【レクサス ES 新型】中核モデルが悲願の初上陸、カムリとの違い、GSの存亡を聞いた[開発者インタビュー]

レクサス ES 新型とチーフエンジニア榊原康裕氏
レクサスは7代目となる『ES』を10月24日より発売した。ESは1989年にフラッグシップセダンの『LS』とともにレクサス最初のラインナップとして誕生していたが、日本への導入は今回が初となる。そこで開発担当者であるレクサスインターナショナルLIZ製品企画チーフエンジニア・榊原康裕氏に、ESのポイントを聞いた。

◆レクサスのコアモデル「ES」とは

レクサスESはデビュー以来累計販売220万台を超えるレクサスのコアモデルである。ESはこれまでの歴史の中で、静粛性、乗り心地、室内空間の広さなど上質な快適性を高く評価され、レクサスならではの精巧なものづくりで信頼を得てきた。

7代目は『LC』、『LS』に続く新世代レクサスのラインアップとして、低重心な「GA-K」プラットフォームを活かし、流麗かつ引き締まったエクステリアと、広く快適な室内空間を両立したほか、上質な乗り心地と優れた操縦安定性など、二律双生を実現。さらに、量産車として世界初採用のデジタルアウターミラーなど最先端技術も搭載している。

パワートレインは2.5リットルハイブリッドを搭載し、ES史上初となる「F SPORT」もラインアップ。走りの良さも伺われる。

◆仕向け地で違うエンジンバリエーション


----:アメリカや中国だけでなく、日本や欧州には初めて投入される新型ESですが、開発はどちらで行われたのですか。

榊原康裕氏(以下敬称略):設計は日本中心で行いました。ただしグローバル展開車ですから、それぞれ現地での路面状況や現地の人の評価も必要になりますので、欧州ではスペインに持って行ったり、アメリカにも当然持って行って評価し、フィードバックをもらいながら開発しました。

生産拠点は2か所で、トヨタ自動車九州とアメリカはケンタッキー州にあるTMMKです。アメリカで作ったものは基本アメリカ向け。中国やアジア、ヨーロッパ、日本には九州で作ったクルマがデリバリーされます。

----:仕向け地によって仕様は違うのでしょうか。

榊原:基本は一緒ですが、少しずつ仕様は違っています。まずパワートレインは、アメリカには3.5リットルV6エンジンがありますが、日本はハイブリッドだけです。また中国にはV6はありませんが2.5リットルと2リットルのガソリンエンジン、それとハイブリッドをラインナップしています。このように地域に合わせてニーズの高いパワートレインを選んでいるのです。

現在日本にはV6エンジンはありませんが、市場からの要望があれば考えていきたいですね。

また、アメリカの場合、後席にはあまり人が乗らないので、例えばシェードやリクライニング機能など装備されませんが、リアシートをよく使う中国やアジア、日本では設定しています。

◆失敗したらクビになる!?


----:ESのチーフエンジニアと決まった時、どう感じましたか。

榊原:かなりのプレッシャーでした。現在レクサスは第3段階にいます。内部では第2段階をニューチャプター、第3段階をフューチャーチャプターと呼んでおり、現行のLCから第3段階が始まりました。その後LSがデビューしESは3モデル目となります。これから『UX』などが続く予定です。LCやLSはレクサスのブランドイメージを上げる役目がありますが、実際の台数となるとESの方が多い。従って数の売れないクルマを作ったらクビだな、経営に与える影響は大きいなというプレッシャーがあったわけです。7代目で途切れさせると僕の責任になってしまいますから。

----:その時に、7代目となる新型ESをどうしようと考えましたか。

榊原:とても悩んだのですが、チーフエンジニアとして最初にやったのは、「ESには歴代の人の思いがある」と考え、過去担当したチーフエンジニアに話を聞きに行きました。定年して他の仕事をしている人もいたのですが、どういう思いでやったのかということや、過去の市場の評判、お客様の声も集めました。

そこで分かったのは、「乗り心地」「静粛性」「広さ」が受け入れられているポイントで、過去のチーフエンジニアも力を入れたところだったということです。今はデザインや走りといった分かりやすいところの評価を気にしますが、ESはそうではなく、快適性をさらに向上させようと、“上質”なという言葉をつけました。そこをまず鍛えなければいけないという思いがあったのです。

しかし、アメリカだと(購買層の)平均年齢は60歳以上。それだけでは7代目で潰れてしまいます。ですから上質な快適性はもちろん、デザインと走りを突き詰めていく。このバランスは、片方を重視するともう片方が成立しないのですが両方を引き上げることが狙いになりました。

