エンジンは2.6L NAではなく、2Lターボ。幻の1993年式日産・スカイライン オーテックバージョン(R32型)

日産スカイラインといえば、長年に亘り、日本を代表するクルマのひとつとして君臨し続けていることは、クルマ好きであれば疑う余地がないだろう。と同時に、歴代の各モデルに熱狂的なファンが存在し、世代を問わず愛されているクルマでもある。しかも、それは現在進行形であり、よほどのことがない限り、スカイラインという名のクルマが日本から消滅することはないだろうと信じたい。そして願わくば、 いつかスカイラインが電気自動車へ姿を変えたとしても、その名を冠したまま存続して欲しいと心から思う。

最近、スカイラインGT-R(R32型)のパーツの再生産がアナウンスされ、オーナーやファンはもちろん、多くのクルマ好きにとって、かなりホットな話題となったことは記憶に新しい。生産終了となった過去のクルマたちにも、いよいよメーカーも本腰を入れてスポットライトを当て始めたようだ。日本のクルマ文化が、新たなフェイズに足を踏み入れたことは間違いない。

1989年に登場した、8代目となるスカイライン(R32型)といえば、GT-Rの復活や全日本ツーリングカー選手権(グループA)における活躍などを筆頭に、もはや伝説や神話の領域に入りつつあるクルマかもしれない。そしてGT-Rを筆頭に、いまだに街中で元気な姿を見掛けることも少なくない。歴代のスカイラインの中でも、R32型はいまだに多くのクルマ好きに愛されているモデルだ。

そんなスカイライン(R32型)にも珍しいクルマがいくつか存在する。1990年に500台限定で販売されたスカイラインGT-R NISMOや、スカイライン オーテックバージョンなどがそれにあたる。

今、目の前にグレー掛かったグリーンメタリックのスカイラインが佇んでいる。これこそスカイライン オーテックバージョンだと信じて疑わなかった。しかし、オーナーに声を掛けてみたところ、予想外の答えが返ってきたのだ。

「このクルマは、1993年式日産・スカイライン オーテックバージョン(R32型)です。しかし、2.6L NAエンジンを載せたスカイライン オーテックバージョンではありません。このクルマには2Lターボエンジンが搭載されているんです。ちなみに、オドメーターは13万キロを刻んでいます。私がオーナーとなってからまだ1年ほどです」。

マニアであれば、1992年に発売された前述のスカイライン オーテックバージョンにこんな仕様があっただろうか?と思うはずだ。しかも、このクルマの生産台数は数百台というレベルだ。レアな存在ゆえ、このスカイライン オーテックバージョンを知らない人がいても不思議ではないし、いまだに実車を見たことがないかもしれない。正式なカタログは作られたが、目の前にあるこのスカイラインは、それとは異なる仕様らしい。果たしてどのようなクルマなのだろうか?オーナーに真相を伺ってみた。

「驚かれるのも無理もありません。私がサードオーナーとなるこのスカイライン オーテックバージョンのファーストオーナーは、オーテックの関係者だったんです。このクルマは、スカイラインGTS-4(4ドア)をベースに造られたクルマです。実際に生産されたオーテックバージョンには2.6L NAエンジンが搭載されていましたが、この個体はご覧のとおり2Lターボです。真相は定かではありませんが、2台だけ造られたうちの1台がこの個体だと聞いています」。

そんな仕様のクルマが存在していたとは・・・。恥ずかしながらまったく知らなかった。参考までに、1992年に発売されたスカイライン オーテックバージョンのボディサイズは全長×全幅×全高:4580x1695x1360mm。GT-Rに搭載されていた「RB26DETT型」と呼ばれる2568cc 直列6気筒DOHCツインターボエンジンをノンターボ(NA)化した「RB26DE型」を搭載。このエンジンの最大出力は220馬力(RB26DETT型は280馬力)。設定されたトランスミッションは4速ATのみ、駆動方式は電子制御トルクスプリット4WD(アテーサE-TS)、サスペンションは専用チューニングが施されたマルチリンク方式が採用された。

