SUBARUのST-Q新型車両「ハイパフォX」は、“面白いエンジン”とBEVのAWD制御の開発を目指す

  • スーパー耐久に参戦するTeam SDA EngineeringのSUBARU HighPerformanceX Future Concept

    スーパー耐久のST-Qクラスに参戦するTeam SDA EngineeringのSUBARU HighPerformanceX Future Concept

2024年7月27日~28日に大分県オートポリスで開催される「ENEOS スーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTONE」の第3戦から楽しみなマシンが参戦する。それはSUBARUのメーカーチームとしてST-Qクラスに参戦するTeam SDA Engineeringの「SUBARU HighPerformanceX Future Concept」だ。

Team SDA Engineeringは、2022年からST-Qクラスに参戦し、カーボンニュートラル燃料の実証実験やモータースポーツという極限の環境での技術開発を目的に、市販車同様の2.4L水平対向エンジンのBRZで参戦していた。
直列3気筒1.4リッターターボエンジンを搭載したORC ROOKIE RacingのORC ROOKIE GR86 CNF conceptとのバトルは、賞典のつかないST-Qクラスながら、メーカーの威信、ドライバーの負けたくない気持ちがぶつかり合うガチンコバトルが繰り広げられ、興奮したレースファンも少なくないだろう。

そのTeam SDA Engineeringが、この第3戦からWRX S4をベースとしたニューマシンにスイッチした。このマシンを投入する意図や今シーズンの目標などを本井雅人代表と、今シーズンから就任した伊藤奨(すすむ)監督にお話を伺った。
  • Team SDA Engineeringの伊藤奨監督(スーパー耐久第3戦オートポリス)

    Team SDA Engineeringの伊藤奨監督

SUBARU HighPerformanceX Future Conceptは「ターボエンジン」と「AWD」が主な開発領域

新たなマシンでのプロジェクトが動き始めたのは2023年11月初旬だというが、そこから実際に参戦は叶わなかったものの5月末に開催された第2戦富士に向けてわずか半年でマシンを仕上げてきたという。SUBARUのプロショップであるプローバの協力を得たものの、マシンの仕様やどういったパーツを使用するのかなどは社内の若手エンジニアたちが検討を進めていったという。
その若手エンジニアたちの頑張りには本井代表も伊藤監督も太鼓判を押し、感謝していたのが印象的だ。

そして今回参戦にこぎつけた「SUBARU HighPerformanceX Future Concept(以下、HiPerfX/ハイパフォX)」は、現状ではまだ市販車に近い状態で、パーツも市販のパーツが採用されている(一部改良パーツも使用)。これは、まずはベース車両の素性をしっかりと把握した上で、「将来の技術開発」につなげていくためだ。

前戦まで使用したBRZでも車両の全方位での開発を進め、富士スピードウェイでのタイムを3秒も縮める進化を遂げることができた。この経験は今回のマシン開発でも生かされており、トラブルシューティングは大幅に時間が短縮できるようになっているという。
そして、金曜日の走行の時点までは全くといっていいほどトラブルも起きていないという。

そのうえで、よりSUBARUらしいチャレンジとして投入されるハイパフォXの技術開発の主なポイントは、下記の3つだという。
・ターボエンジンを鍛える
・AWD駆動力制御技術課題への挑戦
・高出力、AWDの力を受け止めるシャシーを鍛える
 

新たなスポーツターボユニットで「面白いエンジン」を

  • SUBARU HighPerformanceX Future Conceptのフロント
  • SUBARU HighPerformanceX Future Conceptのエンジンルーム
先日、トヨタ、マツダとともにエンジンの開発の継続を宣言したSUBARU。ただし“パワーがあって面白いエンジン”が減っていることが課題と感じている。その理由の一つとして、環境性能に対応していくとどうしても出力が下がり面白味が減ってしまうという現状がある。
そのため、最初からより環境性能に配慮した高出力のエンジンを作れば、環境性能に対応しても面白いエンジンを造っていけるのではないかと考えているようだ。
スーパー耐久のBRZや全日本ラリーのWRXなどで培ったスポーツユースの技術とターボを組み合わせることで、新たなスポーツターボユニットを造り上げていきたいという。

その2.4LのFA24 BOXER DOHC 16バルブ AVCS ツインスクロールターボエンジンには、トヨタとマツダと共通のカーボンニュートラル燃料が使用される。
カーボンニュートラル燃料は、揮発性がガソリンよりも低いため、燃え残った燃料がシリンダーを伝いオイルパンに落ちてエンジンオイルが希釈してしまうという症状がある。しかしハイパフォXの2.4Lターボエンジンは、その希釈の症状がみられず「意外に相性がいい」という。レースでは想定外のことが起こる可能性もあるというが、現状ではカーボンニュートラル燃料についてはこれまでの延長線上での開発となるようだ。

