【スーパー耐久第3戦SUGO】ST-QクラスのGR86とBRZに改良版カーボンニュートラル燃料を投入

  • 28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF concept (c)スーパー耐久機構

    28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF concept (c)スーパー耐久機構

スポーツランドSUGOを舞台に行われているス―パー耐久第3戦の予選日に、TOYOTA GAZOO Racingがこのレースから新たに投入したカーボンニュートラル燃料についての説明を行いました。
技術的な詳細についてはまだ検証段階であったり、公表できるものではないものが中心であったため、その内容はかいつまんでお届けします。あわせてカーボンニュートラル燃料がどのようなものかということも改めて整理していきましょう。

「カーボンニュートラル」についておさらい

日本政府は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」宣言を行い、2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標としています。
これは1997年の京都議定書の後継で、2020年から運用が開始されたパリ協定(2015年合意、2016年発行)の『「今世紀後半のカーボンニュートラルを実現」するために、排出削減に取り組むことを目的とする』という内容を受けてのものとなります。

<参考>
「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_01.html

カーボンニュートラルとは、「カーボンフリー=温室効果ガスの排出量をゼロにする」とは異なり、 排出した温室効果ガスを吸収、もしくは除去することによって、全体で差し引きゼロを目指すというものです。
例えば、電気自動車(BEV)は、走っている最中は温室効果ガスを排出しませんが、自動車本体やバッテリーの製造過程、諸々の運搬などにおいては温室効果ガスを排出するため、それだけではカーボンニュートラルではありません。
  • カーボンニュートラルイメージ

    引用:経済産業省 資源エネルギー庁HP  https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_01.html

カーボンニュートラル燃料は成長戦略の一つ

2021年2月時点で2050年にカーボンニュートラルを表明している国は124か国にものぼり国際的にも脱炭素化の機運が高まっています。
もちろん日本も表明しているわけですが、ただ温室効果ガスを差し引きゼロにするだけでなく、日本の持続可能な経済成長、新たな雇用創出に向け、2021年に政府が公開した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の一つに、カーボンニュートラル燃料も含まれています。

その成長戦略では、14の重要分野の一つとして「自動車・蓄電池産業」が挙げられ、その中に「燃料のカーボンニュートラル化」という項目があります。
カーボンニュートラル燃料の元となる合成燃料は、「人工的な原油」と呼ばれることもあり、普通のガソリンと同様、既存の燃料インフラや内燃機関を活用することができるため、水素や他の新燃料に比べて導入コストを抑えることができるというメリットがあります。

実は現状では1リッターあたりの価格がガソリンの10倍以上であるため、革新的な新技術やプロセスを開発し低コスト化を進める必要があります。しかしその先には、日本の次なる成長の機会としての価値があるということでしょう。
 

カーボンニュートラルを可能にする合成燃料とは?

ではなぜカーボンニュートラル燃料が、温室効果ガスを差し引きゼロにできるのかというと、産業の製造工程で排出されるCO2と、人工的に製造した水素を合成して製造される燃料だからです。この合成燃料は排出された CO2を再利用することからカーボンニュートラルであると言われています。

現在、大気中の二酸化炭素を集める方法も研究中であったり、水素の製造についても再生可能エネルギー(水力や風力、地熱など)を使って製造することもできるため、今後よりカーボンニュートラルの効率化が進んでいく可能性を秘めています。

なお、再生可能エネルギー由来の水素を使用した合成燃料は、特に「e-fuel」と呼ばれています。
 

トヨタとスバルが使用する新たなカーボンニュートラル燃料

  • 61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Concept (c)スーパー耐久機構

    61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Concept (c)スーパー耐久機構

スーパー耐久ではST-Qクラスでトヨタ、スバル、ホンダ、日産、マツダ(バイオディーゼル燃料)がカーボンニュートラル燃料を使用しています。
その中でトヨタとスバルは同じP1 Fuelsの燃料を使用しています。P1 FuelsはWRC(世界ラリー選手権)にも燃料を供給するなど実績のあるメーカーでもあります。

