「ラストオーナー」を志し、トヨタ・MR2(AW11型) に深い愛情を注ぐ23歳のオーナー

「できるかぎり永く乗り続けたい」と答えるオーナーに共通していること、それは「クルマがオーナーを選んでいるのではないか」ということ。今回出会ったオーナーもそんな一人だ。

「このMR2は、私が“ラストオーナー”という気概で乗っています」。

快然たる声でそう話すオーナーの男性は、23歳という若さ。愛車のトヨタ・MR2(AW11型)とは2年目の付き合いだという。免許取得後は、家族から譲り受けたダイハツ・ミラジーノを2台乗り継いでいるが、自発的に手に入れたクルマは、このMR2が初めてだと話す。

トヨタ・MR2(AW11型、以下MR2)は1984年、日本初のミッドシップ2シーター車としてデビュー。マイナーチェンジを経て1989年まで生産された。ボディサイズは全長×全幅×全高:3925x1665x1250mm。エンジンは、前期型に1.6リッター直列4気筒DOHCと1.5リッター直列4気筒SOHCがラインナップされ、後期型になると、AE86をはじめとしたカローラと同じ4A-G型エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせた最高出力145馬力を誇る4A-GZE型エンジンを搭載。ファンの間では、コミック「オーバーレブ!」で、主人公が駆るマシンとしても知られ、走りを楽しむ多くのファンに、今もなお愛され続けられている。

オーナーが所有する「AW11型」は、1987年式の後期型(G-Limited)。Tバールーフ付きで、ボディカラーのブルーマイカにのみオプションで設定された、深いブルーのインテリアが印象的だ。まずは、このクルマでもっとも気に入っている点はどこなのか伺ってみた。

「すべてですね(笑)。特に、リアビューからの造形が美しいクルマだと思っています。Cピラーにバイザーがついていることが多いのですが、より美しいフォルムを眺めたくて、私は取り外しています」。
自動車関連の専門学校を卒業し、自動車整備士二級の資格を持つというオーナー。日頃のメンテナンスはどのようにこなしているのだろうか。
「こまめなメンテナンスを心がけています。ちょっとした作業は自分で行いますが、アライメント調整はプロにおまかせしています。機器も、精度の高いものが揃いますし」。

クルマを運転するうえで基本を押さえつつ、しっかりと愛情を注いでいる様子が窺える。ひと目でコンディションの良さが判る個体だが、30歳という車齢ゆえ、トラブルの発生や苦労はあるのだろうか?

「実は、取材当日の朝にプラグコードの不調が起こりました(笑)。それから先日、富山県まで走りに行った道中で、ディストリビューターからのオイル滲みを経験しています。でも、エンジン自体は非常に調子が良いです。記録簿の履歴によるとオーバーホールはしていないようなので、そろそろかなと計画しているところです」。

オーナーがここまでMR2に惚れ込んだきっかけを伺った。

「MR2にひと目惚れしたのは、幼稚園時代なんです。ある日、スクールバスを待っていると、赤いMR2が目の前を通り過ぎました。幼かった私には、それが何のクルマなのかわかりませんでしたが、トヨタ・MR2であることを後で知りました。クルマ好きのルーツとしては、小学生になった頃に観た映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するデロリアンのかっこよさが、クルマ好きにつながったきっかけだったと思います。それから、父がハマっていた『頭文字D』のコミックやアニメを一緒に観るようになったことが拍車をかけたのだと思います。AE86は、私の中で特別な存在ですね。他にもグループAやJTCCのカテゴリーも好きで、コロナEXiVは度肝を抜かれた1台でした。そうそう、スーパーカーも結構好きなんですよ。FRよりもミッドシップのほうが好きみたいで、カウンタックを博物館で見たときは、MR独特のくさび形状に惹かれました」。

23歳という若さながら、硬派なセンスに舌を巻く。オーナーの父親もクルマやバイクが好きで、少なからず影響を与えているようだ。そこで、MR2の他にも所有してみたいクルマが存在するのか伺ってみた。

「ポルシェですね。中でも最初期モデルの911にあたるナローポルシェが好きです!どちらかといえばスポーツモデルが人気だと思いますが、私はクラシックな雰囲気のするナローポルシェに惹かれてしまいます。一度は所有したいです」。

MR2を手に入れるまで、想いが途切れることはなかったのだろうか?

