【池原照雄の単眼複眼】深遠な車両ビッグデータと格闘するトヨタとNTTグループ…コネクティッドカーの情報通信基盤開発
◆2017年から4分野の共同開発を推進
トヨタ自動車とNTTグループが2017年3月から共同で進めているコネクティッドカー向けのICT(情報通信技術)基盤に関する共同研究開発について、このほど両社が進捗状況を説明した。この基盤確立には気の遠くなるようなスケールの「車両ビッグデータ」を、いかに適切に扱えるかがカギとなる。着実に前進しているものの、これからも果敢な挑戦が求められそうだ。
共同研究開発はトヨタとNTTデータなどNTTグループが有する技術やノウハウを持ち寄り、コネクティッドカーの技術開発を促進させて利便性の向上や事故防止など社会的課題の解決にもつなげる狙いで始めた。開発の対象は以下の4分野と定めている。
(1)車両から送られるビッグデータを収集・蓄積・分析する基盤の構築
(2)世界の車両データを収集するためのネットワークとデータセンターの最適配置の確立
(3)次世代通信技術である「5G」の自動車向け標準化の推進と、通信網の末端機器による「エッジコンピューティング」技術の適用性検証
(4)車両での音声対話技術(エージェント)のAI(人工知能)などによる高度化
◆車両ビッグデータは2020年代後半にエクサバイト(EB)の単位に達する
このなかで、コネクティッドカーの機能を向上させ、社会の有用な存在とさせるには、何と言っても(1)の車両ビッグデータをコントロールしうる基盤の確立が重要となる。だが、このビッグデータは単に巨大なだけでなく、クルマ特有の扱いの難しさがある。トヨタのITS・コネクティッド統括部の村田賢一主査は、「ライフサイクルが長く、10年前のクルマも今年のクルマもサポートしなければならない。また、高速移動しながらデータを送るし、台当たりのデータ量も多い」と指摘する。
発信されるデータ量は、コネクティッドカーの本格普及とともに、急激な増加が見込まれている。両社の想定では、国内のコネクティッドカーから送られる月間の総データ量は、2020年代後半には「エクサバイト(EB)」の単位に達するという。
データ量の単位で、われわれになじみ深いのがスマホで月に使用する単位のギガバイト(GB)だろう。GBの1000倍がテラバイト(TB)、さらにその1000倍がペタバイト(PB)、そしてその1000倍がEBなので、1EBは10億GBということになる。今後、コネクティッドカーの台数が飛躍的に増えるだけでなく、自動運転技術の高度化のためにカメラやセンサーといった機器も一気に重装備となるからだ。
村田主査は「クルマは社会のセンサーとなる。ビッグデータの収集によって社会課題の解決や新たな価値提供につなげることができる」とし、巨大化するデータのコントロールは困難だが、その先にコネクティッドカーがもたらす未来社会が広がると展望している。
◆「CASE」の「C」がAもSもEも高度化させていく
両社の研究開発プロジェクトは、2年目の18年度からいくつかの実証実験にも着手した。車両データの収集・蓄積・分析関する実験ではコンピュータを使ったシミュレーションによって500万台分に相当する模擬車両データを生成し、一部の実車データと共にデータセンターに送った。これによって通信インフラやセンター側の負荷など、基盤構築への課題を確認した。19年度には車両データを数千万台分にまで増やして実験を重ねている。
また、コネクティッドカーや自動運転車への利用を見込んだ実証実験では、道路上の障害物を検知した車両がセンターに位置や画像情報などを送って、後続車両が安全に走行できるよう情報を伝達するという検証を複数の公道で行ってきた。障害物の検知から伝達までの時間は18年度末の時点では15秒程度だったが、現在は7~9秒程度に短縮できている。20年度にはこの技術の実用化レベルである7秒への短縮が実現できそうな展開という。
現下の自動車産業をめぐる大変革は「CASE」(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)で表現される。一見これらは個々に存立する技術やビジネスのようにも見えるが、実はそうではない。自動運転車の安全性を高めるにはビッグデータの通信が不可欠だし、シェアリング事業も電動車も車両データの活用で、より満足度の高いサービスや技術が実現できる。「C」つまりコネクティッドカー技術がもたらすビッグデータの活用によって、AもSもEもより高いレベルに進化することが可能なのだ。それだけ「C」の重要性は高い。
NTTデータのコネクティッドビジネス開発グループの古賀篤部長は、両社の取り組みについて「コネクティッドカーの実現に向け、ここまで真剣に技術開発に取り組んでいる例はないと自負している」と話すとともに、開発の成果はグローバルでオープンにしていく方針を示した。両社は現時点では20年度まで実証実験を続ける計画でいるが、その後も息の長い取り組みとなるのだろう。
