「メカニックが主役」の埼玉Green Braveが、レース結果もファンサービスも1番を目指す理由
国内最高峰の参加型レースと言われるスーパー耐久。GT-RなどのFIA GT3車両からフィットなどのコンパクトカーを改造したレーシングカーまで現在9クラスに分かれ戦われるレースには、ほぼプロのレーシングチームから、地元の自動車整備工場を母体として仲間が集まったアマチュアチームなど多様なチームが参戦している。
その中の一つとして自動車販売ディーラーが多く関わっていることも面白いところだ。自らチームを結成したり、既存のチームにメカニックを派遣するなど参戦の形態は異なるが、メカニックの技術力や社員の士気、自社の認知度の向上などレースに関わる意図に共通点は多い。
そこで、スーパー耐久第3戦が行われたオートポリスで、ディーラーが母体で自らチームを結成し参戦する2チームに、その参戦の意図を取材させていただいた。その2チーム目は、ST-Zクラスに参戦する埼玉Green Braveで、代表兼監督を務める青柳浩モータースポーツ室 室長にお話を伺った。
メカニックの価値を上げるためにモータースポーツに参戦
埼玉トヨペットの社内チームとして結成された埼玉Green Braveは2013年のスーパー耐久参戦に始まり、SUPER GT、GR 86/BRZ Cup(以前は86/BRZ Race)、Yaris Cup、過去にはFIA F4などにも参戦していた。2024年からは新たな体制となり、埼玉Green BraveがSUPER GTとスーパー耐久を、GR Garage 浦和美園 with GBとして埼玉トヨペットが運営するGR GarageがGR 86/BRZ Cup、Yaris Cupを担当している。
そもそも、埼玉トヨペットがモータースポーツを始めた目的は、メカニックのステータス、自動車整備士という職業としての価値を上げていきたいからだという。
店舗において表方は営業スタッフでメカニックは裏方だが、メカニックはお客様のクルマの安全を一番に考え店舗を支える存在なのだ。そうしたメカニックにスポットライトを当てるためにモータースポーツへの参戦を始めたというわけだ。
2013年に立ち上げたモータースポーツ室は現在9名の社員が所属しているが、チーム運営のすべてに関わることを埼玉トヨペットの社員で行い、レーシングカーのメンテナンスも店舗に勤務するメカニックとともに行っている。
そうしたメカニックなどは、年間で50人~100人(社員の総数はグループ会社を含め2000人ほど)がレースに参加しているという。
店舗としては週末にメカニックを派遣することは単純に考えてマイナスの要素が大きいと感じる。しかし年間これだけの社員がレースに関わるということは、埼玉トヨペットとしての本気度も伝わるだろう。
東京オートサロン2020では、外壁には大きなメカニックの姿が。しかもホログラムになっていて、店舗とサーキットでの両方の表情を見ることができるようにする力の入れようだった
パドックで一番のファンサービスに向けた取り組み
だが、モータースポーツに参戦するだけでメカニックの価値が上がるわけではない。こうした活動を知ってもらうこと、そしてその想いに共感してもらえるファンを増やすことも重要だ。そこで埼玉Green Braveでは「全力でファンサービスをする」ための体制が築かれている。
モータースポーツ室は営業推進部に所属しているが、同じ部内に販売促進課という店舗の販促企画を検討、実施する部署がある。この販売促進課との分業による協力体制のおかげで「とてもやりやすい体制」と青柳室長は話す。
先日のオートポリスでのスーパー耐久の現場では、現地に訪れてくれたファンのみなさんが、スタート前のグリッド上でドライバーとの記念写真を撮影していた。また富士スピードウェイ戦では応援ツアーを企画しさまざまなファンサービスも実施しているが、これらのことは、販売促進課が参加者のアテンドやおもてなし、提案なども担当することがある。
モータースポーツにおけるファンの獲得には好成績を収めることも重要であり、モータースポーツ室はレースに集中し、企画にはコンテンツ協力という役割にしている。
こうした分業体制により、レース結果とファンサービス両面からファンを増やすための活動が可能となり、人気チームの階段を上っているのだろう。
こうした観戦型のサーキットでのファンサービス以外にも、ドライビングサポートプログラムという埼玉Green Braveのドライバーが講師として運転技術を教える安全運転啓蒙企画や、お子様向けにもキッズカートやキッズエンジニア体験といった企画も行っている。
こうした埼玉トヨペットとしてのさまざまな販促活動にもモータースポーツが活用され、企業としての顧客獲得にも貢献しているようだ。
着実に浸透する埼玉Green Braveのメカニックの価値向上
こうした活動は着実にメカニックの価値向上につながっているという。もちろん重要な狙いでもあるレースを経験することによるメカニックの整備技術力の向上も進んでいるが、それ以外にもメカニックの採用、特に学生の採用活動では会社にとっても大きな価値になっているという。
