ロールス・ロイス ゴースト 新型試乗 10年ぶりの刷新 "究極の贅沢"は、"脱贅沢"から…
栃木県日光の中禅寺湖畔にこの春オープンした、世界的に有名なラグジュアリーホテルチェーン「ザ・リッツ・カールトン 日光」で行われたのは、この度9月に発表されたロールス・ロイス新型ゴースト(GHOST)のメディア試乗会。
国際試乗会の一環として日本でも開催されたわけだが、なぜ日光なのかという理由を、広報のミッシェル・ローズマリー氏は教えてくれた。ここ日光には2008年まで英国大使別荘があり、明治時代には英国外交官が建てた個人別荘が今は栃木県所有の下、英国大使館別荘記念公園内に残されている。あの紀行作家として知られるイザベラ・バードも滞在したということで、意外にもイギリスとの関係が深い日光。試乗ステージとして選ばれた理由にもすんなりと納得がいった。クルマはもちろん、そしてステージも英国繋がりということで、ロイヤル王朝の気品を感じながらの試乗会がスタートする。
はじめに感じたのは、本当に自分が運転して良いのだろうか、ということだった。恐れ多くもロールス・ロイス。できればショーファーでどこまでも連れて行って欲しい、そう願いたくなる御車だけに、かつてないほど「クルマ」に対しての異様な緊張を覚えた。しかしこの後、そう考える自分をこのクルマはなんとも優しく迎えてくれたのだ。
◆"脱贅沢"と"おもてなし精神"
ホテルエントランスで我々一行を出迎える新型ゴースト。圧倒的存在感を放つのは言うまでもないが、10年振りの刷新となるその姿に不思議と威圧感はなかった。堂々たるプロポーションと気品溢れるデザインは、誰もが知るロールス・ロイスそのものではあるが、どこか優しく落ち着いた印象が漂う。
そう感じさせたのはブリーフィングで流れた映像で語る同社CEOのトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏によるプレゼンが印象的だったからだ。その中で彼は「ポスト・オピュレンス」というフレーズを何度も用いた。聞き慣れない言葉であるが、「脱贅沢」という意味を持つ哲学の考え方らしい。確かに柔らかく落ち着いた雰囲気を醸し出しているのだが、ロールス・ロイスが"脱贅沢"と言われてもどうも腑に落ちない。しかしそれを端的に示しているのがデザインだという。ゴーストのオーナーは、これまでの自身の"大げさなブランディングを控える"という自己表現に変化を起こしている、と同氏は話す。その言葉通り、ボディには過度なラインがなく、車体を上下に分断するさりげなく柔らかなショルダーラインがロールス・ロイスのアイデンティティを感じさせるが、そうした演出も実は”主張しすぎない奥ゆかしさという解釈で、新たなオーナーへ向けてアピールしているかのように見えた。
◆利休とロールス・ロイス
また、インテリアを見ればそれは歴然だ。木目基調のワイドなインパネと、いかにも座り心地の良さそうなシートは確かに垂涎ものだが、華美なデザインというよりも、上品なシンプルさの頂点を極める方向を示唆しているように思えた。ここで千利休のとある茶室が頭を過ぎった。2畳分しかないとされる極狭の薄暗い「待庵」という茶室だ。ここは、茶室内に一点の陽の光が差し込み、飾ってある一輪の花をそっと照らすという究極の雅を演出した間として知られているのだが、それが新型ゴーストの車内天井の星空の演出と見事に被るのだ。夜間の暗い車内に無数の小さな光が満点の星空を演出する様は、見せ方は違えどまるでふたつの空間が究極のおもてなしという観点だけで創られ、共通の価値観が存在しているかのように思えてならない。特別な人をおもてなす特別な空間作りという理念、それはどこか心の平安をもたらす、そんな空間作りの思想がロールス・ロイスにも息づいているように思えた。
◆テクニカルは先代から全てを一新
新型ゴーストのコンポーネントは、先代から受け継いだのはわずか2つ。フライング・レディと呼ばれるエンブレムの"スピリット・オブ・エクスタシー"、そしてドアに仕込まれたアンブレラのみ。つまりそれ以外はイギリス・グッドウッド生まれの先代ゴーストから全てを一新させている。
試乗コースは、中禅寺湖北岸を西へと向かい、金精峠を抜けて群馬県の丸沼高原までのワインディングルートと、宇都宮までの高速ルートのふたつが用意された。新型ゴーストに搭載されるエンジンはV12の6.75リッター(最高出力571ps /最大トルク850Nm)というハイパワースペック。至極滑らかなに噴き上がるのは当然で、ワインディングではアクセルを踏み足すと景色は一変した。まるで余暇にヨーロッパの山間部を駆け抜けていく、そんなリッチな気分を想像したくなる。さらに、GPSで前方のカーブを読み取り、最適なギアを選択してくれる新搭載の「サテライト・エイデッド・トランスミッション」は躊躇なくゴーストを峠へと押し進めてくれる。ステアリングフィールは適度な重さとしっかりとした手応え感があるが、ハンドリングは想像以上にクイックだ。とにかく運転がしやすいことに驚かされた。
