自動車一台にソースコード1000万行! クルマとプログラミングの歴史
蒸気自動車が誕生してから約250年――。基礎設計からデザインまで、機械工学によって高い最新技術を取り入れてきた「エンジニア」たちの世界にここ30年、コンピュータープログラミングによってクルマを制御する「ソフトウェアエンジニア」が加わった。
自動車のソフトウェアはこれまでどう発展し、今後どう進化していくのか。ソフトウェア開発企業の富士ソフト株式会社執行役員・三木誠一郎氏に聞いた。
自動車ソフトウェアのコード行数は20年で1000倍以上に
自動車に初めて電子制御装置が搭載され、プログラミングと自動車が関わりだしたのは1970年代のことだ。その頃は、専門のソフトウェアエンジニアがいたというよりも、黎明期であるゆえに半導体を使うユーザーや製造元が片手間でコードが書けた状態であったという。
1980年に入ると、マイコン(マイクロコンピューター)が世の中に広く普及し始める。すると、自動車だけでなく、さまざまな製品にマイコンが搭載されるようになった。この頃、自動車に使用されるコンピューターはせいぜい数個。搭載されたコンピューター同士は当時、連携していなかった。これらが連携するようになったのは1980年代後半からだ。車体制御や安全装置、ナビゲーションシステムなど、加速度的にその性能は上がっていく。
「現在、一般に普及している自動車一台にマイコンは50個以上搭載されています。また自動車ソフトウェアのコード行数は1000万行を超え、ここ20年で1000倍以上になりました。今後もこの数字はどんどん増える見込みです」(三木氏)
無限に増え続けるソフトウェアにどう対応するか
運転支援技術の発展や自動運転車の普及などによって、自動車に搭載されるソフトウェアは今後もますます増えていくだろう。自動車ソフトウェアの開発体制もより強化されていくということなのだろうか。
「増え続けるコード行数のために、ソフトウェア開発コストをどんどん増やしていくのは現実的ではありません。自動車に搭載されるソフトウェアはどんどん高度になっていくため、対応しきれない部分も出てくるでしょう」
では、増え続けるソフトウェア開発には、どのように対応していくのだろうか。
「答えは一つではありませんが、例えば、ソフトウェアの標準化や再利用率アップという方法があります。さまざまな企業から開発を請け負っていると、ほとんど同じようなものを都度別々に開発することもあるのです。ソフト屋が言うのも変ですが、無駄なソフトウェア開発は減らさなければなりません。そのためには自動車ソフトウェアの標準化をもっと進めなければならないと考えています」
富士ソフトは、ドイツ主導で標準化を進めているグローバル開発パートナーシップ「AUTOSAR」に加入。さらに、名古屋大学発のRTOS技術を用いたソフトウェアプラットフォーム開発会社、APTJに携わっている。同じような取り組みはソフトウェア業界の各社が進めており、自動車ソフトウェアの標準化シェア争いが始まろうとしている。
自動車ソフトウェアのシェアを握るのはどこになるのか
スマートフォンはiPhoneかAndroid。PCはMacかWindows。どちらの業界も、ソフトウェアのシェアは固定化されつつある。今後、自動車業界のソフトウェアを1~2社が牛耳る日が来るのだろうか。
「自動車ソフトウェアが数社の独占状態になるかはわかりませんが、ひとつだけ主張したいことがあります。スマートフォンとPCのソフトウェアシェアを勝ち取った、googleもMicrosoftもAppleも、アメリカ企業です。それだけに、自動車ソフトウェア分野はなんとしても日本のソフトウェア業界がシェアを勝ち取りたいですね」
三木氏は続ける。
「日本の自動車は世界に誇れる製品です。運転支援技術や自動運転など、自動車開発においてソフトウェアがますます重要になる今後、私たちはソフトウェア開発の立場から新時代の自動車を生み出す一翼を担えればと考えています。標準化すべきところはする、独自開発を深める部分は深める。日本において、次世代の素晴らしい自動車ソフトウェアエンジニアを育てていくのが我々の使命だと考えています」
(田島里奈/ノオト)
[ガズー編集部]
<取材協力>
富士ソフト株式会社
執行役員
三木誠一郎
- 富士ソフト株式会社執行役員・三木誠一郎氏と、同社製品のコミュニケーションロボット「PALRO」(パルロ)
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