ミドルクラスセダン復権の兆し!? 注目4車種デザイン比較…インサイト、カムリほか
日本では、セダン人気の低迷が囁かれて久しい。市場の主役は、コンパクトクラスではハッチバックとSUV、それ以上のクラスではミニバンとSUVが担っている。かつてはどのクラスでも「基本中の基本」として数多くのセダンが存在していたが、いまやすっかり少数派になってしまった。
しかし世界を見渡せば、先進国でも新興国でも「フォーマルさ」というセダンの価値は変わっていない。日本でもラージクラスでは法人需要が確実に存在しているし、大衆レベルでも生活道具としてのミニバンやSUVとは一線を画したフォーマルさを求める層が存在する。これはトヨタ『カローラ』をはじめ日産『シルフィ』、ホンダ『グレイス』といったスモール~コンパクトクラスのセダンが証明している。
いっぽうミドルクラスはどうだろうか。近年は上下のクラスに比べるとやや勢いを欠いていたが、それが逆に、今度はその希少性が魅力として輝くタイミングを迎えているように感じる。若々しいデザインに生まれ変わったトヨタ『カムリ』に続いて、ホンダが『インサイト』を投入しようとするなど、セダン市場が活発化する予感があるのだ。
よくよく見渡せば、地味な存在ながらフォーマルさを湛えたミドルクラスセダンは他にもある。そこで今回はホンダ・インサイトとトヨタ・カムリをはじめ日産『ティアナ』、そしてスバル『レガシィB4』という4車種について、スタイリングを中心としたデザインの視点で比較してみたい。
◆ホンダ インサイト…上質感や流麗さでライバルに挑む
正直に告白すると、デトロイトショーで『インサイト・プロトタイプ』として展示されていたのを見たときは『アコード』のバリエーションだと勘違いしていた。たしかにアコードよりもボディサイズが若干小さいことはすぐにわかったものの、車格は同じに感じられたからだ。だからホイールベースが2700mmと知ったときには驚いたものだ。
この2700mmという数値は『シビック』シリーズとまったく同じで、メカニズムや乗員のパッケージレイアウトもほとんど変わっていない。そして全長は、シビックセダンよりもわずかに25mm長いだけ。それでも確実に格上の存在として見えるのは、クーペのように伸びやかで流麗なシルエットと、緻密さや上質感を追求したディテールのおかげだろう。シビックと『アコード』の間に位置づけようとするホンダの思いはうまく表現されている。
実はフロントグリルだけは、メイン市場となる北米とは大きく異なっている。これは市場での位置づけや想定ユーザーのイメージが異なるからで、日本仕様では繊細さを際立たせるデザインが採用されている。日本人好みのフォーマルさを強調した、と言い換えてもいいだろう。2モーターハイブリッドによる低燃費と力強い「走り」の両立を、日本流に表現したらこうなった、というわけだ。
ハイブリッドの設定がないシビックではシンプルなグリルで若々しさを強調しているが、インサイトはスポーティながらも落ち着いた、理性的なたたずまいに見せることでキャラクターの違いを鮮明にした。同時に、ボディサイズに勝る競合モデルに比肩する風格も獲得している。
インテリアもまたシビックとの共通性を感じさせるもの。しかしインパネをいっそうシンプルで伸びやかな造形とすることで、確実に1クラス上というイメージとなった。カラーリングはブラック1色ながら、部位ごとに濃淡をわずかに変えたり、ソフトパッドを贅沢にあしらうことで上質感を高めている。
◆トヨタ カムリ…アグレッシブさとフォーマルさの両立を狙う
カムリといえば、セダンの保守本流。たしかに先代モデルまではそうだった。しかし新型では、ずいぶんとアグレッシブになった。そう感じるのは、フロント部をはじめとしたディテールの造形のせいだ。顧客年齢層の若返りを狙い、シャープさや力強さを強調する方向でまとめられている。しかし落ち着いて全体をよく見れば、従来のセダンらしさ、フォーマルさを継承しようとしたこともわかる。
流麗なシルエットとするためにリアガラスを寝かせてクーペ風にする、という手法はインサイトと同じ。しかし太いCピラーの真ん中を、トランクリッド両端から伸びる折れ線が貫いている。これはトランクリッドの前後長を、実際以上に長く感じさせる視覚トリック。つまりクーペのように見せながら、同時にキャビンから独立した、フォーマルセダンにふさわしいトランクスペースを確保していることもアピールしているわけだ。