カーボンニュートラル燃料は基本的には通常のガソリンと似たような性状のため、市販車に入れて乗り比べた時にその性能の違いに気が付くことはほとんどないようです。
ただレースのような過酷な環境、またスーパー耐久ならではの長時間走り続けることによって、通常のガソリンでは発生しない症状やトラブルが発生することがあります。

カーボンニュートラル燃料は合成燃料ですので、CO2や水素のみならず様々な成分や添加材を加えることで、色々な特徴を出すことが可能です。
トヨタとスバルはGR86とBRZで参戦していますが、GR86はGRヤリスで使用していた3気筒ターボエンジン(1.6Lから1.4Lにダウンサイズ)に換装、BRZは市販車と同様の2.4L水平対向エンジンを使用するなど、使用環境も変えてカーボンニュートラル燃料を評価しています。
その評価をトヨタとスバルが情報交換し、燃料のネガな部分を解消するべくメーカー側と協議を重ね、このレースから新しいカーボンニュートラル燃料を使用することとなりました。
 

カーボンニュートラル燃料の課題と変更の効果

  • GRパワトレ開発部の小川輝主査

    GRパワトレ開発部の小川輝主査

新たなカーボンニュートラル燃料の説明をしていただいたのは、カーボンニュートラル燃料のエンジン開発を担当するGRパワトレ開発部の小川輝主査です。

今回、主に改善してきた内容に、「蒸留特性」の向上があります。
蒸留特性とはその液体がすべて気化する温度を表すもので、通常のガソリンであれば約170度で完全に気化(燃焼)します。しかしカーボンニュートラル燃料は燃焼する温度が高いため、通常のガソリンと同様に燃料を噴射し燃焼させようとしても燃焼しきれず液体が残ってしまうということがあります。

燃料が燃焼しきれないことによるデメリットとしては、下記のようなものが挙げられるそうです。
・燃料がエンジンオイルに混ざってしまい、エンジンオイルが薄まってしまうことで本来の潤滑性能が低下してしまう
・エンジンオイルの油面が上がることで、シリンダー内にエンジンオイルが入り込み燃料と一緒に燃焼すると白い煙が出る
・燃料が全部燃えない=燃費が悪くなる
・燃焼が不完全であると環境負荷の高いハイドロカーボンが発生しやすい

今回その対策として、カーボンニュートラル燃料の蒸留温度を約10%ほど引き下げることができるようになったことで、エンジンオイルの希釈率が50%低減、ハイドロカーボンの排出量が2/3程度に低減などのような効果があったそうです。
 

ワールドワイドでの規格化を進めたい

最後に小川主査は、今後のカーボンニュートラル燃料の展開について希望を語ってくれました。

今後カーボンニュートラル燃料が市販化され一般の車両にも使用されることが想定されていますが、製造コストを下げるためには量産化していく必要があり、また現状のガソリンのようにどのクルマに入れても同じように性能を発揮できるよう、世界的な統一規格を作っていくことも必要だといいます。

そのためには、国ごとに異なる法律に対応する必要であったり、価格や環境への貢献が大きい仕様などのデータを集め提供していきたいと意気込んでいました。

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世界各国のモータースポーツで使用されるようになったり、ヨーロッパでは2035年以降もカーボンニュートラル燃料が使用される前提でエンジン車の新車販売が認められるようになるなど、これからますます利用が増えていくことが想定されるカーボンニュートラル燃料。

ただ現状の想定では2050年頃が実用化の一つの目途となっており、それでは遅すぎるのではないかという意見もあります。

ぜひともスーパー耐久で試行錯誤が繰り広げられるカーボンニュートラル燃料の輪が世界に広がっていき、より早い実用化が行われることを期待したいと思います。

(文:GAZOO編集部 山崎 写真:スーパー耐久機構、GAZOO編集部)
 

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