【WRC 第12戦】トヨタのオット・タナクが今季6勝目…気迫のフルマーク勝ちで、タイトル獲得に向け大きく前進
世界ラリー選手権(WRC)第12戦「ウェールズ・ラリーGB」が6日にフィニッシュを迎え、トヨタのオット・タナクが今季6勝目をあげた。タナクはチャンピオン争いにおけるリードを広げ、トヨタもマニュファクチャラーズ王座連覇に向けて首位ヒュンダイとの差を縮めている。
WRCの英国(GB)戦といえば、開催地こそ移ってはきていても伝統のグラベル(非舗装路)ラリーである。今季もここを含めて残り3戦、“英国クラシックイベント”はドライバーズチャンピオンを争う3人が上位で競う緊迫の展開を見せることに。そしてそこでトヨタのエース、オット・タナクが“魅せた”。
最終日最終のスペシャルステージ(SS=競技区間)、ラリーの総合結果とは別にドライバーズポイントのボーナスがあるパワーステージ(PS)を迎える時点で、ラリーの首位は#8 タナク(トヨタ・ヤリスWRC)。2番手は#11 ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ i20クーペWRC)で9.5秒差、3番手は#1 セバスチャン・オジェ(シトロエンC3 WRC)で首位から23.3秒差だった。この3人はポイントランク上位3人でもあり、そちらの序列は前戦終了時でタナク~オジェ~ヌービルの順。
残り1SS、このPSでラリー総合の結果を動かすことは難しい差で、今回のラリーにおける3強決戦はほぼ決着を見ていた。だが、それだけにPSの1~5位に与えられるボーナスの5~1点をどう考えて走るかがカギになる。ボーナスポイントといえばラグビーW杯で重要な要素となり流行語化しかけているところだが、WRCでも極めて重要な位置付けにあるのだ。
追う#1 オジェと#11 ヌービルはここも攻めて5点が欲しいところだろう。一方で#8 タナクには、リスクを避けてボーナス高得点狙いは自重し、今回のラリーの優勝を確実にゲットする、という考え方もあったはず。
しかし#8 タナクは逃げなかった。PSでのその走りからは攻めの姿勢しか見えてこなかった。先に走った#1 オジェのトップタイムを塗りかえて、PS1位の5点とラリー優勝の25点、フルマーク30点をゲットする気迫の走りを披露。タナクの今季6勝目は、築いた点差以上のインパクトをライバルや見る者に与えるものとなったのである。
#8 オット・タナクのコメント
「優勝できて最高の気分だ。我々のために、多くの人が働き、努力を続けてきてくれた。最大ポイント獲得でそれに報いることができ、嬉しく思う。PSではクルマに大きな自信を感じていたので、フルポイント獲得の好機を逃すわけにはいかなかった。我々のチームは“pushing the limits for better”というスローガンを掲げているし、自分も常にベストを尽くそうと努力しているからね。今シーズンはまだ2戦残っており、何も決まってはいない。これからも集中して攻め続ける必要がある」
トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing WRT)のチーム代表である往年の名チャンピオン、トミ・マキネンがPS終了後に語った次の言葉が、PSでのタナクのアタックの見事さを象徴していた。
「PSでは本当に興奮し、まだ心臓がドキドキしているほどです。オットは素晴らしい走りで最大ポイントを獲得し、ドライバーズタイトル争いで有利な立場となりました。昔、自分が同じような状況に置かれた時は精神的に本当に辛く大変でしたが、彼はすべてにおいてうまくやっています」
ウェールズ・ラリーGBの総合順位は優勝が#8 タナク、2位が#11 ヌービル、3位 #1 オジェで変わらずに決着し、PSの順位は1位が#8 タナク、2位に#1 オジェ、5位に#11 ヌービルだった。これらの結果、残り2戦で3者のドライバーズポイントは次のような状況となっている。
#8 タナク/トヨタ:240点(今回25+5点)
#1 オジェ/シトロエン:212点(今回15+4点)
#11 ヌービル/ヒュンダイ:199点(今回18+1点)
