【スーパー耐久第5戦もてぎ】「GR86とBRZのバトルに挑みたい!」2.0Lエンジンのロードスターがカーボンニュートラル燃料で参戦
WRC(世界ラリー選手権)やSUPER GTなど、国内外の主要レースでも採用が進められているカーボンニュートラル燃料。工場などから排出されたり空気中から回収した二酸化炭素と水素を使って製造する合成燃料であり、燃焼すれば二酸化炭素は排出されるものの、差し引きゼロとなるためカーボンニュートラルと言われている。
また、水素を製造する際には大量のエネルギーを必要とする。二酸化炭素を排出してしまう化石燃料由来で製造する方法もあるが、太陽光などの再生可能エネルギーを使い、水を分解することで製造した「グリーン水素」を使った合成燃料は、特にe-fuelと呼ばれている。
そんなカーボンニュートラル燃料を、レース専用マシンではなく、市販車とほぼ同じ環境で使用し、実際に市販車で使用されることを想定した実証実験が行われているのがスーパー耐久だ。ST-Qクラスというメーカーの開発車両が参戦できるクラスができたことで、トヨタとスバルに始まり、マツダ、そして日産とホンダもカーボンニュートラル燃料を使用し参戦している。
特にトヨタ(ROOKIE Racing)とスバルは、直列3気筒14.Lターボエンジンを載せたGR86と、市販車と同じ水平対向エンジンのBRZとあえて違うエンジン環境にして、同じカーボンニュートラル燃料を使用しお互いにデータを共有している。
それはさまざまなエンジンがある市販車に使用する場合を想定した検証であったり、カーボンニュートラル燃料の統一規格の制定など、社会実装に向けての具体的な実証実験を行うためだ。
そして、前戦第4戦からこの仲間にMAZDA SPIRIT RACINGからロードスターが加わることになった。その参戦の経緯や想い、マシンの開発状況などを、前田育夫チーム代表に伺った。
スーパー耐久第4戦オートポリスのマツダの会見でのスライド。マツダがカーボンニュートラル燃料で参戦する理由と、マツダが作ったGR86とBRZ、ロードスターの3ワイドのイメージ写真
ST-Qクラスの55号車MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept、ST-5クラスの120号車 倶楽部 MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERに加えて、ST-Qクラスに12号車 MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio conceptを参戦させることになった経緯をまずは伺った。
「カーボンニュートラル時代の選択肢を増やすのはマツダのミッションです。バイオディーゼルの活用という柱は1本ありますが、なるべくたくさんの選択肢を増やすためにも、レースを使っていろいろなことに挑戦していきたいと思っています。2.0L 4気筒のNAエンジンでカーボンニュートラル燃料を使っているのはこのロードスターだけだと思いますし、将来本当にカーボンニュートラル燃料を使うことになった時に向けてしっかりとデータと引き出しを持っておきたいと思います。
あとは、同じST-QクラスでGR86とBRZがいいバトルをしていてすごく楽しそうなんですよね。そこにロードスターで参加したいなという想いもあります。今はまだ全然追いつけていないですが、これから軽量化にも取り組んでそれが効いてくるコースによっては、『意外にイケるんじゃない!』みたいなサプライズをみなさんに提供できればいいなと思っています」
マシンについては、ST-5クラスの1.5Lエンジンのロードスターのベース車両に2.0LのNAエンジンを乗せ換えている。そのためベース車両が古く、来年は海外の2.0Lモデルの車両やRFにするのかまだ検討中だというが、ST-Qクラスに参戦していることを活かし、新しい実験的なことにも挑戦したいという。
「ST-Qクラスは速さを競うのみではないクラスですし、将来の技術の育成につながるようなドライブトレーン、ミッションなどにも新しいトライをしていきたいと思います。具体的にはまだ秘密ですけどね!」
そうした量産車の開発を見越しての参戦のため、車両開発のエンジニアも多数スタッフとしてチームに帯同してきているという。
カーボンニュートラル燃料での走りに違いは感じられない
カーボンニュートラル燃料を使うにあたり、シリンダーヘッド、配管の変更などで200馬力弱を発揮しているというが、その乗り味はガソリン車と変わるところがあるのだろうか。
「パワートレーンのエンジニアが、燃調をきちんと合わせてくれて、制御もほぼほぼ完ぺきな状態ですので、ドライバーとして走りに違いは感じられないですね。もともとアンダーパワーなクルマなので、パワーロスも感じにくいからかもしれませんが」
もちろんエンジンパワーを上げていきたいという想いもあるそうだが、カーボンニュートラル燃料の検証と市販車へのフィードバックをすることが重要であるため、GR86とBRZとのバトルに向けてはやはり軽量化が中心となっていくようだ。
そのGR86とBRZともに課題としている、燃え残った燃料がエンジンオイルの中に混じって希釈されてしまうという症状は、今のところロードスターではあまり見られていないという。
来シーズンに向けてマシンの開発とチーム力を底上げしていきたい
その12号車のドライバーを務める堤優威選手にも、マシンの乗った印象を伺ってみた。堤選手はカートで日本代表に選ばれるなどの実績を残した後、ロードスターのパーティレースやグローバルMX-5カップなどロードスターで4輪のレースキャリアをスタートしているという、ロードスターには馴染みの深いドライバーでもある。
「4輪のレースキャリアはロードスターからスタートしているので、非常に感慨深いものがあったんですけど、乗っていてすごく楽しいクルマだというのが改めて感じられました。このスーパー耐久用のレースマシンも、ドライバーの操作に対してリニアに動いてくれてロードスターらしさがあるのですごく楽しいです。
カーボンニュートラル燃料になって、もう少し加速が鈍いとかがあったりするのかなと思っていました。でもまったく普通のガソリンを使っているのと遜色のないエンジンパワーとかトルク感があるので、思っていたよりも普通に走るなと感じています」
堤選手はすでに来シーズンを見越しているといい、軽量化や足回りの煮詰め、さらには新たなミッションの模索、カーボンニュートラル燃料に対してのエンジンの制御など、今季の内にさまざまなデータを集めておきたいようだ。
さらに、チーム体制の強化も必要だという。この12号車のメカニックは、レースを経験したことがある人はいるものの、基本的にはディーラーのメカニックが中心とのことで、まだまだレースの知識や対応方法など学んでいかないといけないようだ。
「チームができたばっかりで、みなさんやる気はあって全力で取り組んでくれているので、いろいろと経験してもらって、何が起きても動じないチームができたらいいかなと思います」
前戦の会見の際に、前田代表は「参加しているメンバーの知見と経験が圧倒的なスピードで増えている。本当にいい目をしているし技量だけでなく人間力も上がっている」とスーパー耐久への参戦は、車両開発以上の効果も実感しているという。
第5戦もてぎでは、「この尋常じゃない暑さで想定外のことが起きています。ブレーキにもタイヤにも厳しいですし、油温関係が特に厳しいですね」とトラブルが出ているそうだが、データを持ち帰るためにもしっかり完走し、来年に向けた車両開発が進むことを期待したい。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:折原弘之、GAZOO編集部)
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