【スーパー耐久第5戦もてぎ】93.7%のCO2削減できる燃料も! トヨタ、スバル、マツダのカーボンニュートラルへの取り組みは進化を続ける
スーパー耐久には、メーカーの開発車両が参戦できるST-Qというクラスがある。このクラスには速さの違うマシンが集うため、レースの順位について表彰されることはない(参戦すると表彰の舞台に上がりフューチャーアワードという賞は受賞できる)。
とはいえST-Qクラスでも、レースに参加するからにはクラス内外の同格のマシンとの激しいバトルが繰り広げられている。しかしそのバトルに負けず劣らず熱いのは、レースの現場のみならず、レースという決まったスケジュールの中で新たな技術の開発に挑むメーカーの技術者たちの情熱だ。
そうした開発には、トヨタが掲げる「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」に代表される、クルマや機能そのものを改善、向上させるための技術開発があるが、それ以外にもさまざまな取り組みが行われている。
その一つとして、ガソリンやディーゼルの代替となるカーボンニュートラルな燃料を市販車に使用した際の検証や、そうした燃料が実社会で運用されるための課題解決や統一規格の検討など、サーキットを飛び出したより社会的意義の高い取り組みが行われている。
そうした取り組みは個別に競い合うだけではなく、メーカー同士が協力し合い、データを共有し、技術者同士が積極的にコミュニケーションを取ることで、よりスピードや影響力を高めている。
モビリティリゾートもてぎで行われた第5戦では、ガソリン代替のカーボンニュートラル燃料を使用するトヨタとスバル、そしてディーゼル代替のHVOを使用するマツダが会見を開き、それぞれの燃料への取り組みについて、またマシンへの技術的な対応を解説したので、その内容をお届けしていこう。
マツダ 93.7%のCO2削減できるディーゼル代替の「HVO」を使用
マツダは、前戦の第4戦オートポリスからトヨタとスバルと同じカーボンニュートラル燃料を使用するロードスターを走らせているが、それについては別の記事でお届けしているので、ご覧いただきたい。
ST-Qクラスのもう1台、55号車は、2021年の最終戦から2022年までマツダ2でユーグレナ社のバイオディーゼル燃料「サステオ100」を使用し、燃焼技術などの検証を行ってきた。
そして2023年シーズンからは2.2Lディーゼルターボエンジンを搭載するMAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio conceptを投入しているが、燃料についても「サステオHVO100」という新たな燃料を使用し始めた。
商品名にもある“HVO”とはHydrotreated Vegetable Oilの略で、原料となる植物油や廃食用油などを水素化分解した水素化植物油のことだ。
このHVO燃料は、欧州では500万トン前後の燃料が製造され、対応しているガソリンスタンドもその数を増やしているという。一般の軽油よりも若干値段は上がる(10%~15%程度)が、欧州の環境意識の高さもあり普及が進んでいる。
燃料の成分としてはほとんど軽油と変わらず、軽油には1/4程度含まれるイソパラフィンが90%以上をを占めるなど、その構成の割合が異なっているという。
そして、第5戦もてぎからはユーグレナ社のHVOではなく、「HVO燃料の現状についての認知を広げ、 HVO燃料を身近に感じていただくこと」を目的に、欧州で既に実用販売されているNESTE社製HVO燃料に変更することとなった。
このHVO燃料を使用することで、「つくる・はこぶ・つかう」というサプライチェーンも含め、93.7%ものCO2の削減することができるという。
マツダとしては、今後もHVO燃料への車両側の対応や検証を進めるとともに、サプライチェーンの拡大や普及に向けた地域課題の検討を中国経済連合会と一緒に進める。
さらに国産のHVO燃料製造に向けての研究領域での連携を行うなど、社会実装に向けた取り組みを加速していくという。
スバル 「何もせずとも通常のガソリンと置き換えられる」燃料を目指して
スバルは2022年シーズンから、トヨタと同じカーボンニュートラル燃料を使用しスーパー耐久に参戦を開始している。その大きな目的として、