「中学生になると自動車誌も読み始めました。MR2への想いは変わらず強かったのですが、中古車情報誌を読みあさっていて『もう出てこないだろう』と、正直あきらめていた時期がありました。やがて高校生になると、免許取得の年齢が近づいてきたと同時に『乗りたい』という想いが再燃しました。これから手に入れても20年落ちなので、できるだけ早めに買って手をかけたいと、密かな決心をしたんです」。

このMR2とめぐり会った当時の状況は?

「当時は専門学校生でした。自動車整備士をしている兄の勤務先に、このMR2が入ってきたと知らせがあったので、一度見に行ったんです。ボンネット裏やトランク裏のサビはひどかったですが、長年大切にされてきた様子が滲み出ている個体でした。すぐにでも手に入れたかったのですが、その時はローンを組める立場ではなかったので、諦めざるを得なかったんです」。

その後も、MR2はしばらく買い手がつかなかったようだ。その間にオーナーは社会人となっていた。

「兄から『MR2は会社にまだあるけど、今週買い手がつかなければ業者に流すことになった』と聞かされ、もう一度足を運ぶことにしました。親からは『クルマは買うなよ』と釘を刺されていたのですが、ラストチャンスだと思っていたので心は決まっていました。そのまま捺印をして頭金を入れ、ローンを組みました。Tバールーフ・ブルーマイカ・スーパーチャージャー・5MTの揃った個体が理想だったので、もうドンピシャでした」。

オーナーは今、前オーナーへ想いを馳せているという。

「このMR2は中古車販売店を転々としてきたようです。個人所有としては、私で2オーナー目になります。大切に乗られていたんでしょうね、記録簿も30年分すべて残っていて、どれだけ愛されてきたのかがわかります。前の持ち主は新車で買って20数年間は乗っていたのでしょう。年月が経つにつれ、走行距離が減っていたので、維持していくうえで負担になり、断腸の思いで手放してしまったのではと想像しています。今も心のどこかで思い出しているかもしれません。もしも声が届くなら『できる範囲で大切に乗っていますよ!』とお伝えしたいです。できれば、直接お会いしたいとも願っています」。

前オーナーがこの記事を目にしてくれることを願いながら、購入当初からあった個体の特徴を伺ってみた。

「購入当初はブロンズのTE37を履いていて、RAYBRIGのフォグが装着されていました。それと、本人は気にかけていないかもしれないですが、灰皿の蓋が変色しているのと、左のドア内張りの革が破けている箇所が印象に残る点なので、もしかすると前の持ち主の記憶に残っているかもしれません」。

もし、前オーナーの方が、この写真にピンときたらぜひコメントやメッセージをいただけると、取材チームはもちろんのこと、現オーナーにとって望外の喜びであることは間違いない。さて、念願だったMR2を手に入れたオーナー。日々のドライブで気づいた点はあったのだろうか?

「ピーキーだと聞いていましたが、そんなふうには感じません。マイルドで乗りやすいかも。車体がコンパクトなので、視界も良いです。リトラクタブルヘッドライトはアップさせると『ポール』代わりにもなるし、扱いやすいです」。

一見、ホイールやマフラーは社外品のようだが、どのようなモディファイが施されているのだろうか?

「先ほども話したとおり、前の持ち主がクルマ好きだったようなので、ホイールとフォグの他にも色々と手を入れてありました。前後のタワーバーにはじまり、足まわりのスプリング以外はAE92(カローラ レビン&スプリンター トレノ)のレース用ショートショックになっていました。ブレーキも、パッドとステンメッシュホースがスポーツ用に、排気系も触媒以外は社外品でした。他にも、エキマニとフロントパイプがCUSCOのパワーボール、マフラーは唐変木のデクノ棒という砲弾タイプに交換してありました。エンジンまわりはARCのインタークーラー、HKSのエアクリーナーが入っています。ブーストアッププーリーも入っているので、シャシダイにかけたときは160馬力くらい出ていました」。

オーナー自身で手を入れた部分はどのくらいあるのだろうか?