設定されたボディカラーは、イエロイッシュグリーンパールメタリックのみ。アルミ製ボンネット、GT-Rを想起させるフロントグリルやアルミホイール、オーテックジャパンのロゴがさりげなく刻印された専用バンパー、内外装におよぶエンブレム等々・・・。声高にその違いをアピールするような派手さを抑えつつも「分かる人には分かる」ポイントは決して外さない、実にマニアックかつ通好みな仕立てといえるクルマだ。

「このスカイライン オーテックバージョンには、GT-Rの足まわりが移植されています。他にも、センターコンソールに装着されている3連メーターもGT-Rのものです。オリジナルのGTS-4にこのメーターは装着されていませんから、珍しい仕様であることは確かなようです」。

もはや幻の存在といっていいような、極めて希少なこのスカイライン オーテックバージョン、いったいどのようにして手に入れたのであろうか?

「セカンドオーナーにあたる方が、私と同じあるクラブに所属していて、そのときに見初めたんです。こんな仕様のスカイライン オーテックバージョンがあるとは知りませんでしたから、それはもう驚いたと同時に欲しいと思ってしまいました。そこで何度も『譲ってください』と頼み込んだのですが、なかなか首を縦に振ってくれませんでした。それでも諦めず、粘り強くお願いしました。1年くらい経った頃でしょうか。あるときようやく『譲ってもいい』と仰ってくれたんですね。あまりに私が何度もお願いするものだから、前のオーナーさんもついに根負けしたのかもしれません(笑)」。

こうして念願叶って幻のスカイライン オーテックバージョンのオーナーとなったわけだが、手に入れてからモディファイした箇所はあるのだろうか?

「ホイールと運転席のシートですね。純正品はコンディションを維持するために取り外し、大切に保管してあります。この種の古いクルマは、どうしても純正部品の確保がネックになります。部位によっては欠品しているものもたくさんありますから。現在も、メーカーにステアリングの在庫を確認してもらっていますが、いまだに返答がありません・・・」。

最近になり、部品の再生産がアナウンスされたのは、R32型のスカイラインの中でもGT-Rのみである。それ以外については、共有および流用できるものは大いに活用したいところだが、当面は既存の在庫を確保するべく奔走する日々が続きそうだ。

最後に、この幻のスカイライン オーテックバージョンと今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「18歳のときに『ハコスカ』を手に入れて以来、フェアレディZ(S130型)をはじめ、さまざまな日産車を乗り継いできました。スカイラインGT-R(R32型)は新車で手に入れましたよ。現在は、このスカイライン オーテックバージョンの他に、フェンダーミラーのスカイライン(R30型)も所有しています。メルセデス・ベンツやBMWに乗っていた時期もありましたが、やはり日産車が好きですね。私は前オーナーを口説き落としてスカイライン オーテックバージョンを譲ってもらいましたが、他の方から同じように『譲ってください』と頼まれたとしても、絶対に首を縦に振りません(笑)。ガレージで大切に保管していますし、雨の日は乗りません。私にとって、それほど思い入れの強いクルマですから」。

世の中には珍しいクルマが多々あるが、その中でも、この幻のスカイライン オーテックバージョンは、存在すら知られていないような特別な1台かもしれない。それだけに、インターネットで検索してすぐに手に入るようなクルマではないだろう。タイミングと運と縁、そして資金。このすべての要素がそろわないと手元に引き寄せることは極めて難しいといえる。

しかし、途中で諦めてしまっては、わずか1%の可能性であったとしても0%になってしまう。しかも、再びモチベーションを上げていくことは極めて困難だ。この愛車紹介の取材を通じて感じることがある。憧れのクルマ、手に入れたいと思うクルマのことを一途に思い続け、最後には見事オーナーとなった人たちには「途中で諦めなかった」という共通点がある。今、欲しいと思っているクルマがあったり、愛車をそろそろ手放してもいいかと思い始めている人がいたとしたら、自分の胸に手を当てて本気度を確かめてみてはいかがだろうか。そこで最初に思い浮かんだ意思こそが、自身が望んでいる答えだ。もし「まだ諦めたくない」と思ったら、どうかその意思を貫いて欲しい。決して諦めず、その想いを見事に実現したオーナーがここにいる。強い想いはきっと叶うはずだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]