プロペラシャフト付きAWDの制御をBEVのAWDに活用

  • 走行するSUBARU HighPerformanceX Future Concept
このハイパフォXでもう一つの大きな開発目標は、AWDの制御技術だ。SUBARUがアイデンティティの一つとして技術開発を進めるAWDだが、改めてモータースポーツの限界領域の中でプロペラシャフトの良さを理解していきたいという。例えとして挙げてくれたのは、AWDは常に前後のトルク配分が50:50ではなく、コーナリング角によって前後のトルク配分は可変していくという。それを前後50:50に近づけようとするのがプロペラシャフトの特性の一つ。そうしたプロペラシャフトの役割を再度理解することで、より「予見性の高いAWDの制御」を煮詰めて行きたいという。

さらにその制御技術はBEVのAWDにも生かしていきたいという。本井代表も「このクルマでBEVに使える制御技術を本気で開発しようと考えている」というように、実際にBEVのAWDを開発しているチームもサーキットに帯同してデータを共有することで、アジャイルな開発を進められる体制が敷かれている。
現状のBEVのAWDでは前後の2モーターが独立して制御していることが多い。対してエンジン車のAWDの場合は、AWDの制御とあわせてプロペラシャフトが車両姿勢によってトルク移動を起こし車両を制御するプロペラシャフトならでは良さがあるという。そうした良さを取り入れることで、BEVの走りをより自然に、快適にすることができるのではないかということを検証していきたいようだ。
今シーズン中には、BEVベースのAWD制御を利用しハイパフォXを走らせることも計画しているという。

そして、そうした高いエンジンパワーとコーナリング性能を生かすため、伊藤監督は「すごく目新しいものではないかもしれない」とはいうが、シャシーを含めさまざまな基礎技術力を向上していくことも目指している。

「いずれはST-Zクラスと戦いたい」

  • ピットで整備するSUBARU HighPerformanceX Future Concept
  • SUBARU HighPerformanceX Future Conceptのブレーキ
  • SUBARU HighPerformanceX Future Conceptの運転席
  • SUBARU HighPerformanceX Future Conceptのレーシーなインテリア
実際に現状のハイパフォXのパフォーマンスとして、伊藤監督は「車重もすごく重くて、かつ量産に近い状態なので、正直あまりタイムは良くありません。まずはST-2クラスのマシンとしっかりバトルができて、かつ上に行けるというところを最初の目標にはしています」という。
ただ、現状では「想定以上にアンダーステア」ということで、特にオートポリスで言えば後半の登りのコーナリングセクションはかなり厳しい状況だという。

ただしハイパフォXのエンジンは2.4Lのターボであることで、排気量は4,000cc程度となりクラス分けでいうとST-1クラス相当となる(ST-2クラスは2,400cc~3,500cc)。そのため、いずれはST-1クラスやST-Zクラスと戦えるマシンにしていきたいという。

SUBARUの未来に向けたさまざまな“ハイパフォーマンス”を

  • ピットで笑顔を見せるTeam SDA Engineeringの伊藤奨監督(スーパー耐久第3戦オートポリス)
予選日に開かれた会見で伊藤監督は「ハイパフォXの“X”っていうのはさまざまな意味を込めていて、ハイパフォーマンスのエンジン、ハイパフォーマンスのAWD、ハイパフォーマンスのシャシー、そしてそれを作り上げるハイパフォーマンスなエンジニアというところで、スバルの未来を担うハイパフォーマンスなモノを作り上げるための題材、そういうような思いを込めて名前をつけました」とその車名の意図を語った。

ここまでの2年間は既存技術の改善や活用が進められてきた印象だが、これからは明確に未来に向けた技術開発へと舵を切ったように感じる。そのためには、やはりSUBARUのアイデンティティである水平対向エンジン+AWDというパッケージが必要となるわけだ。
もちろんこれからもカーボンニュートラル燃料や共挑などを通じ、他メーカーとの技術的な協力は進めていくだろうが、よりSUBARUらしい挑戦が始まった。

伊藤監督は「だいぶ大層な名前つけてしまったなと、自分で自分たちのハードル上げているかもしれない」と少しはにかんだ笑顔を見せていたが、本井代表をはじめとする頼もしい仲間たちと、SUBARUの新たな未来を切り開いてくれることを楽しみにしていきたい。

(文:GAZOO編集部 山崎 写真:GAZOO編集部)
 

 

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