- 内燃機関活用の選択肢を広げ、カーボンニュートラル社会の実現
- エンジニアの育成によるもっといいクルマづくり
の2点を挙げている。
また、カーボンニュートラルの実現には製造面・輸送面も含めトータルでCO2を増やさないことが大切ではあるが、スーパー耐久の場を活用しながらまずは「つかう」ための研究・開発も行っているという。
実際にカーボンニュートラル燃料は、出力や排ガス、燃費性能においてガソリンと同等かわずかに劣る程度で汎用性は高い燃料だという。しかし当初からの課題として、エンジンオイルの燃料希釈(ダイリューション)という問題が発生している。
ダイリューションとは、カーボンニュートラル燃料の方がガソリンよりも揮発(燃焼)する温度が高いため、ガソリンと同じ制御だとエンジン内に噴射された燃料が燃え切らず液体として残ってしまう。
その液体がエンジンオイルの中に混ざってしまうことでエンジンオイルが希釈し、軸受けメタルなどが焼き付くなどの懸念が生じている。
そうした対策として、燃料メーカーにカーボンニュートラル燃料の改質を依頼し、実際に揮発の温度が下がり、排出ガス規制成分増加の要因を低減することができたという。
また、外気温低下時にオイルの希釈が増大する症状の対策として、エンジン水温を上昇させる制御で適正化し、希釈量を減少させることもできているという。
今後もスーパー耐久の参戦を通じて、「何もせずとも通常のガソリンと置き換えられること」を目指し、燃料を「つくる」という領域にも積極的に踏み込んで行くという。
トヨタ 走る楽しさとライトウエイトFR車の未来のために
トヨタのカーボンニュートラル燃料への取り組みについては、スーパー耐久第3戦SUGOの際の会見の内容を記事にしているので、そちらをご確認いただきたい。
今年の課題として、前戦はオートポリス戦で標高が高い(1000m前後)、今回のもてぎでは非常に高温で吸気の温度もかなり高くなっているなどハード限界の状況下でカーボンニュートラル燃料を使用して、エンジンが本来の性能を発揮できているのかということの確認を行っている。
そしてトヨタについては、このもてぎ戦への車体の改良に関しての説明があったので、その内容をお届けしていこう。
このスーパー耐久という過酷なレースの状況下でマシンを鍛えることに対して、走る楽しさを最大限に味わえるよう、そしてライトウエイトFRを残すための将来を見越した車両開発を進めているという。
そうした中、今回は大きな4つの車両のアップデートを施してきている。
・リアスタビライザー改良
ドライバーがアクセルでクルマを曲げて、アクセルを踏み切って立ち上がれるクルマを目指して改良。
・ボディ剛性UP
これまではブレースの追加などで剛性を上げていたが、トヨタ目線でボディそのものを徹底的に計測。ボディの素性といい面を把握するとともに、コーナリングでボディがよれる原因の追究と改善。
・リアウイング改良
レースでのセッティング幅を広げるため、ウィング角度の調整幅を拡大。
・ブレーキ冷却改善
ブレーキにとって厳しい環境であるもてぎで安心して走れるよう、冷却性能を向上。
各自動車メーカーにとって環境問題への対応はかなり差し迫っていると言っていいだろう。各メーカーともBEV車両の開発だけに集中すれば、その対応を実行していくことは可能なのかもしれない。
しかし新型車をBEV化するだけでは国内はもとより、BEVが向かない、設備が整わない地域もある世界的な規模において、カーボンニュートラルを実現することはできない。本当の意味でカーボンニュートラルを目指すのであれば、現在走る内燃機関エンジンへの対応も必要なのだ。
そのための解決策の一つであるカーボンニュートラル燃料の社会実装には、自動車の対応のみならず、設備対応や法改正なども必要となってくるため、各社ごとではなく自動車業界として推進する必要がある。
このスーパー耐久での活動は、そのまだ初歩の段階かもしれないが、誰かが始めないと始まらないし、仲間が増えることもない。
今後このカーボンニュートラルの輪がますます広がっていくことを期待したい。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:スーパー耐久機構、GAZOO編集部)
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