1戦あたり、ドライバーは最大30点獲得可能なので、ヌービルにも可能性は残るが厳しい差になってきた。タナクとオジェの差も28点へと拡大。PSのボーナスポイントがあるため一概論的な計算はできないが、おおまかな考え方としては、次のラリーでタナクがオジェやヌービルよりも前で上位フィニッシュすれば、最終戦を残してタナクの初戴冠が決まる公算が高い(手元の計算と理解では、タナクが次戦優勝なら、PSの結果にかかわらず自力戴冠決定になるものと見られる)。
点差もそうだが、タナクが今回のPSで見せた気迫は新王者のそれに相応しいものに思えた。どことなく漂い始めた、2013年以来となる新王者誕生の流れ。あとはタナクが、それを現実のものにできるかどうかだ。もちろん、個人7連覇を狙うオジェも最後まであきらめないはずであり、タナクも言うようにまだまだ予断は許さない。どんな結末を迎えるのか、いよいよ2019年のWRCはクライマックスへと向かう。
今回のラリーの4位はトヨタの#5 クリス・ミーク。トヨタはマニュファクチャラーズタイトル争いにおいて首位ヒュンダイに8点差(340対332)と迫り、逆転連覇、タナクとの2冠(コ・ドライバー部門のM.ヤルヴェオヤを含む3冠)が視界に入ってきている。
なお、この週末にトヨタはWRC英国戦とWEC(世界耐久選手権)日本戦の両方で勝利をおさめた。豊田章男トヨタ社長は勝利声明のなかで、今年6月にルマン24時間レース(WECの前季最終戦)で勝利しながらも同週開催だったWRCイタリア戦ではタナクがマシントラブルで目前の勝利を逃した経緯に触れ、「2つ同時に勝つことに強いこだわりをもっていました」と語り、「この週末はいずれの戦いも絶対に無事にゴールまで走り抜け、勝利してもらいたいと思っていました」と高い充実感をにじませている。
また今回のラリーでは、期待の新鋭カッレ・ロバンペラが「WRC2 PRO」の今季タイトル獲得を決定した(今回の成績は総合9位、WRC2 PROクラス優勝。マシンはシュコダ・ファビアR5)。一方では2003年のWRC王者で、かつてスバルの大エースとして長く活躍したペター・ソルベルグ、世界選手権レベルのトップカテゴリーを走るのは今年で最後とする彼が“WRC引退戦”として今回のラリーを走り、総合10位、「WRC2」クラス優勝を果たしている(マシンはVWポロGTI R5)。
次戦第13戦はスペイン、10月27日を競技最終日とする日程で開催される。
(レスポンス 遠藤俊幸)
WRCの英国(GB)戦といえば、開催地こそ移ってはきていても伝統のグラベル(非舗装路)ラリーである。今季もここを含めて残り3戦、“英国クラシックイベント”はドライバーズチャンピオンを争う3人が上位で競う緊迫の展開を見せることに。そしてそこでトヨタのエース、オット・タナクが“魅せた”。
最終日最終のスペシャルステージ(SS=競技区間)、ラリーの総合結果とは別にドライバーズポイントのボーナスがあるパワーステージ(PS)を迎える時点で、ラリーの首位は#8 タナク(トヨタ・ヤリスWRC)。2番手は#11 ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ i20クーペWRC)で9.5秒差、3番手は#1 セバスチャン・オジェ(シトロエンC3 WRC)で首位から23.3秒差だった。この3人はポイントランク上位3人でもあり、そちらの序列は前戦終了時でタナク~オジェ~ヌービルの順。
残り1SS、このPSでラリー総合の結果を動かすことは難しい差で、今回のラリーにおける3強決戦はほぼ決着を見ていた。だが、それだけにPSの1~5位に与えられるボーナスの5~1点をどう考えて走るかがカギになる。ボーナスポイントといえばラグビーW杯で重要な要素となり流行語化しかけているところだが、WRCでも極めて重要な位置付けにあるのだ。
追う#1 オジェと#11 ヌービルはここも攻めて5点が欲しいところだろう。一方で#8 タナクには、リスクを避けてボーナス高得点狙いは自重し、今回のラリーの優勝を確実にゲットする、という考え方もあったはず。
しかし#8 タナクは逃げなかった。PSでのその走りからは攻めの姿勢しか見えてこなかった。先に走った#1 オジェのトップタイムを塗りかえて、PS1位の5点とラリー優勝の25点、フルマーク30点をゲットする気迫の走りを披露。タナクの今季6勝目は、築いた点差以上のインパクトをライバルや見る者に与えるものとなったのである。
#8 オット・タナクのコメント
