マツダがS耐で展開するステップアッププログラムがすごい! ロードスター・パーティレースのチャンピオンが集結
しかし、スピードの速いクラスでは当然のようにプロドライバーが在籍し、ジェントルマンドライバーのレベルもプロに肉薄するほどの実力を持つ方も多く、実際に参加するためにはかなりの実力が必要なことは間違いない。
そうした中、ロードスターやフィットなどが参戦するST-5クラスにはプロドライバーがおらず、仲間内でレースを楽しむために参戦しているチームも多い。その中で、モータースポーツの裾野を広げるべくステップアップを目的としたチームがある。そのチームは120号車のMAZDA SPIRIT RACINGで、ドライバーラインナップにはロードスターのワンメイクレースのチャンピオン経験者がずらりと並んでいるという。
スーパー耐久の中でも独特のコンセプトで参戦するチームの成り立ちや想いを伺うことにした。
倶楽部MAZDA SPIRIT RACINGのチャレンジプログラムとは?
プロジェクト開始から3年目を迎える今年は、ロードスターのワンメイクレースである「パーティレース」で腕を磨き、各地方シリーズなどでチャンピオンを獲得したドライバーの中から選抜されたメンバーが参加している。
メンバーは20代から50代まで幅広く、会社の経営者から企業の会社員、さらには元プロスポーツ選手などバラエティに富んでいる。
そんなメンバーをまとめ上げるのは桧井保孝監督だ。桧井監督はF3000や全日本GTカー選手権など国内のトップカテゴリーに参戦経験のあるドライバーでもあり、これまでも多くのチーム運営に携わっている。そんな桧井監督がどのようにチームをまとめているのかを伺った。
桧井監督が一つのチームを作るための徹底的な個人レッスンを行う
とはいうものの「もし取れるんだったら勝って表彰台を体験させてあげたい」と親心にも似たレース魂も忘れていない。
もともとパーティレースはロードスターのワンメイクレースで、自分好みにマシンを仕上げて戦うスプリントレース。そこに参戦するドライバーは皆ライバル同士となる。そうしたメンバーが一つのチームとしてまとまり、耐久レースを戦うためのノウハウを身に付けるために、桧井監督は広島のタカタサーキットで、一人一人のメンバーと同乗走行を行い徹底的にS耐マシンや耐久レースの走らせ方を叩き込んでいるそうだ。
そうした共通の走らせ方を身に付けたドライバーたちは、元からチャンピオンを獲得するために努力や研究し高い実力もあるため、走行データを基に自ら考え、ドライバー同士で高め合い、時には桧井監督にアドバイスを求めながら、年々チームとしてのレベルが向上していっているという。
桧井監督もその成長ぶりには太鼓判を押している。「去年の24時間レースは初めてみんなが勢ぞろいしたレースだったので、すごいバタバタして大変だったなっていう思いしかないんだけど、今年に関しては、ここまでの流れで考えるとものすごい上出来です。1人1人がパンッとタイムを出してきているので、今年の24時間レースはかなり期待できるなって思っています」
杉野治彦選手「チーム全体の融和だったり相互理解を大切にしている」
その一環として、MAZDA SPIRIT RACINGが立ち上がる前から前田代表とともにプライベート参戦としてスーパー耐久のST-5クラスでロードスターを走らせていたメンバーの一人、杉野治彦選手にもお話を伺った。
「実は、もう6年前くらいから前田代表とは今のプロジェクトに向けた話をしていて、2019年から120というゼッケン番号を使ってロードスターで参戦したり、車名にMSRとつけていたこともありました。現在はST-Qクラスが注目されていますが、こうした継続的な活動がMAZDA SPIRIT RACINGの根幹的なところだということは、いい意味で理解してもらえたらいいのかなと思います。そしてそれを一緒に具現化していく中でこうしたプロジェクトになっているので、個人的にはすごく感慨深さがあります」
20代の頃にはレースにも参戦していたという杉野選手だが、50歳を前にしてやりたいことをもう1回やろうと決心しレースに復帰、パーティレースをメインに今年復帰11年目を迎えるドライバーだ。昨年は120号車でフル参戦したものの、今年は桧井監督いわく“園長先生役”としてチームに帯同している。それは前田代表や桧井監督の想いを支えるためであるようだ。
