18年前のクルマと侮るなかれ。ポルシェのスペシャリストが2001年式ポルシェ・ボクスターS(986型)を手に入れた理由

ポルシェが発表しているプレスリリースによると、2018年度の上半期は過去最高記録となる130,598台(前年同期プラス3%)の新車を販売したという。そのうち、マカンが46,600台、カイエンが28,700台を占めており、その割合は半数以上だ。いまやスポーツカーメーカーの代名詞であるポルシェですら、その屋台骨を支えているのはSUVだということが分かる。

もしかしたら、この現状に複雑な思いを抱くポルシェフリークがいるかもしれない。しかし、潤沢な資金があるからこそ、本筋であるスポーツカーの開発に注力できる…といった考えも成り立つのではないだろうか。

では、その理由とは?

1990年代前半のポルシェは深刻な販売不振にあえいでいた。当時のラインナップは、911・928・968の3車種だった。後にポルシェ再興の立役者となる当時経営部長の立場にあったヴィーデキング氏が、1993年のデトロイトショーにおいて「向こう5年間は2モデルのラインのみ稼働する」と発表していたほどだ。

そんな最中、ポルシェブースにおいて、2シーターオープンスポーツのコンセプトカーが展示された。そのコンセプトカーは、水平対向エンジンを示す“Boxer”と、オープンモデルを表す“Speedster”とを掛け合わせた“Boxster(ボクスター) ”と名付けられた。911よりも安価で販売されることが示唆されながら、どことなくクラシカルかつ美しいフォルムを纏ったボクスターは、販売前から注目を集めた。このコンセプトカーは東京モーターショーにも展示され、日本のポルシェファンをも魅了した。

コンセプトカーの発表から3年が経った1996年、ついに市販モデルのボクスターが発表された。と同時に(正確にいえばその前年に)928および968の生産を終了させた。前述のヴィーデキング氏が示したように、2002年にカイエンが発表されるまでの実に6年間ものあいだ、ポルシェのラインナップは911(この間に993から996型へとモデルチェンジしている)とボクスターの2モデルのみだった。まさにポルシェにとって、ボクスターは同社復活の命運を託されたモデルでもあったのだ。

前置きが長くなったが、今回のオーナーは長年にわたりポルシェに精通してきたスペシャリストだ。しかも、356やナローポルシェと呼ばれる初期型911オーナーの主治医として支持されている。まずは、なぜ初代モデルにあたるボクスター、それも高性能版のSを愛車に選んだのかを伺ってみることにした。

「このクルマは、2001年式ポルシェ・ボクスターS(以下、ボクスターS)です。この個体を手に入れたのは2ヶ月ほど前、現在のオドメーターの走行距離は約3万キロを少し超えたあたりです。生産されてから18年経っていますが、程度の良い個体を手に入れることができたのではないかと思います」

1996年に初代モデルにあたる986型が発表されたボクスター。オーナーが所有する個体は、2000年に追加された高性能版の「ボクスターS」だ。素のボクスターとの違いは多々あるが、要約すると、排気量アップされたことでよりパワフルになったエンジン、6速マニュアル・大経のブレーキ・17インチアルミホイールの採用などが挙げられる。

ボクスターSのボディサイズは全長×全幅×全高:4315×1780×1290mm。排気量3179cc、水平対向6気筒エンジンの最高出力は252馬力を誇る。エンジンがボディ中央に搭載されることから、駆動方式はMRとなる(参考までに、素のボクスターの排気量は2687cc、最高出力は220馬力だ)。

長年にわたり、いわゆる「クラシックポルシェ」に精通してきたオーナーが、なぜこのボクスターSを手に入れようと思ったのだろうか?

