電動化でクルマからエンジンは消滅?-新技術HCCIとは

EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)――。近年話題になるクルマは、電気を動力源とするものが多い。自動運転化が進むこれから、“クルマの電動化”にはさらに拍車がかかるだろう。そのとき、従来のガソリンエンジンやディーゼルエンジンなど、内燃機関は存在価値がなくなってしまうのだろうか。

その問いに「NO」と言える技術がある。内燃機関の理想形と言われる「HCCI」だ。

HCCIとは一体どんな技術なのか。マツダのパワートレイン開発本部でディーゼルエンジンの開発に携わる佐原寛哉さんに話を聞いた。

数%ではなく数十%という単位で燃費向上が可能

「理想の内燃機関と言われるHCCIは、エンジンの効率を飛躍的に高められる技術です。ここ最近は新しいエンジンを開発しても、燃焼効率の上昇率はせいぜい数%。でも、HCCIが実用化されれば、最大数十%という単位で向上する可能性が残されています」と佐原さん。

HCCIとは「Homogeneous-Charge Compression Ignition」の略で、日本語にすると「予混合圧縮着火」。名前のとおり、着火方法に特徴がある。理論自体は昔からあるもので、各自動車メーカーが研究に取り組んでいる技術だ。

「従来のガソリンエンジンは、燃料と空気をエンジンのシリンダー内に入れて、スパークプラグで着火していました。圧縮比は10程度で、それほど強く圧縮はしません。ディーゼルエンジンはシリンダーの中に空気だけを入れ、圧縮して温度を高めます。一般的に圧縮比はガソリンエンジンよりも高く、圧縮によって高温となったシリンダー内に燃料を吹き込むことで着火させます。HCCIは、空気と燃料を最初に混ぜてしまいます。その混ぜた状態で圧縮させ、圧縮による温度上昇で着火させるのです。圧縮着火と呼ぶように、スパークプラグは使いません」

予め混ぜて圧縮、着火させることから「予混合圧縮着火」。スパークプラグを使わない点ではディーゼルエンジンに似ているが、HCCIはガソリン燃料の方が向いていると言う。ガソリンは、ディーゼルエンジンに使う軽油よりも揮発性が高く、空気と混ざりやすいからだ。

「HCCIは圧縮前に混ぜるため、空気と燃料を理想の配合にすることができます。従来のガソリンエンジンやディーゼルエンジンでは、理想の配合で燃やすのが難しかったんです。ベストな配合が実現できるHCCIは効率がよい。つまり、燃費の良い理想のエンジンになるのです」

HCCIを自在にコントロールするのは至難のワザ

従来のガソリンエンジンでも「ノッキング」という自然着火現象は起きている。圧縮着火の原理自体はそれほど難しくはないない。では、なぜHCCIのエンジンは実用化されていないのだろうか。

「スパークプラグがあれば、好きなタイミングで着火させることができます。また、ディーゼルエンジンでもインジェクターで好きなタイミングで燃料を吹くことができます。ところがHCCIは自己着火ですから、勝手に火がついてしまうわけです。コントロールが非常に難しいんですね」

実験室のような一定の環境で、一定の回転数で動かすだけであればHCCIも、それほど難しくない。しかし、現実世界で使おうとすると一筋縄ではいかない。

CX-5の「SKYACTIV-D」ディーゼルエンジン

「まず、アクセル操作にあわせて自在に着火するようにしなければなりません。次に温度です。外気温も変化しますし、エンジン自体も熱を発します。HCCIは圧力と温度で着火しますから、温度が変化すると着火するタイミングも変わってしまいます。その温度変化に対応しなければなりません。さらに気圧によっても、着火のタイミングが変わります。そして最後に燃料の質です。日本はまだよいのですが、世界では燃料の質が均一ではない地域もあります。いろいろな状況変化がある中でも、しっかりと制御できなければ実車には使えません」

こうした状況変化へのハードルをクリアすれば、「燃費がよい(CO2=二酸化炭素の排出が少ない)」「排気ガスがきれい(NOx=窒素酸化物が少ない)」という理想的なエンジンが完成するのだ。また、HCCIをハイブリッドに使えば、さらに燃費はよくなると言う。

内燃機関はまだ進化するポテンシャルを秘めている

これからますますクルマの電動化が進むことは、間違いない。最後に佐原さんは、エンジン開発に携わるエンジニアとしてこんな風に語ってくれた。

「世の中は『内燃機関から電気自動車』へという雰囲気がありますが、内燃機関はまだまだポテンシャルを秘めています。エンジン開発に携わる人なら、誰もがそれを知っているはずです。これからのエンジンの進化に期待してください」

(鈴木ケンイチ+ノオト)

[ガズー編集部]

<取材協力>
マツダ株式会社
パワートレイン開発本部
エンジン性能開発部
第1エンジン性能開発グループ
佐原寛哉