(レスポンス 池原照雄)
トヨタ自動車とNTTグループが2017年3月から共同で進めているコネクティッドカー向けのICT(情報通信技術)基盤に関する共同研究開発について、このほど両社が進捗状況を説明した。この基盤確立には気の遠くなるようなスケールの「車両ビッグデータ」を、いかに適切に扱えるかがカギとなる。着実に前進しているものの、これからも果敢な挑戦が求められそうだ。
共同研究開発はトヨタとNTTデータなどNTTグループが有する技術やノウハウを持ち寄り、コネクティッドカーの技術開発を促進させて利便性の向上や事故防止など社会的課題の解決にもつなげる狙いで始めた。開発の対象は以下の4分野と定めている。
(1)車両から送られるビッグデータを収集・蓄積・分析する基盤の構築
(2)世界の車両データを収集するためのネットワークとデータセンターの最適配置の確立
(3)次世代通信技術である「5G」の自動車向け標準化の推進と、通信網の末端機器による「エッジコンピューティング」技術の適用性検証
(4)車両での音声対話技術(エージェント)のAI(人工知能)などによる高度化
◆車両ビッグデータは2020年代後半にエクサバイト(EB)の単位に達する
このなかで、コネクティッドカーの機能を向上させ、社会の有用な存在とさせるには、何と言っても(1)の車両ビッグデータをコントロールしうる基盤の確立が重要となる。だが、このビッグデータは単に巨大なだけでなく、クルマ特有の扱いの難しさがある。トヨタのITS・コネクティッド統括部の村田賢一主査は、「ライフサイクルが長く、10年前のクルマも今年のクルマもサポートしなければならない。また、高速移動しながらデータを送るし、台当たりのデータ量も多い」と指摘する。
発信されるデータ量は、コネクティッドカーの本格普及とともに、急激な増加が見込まれている。両社の想定では、国内のコネクティッドカーから送られる月間の総データ量は、2020年代後半には「エクサバイト(EB)」の単位に達するという。
データ量の単位で、われわれになじみ深いのがスマホで月に使用する単位のギガバイト(GB)だろう。GBの1000倍がテラバイト(TB)、さらにその1000倍がペタバイト(PB)、そしてその1000倍がEBなので、1EBは10億GBということになる。今後、コネクティッドカーの台数が飛躍的に増えるだけでなく、自動運転技術の高度化のためにカメラやセンサーといった機器も一気に重装備となるからだ。
村田主査は「クルマは社会のセンサーとなる。ビッグデータの収集によって社会課題の解決や新たな価値提供につなげることができる」とし、巨大化するデータのコントロールは困難だが、その先にコネクティッドカーがもたらす未来社会が広がると展望している。
◆「CASE」の「C」がAもSもEも高度化させていく
両社の研究開発プロジェクトは、2年目の18年度からいくつかの実証実験にも着手した。車両データの収集・蓄積・分析関する実験ではコンピュータを使ったシミュレーションによって500万台分に相当する模擬車両データを生成し、一部の実車データと共にデータセンターに送った。これによって通信インフラやセンター側の負荷など、基盤構築への課題を確認した。19年度には車両データを数千万台分にまで増やして実験を重ねている。
また、コネクティッドカーや自動運転車への利用を見込んだ実証実験では、道路上の障害物を検知した車両がセンターに位置や画像情報などを送って、後続車両が安全に走行できるよう情報を伝達するという検証を複数の公道で行ってきた。障害物の検知から伝達までの時間は18年度末の時点では15秒程度だったが、現在は7~9秒程度に短縮できている。20年度にはこの技術の実用化レベルである7秒への短縮が実現できそうな展開という。
現下の自動車産業をめぐる大変革は「CASE」(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)で表現される。一見これらは個々に存立する技術やビジネスのようにも見えるが、実はそうではない。自動運転車の安全性を高めるにはビッグデータの通信が不可欠だし、シェアリング事業も電動車も車両データの活用で、より満足度の高いサービスや技術が実現できる。「C」つまりコネクティッドカー技術がもたらすビッグデータの活用によって、AもSもEもより高いレベルに進化することが可能なのだ。それだけ「C」の重要性は高い。
NTTデータのコネクティッドビジネス開発グループの古賀篤部長は、両社の取り組みについて「コネクティッドカーの実現に向け、ここまで真剣に技術開発に取り組んでいる例はないと自負している」と話すとともに、開発の成果はグローバルでオープンにしていく方針を示した。両社は現時点では20年度まで実証実験を続ける計画でいるが、その後も息の長い取り組みとなるのだろう。
(レスポンス 池原照雄)
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