メカニックを育成する学校関係にも「モータースポーツに取り組んでいる埼玉トヨペット」ということがかなり浸透してきていることが実感できているといい、実際の面接の際にも志望動機としてモータースポーツを挙げる学生が増えてきている。
どの自動車関連企業でも特にメカニックの採用活動は苦労をしているという話を聞くことも多いが、モータースポーツが企業の一つの魅力として定着している好例といえるだろう。
また店舗イベントでレーシングカーの展示企画などを行う際には、一緒にレースエンジニアやチーフメカニックなども帯同しているという。そうするとかなりの遠距離な地域からでもエンジニアやメカニックを目的に来店し、レースの話をすることを楽しみにしてくれているファンもいるという。
青柳代表も「マシンやドライバーさんを呼ぶとファンの方も集まりやすいですが、エンジニアだとかメカニックを目当てに来てくれるお客様が増えているのはすごく嬉しいですね」と目を細める。
GR Garageと連携する新たな展開
こうしてモータースポーツに12年取り組み、メカニックの技術向上と価値を上げること、そして埼玉Green Braveのファンを増やしていくことで、新たな展開も始まっている。
その一つがGR Garage浦和美園のオープンだ。このGR Garageでは、これまでのレース活動で得た知識や、実際に使用していたパーツを中心にお客様にご提案するなど、埼玉Green Braveと密接に関わりながらの店舗運営を進めている。
さらに、埼玉Green Braveとしてはサーキットやイベントなどでしか直接ファンやお客様と触れ合う機会がなかったが、GR Garageという拠点ができたことでより直接お客様に対してその活動や知識を広めることが可能となっている。
さらに、これまでSUPER GTやスーパー耐久に参戦する中で、人気チームとして成長した埼玉Green Braveブランドを活用し、GR 86/BRZ CupとYaris Cupの参加型のモータースポーツにおける参戦プランも提案している。
これまでは、GR 86/BRZ CupやYaris Cupもモータースポーツ室でマシンのメンテナンスや運営を行っていたが、2024年からはGR Garage浦和美園にメカニック2名を常駐させる形で移管している。
そして2017年から実施してきたワンメイクレース参戦に向けた車両レンタルやメンテナンスなどをパッケージ化した「GB CAMP」も新たに「GR Garage浦和美園CAMP」に名称変更し、GR GarageのスタッフであるGRコンサルタントと店舗のメカニックにより、質の高いサービスを提供している。
ディーラーのモータースポーツ参戦というと、プロモーション予算を使い自社の広告塔として参戦する形が多かった。しかし、このプランではキャンプへの参加者からの料金内で運営することで、「商品としての販売」を行っている。
参加者にとっては、GR86をよく知るメカニックと埼玉Green Braveという経験豊富なレーシングチームからのノウハウを受け万全の体制で参戦でき、埼玉トヨペットとしても企業として持続可能な商品を提供するという、双方にメリットのあるカタチが実現している。
もちろんそこには育んできた埼玉Green Braveとしてのブランド力があるからこそであり、実は2024年のGR 86/BRZ Cupが3名、Yaris Cupが1名という参戦体制以上に参加希望の声があるという。
モータースポーツ室を立ち上げた2013年、その時に「10年後のお客様をつくっていこう」という想いがあったという。その10年が過ぎ、たくさんの埼玉トヨペットのお客様にそれまで知らなかったかもしれないモータースポーツのことを知っていただいただろうし、かっこいいメカニックの姿を見て憧れた学生やお子さんも多いだろう。
もちろん企業の活動として自社のファンになってもらうということは必要だ。だがその枠を超え、お客様と直に接するディーラーだからこそ、こうした活動を通じ「普通にクルマに乗っている方」が「クルマ好き」になってほしいという想いや可能性も感じる。
2023年シーズンはSUPER GTとスーパー耐久でダブルタイトルを獲得し連覇に向けた厳しい戦いを繰り広げ、会社からはさまざまな命題が与えられる青柳代表。
しかし、ピットウォークに立ち自らファンの方のスマートフォンでドライバーとの記念写真を撮影する時の素敵な笑顔は、そんなプレッシャーとは無縁で、モータースポーツとファンサービスを心から楽しんでいるように感じられた。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:スーパー耐久未来機構、TOYOTA GAZOO Racing、GAZOO編集部)
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