日本、アジアの聖地となるサーキットを沖縄市が計画
モータースポーツといえば、富士スピードウェイ、鈴鹿サーキットなどで行われるF1、スーパーGT、MotoGPなどのレースを想像する人が多いだろう。しかし実際は、全国各地で行われている草の根の活動的なモータースポーツの方が開催数は圧倒的に多い。このような活動は、大きなサーキットでも行われるが、小規模サーキット、フィールドなどで行われている。沖縄の中心部にはそのような場所は無かった。沖縄県民は車好きであるもの、モータースポーツの環境が整っていない。それを打破しようと立ち上がったのが沖縄市。その壮大な野望をご紹介する。
教えて頂いたのは、(仮称)沖縄サーキット整備基本構想を推進する、沖縄市役所企画部プロジェクト推進室 玉城佑主査氏、赤嶺勝磨主任主事氏、そして沖縄市のモータースポーツ拠点施設「モータースポーツマルチフィールド沖縄」の管理運営業務を受託している一般社団法人チームオキナワ 翁長達也事務局長氏だ。
沖縄には年間1千万人もの観光客が来訪するが、彼らは西海岸や美ら海水族館には行くものの、沖縄市を含む中南部地域はややもすると素通りされる傾向がある。そんな状況を打破するために沖縄市の桑江市長は色々な取り組みを行っている。その一つが、沖縄市に「(仮称)沖縄サーキット」をつくり、沖縄市が夢と活力をまちに与える“モータースポーツの聖地”となり、新たな滞在型観光・雇用の創出を実現するという政策だ。
しかし莫大な資金が必要となるため、容易に着工することなどできない。多くのサーキットは、自動車メーカ、バイクメーカー、関連企業などが経営母体となり、自らの企業活動のために運営しているため、施工費用、運営費用は各企業が捻出している。一方、沖縄市は行政が主体となってサーキット整備を推進しているため、モータースポーツの魅力や経済効果等を市民に理解してもらわなければ活動を進めることができない。高い志だけで、一足飛びにサーキットをつくるわけにはいかないのだ。
そのために、沖縄市は(仮称)沖縄サーキットの実現に向け3ステップで取り組んでいる。
1ステップ目は、モータースポーツの認知度向上
具体的には、沖縄のモータースポーツ競技団体に協力をしてもらい、2015年よりコザモータースポーツフェスティバルを沖縄市主催で開始した。このイベントは、2日間で4万人も動員し、日本全国でも有数のイベントになっている。コロナで2年間中止となり、今年は日曜日開催だけだったそうだが、2万人も動員している。読者の方も聞いたことがあるイベントではないだかろうか。玉城主査によると、コザモーターフェスティバルはクルマイベントとして県民に定着しているとのことだ。筆者はこのイベントに参加したことはないが、イベントの存在は知っていたので、既に全国区なのかもしれない。
沖縄県の人口145万人、沖縄市の人口14万人を考えると、相当の割合で遊びに行っていたことになる。
沖縄の全クルマ好きが集結していると言っても過言でない気がする。
それにしても、なんで沖縄県民は車好きなのだろうか。玉城主査によると、「沖縄は基本的に車社会ですし、それに加え米軍基地の影響もあると思います。米軍基地ではカーニバル(フェスティバル)が定期的に行なわれ、その時は県民も入場可能なんです。そうしたイベントでは、かっこいい車や珍しい外車を見る機会があり、自分達が運転しているクルマとは違う世界を垣間見る機会があります。」とのことだ。子供のころから、日常と違う世界のクルマを見る機会に恵まれていれば、車好きが多いのも納得できる話だ。
コザモーターフェスティバルが大人気のイベントに成長し、モータースポーツの認知度の向上は図れたかもしれないが、モータースポーツ競技者のすそのが広がるわけでない。そのため、県内の競技者の方が一同に競技ができる拠点が必要になった。
2ステップ目は、モータースポーツ競技・イベントの開催加速化を通じた“県内モータースポーツの聖地化”
沖縄市は様々なモータスポーツイベントを実施できる、小規模の施設計画に取り掛かった。しかし、沖縄市の面積の約30%を米軍基地が占めることもあり未利用地は少なく、しかも、サーキットの宿命的な課題である騒音と敷地面積をクリアできる場所は限られることから、場所選定には苦労したそうだ。最終的には市が保有の土地(焼却場跡地)に決定したが、隣接する畜産農業を始めとした近隣施設への影響を低減するための対策、フォローは今後も継続的に続ける必要がある。ちなみに、米軍の戦闘機の爆音はドリフトを超越する音だった。
(モータースポーツマルチフィールド沖縄がオープン)
玉城佑主査