「実は少し前まで1974年式ポルシェ・914 2.0を所有していたんです。仕事の合間に直して楽しもうと思っていたのですが、なかなか修理する時間が捻出できずにいました。それならば、もっと気軽に楽しめるモデルがいいなと思いはじめ、自然と候補に挙がったのが初代ボクスターでした。気がつけば、初代ボクスターも『ポルシェ・クラシック』の一員なんですね。914はとても気に入っていましたが、工場のなかで眠っているよりも大切に乗ってくれる人に譲った方がいいのではないかと考え、思い切って手放すことにしたんです」

最新のクルマであれば、診断機を使って不具合箇所を特定できるかもしれない。しかし、古いクルマであればあるほど、主治医の経験と勘が頼りになる。口コミで次々と依頼が舞い込むことで経営は安定するかもしれないが、ユーザーの対応を優先するあまり、自分の愛車のことはついつい後回しになってしまうのだろう。余談だが、オーナーが所有する986型ボクスターをはじめ、現時点では356から911であれば996型まで、その他、914・924・944・968・928、959やカレラGTといったスペシャルモデルも「ポルシェ・クラシック」の対象モデルとなっている。時期的には2002年に発売された初代カイエンが含まれてもよさそうなものだが、敢えてSUVモデルを含めないあたりにポルシェの秘めたる思いが垣間見えるような気がする。

「ポルシェ914を手放した後に出会ったのが現在の愛車です。仕事ではポルシェに触れる生活を送っていますが、いざ自分の愛車がなくなってしまうと寂しいものです。とあるショップのホームページに掲載されているのを見つけて以来、ずっとマークしていました。18年落ちのボクスターSで走行3万キロ、6速MTという点に惹かれましたね。なかでも私が着目したのは、18年経ってもオリジナルの状態が保たれていることと、これまでの整備記録でした。具体的には、正規ディーラーであるポルシェセンター、カレントテックセンター、ボッシュカーサービスといった、ポルシェやドイツ車に精通したところでメンテナンスされてきた点です。きっと素性の良い個体だろうと判断し、購入を決めました。ツテをたどればもっと安く手に入れられたかもしれませんが、そのクルマの素性が分かっているという安心感を重視しました。実際に納車されてからリフトアップしてみましたが、下回りもきれいで、大切に扱われてきた個体であることを実感しましたね」

昨年11月、折しもオーナーがボクスターSを手に入れたのとほぼ同じタイミングで、ポルシェUKが現地のクラシックモーターショーでレストアした10台のボクスターを展示した。YouTubeでも、かつてのレーシングカーを思い起こさせるカラーリングが施された2台のボクスターSの走行シーンを収めた動画が公開されている。奇しくも、オーナーが手に入れた6速MTを搭載する986型のボクスターSだったのだ。メーカーと時を同じくしてクルマの魅力を再認識するあたり、長年ポルシェに精通してきたスペシャリストならではの慧眼といえるのかもしれない。

「当時のカタログのスペック欄には『数値には決して表せないもの。それがボクスター体験』と記述されています。実際に手に入れてみて感じたのは、それは誇張でも何でもなく、本当のことだと思いましたね。生産されてから18年、モデルでいうなら3世代前のクルマですが、そういった先入観をすべて取り払って運転してみると、現代においても遜色ない性能を持っていることを再認識します。しかも、新車のマツダ・ロードスターを購入するよりも安価でそんな体験ができるのですから、思い切って手に入れてみる価値はあると思います」

確かに、新車のマツダ・ロードスターを購入すればそれなりの金額になる。それよりも安価でポルシェの世界が味わえる初代ボクスターの存在は魅力的だ。しかし、クルマ好きなら誰もが思うであろう維持費の問題が頭をよぎってしまう。何しろ「ポルシェ」だ。かつては納車してから自宅に到着するまでにクラッチが摩耗した…といった都市伝説まで囁かれたクルマなのだ。

「それは程度良好とはいえない中古車を手に入れてしまったことが原因かもしれません。確かに、部品代やメンテナンス代は日本車よりも高価ですから、同じように維持するのは難しいと思います。しかし、ポルシェに精通している場所でメンテナンスされてきた個体であれば、それほど心配する必要はないはずです。この個体のように、18年間、3万キロという時間をどのようなショップが面倒を見てきたか。信じがたいかもしれませんが、ポルシェのことをよく知らないショップがメンテナンスをしてクルマを壊してしまうケースも少なからず存在するんです。それを一般の方が見分けるのは不可能に近いと思います」

街中には、新旧問わずさまざまなポルシェが走っている。にわかには信じがたいが、こちらが思っている以上にベストコンディションを保っている個体は少ないのかもしれない。せっかくの機会なので伺ってみることにした。ポルシェのコンディションを維持するために気をつけるべきこととは…?

