ヤリス vs フィット デザイン比較 対照的なインテリアに込められたそれぞれの想い

トヨタ ヤリス(上)とホンダ フィット新型(下)のインパネ
『フィット』と『ヤリス』はインテリアデザインも対照的だ。どちらも水平基調のインパネで左右方向の広がり感を表現し、メーターがデジタルディスプレイという点も共通するが、似ているのはそこまで。では、どこがどう違うのか? その要所を確認し、両車のコンセプトの違いを探ってみよう。


◆フィットは爽快なバイザーレス

新型フィットはメーターバイザーがない。これは大きな特徴だ。おかげでインパネ上面はフラット。実際には微妙に凸の曲面だし、左右対称の曲面でもないのだが、見た目には平らな面が広がる。

このスッキリとしたインパネ上面の向こうにあるのが、極細Aピラーのパノラマ視界だ。Aピラーを大きく前方に延ばすのは初代以来のフィットらしさだが、それが視界の邪魔になる難点が従来はあった。そこで新型は後ろ側のAピラー(ホンダではサポートピラーと呼ぶ)に衝突時の耐力を負担させることで、Aピラーの太さを先代の半分以下に削減。視界からその存在感を消した。

Aピラーの存在感を消し、メーターバイザーもなくす。文字通り邪魔物を排除して、右のサポートピラーから左のサポートピラーまで広がるワイドなパノラマ視界が実現した。90年代からホンダ・デザインは「爽快視界」にこだわってきたが、フィットはその新境地を開拓したと言ってよいだろう。


◆ヤリスはドライバー・オリエンテッド


新型ヤリスのメーターは「双眼鏡型」とでも呼べばよいだろうか? 左右に丸型液晶(基板が円形!)を収めた円筒形状があり、中央は四角いカラー液晶の多機能表示。それらの上にバイザーを設けている。

バイザーは中央のカラー液晶の反射を防ぐための控えめなものだが、大事なのは、それを含めたメータークラスターをひと括りにしていること。インパネ・アッパー部に組み込まれているとはいえ、独立したカタチだ。メータークラスターの存在感はフィットよりずっと強い。


インパネ・アッパー部は前席の左右乗員を包むように湾曲したラウンド形状。ロワー部は逆にヒーコンのある中央が手前に出っ張り、左右は奥まっていくことで広さ感を表現するが、ひとつ注目したいのがコンソールとのつなぎ方だ。

コンソールの助手席側のラインはインパネ・ロワー部に連続するが、運転席側のラインはインパネにつながっていない。それによって表現されるのは、コンソールは(その直上のヒーコンも含めて)ドライバーの領域だということ。これと存在感の強いメーターとの合わせ技で、スポーティなドライバー・オリエンテッド感を醸し出すところがヤリスのインテリアの特徴のひとつだ。


◆フィットが目指した「使う心地よさ」

フィットのインパネはヤリスと違ってラウンド形状ではないし、コンソールを完全に切り離しているから、水平基調の広がり感がより明快だ。さらにフラットなアッパー部(上面)、スラントしたミドル部、薄型のロワー部という構成により、爽快視界にマッチした軽やかさを表現する。ミドル部には安心感のあるボリュームを持たせているが、強めに傾斜させたおかげで圧迫感や重々しさは皆無だ。

そのミドル部は「BASIC」グレードを除いて表皮張り。中核グレードの「HOME」、最上級の「LUXE」ではプライムスムースという合成皮革、「NESS」と「CROSSTAR」ではファブリックを張り込んでいる。乗員にとっていちばん目に入る部位でしっかり質感を見せる作戦。樹脂成形しただけのヤリスに対して大きくリードするところであり、とくにHOMEとLUXEは国産Bセグメントでダントツの内装質感を誇ってきた『マツダ2』に迫る出来栄えだ。


ただ、せっかく表皮張りしたミドル部をインパネの端末まで延ばせば、質感の良さをもっと訴求できただろうし、水平基調の広がり感も強調できたはず。しかしデザイナーたちはそれを承知の上で、インパネ端末にカップホルダーを置いた。プッシュオープン式のカップホルダーであれば、表皮張りを端末まで延ばすことができたが、それもしなかった。

『N-BOX』や『N-WGN』も含めて、日常使いが大事な車種では余計な操作なくスッと置けるオープンなカップホルダーにするのがホンダの方針。先代で廃止した助手席側アッパーボックスを復活させたのも、同じ主旨だ。せっかく表皮張りにしたミドル部がアッパーボックスの開口線で分断されるが、それより日常使いの心地よさを優先してデザインしたのである。


◆ヤリスの決め手はフェルトの素材感

メータークラスターやコンソールのスポーティさ、ユニークな丸型液晶を含むデジタルディスプレイのハイテク感、ラウンドしたインパネ・アッパー部の包まれ感---こうしたヤリスの特徴の背景にあるのが、「スポルテック・コクーン」というデザインコンセプトだ。

コクーン=繭のように乗員を包む意図だから、フィットほどの広々感はない。後席でも、膝前空間は少し負けるし、跳ね上がったベルトラインや前寄りにあるCピラーのために側方視界が制約される。

しかし、なにしろキャビンをギュっと凝縮してスポーティに見せるのがエクステリアの狙い。それと呼応してインテリアは広さよりも包まれ感を重視した。包まれ感は乗員とクルマの一体感を誘うスポーティ表現でもあり、安心・安全を感じさせる要素でもある。

ヤリスのメイン市場である欧州では、コンパクトなBセグメントでも、広さを望む人はSUVを選ぶのがトレンドだ。国内では『アクア』という社内ライバルがいるから、広さはそちらに任せる判断もあったのかもしれない。


コクーンにはさらに、乗員を「温かく包む」という意図も込められている。だから内装色にブラウン系のトープが用意されているわけだが、その温かみを強調するのがドアトリムに張り込んだフェルトだ。

当初はインパネ・ロワー部もフェルト張りにする計画だった。しかしあまり広い範囲にフェルトを使うと温かみが夏場に暑苦しさになってしまうことを懸念し、ドアだけにしたという。それゆえインパネの素材感ではフィットのリードを許す結果になったが、ドアに関しては好勝負。とくにインパネ・ロワー部とドアのフェルト部分の色がトープになるカラーパッケージ仕様は、デザインの当初計画に最も近く、最も完成度の高いコーディネーションとしてお薦めである。

千葉匠|デザインジャーナリスト
デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは12年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

(レスポンス 千葉匠)

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