「オープンして多くのお客さまに利用していただけましたが、コロナによる緊急事態宣言により6月より休場となり厳しかったです。本年7月下旬に予定されていたトヨタモータースポーツフェスin沖縄も中止になり、大変残念でした。。」
「しかし最近の週末は予約で一杯の状態になりつつあります。平日については、競技毎に利用時間を分けて月間スケジュールを設定しています。その他にも、ディーラーの社内研修、車関連の発表会、警察白バイ技能訓練、交通安全教育、地域でのイベント活用などなどです。面白い事例は、車椅子ソフトボールの会場として最適ということで、ご利用いただきました。また嬉しいことに、ここで練習した沖縄県警の警官が全国白バイ安全運転競技大会の傾斜走行操縦競技において2位になったんですよ。」
沖縄のショップさんや車好きさんに聞くと、クルマを走らせるときは「モータースポーツマルチフィールド沖縄ですよ」と口をそろえた。その中に、結婚式を山原サーキットで開きたいというお姉さんがいた。その理由は、モータースポーツマルチフィールド沖縄は少し格式が高いし、市営なので自由が利くのかわからないからだそうだ。格式高い場所として認識されているみたいだ。“モータースポーツマルチフィールド沖縄”は、クルマ好きへの認知度は高いため、クルマ好き以外への認知をもう少し拡大すれば、第2ステップの県内モータースポーツの聖地にすぐにでもなるという印象だ。
玉城佑主査
「今後の展開としては、モータースポーツ競技そのものの裾のを広げるため、キッズや若手という次世代の競技者を増やしていく活動をしたり、イベントするにもレースオフィシャルが不足しているので育成したり、工業高校等と連携して技術者の育成を行っていきたいと考えています。ここは公共施設なので、このようなこともミッションとして進めています。」
大きなサーキットのレースオフィシャルさん募集の広告を度々みる。レースオフィシャルとは、レース運営をサポートする人達で、赤旗などを振っている人たちもその人たちだ。沖縄では、経験豊かなオフィシャルさんの不足も課題となっている。
3ステップ目は、沖縄サーキット整備による、県外からの来訪目的地となる“日本・アジアの聖地化”
3ステップ目に重要な、サーキット建設の具体的な時期、場所、規模などについては、2ステップ目の施策により市民の機運を醸成しつつ、検討を進めていくということだ。
玉城佑主査
「モータースポーツに興味なくても鈴鹿サーキットは知っていますよね。“モータースポーツマルチフィールド沖縄”も、そのように多くの沖縄市民、そして県民の認知や理解を得て進めていく必要があります。 今後、本格サーキットの整備に進む際に、“モータースポーツならいいよね”と言っていただける機運を醸成していくことが大事だと考えています。そして、全国にこの施設の位置づけを伝えることが必要だと思ってます。オープンしてまだ1年半、コロナで休場もしていたので、これからしっかり進めていきたいです。」
最近は減ってきたが、以前はよくメディアが国から交付金や補助金を使って、地方自治体がハコモノを造ったが、住民へのハコモノの理解促進はされておらず、閑古鳥が鳴いているハコモノ、自治体の取材を行っていた。この沖縄サーキットプロジェクトを正しく理解しないと、そのようなことを言う人がでてくるかもしれないが、それは間違えている。沖縄市は住民の理解促進のうえで進めようとしている。モータースポーツは一部の人のためのものとおもわれがちだが、このプロジェクトは沖縄県民、沖縄市民のためのプロジェクトであることは間違いない、
玉城佑主査
「サーキットについてですが、利用者、規模、種目などを組み合わせると無数に考えられますよね。我々が目指す滞在型の観光推進、雇用創出につながるサーキットの形態は、まだ絞り込めていません。“モータースポーツマルチフィールド沖縄”の運用を通じて、様々な企業の皆さま、大会主催者の方など、色んな意見、要望を聞きながら、“沖縄にはこういうサーキットが相応しいよね”というものを検証していく段階だと考えています。」
沖縄に日本、アジアに認知されるサーキットを造るという壮大な夢に対して、市民のモータースポーツの機運を醸成させるという、想像を絶するほど難しいテーマを地道に前進させている、沖縄市には感銘するしかなかった。今後の進捗具合も気になるし、サーキットを実現させて欲しいと強く願う。
そいえば、サーキットについて情熱的に話す玉城佑主査さんが車好きなのかを聞くのを忘れていた。
(文:岡本、写真;沖縄市、岡本)
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