「優勝できて最高の気分だ。我々のために、多くの人が働き、努力を続けてきてくれた。最大ポイント獲得でそれに報いることができ、嬉しく思う。PSではクルマに大きな自信を感じていたので、フルポイント獲得の好機を逃すわけにはいかなかった。我々のチームは“pushing the limits for better”というスローガンを掲げているし、自分も常にベストを尽くそうと努力しているからね。今シーズンはまだ2戦残っており、何も決まってはいない。これからも集中して攻め続ける必要がある」
トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing WRT)のチーム代表である往年の名チャンピオン、トミ・マキネンがPS終了後に語った次の言葉が、PSでのタナクのアタックの見事さを象徴していた。
「PSでは本当に興奮し、まだ心臓がドキドキしているほどです。オットは素晴らしい走りで最大ポイントを獲得し、ドライバーズタイトル争いで有利な立場となりました。昔、自分が同じような状況に置かれた時は精神的に本当に辛く大変でしたが、彼はすべてにおいてうまくやっています」
ウェールズ・ラリーGBの総合順位は優勝が#8 タナク、2位が#11 ヌービル、3位 #1 オジェで変わらずに決着し、PSの順位は1位が#8 タナク、2位に#1 オジェ、5位に#11 ヌービルだった。これらの結果、残り2戦で3者のドライバーズポイントは次のような状況となっている。
#8 タナク/トヨタ:240点(今回25+5点)
#1 オジェ/シトロエン:212点(今回15+4点)
#11 ヌービル/ヒュンダイ:199点(今回18+1点)
1戦あたり、ドライバーは最大30点獲得可能なので、ヌービルにも可能性は残るが厳しい差になってきた。タナクとオジェの差も28点へと拡大。PSのボーナスポイントがあるため一概論的な計算はできないが、おおまかな考え方としては、次のラリーでタナクがオジェやヌービルよりも前で上位フィニッシュすれば、最終戦を残してタナクの初戴冠が決まる公算が高い(手元の計算と理解では、タナクが次戦優勝なら、PSの結果にかかわらず自力戴冠決定になるものと見られる)。
点差もそうだが、タナクが今回のPSで見せた気迫は新王者のそれに相応しいものに思えた。どことなく漂い始めた、2013年以来となる新王者誕生の流れ。あとはタナクが、それを現実のものにできるかどうかだ。もちろん、個人7連覇を狙うオジェも最後まであきらめないはずであり、タナクも言うようにまだまだ予断は許さない。どんな結末を迎えるのか、いよいよ2019年のWRCはクライマックスへと向かう。
今回のラリーの4位はトヨタの#5 クリス・ミーク。トヨタはマニュファクチャラーズタイトル争いにおいて首位ヒュンダイに8点差(340対332)と迫り、逆転連覇、タナクとの2冠(コ・ドライバー部門のM.ヤルヴェオヤを含む3冠)が視界に入ってきている。
なお、この週末にトヨタはWRC英国戦とWEC(世界耐久選手権)日本戦の両方で勝利をおさめた。豊田章男トヨタ社長は勝利声明のなかで、今年6月にルマン24時間レース(WECの前季最終戦)で勝利しながらも同週開催だったWRCイタリア戦ではタナクがマシントラブルで目前の勝利を逃した経緯に触れ、「2つ同時に勝つことに強いこだわりをもっていました」と語り、「この週末はいずれの戦いも絶対に無事にゴールまで走り抜け、勝利してもらいたいと思っていました」と高い充実感をにじませている。
また今回のラリーでは、期待の新鋭カッレ・ロバンペラが「WRC2 PRO」の今季タイトル獲得を決定した(今回の成績は総合9位、WRC2 PROクラス優勝。マシンはシュコダ・ファビアR5)。一方では2003年のWRC王者で、かつてスバルの大エースとして長く活躍したペター・ソルベルグ、世界選手権レベルのトップカテゴリーを走るのは今年で最後とする彼が“WRC引退戦”として今回のラリーを走り、総合10位、「WRC2」クラス優勝を果たしている(マシンはVWポロGTI R5)。
次戦第13戦はスペイン、10月27日を競技最終日とする日程で開催される。
(レスポンス 遠藤俊幸)
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