちゃ時代の名残なのか、このクルマも合法的なモディファイギリギリのラインを狙い、格好良さを追求している。

「すべてを挙げたら本当にキリがないので要約しますが、2T-Gエンジンをベースに、ソレックス製キャブレターにハイカムとギアトレーン、巴商会製のピストンを組み合わせ、TRD製強化オイルポンプを装着しています。下回りを覗き込むとTRD製オイルパン(激レア!)が見えるはずです。TOSCO(TRD/Toyota Racing Developmentの前身)製のホイールに、ADVAN製A048という銘柄のタイヤをフェンダーギリギリのラインに履かせています。足まわりはAE86のものを移植。ブレーキは、フロントにスリットローターを、リアにアルフィンドラムを装着しています。ハーネス類はすべて新品に換えてあります」。

ひとつひとつの部品が、吟味に吟味を重ねて選ばれたものだということが、このレビンから伝わってくる。その結晶がフルオリジナルかモディファイした個体かは人それぞれだ。そして、オーナーの何よりの自慢は「40年以上前のクルマなのに錆がないこと」だ。これは旧車を所有している、あるいは所有したことがある人なら、いかにすごいことか分かるだろう。もう20年の付き合いになるレビンがこれほどのコンディションを保っているのだ!雨の日は乗らず、屋根付きガレージに収めてあることはもちろんだが、我が子のように常に気に掛けていなければ不可能に近い。

このボディカラーも、純正かと思いきや、そうではないそうだ。

「私はからし色が好みで、なおかつメタリックを希望したところ、塗装屋の職人さんがこの色に塗ってくれました。ボルボの純正色をベースにグリーンパールが混じっているオリジナルカラーとのことです。ときどき、このレビンや、トヨタ・2000GTの純正色と間違えられます。それだけ違和感がないということなんでしょうね」。

オーナーの好みでモディファイされたレビンと、このボディカラーが絶妙にマッチしているからこそ、かなりのクルマ好きですら純正色だと勘違いするようだ。それだけトータルでまとまっていることの証なのだろう。

「このレビンを手放してまで欲しいクルマはありません。もちろん、目の前にどれほどの大金を積まれても絶対に譲りません。手放したら2度と手に入らないことは分かっていますから。可能な限り乗り続けます!・・・なんて言い切ったら、格好良いかな(笑)」。この決め台詞が自分でも照れくさいのか、オーナーは冗談を交えつつ語ってくれたが、本心では大まじめであることが瞬時に伝わってくる。

人間の呼吸のように、一定のリズムを刻みながらアイドリングしているクルマを眺めつつ「ソレックスのキャブレターのセッティングが決まったときの音はたまらないですね。今でもゾクゾクします」と語るオーナーにとって、この1/1スケールのレビンはかけがえのないオモチャであり、また家族同然の存在であり、これこそが「オトコのロマン」なのだろう。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]