「腐食や劣化のひどかったフロントバンパー・ボンネット・トランク・リアバンパーは、FRP製の軽量なものに一新しました。トータルで、40キロは軽くなっているはずです。純正色の全塗装も行いました。このブルーマイカが本当に好きです。ENKEIのホイールは、先日換えたばかりです。従兄弟から前2本分のRPF1を譲ってもらったんですけど、4本で統一したかったので、後ろ2本は追加で新品を購入しました。欲しいオフセットサイズがなかったので、モデル違いにはなりますが、見た目には違和感のないRPF1のRSというモデルを履いています。タイヤサイズは、前:195/50R15、後:205/50R15ですね。ステアリングは、ネタとして友人から貰ったSPARCO“風”なラリータイプを装着していますが、他にも数本持っているので、気分で交換しています」。

オーナーらしいスタイルでモディファイを楽しんでいる様子だ。今後のモディファイの予定は?

「内装の張り替えをこの先、考えていますね。内装の参考は、ポルシェのチューニングも行う自動車メーカー『RUF』の作り込みです。補強をしつつ、アルカンターラかレザーで、シックな内装を考えています。もしくは、今のような深い青のレザー張りか、それとも雰囲気を一気に変えてベージュで高級感を出すのもおもしろいかなと思います。赤もいいですね。色見本を眺めながら悩んでいます」。

手を入れていく過程を心底楽しんでいる様子が、弾む口調から伝わってくる。

部品の調達は、絶版車を所有するオーナーにおいてもっとも大きな課題となる。MR2の場合、部品供給の現状はどうなのだろうか?詳しく伺った。

「フロントのバンパーエプロンはもう出ていないですね。外装・レンズ・ガラスも出てきません。出るものといえば、Tバールーフ関連の部品は出ていますね。海外でTバーやムーンルーフが人気なおかげで安心です。雨や紫外線で劣化しやすい、フロントウインドウのアッパモールは比較的ありますが、Cピラーの黒い縁取りのモールのサイド部分がなかなか見つからないので、再販してほしいですよね。そのまま走っていると飛んでしまうこともあるので、外して乗っているオーナーも多いです。そして、室内とつながっている部分。エア抜きのダクトが入っているところですが(下記画像)、私もここを一度、走行中に失くしました。幸運にもMR2のコミュニティの中で部品取りの個体を持っている方がいて、譲って貰うことができました。あのときは本当に感謝しています。オーナー同士のつながりがあってよかったです。加えて、外装系といえば、MR-2を得意とするショップ『TBS』から前後バンパー・ボンネット・ドア・トランクがFRP製の純正形状でリリースされているのでオススメです」。

エンジンまわりの部品も、入手に難のあるものがいくつか存在するようだ。

「4A-Gの泣き所はISCV(アイドル スピード コントロール バルブ)ですね。これはヤフオクでリビルド品は出てきていますが、スーパーチャージャー用は見かけませんので、故障すると苦労すると思います。4A-Gは、アメリカで86が人気なので、輸入品で対応できます。ターボ用ピストン、NAでもハイコンプピストンも手に入るので、エンジンまわりで困ることはそんなにないです。ただ、スーパーチャージャーが壊れるとどうにもならないので、私のMR2もゆくゆくはターボ化を検討中です。あとはディストリビューターのキャップ。純正でついている赤いタイプのものがもう出なくなりました」。

ミッション関連の部品は、加工やSW20型用を流用することで対応するという。

「ミッションの中にあるデフサイドベアリングの供給が終わっているんですよね。部品を加工しないと修理が難しいので、なんとかしてほしいところです。ミッションの型としては、SW20のターボ用ミッションの形が同じなので、うまく組み合わせれば、なんとか装着することができそうです。現状では、他のAW11オーナーと協力しあって情報交換できればと思っています」。

オーナーは、再供給への思いを続ける。
「部品を再供給して貰えるよう、署名を書いて動いてみようかとも考えています。トヨタのCEOもクルマ好きでレース活動もされているので、楽しいクルマがあることを再認識していただけるとうれしいですね。昭和のクルマにもスポットを当てていただければ…」。

最後に、このMR2と今後どのように接していきたいかを伺った。

「手のかかるクルマですが、それも楽しみのひとつです。ラストオーナーとして付き合って行きたいです。万が一、修復不可能な事故に遭ったとしても、このMR2の部品を引き継いで乗り続けたいと思っています」。

インタビュー中に、オーナーの口から幾度も発せられたワード「ラストオーナー」に、心揺さぶられてしまった。オーナーが23歳という若さだからこそ、より胸に響くのかもしれない。その気概で、次世代の若者たちへも、クルマの魅力を伝えてほしいと願わずにはいられない。そして、オーナーとMR2との幸せなカーライフは、これからも続いていくのだろう。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]