トヨタ・日産・ホンダ、世界戦略の違いをデータから読み解く【藤井真治のフォーカス・オン】

トヨタ、日産、ホンダの世界戦略の違いをデータから読み解く(写真は3社の主力車種)
我々「アラ還世代」が学生や新入社員であった70年代末から80年代にかけての自動車業界。

トヨタ、日産、ホンダのビジネスは日本で生産したクルマを日本国内で販売、残りを先進国などに輸出するというものであった。その後3社は海外での自動車生産を着実に展開し拡大させ、グローバルカンパニーに成長し現在に至っている。昨年2018年の生産販売輸出実績を並べてみると3社の世界戦略の違いが浮き彫りになってくる。

◆トヨタ、日産、ホンダが国内市場で戦っていた時代と今


3社の日本での自動車生産の位置づけは<図1>でよくわかる。

トヨタは世界で888万台クルマを生産している。日産やホンダは500万台以上。(日産はルノーと三菱をあわせるとトヨタを抜くのだが、経営もブランドも企業文化も異なる3社を足しても数字だけの不毛の議論になるためこの場では日産のみの数字を使う)

国内ではトヨタ1人勝ちになっていくなかでホンダと日産は海外生産を進めていった結果、全世界生産に占める日本での生産台数は僅か16%から17%となっている。大半はアメリカや中国といった海外でクルマをつくっているわけだ。トヨタは、900万台近い世界生産の内300万台以上が国内生産。日本国内の強い販売力、すなわち日本で作ったクルマを引き取れる力(強い販売店)のおかげとも言えるだろう、

◆トヨタに課せられた日本国内での生産規模


裾野の広い自動車産業は、部品産業や素材産業を始め様々な産業を支えている。膨大な雇用も生んでいる。知識やノウハウの詰まった知識集約産業とも言えよう。ホンダや日産が国内で生産や販売を縮小させてしまった今、トヨタが国内300万台生産によって担っているものは大変大きいものがある。いろいろな場面でトヨタが言っている300万台生産維持というのは、単なるスローガンではない。日本の産業界全体に対し重みを持つ数字であることがわかる。

とはいえ、トヨタの300万台の生産維持は国内販売だけでは無理であり半数以上を輸出しないと成立しない。国内販売が頭打ちという状況下トヨタの輸出比率は58%。他の2社と比較すると倍以上の比率となっている。(図2参照)

◆世界2大市場の中国とアメリカの位置づけは


現在のところ3社にとっての最大の市場はアメリカと中国だ。先ずアメリカの販売データを並べて見る。アメリカでの販売量はトヨタ、ホンダ、日産の順であるが。世界販売台数のなかでのアメリカ比率はホンダが30%以上と高い。また世界一の自動車市場を持つ中国の販売は日産、トヨタ、ホンダの順なのだが、トヨタの中国依存度が15%なのに対し日産とホンダは27%にまで達している。日産はアメリカの落ち込みもあって2018年は中国が日産にとってのNo1の市場になってしまった。

アメリカ、中国という2大市場の販売依存度はホンダ、日産が50%を超えているのに対し、トヨタは40%。日本国内の販売の強さだけでなく、東南アジアや豪州、中近東など他地域でも一定の販売実績をあげることのできるトヨタの「取りこぼしのなさ」が見える。様々な国のカントリー・リスクや政治リスクを他国でバックアップができる体制ができているとも言えよう。

ざっくりと各社の世界展開を乱暴にまとめると、日本重視の中でもバランスの良い世界事業構造のトヨタ。海外生産シフトを進めた地産地消のホンダ。2大市場にリソースの重点投入を行ってきた日産。といったところだろうか。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

注)記事内のデータは各社の広報資料と独自取材などから作成。各メーカーの在庫、OEM生産販売については考慮していないので、販売と輸出数字を足したものは生産数字と完全には一致しない。

(レスポンス フォ―カスオン)

[提供元:レスポンス]レスポンス