「シェア」という選択肢-カーシェアリングで変わるクルマの持ち方・使い方-
長らく自動車は「所有するもの」だった。しかし、クルマの使い方が多様化した現代では、「クルマは使うけれど自分では所有しない」という選択もある。レンタカーがその代表だが、ここ数年で大きく注目されるようになったのが「カーシェアリング」だ。
カーシェアリングを使うメリットはどんなところにあるのだろうか。そしてカーシェアリングでクルマとの付き合い方はどう変わっていくのだろうか。
首都圏で「カレコ・カーシェアリングクラブ」を運営する、カーシェアリング・ジャパン株式会社の代表取締役社長 黒川伸吾さんにお話を伺った。
24時間無人で借りられるカーシェアリング
まずは、カーシェアリングの仕組みや使い方を黒川さんに伺った。
「カーシェアリングは、24時間いつでも自分の都合のいい場所の近くで借りることができます。出かけた先で会員になっているカーシェアの車両があれば、それも使えるのです。貸出や返却の手続きは、すべてスマートフォンから行います。レンタカーに近いですが、より気軽に使えるサービスだと言えるでしょう」
カーシェアリングは、クルマの利用に関してスタッフが介入することがないため、「レンタカーは、人が提供するサービス。カーシェアリングは、クルマを無人で使う仕組みと考えると、レンタカーとの違いがわかりやすいでしょう」と黒川さんは言う。
家の近くに設置されているシェア車両を、自家用車のように頻繁に使うユーザーも多い。レンタカーのように、いちいち対面で手続きをする必要がないからこそ、マイカー感覚で使うことが可能なのだ。「気軽に使える」は、カーシェアリングのひとつのキーワードである。
マイカーからカーシェアリングで年間61万円もの節約に
では、クルマを「所有」ではなく「シェア」で利用するメリットはどこにあるのだろうか? 黒川さんは「一番のメリットはクルマにかかる固定費を下げられることです」と語る。
「クルマを所有するとなると、車両購入費や税金、保険、駐車場代などの費用が固定費としてかかっていますが、カーシェアリングは利用時間分だけしか費用は発生しません。弊社の試算によると、たとえば車両価格250万円程度のクルマを購入・維持する場合と、一般的なドライバーの平均走行時間分だけカーシェアを利用した場合とで比べると、年間で約61万円も負担が少なくなります」
費用が抑えられる一方、デメリットはというと、クルマを共同使用するカーシェアリングでは当然、「所有欲」を満たすことはできない。また、予約がいっぱいでクルマの空きがない場合や前の利用者が事故を起こしてしまった場合など、使いたいときに使えない可能性がゼロではないことも考えておく必要があるだろう。
「ステーションに設置されているシェア車両の台数は限られていますから、使いたいときに他の方が使っている可能性もあります。いつでも必ず使えるわけではないことは、マイカー所有との大きな違い。例えば、お子様を急に病院に連れて行かなくてはいけない場合など、緊急性の高い状況では注意が必要です」
これからはカーシェアリングも多様化の時代へ
公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団の調べによると2010年に1,265台だった日本のシェア車両は、年間数千台のペースで増え、2016年3月の調査で19,717台に。会員数は約1万6,000人から85万人へと急増している。「持たない生き方」が注目される昨今だが、自動車も所有からシェアの時代へとシフトしていくのだろうか?
「そうは思いません。クルマは単なる乗り物ではなく、所有欲を満たす趣味的な側面もあります。また、毎日絶対にクルマが必要だという人もいますから、すべてがカーシェアリングになることはないでしょう」
カーシェアリングは、「使いたいときにだけ使う足代わり」と思う人も多いかもしれない。しかし今、カーシェアリングも多様化が進み、輸入車や高級車を用意するカーシェア会社も増えている。
「カーシェアリングはさらにいろんな形態になっていくでしょう。リーズナブルな料金で足に徹するものと、趣味性の高いクルマを用意するものにわかれていくと思います。例えば、アメリカ・シアトルではBMWやMINIのカーシェアが大規模に行われている一方で、フランス・パリでは、移動手段に徹したカーシェア専用のシンプルなクルマが走っています。公共交通機関に近い感覚のクルマですね」
クルマの「使い方」が変わっただけで、カーシェアリングだからといって、クルマに求められるものは変わらないのだ。カレコでは、「気分や用途に合わせてクルマが選べるのもカーシェアのメリットのひとつ」という黒川さんの考えから、トヨタ・アルファードやマツダ・ロードスター、メルセデス・ベンツCLA、GLAなどもラインナップしている。
カーシェアユーザーの15%がマイカーを所有するワケ
ここで黒川氏は、おもしろいデータを教えてくれた。なんと、カレコユーザーのうち10%の人が自家用車を所有していると言うのだ。また、会員の22%がカーシェア利用前からクルマの購入を検討しており、そのうち17%の人がカレコ入会後も引き続きクルマの購入を考えているというのだ。この傾向は20代に特に強いという。
「都心では、自家用車とカーシェアを使い分ける動きがあります。日常的に使うのは小回りも効いて便利な軽自動車、遠出をするときは大きなクルマをカーシェアで……と、利用シーンに応じて使うユーザーがいるのです。シェア車両が置いてあるステーションの近くまで自家用車で行って駐車場に止め、カーシェアを利用する人も少なくありません」
趣味性の高い車種も、こうしたユーザーに利用されることが多いと言う。これは「新しいクルマの使い方」である。
今後、カーシェアリングだけでなく、さらにいろいろなクルマの使い方やサービスが生み出されていくだろう。何十年後かの未来、自分がクルマとどのように付き合っているか、想像してみるのもおもしろいかもしれない。
(工藤貴宏+ノオト)
<取材協力> 黒川伸吾 カーシェアリング・ジャパン 代表取締役社長
カレコ・カーシェアリングクラブ
[ガズー編集部]
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