液体水素GRカローラが挑戦していること

5月27-28日に開催された、スーパー耐久第2戦、「富士SUPER TEC 24時間レース」。デビュー戦となったROOKIE Racingの32号車、液体水素GRカローラが、デビュー戦を大きなトラブルなく無事に完走した。

多くの仲間と、未来への扉を開けていくための世界初の挑戦。液体水素GRカローラが挑戦していること、現時点での課題について整理した。

そもそも、液体水素GRカローラは、3月のスーパー耐久第1戦が行われた鈴鹿サーキットでデビューする予定であった。しかし、直前のテストで、水素漏れによる車両火災が発生。車両製作が間に合わず、第2戦となる富士での24時間耐久レースでデビューすることになった。

3月からのわずか2か月間で、再発防止策として車両火災の原因になった部分の設計変更と、万が一、水素が漏れた時に検知可能とするセーフティーカバーの追加を行っている。加えて、車両を50kgも軽量化した。また、液体水素はエンジンに噴射する温度が低いため、水素エンジンの弱点である異常燃焼(プレイグニッション)が発生しにくく、理論的には10馬力ほどアップ可能だそうだ。

お伝えしたとおり、富士24時間耐久レースでは予選・決勝ともに、トラブルなしに完走を果たし、チームとしての目標は達成した。一方、客観的に見てしまうと、昨年の気体水素GRカローラと比較すると予選で約4秒/周、決勝では2~4秒/周遅く、またラップ数は昨年より120周少ない。実は、これこそが挑戦していることなのだ。

ベストラップ:2分2秒760 (昨年1分59秒876)
周回数:358ラップ(昨年478ラップ)
給水素回数:25回以上

 

液体水素GRカローラの挑戦:軽減化

第1戦に参戦予定だった車両より50kgも軽量化しているものの、気体水素の時と比較すると250kgほど重くなっているそうだ。その要因はタンク、燃料ポンプ、ポンプを駆動させる本体にある。
実は、タンクは気体水素のように高圧でないため、軽量化に向けた改善はさほど難しくないそうだ。しかも、-253℃の環境でも24時間、問題なく使用できた。しかし、ポンプ関係は容易ではないようだ。

課題1:燃料ポンプの耐久性

水面が可変するタンク内は超低温であり、そこで燃料ポンプを稼働させる必要がある。とてもシビアな条件のため、24時間も連続使用すると水素供給圧力が下がってしまうそうだ。これは既存のポンプでは解決できず、超電導モーターを利用すれば解決できるかもしれないとのことだ。

超電導モーターの特長は、重量は半分以下、サイズは大幅縮小、発熱もしない、とのこと。これについて、東京大学、京都大学、早稲田大学との共同開発を始めているが、その対応は容易なものではなく、今年中にレースデビューするのは厳しいようだ。

そのため、今回は超低温で作動させる燃料ポンプに、異常を発生させないように、水素供給圧力を抑えていたのだ。その結果、出力トルクが抑えられ、ラップタイムが昨年より落ちていた。

また燃料ポンプは、24時間連続で稼働させるが難しいのが事前に判明していたため、レース中に2回、交換作業を計画し、実際に交換している。ガソリンエンジンの燃料ポンプ交換であれば、大きな時間を要することは無いが、液体水素タンク内の燃料ポンプは、全く事情が異なる。

タンク内の水素を全て抜いて、不活性化ガスに置き換えて、やっとポンプ交換作業が可能となる。その後に、不活性化ガスを抜き、液体水素の充填となる。この交換作業は当初の計画では3.5時間/回かかるとのことだった。レース後の話では、交換作業時間に要した時間は、1回目で4時間、2回目では3時間と、改善したそうだ。

課題2:エミッション制御

水素エンジンでも空気(窒素と酸素)を使って燃焼を行っているのでNOx(窒素酸化物)が発生する。ただ、ガソリンだと着火できないほど燃料を希薄にしても、水素は着火できる。その領域で希薄燃焼(リーンバーン)を行うと、NOxが極端に下げられることがわかっているため、チャレンジをしていくそうだ。

一方、レースでは、出力が必要なため燃料を濃くする必要がある。そうすると、どうしてもNOxが発生してしまうため、ガソリンと同じく還元触媒を利用した浄化についてもチャレンジ中で、ハード的な変更を年内中に試してみるとのことだった。

残りのスーパー耐久は5時間、4時間(予定)、3時間のレースとなるため、燃料ポンプの交換を行うレースは無いはずだ。しかも、今回のレースは、元々15ラップで給水素を行う計画でほぼ24時間予定どおり運用してきたが、最後は20ラップも走っている。

GRカンパニーの高橋プレジデントによると、今後は燃料ポンプの信頼性を高めていき、交換のスパンを少しずつ広げていきたい、とのこと。昨年度以上のラップ数(航続距離)となるレースが、意外に早く訪れるかもしれない。

現状、BEVはバッテリー容量と充電スピードという課題があるため、大型トラックで長距離走行をこなすのを苦手とする。そのため水素を燃料としたクルマが期待される。その商用車の経営統合が発表された。そして、2026年のル・マン24時間レースに、水素を燃料とするカテゴリーが導入されることも発表された。さらに、クラウンセダンのFCEVも国内初展示され、水素利活用社会に向かって、着実に進んでいることがわかる。

市販化のために、レースを使って開発をアジャイルに進めているTOYOTA GAZOO Racingのプロジェクト。水素を燃料としたモビリティ社会が楽しみだ。
 

 

(GAZOO編集部)

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