また折れ線よりも上の面を下部よりも絞り込むことで、後席の居住性を確保しつつ斜め前方から見たときのボディのボリューム感を減らし、流麗さや軽快感が増すようにしている。もしこのCピラーの折れ線がなかったら、見る角度によってはハッチバックのように感じられることだろう。若々しさを強調しつつも、セダンの価値は失っていないことを訴えるスタイリングだ。
インパネの造形も、エクステリアと同様に大胆なスタイリングに感じる。しかしここでも、よくよく見ればスイッチやディスプレイのレイアウトに奇をてらったところはない。むしろオーソドックスとさえ言えるものになっていることに気づくはずだ。シルバーの加飾で「y」字を描いていることが目を引くが、これはインパネの各要素をグループ化し、その境界線となっている。
まず運転席側は、メーターやATセレクターといった運転操作に必要な機器が集中する。中央部にあるのはエアコンやオーディオ、それに液晶モニターやスイッチ類など、運転操作に直接関わらず、時には助手席に座った人が操作することもある機器。そして助手席前方にはスイッチがなく、スッキリとした空間が広がる。ドライバーズカーとしてのコックピットらしさと、ゆとりある空間という矛盾しそうな要素を組み合わせつつ、洗練させたデザインなのだ。
◆スバル レガシィB4…独特のメカニズムがもたらすシルエットで個性を演出
初代レガシィがデビューしたのは、日本中がバブル景気に浮かれていたころ。そして驚くべきことに、初代から第3世代までは5ナンバーサイズだった。しかし現在は『アウトバック』とともにブランドを牽引するフラッグシップの役割を担うモデルに成長している。これに伴い、初代ではWRC参戦マシンとなったほどのスポーティさは影を潜め、カムリ等と並ぶフォーマルさが魅力となっている。
レガシィB4は現在まで一貫して水平対向エンジンの採用を続けているが、ボディサイズの拡大はスタイリングにとっては福音だった。この独特のエンジン形式と駆動コンポーネンツのレイアウトがもたらすデメリットを、減少させることになったからだ。水平対向を縦置きすると、どうしてもフロントオーバーハングは長くなってしまうし、トランスミッションも縦置きしなければならず室内、とくに前席乗員の足元空間を圧迫してしまう。だからボディが大きくなればなるほど、よりセダンとして普通のシルエット、普通のスタイリングに近づけられることになる。
それでも直列エンジンを横置きするFF車よりはオーバーハングを長くする必要があり、その影響でホイールベースは2750mm。これはカムリより75mmも短い。それにもかかわらず決して貧相に見えないのは、巧みな面構成でタイヤがふんばっているように見えるシルエットが実現できているおかげだろう。全輪駆動のため床下が分厚くなって高さ方向の寸法が大きくなることも、オーバーハングのボリューム感を相対的に減少させることに貢献しているはずだ。
いっぽうで、セダンとして普通のシルエットに近づいたということは、競合モデルとの違いが小さくなったということでもある。現在はラインナップ全車に採用する六角形の「ヘキサゴングリル」や「コ」の字型に光る前後ランプ、インテリアでは大きなセンタートンネルによるタイト感でスバル車としての個性を表現しているが、今後はさらにスバルらしさを表現したスタイリングが、内外装ともに求められてゆくことになるだろう。
◆日産 ティアナ…スポーティさを優雅なクルージング感覚に転化
ティアナは、北米では『アルティマ』として販売されている車種の日本ローカル版と言える。そして北米をはじめとするグローバル市場では、日産はブランド全体で若々しさや躍動感を強調するデザインを推進している。いっぽうティアナは代々、落ち着きのある「モダンリビング」感覚をテーマとしてきた。これらはどう表現されているのだろうか。
日産が導き出した回答は「クルージング」だ。そしてディテール表現を北米仕様と違えることで、スポーティさを控えめにしている。この点においてエクステリアで大きな役割を果たしているのは、やはりフロントグリル。北米仕様ではもともと輪郭のみがメッキされ、これによってグリル両端からヘッドライト上部へ駆け上がり、ドアミラーの下方で波打つダイナミックなキャラクターラインの流れが強調されていた。
いっぽうティアナでは、全面的にメッキされたグリルを持つ。これによってグリル全体の存在感が増し、相対的に輪郭のシャープさは目立ちづらくなった。これによってキャラクターラインの流れはそのままながら、ノーズからの勢いは多少弱まったように感じるものになった。造形を変えることなく、穏健な印象を増したわけだ。これでスポーティさのニュアンスも若干変わり、優雅なクルージングのイメージを強調することができている。
