SUBARUのST-Q新型車両「ハイパフォX」は、“面白いエンジン”とBEVのAWD制御の開発を目指す
Team SDA Engineeringは、2022年からST-Qクラスに参戦し、カーボンニュートラル燃料の実証実験やモータースポーツという極限の環境での技術開発を目的に、市販車同様の2.4L水平対向エンジンのBRZで参戦していた。
直列3気筒1.4リッターターボエンジンを搭載したORC ROOKIE RacingのORC ROOKIE GR86 CNF conceptとのバトルは、賞典のつかないST-Qクラスながら、メーカーの威信、ドライバーの負けたくない気持ちがぶつかり合うガチンコバトルが繰り広げられ、興奮したレースファンも少なくないだろう。
そのTeam SDA Engineeringが、この第3戦からWRX S4をベースとしたニューマシンにスイッチした。このマシンを投入する意図や今シーズンの目標などを本井雅人代表と、今シーズンから就任した伊藤奨(すすむ)監督にお話を伺った。
SUBARU HighPerformanceX Future Conceptは「ターボエンジン」と「AWD」が主な開発領域
その若手エンジニアたちの頑張りには本井代表も伊藤監督も太鼓判を押し、感謝していたのが印象的だ。
そして今回参戦にこぎつけた「SUBARU HighPerformanceX Future Concept(以下、HiPerfX/ハイパフォX)」は、現状ではまだ市販車に近い状態で、パーツも市販のパーツが採用されている(一部改良パーツも使用)。これは、まずはベース車両の素性をしっかりと把握した上で、「将来の技術開発」につなげていくためだ。
前戦まで使用したBRZでも車両の全方位での開発を進め、富士スピードウェイでのタイムを3秒も縮める進化を遂げることができた。この経験は今回のマシン開発でも生かされており、トラブルシューティングは大幅に時間が短縮できるようになっているという。
そして、金曜日の走行の時点までは全くといっていいほどトラブルも起きていないという。
そのうえで、よりSUBARUらしいチャレンジとして投入されるハイパフォXの技術開発の主なポイントは、下記の3つだという。
・ターボエンジンを鍛える
・AWD駆動力制御技術課題への挑戦
・高出力、AWDの力を受け止めるシャシーを鍛える
そのため、最初からより環境性能に配慮した高出力のエンジンを作れば、環境性能に対応しても面白いエンジンを造っていけるのではないかと考えているようだ。
スーパー耐久のBRZや全日本ラリーのWRXなどで培ったスポーツユースの技術とターボを組み合わせることで、新たなスポーツターボユニットを造り上げていきたいという。
その2.4LのFA24 BOXER DOHC 16バルブ AVCS ツインスクロールターボエンジンには、トヨタとマツダと共通のカーボンニュートラル燃料が使用される。
カーボンニュートラル燃料は、揮発性がガソリンよりも低いため、燃え残った燃料がシリンダーを伝いオイルパンに落ちてエンジンオイルが希釈してしまうという症状がある。しかしハイパフォXの2.4Lターボエンジンは、その希釈の症状がみられず「意外に相性がいい」という。レースでは想定外のことが起こる可能性もあるというが、現状ではカーボンニュートラル燃料についてはこれまでの延長線上での開発となるようだ。
プロペラシャフト付きAWDの制御をBEVのAWDに活用
さらにその制御技術はBEVのAWDにも生かしていきたいという。本井代表も「このクルマでBEVに使える制御技術を本気で開発しようと考えている」というように、実際にBEVのAWDを開発しているチームもサーキットに帯同してデータを共有することで、アジャイルな開発を進められる体制が敷かれている。
現状のBEVのAWDでは前後の2モーターが独立して制御していることが多い。対してエンジン車のAWDの場合は、AWDの制御とあわせてプロペラシャフトが車両姿勢によってトルク移動を起こし車両を制御するプロペラシャフトならでは良さがあるという。そうした良さを取り入れることで、BEVの走りをより自然に、快適にすることができるのではないかということを検証していきたいようだ。
今シーズン中には、BEVベースのAWD制御を利用しハイパフォXを走らせることも計画しているという。
そして、そうした高いエンジンパワーとコーナリング性能を生かすため、伊藤監督は「すごく目新しいものではないかもしれない」とはいうが、シャシーを含めさまざまな基礎技術力を向上していくことも目指している。
ただ、現状では「想定以上にアンダーステア」ということで、特にオートポリスで言えば後半の登りのコーナリングセクションはかなり厳しい状況だという。
ただしハイパフォXのエンジンは2.4Lのターボであることで、排気量は4,000cc程度となりクラス分けでいうとST-1クラス相当となる(ST-2クラスは2,400cc~3,500cc)。そのため、いずれはST-1クラスやST-Zクラスと戦えるマシンにしていきたいという。
SUBARUの未来に向けたさまざまな“ハイパフォーマンス”を
ここまでの2年間は既存技術の改善や活用が進められてきた印象だが、これからは明確に未来に向けた技術開発へと舵を切ったように感じる。そのためには、やはりSUBARUのアイデンティティである水平対向エンジン+AWDというパッケージが必要となるわけだ。
もちろんこれからもカーボンニュートラル燃料や共挑などを通じ、他メーカーとの技術的な協力は進めていくだろうが、よりSUBARUらしい挑戦が始まった。
伊藤監督は「だいぶ大層な名前つけてしまったなと、自分で自分たちのハードル上げているかもしれない」と少しはにかんだ笑顔を見せていたが、本井代表をはじめとする頼もしい仲間たちと、SUBARUの新たな未来を切り開いてくれることを楽しみにしていきたい。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:GAZOO編集部)
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