----:先代のESユーザーからの要望や意見はありましたか。

榊原:細いのも入れると色々あるのですが、大きくは2つです。ひとつは走りの面。乗り心地は良いけれど、自分で運転していてもう少しアクティブに、スポーティーに走りたいという意見。

もうひとつは、デザインについて。先代はエレガントで良かったが、特にボディサイドがプレーンな感じがするというものでした。綺麗なのですがなんとなく物足りない、抑揚がない、フラットだという声が結構あったのです。ただし広さや乗り心地、静粛性のようなものはすごく好評でした。そこでこの部分はESのDNAと考え、新型ではさらに鍛えることにしたのです。

◆カムリと一緒だが一緒ではない


----:そのDNAを鍛えるために、具体的にはどのようなことをしたのでしょう。

榊原:一番大きかったのが、新しいプラットフォームを採用したということです。よく『カムリ』と一緒か、と質問されます。基本的には確かに一緒ですが、色々と手が加えられています。

例えばサスペンションとボディをつなぐ部品や、ウインドシールド下のカウルのところのリンクの板厚を変えたり、構造用接着剤やレーザースクリューウェルディング(通常のスポット溶接に比べ、溶接打点のピッチを短くすることが可能な工法であるため、接合したい部位に打点を集中的に配置できるのが特徴)を増やしたほか、静音材や遮音材も全く違います。そのぶんお金もかかっているのです。

しかし、ここまで手を加えてもカムリから大きく飛躍したかというとそれほどではありませんでした。そこで採用したのが世界初となる「スイングバルブショックアブソーバー」です。走り出しや低速、高速道路での巡航など車両への入力が極めて少ない時でも、専用のバルブで減衰力を発揮するアブソーバーによって、フラットな乗り心地を提供しています。

実はこの採用を決めたのが昨年の夏でした。その時は生産性や信頼性といった面での技術がまだ成り立っていなかったのですが、サプライヤーさんと一気に開発して生産化にこぎつけました。

----:新プラットフォームが今回のモデルチェンジに大きな影響を及ぼしているように思えます。

榊原:とても大きいですね。走りだけではなく、格好いいねとご意見をいただいているこのプロポーションができたのもプラットフォームのおかげなのです。全高は先代より5mm低くなっていますが、ヒップポイントも下げていますので、室内が狭くなってはおらず、広さもキープしながらこのデザインが実現できているのです。

----:そうすると、最も進化したのはデザインなのでしょうか。

榊原:それもありますが、やはり先代を知っている方からは走りがすごく変わったと言ってもらえています。欧州でのテストでは、我々の海外の技術部の拠点からもスタッフが来ます。この時はワインディングなどで競合車と乗る企画だったのですが、彼らからもすごくいいじゃないかという評価をもらえました。

◆「GS」は消滅するのか


----:日本国内でのESのポジショニングとは。

榊原:ESの投入は『GS』の入れ替えかという話もよく聞かれるのですが、決してそうは考えていません。セダンのラインナップとしてLS、GS、ISがありますが、そこに新たな選択肢として、FFで広くて快適なESを投入するのです。GSはグランドツーリングなどの方向ですから、入れ替えではありませんし、GSも売り続けます。

----:国内外を問わずセダン市場は縮小してきているという現状がありますが、あえて日本国内にESを投入する意義とは。

榊原:実は前々から入れたいという思いがありました。7代目はまさにプラットフォームやパワートレインも変えて、本当に良いものができたので日本に入れたいという提案をして、ようやく受け入れられたのです。我々製品企画のメンバーとしては悲願でした。

ESはひけらかすようなデザインではありませんが、上質さや、持って乗って満足するということに対する審美眼を持つようなお客様に乗ってもらえたらと思っています。本人が満足をして、いい買い物をしたな、ちょっと高かったけれどもこれに見合うような自分になりたいな、という思いを持ってもらえるような、そういうクルマだと思っています。

----:競合他車と比較し、ESの強みとは。

榊原:アメリカ、中国やアジア、ロシアなどグローバルで色々出してきているので、想像もつかないような環境で乗ったユーザーからの要望やフィードバックを得ることができます。そういったものに対応して熟成されてきました。グローバルで培ってきたノウハウが詰まっているのがこのESというクルマです。そこが一番強いと思います。


(レスポンス 内田俊一)

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