人生初の愛車とは6年のつきあい。24歳のメカニックがこよなく愛する日産180SX タイプX(RPS13型)

1989年(平成元年)。いつの間にか、30年も前の時代となってしまった…。

時はバブル景気真っ盛り。日経平均株価が38915.87円(終値)という、史上最高値をつけたのもこの時代だ。そして、何より日本におけるクルマ好きにとっては、大きな転換点となった時期であることは今さら言うまでもないだろう。

トヨタ・セルシオ、ホンダ・NSX、マツダ・ユーノスロードスターの誕生、日産・スカイラインGT-Rの復活…。数え上げればきりがないほど、後の自動車業界に多大な影響を及ぼしたクルマが相次いで発売されまさにヴィンテージイヤーと呼べる1年だった。


日産・180SXも、まさにこの年に誕生したクルマなのだ。今回は、そんな日産・180SXが現役だった時代に生まれ、現在は愛車としてこよなく愛しているという若者を紹介したい。

「このクルマは、1996年式日産・180SX タイプX(以下、180SX)です。手に入れてから6年目になります。購入時のオドメーターの距離は8万キロほどでしたが、現在は16万キロに達しました。年間に1万キロ以上走っている計算になりますね。現在、私は24歳になりますが、このクルマが人生初の愛車なんです。それだけに、特別な思い入れがあります」。

180SXは、冒頭にあるように、日産・シルビア(S13型)の姉妹車として1989年にデビューを果たした。シルビアが2ドアクーペ・固定ライトであるのに対して、180SXは3ドアハッチバック・リトラクタブルヘッドライトが特徴的なデザインだ。海外向けモデルとして存在していた240SXの日本仕様が180SXという位置付けでもあった。

ボディサイズは全長×全幅×全高:4520x1695x1290mm。発売当初は1809ccだったエンジンは、1991年に行われたシルビアのマイナーチェンジに伴い、1998ccとなった。しかし、モデル名が変更されることはなかった。このクルマに搭載される「SR20DET型」エンジンは、直列4気筒DOHCターボチャージャー付きとなり、最高出力は205馬力を誇る。

そして、オーナーが所有する個体は、外観のデザイン変更をはじめとする最後のビックマイナーチェンジが行われた、いわゆる「後期仕様」と呼ばれるモデルだ。シルビアがS14型へフルモデルチェンジを果たした後も、180SXは1998年まで生産が継続された。結果として、180SXは10年近くフルモデルチェンジすることなく生産されたロングセラーモデルとなったのだ。

1994年生まれで、現在24歳のオーナーと、1996年式の180SXは、ほぼ同じ時代にこの世に誕生したことになる。物心ついたときには既に生産終了していたはずのこのクルマに興味を持ったきっかけを伺ってみた。

「当時、私の親はマツダ車に乗っていたんです。点検でディーラーに入庫するというので、連れて行ってもらったときに停まっていたのが、この180SXそのものでした。ちょうど、下取り車として置かれていたときに私が見初めた形になります。実は、このときまでは他のクルマを探していて、180SXに興味があったわけではなかったんです。けれど、リトラクタブルヘッドライト車特有の表情の変化・ハッチバックスタイルのフォルムに魅せられ、購入を決めてしまいました」。

偶然の出会いとはいえ、それほど興味がなかったクルマの購入を決めてしまうほど180SXに惹かれたようだが、「他に探していたクルマ」の存在も気になるところだ。

「私がクルマ好きになったのは、何と言っても父親の存在が大きいと思います。父は、若いときにトヨタ・カローラ レビン(TE71型)を所有していたらしく、手放してしまったことをずっと悔やんでいるようなんです。それならば、自分が代わりに手に入れようと考えました。しかし、実際に探してはみたものの、売り物が少なく、なかなか良い個体に出会えませんでした。また、正直に言うと、18歳の若者がいきなり旧車を維持できるかどうかも不安でした。そんなときにこの180SXが目の前に現れ、破格値で手に入れることができたんです。ただ、購入時はボディに傷があったり、コンディションが今ひとつだったので、少しずつ手を加えてきれいにしていこうと思いました。結果として、180SXと出会ったことがきっかけとなり、現在の職業であるディーラーのメカニックになりました」。

一台のクルマがひとりの人間の人生を変えてしまうことは稀にあるが、職業を決めるきっかけにもなったとは驚いた。

「もともと、自動車関連の仕事に就きたかったことは確かです。180SXを手に入れた以上、自分でもしっかりとメンテナンスできる知識と技術を身につけたいと思うようになりました。ちょうど将来の進路を決める時期でもあったので、自動車整備関連の学校に入学し、何とか1級自動車整備士の資格を取得できました。卒業後は、ディーラーのメカニックとして就職し、現在は2年目です。経験はまだまだですが、先輩方に教わりながら、色々な仕事を覚えているところです」。

オリジナル度の高い後期型の180SXという印象だが、それもディーラーのメカニックという職業が関係しているのだろうか?

「職業柄、車検に通らないクルマに乗ることはできませんし、『できるだけ純正部品に戻すこと』をこのクルマを所有する上でのテーマとしています。購入した段階で車高調・ホイール・エアクリーナー・マフラーは社外品が装着されていましたが、これからも大掛かりなモディファイは行わないと思います。オリジナルに近い仕様だと、同世代でUSDM(United States domestic marketの略)仕様を好む人たちからは『ノーマルの180SXなんだ』という目で見られがちですが、当時を知る世代の人にはオリジナルに近い方が好まれますね(笑)」。

さりげなくも、オーナーのこだわりが感じられる180SXだが、もっとも気に入っているポイント・こだわっているポイントはどのあたりだろうか?

「NISMO製のホイールであるこの『LM GT4』です。実は4穴という珍しい仕様も自慢です。インターネットオークションでようやく程度の良さそうなホイールを見つけて、何とか手に入れることができました。落札代と塗装代を合わせると決して安い金額ではありませんが、ようやく手に入ったホイールだけに、このクルマのもっとも気に入っているポイントであり、こだわりでもあります。それと、このクルマのリアからの眺めも好きですね」。

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「180SXは現在でも多くの純正部品の購入が可能ですし、このまま動かなくなるまで…いや、動かなくなったとしても所有していたいですね。どれほどの大金を目の前に積まれてもお譲りすることはないです。何と言っても、私にとっては人生初の愛車なんですから…」。

「5ナンバーサイズ・ターボ付きのエンジン・駆動方式はFR・そしてMT車」・これらのパッケージを併せ持つクルマは、今や貴重な存在だ。それは、この条件にぴったりと当てはまる180SXも例外ではない。奇しくも、180SXが生産を終了してから今年で20年になる。そして、来年には生誕30周年を迎える。オーナーによると、180SXは、生産台数の10分の1程度しか現存していないという。

18歳で180SXというクルマと出会い、多感な時期をともに過ごしたことで得られたものがあったに違いない。クルマで走る楽しさ、自分でメンテナンスしてコンディションを維持する喜び。オーナーの人生は、180SXによって確実に何かが変わったはずだ。オーナーがやがて年齢を重ねたとき、自身の体験を通じて、次世代の若者たちに「クルマで走る楽しさ」「愛車を所有する喜び」「人との出会い」を伝えていってくれることを切に願うばかりだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]