耐久レースは誰か一人速くても絶対勝てないじゃないですか。だから、チームとしてのまとまりを作っていこうというところには前田さんもすごくこだわってらっしゃるし、 勝つことよりもチーム全体の融和だったり相互理解とかいうところに、チームとしてすごく力を入れています」
杉野選手によると、最初はこのステップアップのプロジェクトは絵に描いたピラミッドだったのが、次の目標ができたことでみんな頑張るようになったり、参戦の台数も増えたりと、だいぶ機能し始めたそうだ。
久米田昴選手「SUPER GTへのステップアップを目指したい」
クルマ系のイベント会社に勤める現在25歳の久米田昴選手は、まだレースを始めて4年ほどというが、パーティレースには昨年初参戦し、初年度にして北日本NDシリーズのチャンピオンを獲得したドライバーだ。
実は10年ほど自転車のレースに参戦しプロ活動もしていたという経験を持つ久米田選手。現在はロードレースからは離れたものの、アスリートとしての意識が常にあること、そしてもともとクルマ好きだということもあり4輪レースへの参戦を始めたという。
実はパーティレースを始めるまでこのチャレンジプログラムのことを知らなかったというが、その存在を知ってからは明らかにレースに対するモチベーションが上がったという。
「パーティレースは昔からやっている人もいれば若手の選手もいますが、めちゃめちゃうまい人が集まっています。特に今年のシリーズなんかもすごく熾烈なシリーズ争いになっていて、見ごたえもあるしレベルも高い面白いレースですね。そこでシリーズタイトルを獲らせていただいてこのプログラムに参加させてもらっていますが、チャンピオンたちが一同に集まって、元々はライバルな人たちですけど、それが今はチームとして一緒に活動できるのは、素晴らしい環境かなと思います」
このプログラムでトップカテゴリーのレースを学びいろいろなステップアップを狙っていきたいという久米田選手の夢は高く、いずれはSUPER GTを目指したいと力強く語ってくれた。
松原泰世選手「パーティレースと違いチームワークが一番大切」
小学校の卒業文集に将来の夢としてプロのレーサーになると書くほどクルマが好きで、ドライビングテクニックを磨くためにNA型のロードスターでサーキット走行を楽しんでいたという。だが、コロナをきっかけに自分のやりたいことをやるべきだと決心しNDロードスターを購入、自分のスキルがどれほど通用するのかを試すべく27歳でパーティレースに参戦し始め、今年で4年目を迎えるという。
昨年2月頃にこのチャレンジプログラムの存在を知り、そうしたチャンスを生かさない手はないとかなりのモチベーションになったという。そしてチャンスを掴み実際に参戦しているスーパー耐久はどのようなレースだと感じているのだろうか。
「スーパー耐久はやっぱりチームスポーツだということを強く感じます。パーティレースのように自分でクルマをゴールまで持ち帰って終わりというレースではなく、みんなでバトンを受け渡して最後までつないでいくので、自分のせいで何か問題が起きないように気を使いますし、それも含めてチームワークが一番大切だと思います。
その代わり、チームでいろいろ助け合う中で、アドバイスやフィードバックなどもいただけているので、そういう意味ではすごくいい環境でやらせてもらっていると感じています」
松原選手もこのプログラムを通じて腕を磨き、いずれはより速いクラスや次のステップアップにチャレンジしていきたいという夢を抱いている。
チャレンジプログラムは目に見えて成長がわかる
そうした成長に桧井監督も目を細めている。
「やっぱり人の成長を見るのってすごい楽しいですし、とってもやりがいを感じます。これだけの性格も色々、年齢もバラバラな人たちと楽しくやっていけていて、とってもいい時間を過ごさせてもらっているなと思います」
このプログラムが5年、10年と続き、多くの経験者がフィードバックしたパーティレース、そして別のステージで活躍することで生まれる新たなモータースポーツの一面を見るのが楽しみで仕方ない、取材を通じてそう心から思わされた。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:GAZOO編集部)
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