【池原照雄の単眼複眼】どっこいHVの時代は続く…トヨタ、システム販売で電動化支援
◆EVへの過度な依存を和らげるには
トヨタ自動車がハイブリッド車(HV)などで培った車両電動化技術のオープン戦略に踏み出した。モーターやPCU(パワーコントロールユニット)、システム制御など電動化分野で保有する特許約2万3740件を2030年まで無償提供する。
併せてトヨタの電動パワートレーンシステムを導入し、HVや電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)などの電動車両を製造・販売する企業には、有償で技術サポートも実施する。
電動化といえばもっぱらEVに注目が集まるが、現状を直視すればHVおよびその開発で蓄積された技術の出番がまだまだ続く。
トヨタの寺師茂樹副社長は今回の方針決定について「ここ数年で、多くの企業や自治体から当社の電動化技術の利用について問い合わせをいただいたのがトリガーになった。電動車両の普及によって地球規模でのCO2(二酸化炭素)排出抑制に貢献していきたい」と語る。これから環境規制は世界各地域で一段と強化され、例えば欧州のCO2規制は、現状の130g/kmが2030年にはほぼ半分のレベルを求められる。そこで、「この先、10年が電動化のヤマ場。今こそ、(他社との)協調に取り組む時期が来た」(寺師副社長)と技術開放に舵を切った。
CO2排出を半減させるためには、単純計算で現状の純エンジン車の半分をEVなどゼロエミッション車にしなければならない。しかし、この10年でEV普及のカギを握るコストやバッテリー性能の飛躍的な改善はおぼつかない。トヨタはかねて、PHV(プラグインハイブリッド車)を含むHVを、EVや純エンジン車などとモデルミックスしていけば、EVへの過度な依存を和らげることができると主張してきた。
◆特許の無償提供は「本質」ではない
トヨタのHVに対する自信の背景には、これまで注目度が低かった欧州や中国での近年の健闘がある。たとえば欧州(一部中央アジアなどを含む53か国)市場では、2015年のHV販売は21万でトヨタ車全体の24%を占めるにとどまっていた。しかし16年以降HVの販売は急拡大し、18年には48万台となってトヨタ車に占める比率も46.5%と半数近くになった。独メーカーの排ガス不正による脱ディーゼル車の動きが背景にあるものの、燃費と走りにうるさい欧州ユーザーにも、トヨタHVへの評価が高まってきたのだ。
今回のトヨタの方針は特許の無償提供が注目されたものの、寺師副社長はやや戸惑いながら「本質はそこではない」と言う。特許実施権を無償にしたからといって、「当社の技術を使って他社さんが自前でHVなどを開発する動きは、恐らく起こらないだろう」と見ているからだ。
仮に図面と特許権があっても複雑な機構を量産化する生産技術の確立は至難となる。2010年にトヨタのHVシステムの技術供与を受けることで合意したマツダの技術担当役員も、「買った方がはるかに合理的」という見解だった。もちろん、トヨタの電動化技術を導入している企業やこれから導入する企業には、実施権料の負担がなくなるというメリットは享受できる。
◆電動化サプライヤーとして年数百億円のビジネスに
トヨタの主要な役回りは特許の開放ではなく、技術サポートを伴う「電動化システムサプライヤー」ということになる。これからは、専門部署の設置など体制も速やかに整えていく。技術サポート要員については「2020年から25年くらいで考えると3ケタの真ん中くらい」(パワートレーン事業戦略グループの中江公一主査)と想定しており、早い時期に500人レベルとしていく方針だ。
一方、すでにある電動化技術導入のオファーの状況から、おおよそのビジネス規模も想定している。寺師副社長によると現時点で、クライアント数はFCV分野を含め、「7社以上」であり、仕事量でいえば「多分5年分くらい」という。技術協力する場合は「1件あたり年間10万台単位となろう。控えめに見て1台あたり10万円とすると100億円であり、数社に販売すると年間数百億円規模になる」との見立てだ。
こうしてビジネスが拡大し、企業間の協調領域が広がれば、電動化のコア技術であるモーター、バッテリー、PCUなどの性能向上やコスト低減も進む。その果実は、更なる電動車両の普及に貢献することになろう。「電動化システムサプライヤー」としてのトヨタは、当然のことながらHVにとどまらずEVやFCVの開発サポートも想定している。しかしながら、自動車メーカーがCAFE(企業別平均燃費基準)規制への対応を検討するうえで、依然としてHVの役回りは無視できない。1997年の初代プリウスから20年余りにわたって培ってきたトヨタのHV技術に改めて光が当たる。
