19年間、19万キロをともに過ごした相棒、トヨタ・ハイラックスサーフ SSR-X リミテッド

昨今のSUV車人気はすさまじいものがある。レクサスにおける販売の主力モデルはRXやNXだというし、ポルシェですら、SUVモデルであるカイエンとマカンの2車種だけでかなりの販売台数を占めるという。これまで高級車やスポーツカー専売だった自動車メーカーが、相次いでSUV車を投入する時代となったのだ。

かつて日本では「クロカンブーム」に沸いていた時代があったことを覚えているだろうか?

三菱・パジェロや日産・テラノなどのRV車にスキー板を積み込み、週末の高速道路はスキー場に向かうクルマで渋滞になったほどだ。当時のカーナビや携帯電話は、ごく限られた人たち向けのアイテムであり、スマートフォンやGoogle Mapなど影も形もなかった時代だ。この時代の若者はカセットテープやCDチェンジャーにお気に入りのベストセレクトを収め、当時のヒットソングを口ずさみながら、地図を片手にスキー場を目指したものだ。道を間違えることも珍しくないし、仲間との待ち合わせにも苦労した。振り返ってみると、それはそれで楽しかったという人も少なくないだろう。

現在、42歳になるという、トヨタ・ハイラックスサーフ SSR-X リミテッド(以下、ハイラックスサーフ)のオーナーも、そんな時代を過ごした1人かもしれない。

「このハイラックスサーフは1998年に手に入れました。当時はまだ社会人1年生でしたが、4駆のクルマでスキーに行くというライフスタイルに憧れがありました。ハイラックスサーフの限定車があると知り、独身時代に勢いで買ってしまったんです。今では絶対に許されません(笑)」。

ハイラックスサーフも、前述の「クロカンブーム」を牽引した1台と言って間違いないだろう。オーナーが所有しているハイラックスサーフは、1995年にデビューした3代目にあたる。無骨な雰囲気を持つ他のクロカン車と比べて、よりスタイリッシュかつ都会的なフォルムを持つハイラックスサーフは、当時の若者に人気を博した。このように、「クロカン車に乗ってスキーに行く」ことがトレンディだった時代が確かに存在していたのだ。

「人生初の愛車ですし、当時は20代で体力がありましたから、北は北海道から南は鹿児島まで、このハイラックスサーフで全国各地を旅しました。せっかく念願のハイラックスサーフを手に入れたのだからと、埼玉県から長野県に抜ける林道を走ったこともありましたよ。当時、年間2万キロくらいは走破していたように思います。もちろん、このクルマでスキーにも行きました」。

そんなオーナーも20代後半で結婚し、その後、2人の子宝にも恵まれた。家族が増え、必然的にオーナーのライフスタイルにも変化が訪れる。ニューモデルの情報が、否が応でも耳に入ってくるし、車検時にはセールスの売り込みだってあるだろう。それでも乗り続けた理由を尋ねてみた。

「妻から『そろそろワンボックスカーに乗り換えよう』と提案されたことが何度もありました。このクルマはトヨタディーラーでメンテナンスしているのですが、車検のときは当然のように乗り換えを勧められます。それでも気持ちは変わりませんでした。このハイラックスサーフを手放してまで欲しいクルマがなかったんです」。

19年間、そして19万キロ···。これまで、オーナーと長い時間をともにしてきたこのハイラックスサーフだが、それを感じさせる年輪のようなものがあちこちに点在している。フロントバンパーやボンネットには飛び石による塗装のはく離があり、「HILUX SURF」の文字も消えかかっている。近寄ってみると、ボディのあちこちに「生活傷」と思われる細かい傷もある。エンジンルームも、年式相応の年輪を感じさせる。それでもオーナーは「少しでもキレイに見せたいから」と、取材当日に早起きし、可能な限り洗車して、さらに家族サービスを済ませてから待ち合わせ場所に来てくれたそうだ。

「一応、可能な限り洗車してきたんですが、さすがにエンジンルームは新車時のようにはなりませんでしたね(笑)。ボディにも細かい傷がありますが、敢えてそのままです。それも、このハイラックスサーフならではの『味』になるのかなと思っています」。

聞けば、仕事の関係で前日の帰宅が深夜になり、自身の睡眠時間を削ってまで家族サービスと愛車の洗車に充ててくれたそうだ。申し訳ないと思いつつ、そこまでしてこのハイラックスサーフに惚れ込む理由を尋ねてみた。

「とにかくタフなんです。これまでコンピューターが壊れて交換したことはありますが、トラブルはこの1度きり。オイル類や冷却水の交換などのメンテナンスは欠かしませんが、基本的には『乗りっぱなし』です。この2.7Lエンジンも、燃費では現代のクルマにはかないませんが、タフさでは負けていないと思います。20万キロ近い距離を普通に走れてしまうんですから。それと、長年の付き合いとなったディーラーの存在も大きいですね。一応、車検の度に買い替えの話にはなりますが、僕がこのハイラックスサーフを大切に乗っていることを理解してくれていますし、本当に安心してクルマを預けられます。トヨタ車の取材だから···ということではなく、これは本心です」。

「乗りっぱなし」であることを象徴するかのように、前述の生活傷や、ボンネット部分の塗装が痛んでいる箇所もある。しかし、内装を見ると、シートの傷みはわずかだし、ステアリングのテカリも目立つほどではない。オーナーが大切に乗っている何よりの「証拠」だが、経年劣化が少ないことにも驚かされる。

「結果として20年近い歳月をともにしたのは、幼少期に家族がマイカーとして購入したマツダ・ファミリア(初代)の存在が大きいのかもしれません。10年近く乗っていたこともあり、まさに家族の一員という感じでしたから。このハイラックスサーフも、まさに『相棒』と呼べる存在。愛車遍歴はこのクルマ1台だけですし、乗れる限りは維持していきたいです。現在、長男が中1、次男が小4なんですが、いずれ親子2代で乗れたらいいなと、最近思い始めたところです」。

若くして自分にジャストフィットするクルマと出会えたオーナーに思わず嫉妬してしまった。1台のクルマと、20年近い歳月と20万キロ近い距離をともにする。真似しようと思ってもなかなかできることではない。2人の息子さんが運転免許を取得するのは数年後だ。タフさが信条のこのハイラックスサーフなら、親子2代でのドライブも充分に実現可能だろう。今から数年後、今度は親子2代での取材を試みたい。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]