なおアルティマは先ごろフルモデルチェンジ。大胆な「Vモーショングリル」をはじめ、全体的にシャープなスタイリングに刷新された。次期ティアナではこれをどうアレンジするのかが楽しみだ。
(レスポンス 古庄 速人)
しかし世界を見渡せば、先進国でも新興国でも「フォーマルさ」というセダンの価値は変わっていない。日本でもラージクラスでは法人需要が確実に存在しているし、大衆レベルでも生活道具としてのミニバンやSUVとは一線を画したフォーマルさを求める層が存在する。これはトヨタ『カローラ』をはじめ日産『シルフィ』、ホンダ『グレイス』といったスモール~コンパクトクラスのセダンが証明している。
いっぽうミドルクラスはどうだろうか。近年は上下のクラスに比べるとやや勢いを欠いていたが、それが逆に、今度はその希少性が魅力として輝くタイミングを迎えているように感じる。若々しいデザインに生まれ変わったトヨタ『カムリ』に続いて、ホンダが『インサイト』を投入しようとするなど、セダン市場が活発化する予感があるのだ。
よくよく見渡せば、地味な存在ながらフォーマルさを湛えたミドルクラスセダンは他にもある。そこで今回はホンダ・インサイトとトヨタ・カムリをはじめ日産『ティアナ』、そしてスバル『レガシィB4』という4車種について、スタイリングを中心としたデザインの視点で比較してみたい。
◆ホンダ インサイト…上質感や流麗さでライバルに挑む
正直に告白すると、デトロイトショーで『インサイト・プロトタイプ』として展示されていたのを見たときは『アコード』のバリエーションだと勘違いしていた。たしかにアコードよりもボディサイズが若干小さいことはすぐにわかったものの、車格は同じに感じられたからだ。だからホイールベースが2700mmと知ったときには驚いたものだ。
この2700mmという数値は『シビック』シリーズとまったく同じで、メカニズムや乗員のパッケージレイアウトもほとんど変わっていない。そして全長は、シビックセダンよりもわずかに25mm長いだけ。それでも確実に格上の存在として見えるのは、クーペのように伸びやかで流麗なシルエットと、緻密さや上質感を追求したディテールのおかげだろう。シビックと『アコード』の間に位置づけようとするホンダの思いはうまく表現されている。
実はフロントグリルだけは、メイン市場となる北米とは大きく異なっている。これは市場での位置づけや想定ユーザーのイメージが異なるからで、日本仕様では繊細さを際立たせるデザインが採用されている。日本人好みのフォーマルさを強調した、と言い換えてもいいだろう。2モーターハイブリッドによる低燃費と力強い「走り」の両立を、日本流に表現したらこうなった、というわけだ。
ハイブリッドの設定がないシビックではシンプルなグリルで若々しさを強調しているが、インサイトはスポーティながらも落ち着いた、理性的なたたずまいに見せることでキャラクターの違いを鮮明にした。同時に、ボディサイズに勝る競合モデルに比肩する風格も獲得している。
インテリアもまたシビックとの共通性を感じさせるもの。しかしインパネをいっそうシンプルで伸びやかな造形とすることで、確実に1クラス上というイメージとなった。カラーリングはブラック1色ながら、部位ごとに濃淡をわずかに変えたり、ソフトパッドを贅沢にあしらうことで上質感を高めている。
◆トヨタ カムリ…アグレッシブさとフォーマルさの両立を狙う
カムリといえば、セダンの保守本流。たしかに先代モデルまではそうだった。しかし新型では、ずいぶんとアグレッシブになった。そう感じるのは、フロント部をはじめとしたディテールの造形のせいだ。顧客年齢層の若返りを狙い、シャープさや力強さを強調する方向でまとめられている。しかし落ち着いて全体をよく見れば、従来のセダンらしさ、フォーマルさを継承しようとしたこともわかる。
流麗なシルエットとするためにリアガラスを寝かせてクーペ風にする、という手法はインサイトと同じ。しかし太いCピラーの真ん中を、トランクリッド両端から伸びる折れ線が貫いている。これはトランクリッドの前後長を、実際以上に長く感じさせる視覚トリック。つまりクーペのように見せながら、同時にキャビンから独立した、フォーマルセダンにふさわしいトランクスペースを確保していることもアピールしているわけだ。
また折れ線よりも上の面を下部よりも絞り込むことで、後席の居住性を確保しつつ斜め前方から見たときのボディのボリューム感を減らし、流麗さや軽快感が増すようにしている。もしこのCピラーの折れ線がなかったら、見る角度によってはハッチバックのように感じられることだろう。若々しさを強調しつつも、セダンの価値は失っていないことを訴えるスタイリングだ。