(レスポンス 池原照雄)
トヨタ自動車がハイブリッド車(HV)などで培った車両電動化技術のオープン戦略に踏み出した。モーターやPCU(パワーコントロールユニット)、システム制御など電動化分野で保有する特許約2万3740件を2030年まで無償提供する。
併せてトヨタの電動パワートレーンシステムを導入し、HVや電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)などの電動車両を製造・販売する企業には、有償で技術サポートも実施する。
電動化といえばもっぱらEVに注目が集まるが、現状を直視すればHVおよびその開発で蓄積された技術の出番がまだまだ続く。
トヨタの寺師茂樹副社長は今回の方針決定について「ここ数年で、多くの企業や自治体から当社の電動化技術の利用について問い合わせをいただいたのがトリガーになった。電動車両の普及によって地球規模でのCO2(二酸化炭素)排出抑制に貢献していきたい」と語る。これから環境規制は世界各地域で一段と強化され、例えば欧州のCO2規制は、現状の130g/kmが2030年にはほぼ半分のレベルを求められる。そこで、「この先、10年が電動化のヤマ場。今こそ、(他社との)協調に取り組む時期が来た」(寺師副社長)と技術開放に舵を切った。
CO2排出を半減させるためには、単純計算で現状の純エンジン車の半分をEVなどゼロエミッション車にしなければならない。しかし、この10年でEV普及のカギを握るコストやバッテリー性能の飛躍的な改善はおぼつかない。トヨタはかねて、PHV(プラグインハイブリッド車)を含むHVを、EVや純エンジン車などとモデルミックスしていけば、EVへの過度な依存を和らげることができると主張してきた。
◆特許の無償提供は「本質」ではない
トヨタのHVに対する自信の背景には、これまで注目度が低かった欧州や中国での近年の健闘がある。たとえば欧州(一部中央アジアなどを含む53か国)市場では、2015年のHV販売は21万でトヨタ車全体の24%を占めるにとどまっていた。しかし16年以降HVの販売は急拡大し、18年には48万台となってトヨタ車に占める比率も46.5%と半数近くになった。独メーカーの排ガス不正による脱ディーゼル車の動きが背景にあるものの、燃費と走りにうるさい欧州ユーザーにも、トヨタHVへの評価が高まってきたのだ。
今回のトヨタの方針は特許の無償提供が注目されたものの、寺師副社長はやや戸惑いながら「本質はそこではない」と言う。特許実施権を無償にしたからといって、「当社の技術を使って他社さんが自前でHVなどを開発する動きは、恐らく起こらないだろう」と見ているからだ。
仮に図面と特許権があっても複雑な機構を量産化する生産技術の確立は至難となる。2010年にトヨタのHVシステムの技術供与を受けることで合意したマツダの技術担当役員も、「買った方がはるかに合理的」という見解だった。もちろん、トヨタの電動化技術を導入している企業やこれから導入する企業には、実施権料の負担がなくなるというメリットは享受できる。
◆電動化サプライヤーとして年数百億円のビジネスに
トヨタの主要な役回りは特許の開放ではなく、技術サポートを伴う「電動化システムサプライヤー」ということになる。これからは、専門部署の設置など体制も速やかに整えていく。技術サポート要員については「2020年から25年くらいで考えると3ケタの真ん中くらい」(パワートレーン事業戦略グループの中江公一主査)と想定しており、早い時期に500人レベルとしていく方針だ。
一方、すでにある電動化技術導入のオファーの状況から、おおよそのビジネス規模も想定している。寺師副社長によると現時点で、クライアント数はFCV分野を含め、「7社以上」であり、仕事量でいえば「多分5年分くらい」という。技術協力する場合は「1件あたり年間10万台単位となろう。控えめに見て1台あたり10万円とすると100億円であり、数社に販売すると年間数百億円規模になる」との見立てだ。
こうしてビジネスが拡大し、企業間の協調領域が広がれば、電動化のコア技術であるモーター、バッテリー、PCUなどの性能向上やコスト低減も進む。その果実は、更なる電動車両の普及に貢献することになろう。「電動化システムサプライヤー」としてのトヨタは、当然のことながらHVにとどまらずEVやFCVの開発サポートも想定している。しかしながら、自動車メーカーがCAFE(企業別平均燃費基準)規制への対応を検討するうえで、依然としてHVの役回りは無視できない。1997年の初代プリウスから20年余りにわたって培ってきたトヨタのHV技術に改めて光が当たる。
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