チョイモビ ヨコハマ終了から1年-実証実験で得た手応えと課題

日産自動車は、横浜市とともに2013年10月から2015年9月にかけて、超小型モビリティに分類される2人乗りの超小型電気自動車「日産ニューモビリティコンセプト」を用いたワンウェイ型カーシェアリング「チョイモビ ヨコハマ」の実証実験を行った。行政と周辺企業の協力を得て行われた大規模なプロジェクトだ。

その特徴は超小型モビリティを用いたこと、そして借りた場所とは異なる場所に返却可能なワンウェイ型としたことの2点。次世代モビリティの在り方を模索した実証実験だった。

プロジェクトが終了して1年あまり。現在は日産ニューモビリティコンセプトをレンタカーとして貸し出し、ワンウェイ型のサービスは行っていない。しかし、「チョイモビ実行委員会」のFacebookページを見ると、「突然サービスが無くなったのは残念。出来れば復活してほしい」「ワンウェイでの復活希望!」「前のシステムに戻してください」「中古で良いんで個人的には所有したい」(すべて原文ママ)など、サービスの終了を惜しむ多くのコメントが見られる。

▼チョイモビ実行委員会

チョイモビ ヨコハマの実証実験を行い、日産はどのような結果や手応えを得たのだろうか。日産自動車株式会社グローバルEV本部で超小型モビリティを担当する、柳下謙一さんに話を伺った。

 

公共交通機関のウィークポイントを補う

「チョイモビの狙いは大きく3つありました。超小型モビリティの認知と普及、環境負荷の抑制、そして超小型モビリティのニーズの見極めです」と柳下さんは言う。

今、路上を走る乗用車のほとんどは4人乗り以上だが、国土交通省「2005年全国道路街路交通情勢調査」によると、実際の乗車人数は平日が1.33人、休日でも1.72人と2人未満にとどまる。乗車人数から考えると、多くのクルマを超小型モビリティに置き換えることができるのだ。

「乗用車が超小型モビリティに置き換われば、車体が小さくなる分だけ道路占有スペースの無駄がなくなりますから、渋滞を解消したり駐車場を効率よく使ったりすることができます。もちろん、小さなクルマは環境負荷も少なくて済みますし、排ガスを出さないEVなら都市部の大気汚染抑制にもつながります」

注目したいのは「超小型モビリティのニーズの見極め」だ。このプロジェクトは、横浜市が抱える公共交通機関のウィークポイントを補う役割も期待されたものだった。

「横浜駅周辺やみなとみらいエリア、山手・本牧エリアといった横浜市の中心部は、南北に走る鉄道が充実している反面、東西に走る路線がなく、移動手段はバスとなります。そこで、鉄道網を補完する移動手段として、チョイモビが活用できるのではないかと考えました」

ここで、乗り捨てができるワンウェイ型カーシェアリングのメリットが生きてくる。たとえば、赤レンガ倉庫から中華街までチョイモビに乗って行き、電車で帰るといった使い方がきるのだ。

想定を超える数のユーザーがチョイモビを利用

チョイモビの実証実験は、2013年10月から2014年9月までの第1期、2014年11月から2015年9月までの第2期にわけて行われた。横浜市内に、出発や返却ができるステーションをおよそ60カ所設置。ビジネスと観光、両面のニーズを想定した。

「当初、2014年9月までの1年間の予定でしたが、ご好評をいただいたため、第2期として2014年11月まで期間を延長しました。当初1万人を想定していた会員登録者数は、最終的に1万3000人となりました」

実証実験中の平均利用時間は、およそ20分。平日よりも土日祝日の稼働が多かったと言う。赤レンガ倉庫、山下公園、中華街、そして港の見える丘公園といった観光スポットをまわる手段として多く利用されたようだ。当初の狙いであった、超小型モビリティの認知やニーズの調査については、ある程度の成果を上げたと言えるだろう。

コストと法律、ふたつの課題

一方で、課題も見えてきた。もっとも大きな問題は、運用コストである。

「実証実験を通しての収支はほぼ想定通りでした。しかしこれは、事業として考えると難しいもの。民間企業だけで運営するのには限界があるため、“公共性を持った移動手段”として、自治体と共同で街づくりの一環として取り組んで行くことが必要でしょう」と柳下さんは言う。

もうひとつ、実証実験を通して見えてきたのは、超小型モビリティを普及させるための法規面での課題だ。

「二輪車以上、軽自動車未満というサイズの超小型モビリティは、現在のところ法的な位置づけが定まっていません。チョイモビで使用しているニューモビリティコンセプトは、実験特区における道路運送車両法の基準緩和を活用した特例として軽自動車としてナンバーを取得していますが、横浜市外に出てはいけないなどの制限があります」

他社が取り組んでいるプロジェクトでも、さまざまな特例を利用しているのが現状だと言う。今後、全国的に普及させるには、法律上の超小型車両の区分を明確にする必要があるのだ。

次のステップは

チョイモビで使用されていた日産ニューモビリティコンセプトは、現在はレンタカーとして、「日産グローバル本社ギャラリー」と日産レンタカーの「みなとみらい店」「関内駅前店」で借りることができる。

また新たな試みとして、横浜周辺の観光スポットを巡る足としての利用を想定し、市内20カ所に無料で利用できるチョイモビ専用の駐車場を用意した。これは、近隣の企業の協力で実現したものだ。駐車場が無料で利用できれば、より気軽にリーズナブルに観光を楽しむ手段としてチョイモビを利用しやすくなる。

レンタカーとしてのチョイモビの利用料金は1時間あたり1080円。事前に体験試乗による安全運転講習を受ける必要があるが、新しい観光手段ができたと言えるだろう。京都のように、観光スポットが点在する都市で展開してもよさそうだ。

柳下さんは「ワンウェイ型のシェアリングは中断していますが、次のプロジェクトも考えていますので、期待していてください」と話す。

ところで、今回の取材を通じて気付いたことがある。4輪車よりもバイクに似た感覚で乗る超小型モビリティは、当然ながら周囲との距離感が近い。それは、道路の周辺はもちろんだが歩行者に対しても同様で、死角も少なく交差点や横断歩道などで歩行者の存在をしっかりと認識できる「周囲に優しい乗り物」だということだ。交通事故の死傷者を減らす――クルマの未来を語る上で、超小型モビリティの重要さを改めて感じた。

(工藤貴宏+ノオト)

<取材協力>
日産自動車株式会社 バッテリービジネス部 超小型モビリティ担当 シニアエンジニア
柳下謙一

[ガズー編集部]