インパネの造形も、エクステリアと同様に大胆なスタイリングに感じる。しかしここでも、よくよく見ればスイッチやディスプレイのレイアウトに奇をてらったところはない。むしろオーソドックスとさえ言えるものになっていることに気づくはずだ。シルバーの加飾で「y」字を描いていることが目を引くが、これはインパネの各要素をグループ化し、その境界線となっている。
まず運転席側は、メーターやATセレクターといった運転操作に必要な機器が集中する。中央部にあるのはエアコンやオーディオ、それに液晶モニターやスイッチ類など、運転操作に直接関わらず、時には助手席に座った人が操作することもある機器。そして助手席前方にはスイッチがなく、スッキリとした空間が広がる。ドライバーズカーとしてのコックピットらしさと、ゆとりある空間という矛盾しそうな要素を組み合わせつつ、洗練させたデザインなのだ。
◆スバル レガシィB4…独特のメカニズムがもたらすシルエットで個性を演出
初代レガシィがデビューしたのは、日本中がバブル景気に浮かれていたころ。そして驚くべきことに、初代から第3世代までは5ナンバーサイズだった。しかし現在は『アウトバック』とともにブランドを牽引するフラッグシップの役割を担うモデルに成長している。これに伴い、初代ではWRC参戦マシンとなったほどのスポーティさは影を潜め、カムリ等と並ぶフォーマルさが魅力となっている。
レガシィB4は現在まで一貫して水平対向エンジンの採用を続けているが、ボディサイズの拡大はスタイリングにとっては福音だった。この独特のエンジン形式と駆動コンポーネンツのレイアウトがもたらすデメリットを、減少させることになったからだ。水平対向を縦置きすると、どうしてもフロントオーバーハングは長くなってしまうし、トランスミッションも縦置きしなければならず室内、とくに前席乗員の足元空間を圧迫してしまう。だからボディが大きくなればなるほど、よりセダンとして普通のシルエット、普通のスタイリングに近づけられることになる。
それでも直列エンジンを横置きするFF車よりはオーバーハングを長くする必要があり、その影響でホイールベースは2750mm。これはカムリより75mmも短い。それにもかかわらず決して貧相に見えないのは、巧みな面構成でタイヤがふんばっているように見えるシルエットが実現できているおかげだろう。全輪駆動のため床下が分厚くなって高さ方向の寸法が大きくなることも、オーバーハングのボリューム感を相対的に減少させることに貢献しているはずだ。
いっぽうで、セダンとして普通のシルエットに近づいたということは、競合モデルとの違いが小さくなったということでもある。現在はラインナップ全車に採用する六角形の「ヘキサゴングリル」や「コ」の字型に光る前後ランプ、インテリアでは大きなセンタートンネルによるタイト感でスバル車としての個性を表現しているが、今後はさらにスバルらしさを表現したスタイリングが、内外装ともに求められてゆくことになるだろう。
◆日産 ティアナ…スポーティさを優雅なクルージング感覚に転化
ティアナは、北米では『アルティマ』として販売されている車種の日本ローカル版と言える。そして北米をはじめとするグローバル市場では、日産はブランド全体で若々しさや躍動感を強調するデザインを推進している。いっぽうティアナは代々、落ち着きのある「モダンリビング」感覚をテーマとしてきた。これらはどう表現されているのだろうか。
日産が導き出した回答は「クルージング」だ。そしてディテール表現を北米仕様と違えることで、スポーティさを控えめにしている。この点においてエクステリアで大きな役割を果たしているのは、やはりフロントグリル。北米仕様ではもともと輪郭のみがメッキされ、これによってグリル両端からヘッドライト上部へ駆け上がり、ドアミラーの下方で波打つダイナミックなキャラクターラインの流れが強調されていた。
いっぽうティアナでは、全面的にメッキされたグリルを持つ。これによってグリル全体の存在感が増し、相対的に輪郭のシャープさは目立ちづらくなった。これによってキャラクターラインの流れはそのままながら、ノーズからの勢いは多少弱まったように感じるものになった。造形を変えることなく、穏健な印象を増したわけだ。これでスポーティさのニュアンスも若干変わり、優雅なクルージングのイメージを強調することができている。
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