「私自身、チューニングに明け暮れていた時代があります。しかし、ポルシェに関していえばチューニングはオススメしません。メーカーが膨大な時間を掛けてテストを繰り返して造り上げたものなので、そのクオリティを超えることは並大抵のことではありませんし、オリジナルの状態がベストかつ絶妙なバランスで成り立っていることも事実です。チューニングできるだけの予算があるなら、タイヤや油脂類、予防整備に費やした方がよいと思います。私も、納車されてからN認証(ポルシェ認証)の新品タイヤに履き替えました。せっかくの機会ですし、きちんとメンテナンスされた個体であれば、現代でも通用する性能を持ちあわせていることをお伝えしておきたいです」

日本車は壊れないことが美徳とされがちだ。その価値観が浸透しているからなのか、壊れてから直すという意識が染みついているのかもしれない。しかし、ヨーロッパのクルマは違う。消耗品は積極的に交換し、性能を維持するという考え方のように思う。

「私はいま、50歳になるのですが、若いときはペリフェラルポート加工されたエンジンを積んだマツダ・サバンナRX-7(SA22C型)に乗っていました。インターネットも携帯電話もない時代でしたが、口コミで『○○○のオヤジが組むロータリーエンジンは速い』などという噂が聞こえてきて、エンジン加工をお願いしたものです。ポルシェに対する記憶といえば、あるショップのメカニックとして勤務していた時代に入庫してきた911ですね。少しエンジンに手を加えるだけで、当時、改造に数百万円を費やした日産L型エンジンのようなフィーリングが得られることに感動したことを強烈に覚えています」

若いときにはチューニングに明け暮れ、その後はメカニックとしてさまざまなキャリアを積んできたからこそ得られた知識や経験があるように思えてならない。最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「このクルマの魅力を伝えるべく、当面は所有していくつもりです。ボクスターというと、特に911オーナーさんは食わず嫌いな方が多いんです。日本車ばかり乗り継いできた方のなかにも『ポルシェは高いし、すぐ壊れる』と決めつけてしまう方がいらっしゃいます。もし、少しでもポルシェに興味があり、乗ってみたいと密かに思うのであれば…、友人や知人に乗せてもらうなど、機会を作って体験していただきたいです。私もそうでしたが、想像を超える強烈な体験が得られるかもしれません。それに…18年前のボクスターというだけで『古い、遅い』と決めつけてしまうのはとても悲しいことだと思います。お客さんにも試乗してもらったり、助手席に乗ってもらったりしてボクスターの魅力を味わってもらっています。皆さん一様に『これが20年近くも前のクルマとは信じられない!』と驚かれていますよ(笑)」

実は今回、オーナーのご厚意で取材チームもボクスターSを試乗させてもらう機会をいただいた。クラッチを繋ぎ、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間、カタログに記載されていた「数値には決して表せないもの。それがボクスター体験」というフレーズが脳裏をよぎった。

最高出力252馬力だの、0-100km/hが5.9秒だの、最高速度が260km/hだの、911の方が高性能だの、そういった能書きはもはやどうでもいい。理屈抜きに楽しめることを強く実感した。わずか12秒で開閉するソフトトップを開け放てば、背後からエンジンのメカニカルノイズと排気音がダイレクトに五感を刺激する。この楽しさを街中で体感できるのも魅力的だ。そして、ワインディングロードや高速道路であれば、さらにこのクルマの楽しさを享受できるだろう。

この感覚こそ、かつてのオーナーのように20代の若い方こそ味わって欲しいと強く感じた。おそらく、今後のクルマ選びに多大な影響を及ぼすに違いない。これは、リタイアして第2の人生を謳歌しようとしている世代の方も然りだ。無理して新車を買わなくても、程度の良い個体にさえ巡り逢えれば、比較的安価で夢のようなカーライフを送ることができるだろう。

18年前のクルマと侮るなかれ。

今回のボクスターSのように、国内外には「数値には決して表せない魅力」を秘めたクルマがまだまだ存在しているはずだ。そんな隠れた名車を今後も探していきたいと思う。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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