[WEC 19/20最終戦]勝った方が王者のトヨタ同門対決、小林可夢偉ら7号車トリオが初戴冠

  • チャンピオン獲得を決めた#7 トヨタの(左から)コンウェイ、ロペス、可夢偉。
世界耐久選手権(WEC)の2019/2020シーズン最終第8戦「バーレーン8時間」の決勝レースが現地14日に実施され、「トヨタTS050 HYBRID」7号車の小林可夢偉組が優勝、可夢偉ら3人は初めてWEC-LMPドライバーズチャンピオンの座に就いた。

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、ルマン24時間レースの2020年大会が6月から9月に延期されるなど、紆余曲折しながら進んできたWECの2019/2020シーズン(シーズン8)がついに最終戦を迎えた。シーズン2度目となるバーレーン8時間は、トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing)勢の同門ドライバーズタイトル争い決着の地である。

LMP1とLMP2の両クラスを対象とした「LMPドライバーズチャンピオン」の座を巡る戦いは、前戦ルマンを終えた時点ではランキング3位に位置するLMP1クラスのプライペーター「レベリオン」1号車トリオ(B.セナら)にもわずかな可能性が残っていた。しかし最終戦に彼らは参戦せず、この段階でランキング1~2位を占めるトヨタ勢の戴冠が決まり、既に獲得済みのチーム部門タイトル(こちらはLMP1クラス対象王座)とあわせた2季連続の2冠独占が決定している(トヨタの2冠獲得は2014年シーズンを含めて3回目)。

最終戦のLMP1クラスにエントリーしてきたのは「トヨタTS050 HYBRID」の2台のみ。ドライバーズポイントランキング1位は前戦ルマンを制した8号車(中嶋一貴/S.ブエミ/B.ハートレー)で、ランキング2位の7号車(小林可夢偉/M.コンウェイ/J-M.ロペス)に対するリードは7点である(175対168)。8時間レースの最終戦は優勝38点、決勝2位27点なので、ポールポジション1点の行方に関係なく、事実上「勝った方がチャンピオン」だ。

この接戦状況に、今季もともとはハイブリッドのトヨタ勢とノンハイブリッドのプライベーター勢の戦いを接近させることを主目的にLMP1クラスに導入された「サクセスハンデキャップ」が影響を及ぼす。これはルマン以外のラウンドで、それまでの獲得総得点に応じて各車にハンデが課される制度であり、トヨタ勢同士でもハンデ差が出るのだ。

ポイントリーダーの8号車は今回、1周あたり0.54秒のハンデを僚機7号車に対して負うとされる。つまり、「勝った方がチャンピオン」ということを踏まえると、むしろポイントリーダーの8号車の方が不利ともいえる状況になるのだ。コロナ禍がなければ最終戦はサクセスハンデの適用がないルマンだったわけで、こんなところにも今のご時世ならではの特異現象が顔を出している。

予選では7号車がポールポジションを獲得。サクセスハンデの件もあるが、総合的な仕上がりの面で7号車に一日の長がありそうな雰囲気が予選後のドライバー談話からは窺える。来季から最高峰クラス規定が変更されるためトヨタTS050の最終レースでもある8時間レース決勝(ドライ)も、7号車が8号車をリードする展開で進んでいく。

トヨタTS050にとって集大成のラストラン、レース運びは順調なものに見えた。それは7号車のポール・トゥ・ウインによるタイトル争い決着の流れを意味している。途中、セーフティカー導入により差が詰まることもあったが、7号車の優位は8時間のあいだ、変化しなかったといっていい。最終的には約1分差で、7号車がシーズン4勝目(トヨタとしては6勝目)を飾る。

小林可夢偉、マイク・コンウェイ、ホセ-マリア・ロペスの7号車トリオは、これまでも僚機8号車に負けない走りを演じていたが、肝心なところで勝利の女神に見放されてきた面もあった。その3人が、初のWEC-LMPドライバーズチャンピオンに輝いた。

2019/2020シーズン LMPドライバーズチャンピオン 小林可夢偉のコメント
「日本、そしてドイツのケルン(TGR-Europe拠点)からサポートしてくれた全ての人々に感謝します。振り返れば、2016年からTS050 HYBRIDの開発のために本当にハードワークを続けてくれました。簡単ではありませんでしたが、今となってはこの最高のクルマとともに素晴らしい想い出です」

「チームはルマンを3連覇し、我々は7号車とともに世界チャンピオンを獲得しました。これ以上の結果は望めないでしょう。しかし、これはドライバーだけで成し遂げられた記録ではありません。メカニック、エンジニア、このプロジェクトに携わった全ての人たちのおかげです。本当にありがとうございました」

一方、ルマンに続く連勝で王座も獲得、というシーズン完全制覇を狙った8号車トリオは最終戦2位で王座獲得はならず。中嶋一貴にとっては2季連続2度目、ブエミにとっては2季連続3度目、そして今季からチームに加入したハートレーにとってはポルシェ在籍時代の2015年、17年以来自身3度目となる戴冠は果たせなかった。

中嶋一貴のコメント
「7号車のみんな、チャンピオン獲得おめでとう。彼らはシーズンを通して素晴らしい走りを見せ、タイトルにふさわしい戦いぶりでした。我々もルマンで勝ちましたし、良いシーズンでしたが、この最終戦バーレーンではサクセスハンデに苦戦しました。でも一時は接近して面白いレースにもなりましたし、良い戦いでした。また、シーズンを通して素晴らしい仕事をしてくれたメカニックやエンジニアにも感謝します。今は(次季マシンの)ハイパーカーを初ドライブするのが楽しみです」

トヨタ勢はこの3年間、2018/2019シーズンと2019/2020シーズンという格好の2季でタイトル2冠を2連覇、計3回あったルマン24時間レースですべて総合優勝した。2018/2019シーズンのドライバー部門王座とルマンでの3回の優勝はすべて8号車が手中にしていたが、最後に2019/2020シーズンのドライバー部門王座を7号車が獲得した。

ここ2季のトヨタの覇道の成果をまとめると、下記のようになる。

2018/2019 ドライバー部門王座:8号車(中嶋一貴/S.ブエミ/F.アロンソ)
2018/2019 チーム部門王座:TOYOTA GAZOO Racing

2019/2020 ドライバー部門王座:7号車(小林可夢偉/M.コンウェイ/J-M.ロペス)
2019/2020 チーム部門王座:TOYOTA GAZOO Racing

2018年ルマン24時間レース総合優勝:8号車(中嶋一貴/S.ブエミ/F.アロンソ)
2019年ルマン24時間レース総合優勝:8号車(中嶋一貴/S.ブエミ/F.アロンソ)
2020年ルマン24時間レース総合優勝:8号車(中嶋一貴/S.ブエミ/B.ハートレー)

これまで栄光が8号車に集中していたことは豊田章男トヨタ社長も気になっていたようで、レース後の声明(抜粋)のなかで以下のように語っている。

「ホセ、マイク、可夢偉の乗る7号車には毎回(のように要所で)なにかしらのトラブルを出してしまい、ずっと彼らに悔しい想いをさせてしまっていました。正直に言って、ずっと、このことは気がかりでした。今回、このクルマ(TS050)の最後のレースで7号車が勝利を手にしました。そして(TS050の)最後のシーズンのチャンピオンを7号車が獲ってくれました。3人の笑顔を最後に見られたこと、本当によかったです。ホッとしました」

LMP1-Hという同じ土俵で戦う自動車メーカーがいないという状況の3年(2季)ではあったが、トヨタは技術的な高みを目指し続ける求道者のような姿勢で戦い、同門でかなりのところまで真剣勝負をさせつつ、成果を残してきたことは賞賛に値するといえよう。トヨタTS050 HYBRIDは、これらの栄光と、16年ルマンでの残り数分の悲劇といったドラマの記憶とともに、5年に渡る現役期間を終えたのであった。

なお、トヨタのWEC若手育成プログラムのドライバーで、今季LMP2クラスに参戦してきた山下健太は今回の最終戦には不参戦だった(彼が所属していたチーム自体が今回欠場。ちなみに山下は同日程のスーパーフォーミュラ・九州オートポリス戦に自身のレギュラーシートで出場)。

WECの次季“シーズン9”は2021年シーズンというかたちで実施される。6月のルマンや9月の富士スピードウェイ戦を含む全6戦の予定で、3月開幕となっている。最高峰クラスは「ルマン・ハイパーカー」(LMH)という新規定の時代に移行、トヨタは年明け早々にも新たな“参戦車”を正式発表する予定だ。
  • チャンピオン獲得を決めた#7 トヨタの(左から)コンウェイ、ロペス、可夢偉。
  • #7 トヨタTS050が優勝、チャンピオンの座も手中にした。
  • #7 トヨタTS050(小林可夢偉組)
  • #8 トヨタTS050(中嶋一貴組)
  • 最終戦バーレーンは明るいうちにスタート。
  • やがて夜の闇に包まれて、戦いは進んだ。
  • 勝利と王座獲得を喜ぶ7号車トリオ(後列右には8号車の中嶋一貴)。
  • トヨタGAZOOレーシングは有終の美を飾った。

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