車内の静寂ぶりも「動く貴賓室」そのものだ。エンジンが"ささやいている"と言った方が良いのかもしれない。それくらいのわずかな音が聞こえる程度だ。その遮音性には合計100kgもの防音素材を使用しているとのことで、「静粛性の方程式」を知るロールス・ロイスの拘りと言える。
高速道路でもそのボディサイズ(全長5,545mm 全幅2,000mm 全高1,570mm 車重2,540kg ※サンルーフ装着車は2,590kg)からは到底想像つかない軽快な走りが楽しめた。まさに極上フィーリングだ。前述した滑らかな噴き上がりはもちろん、巡航時は旅客機が上空で安定飛行しているときの、まるで浮遊しているかのような感覚だ。ただロールス・ロイスではこれを「マジック・カーペット・ライド」と呼ぶ。確かに魔法の絨毯の方が素敵な例えだ。
◆乗り心地への飽くなき探求精神
後席にも座ってみたのだが、いつ眠りに落ちてもおかしくないほどの乗り心地の良さが提供される。この乗り心地の良さには大幅なメスが入っていることもお伝えしなければならない。今回刷新された「プラナー・サスペンション・システム」は、通常のフロントサスペンションのウィッシュボーン部にダンパーを装着し、さらなる安定感と快適性を狙った世界初の「アッパー・ウィッシュボーン・ダンパー」という仕組みが採用され、ボディへのエネルギー伝達を抑える働きをしている。そして、これに連動してフロントガラスに一体化されたステレオカメラが前方の路面状況を検知してサスペンションを最適化する技術も盛り込まれており、一貫した「乗り心地への飽くなき探求精神」というのが、ロールス・ロイスの根底にあるのは確かだ。
千利休のおもてなし精神と、どこか通ずる感じがするロールス・ロイスの理念。そのクルマづくりは意外にも日本人が共感できるエッセンスがふんだんに盛り込まれていることに気付かされた試乗会だった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
国際試乗会の一環として日本でも開催されたわけだが、なぜ日光なのかという理由を、広報のミッシェル・ローズマリー氏は教えてくれた。ここ日光には2008年まで英国大使別荘があり、明治時代には英国外交官が建てた個人別荘が今は栃木県所有の下、英国大使館別荘記念公園内に残されている。あの紀行作家として知られるイザベラ・バードも滞在したということで、意外にもイギリスとの関係が深い日光。試乗ステージとして選ばれた理由にもすんなりと納得がいった。クルマはもちろん、そしてステージも英国繋がりということで、ロイヤル王朝の気品を感じながらの試乗会がスタートする。
はじめに感じたのは、本当に自分が運転して良いのだろうか、ということだった。恐れ多くもロールス・ロイス。できればショーファーでどこまでも連れて行って欲しい、そう願いたくなる御車だけに、かつてないほど「クルマ」に対しての異様な緊張を覚えた。しかしこの後、そう考える自分をこのクルマはなんとも優しく迎えてくれたのだ。
◆"脱贅沢"と"おもてなし精神"
ホテルエントランスで我々一行を出迎える新型ゴースト。圧倒的存在感を放つのは言うまでもないが、10年振りの刷新となるその姿に不思議と威圧感はなかった。堂々たるプロポーションと気品溢れるデザインは、誰もが知るロールス・ロイスそのものではあるが、どこか優しく落ち着いた印象が漂う。
そう感じさせたのはブリーフィングで流れた映像で語る同社CEOのトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏によるプレゼンが印象的だったからだ。その中で彼は「ポスト・オピュレンス」というフレーズを何度も用いた。聞き慣れない言葉であるが、「脱贅沢」という意味を持つ哲学の考え方らしい。確かに柔らかく落ち着いた雰囲気を醸し出しているのだが、ロールス・ロイスが"脱贅沢"と言われてもどうも腑に落ちない。しかしそれを端的に示しているのがデザインだという。ゴーストのオーナーは、これまでの自身の"大げさなブランディングを控える"という自己表現に変化を起こしている、と同氏は話す。その言葉通り、ボディには過度なラインがなく、車体を上下に分断するさりげなく柔らかなショルダーラインがロールス・ロイスのアイデンティティを感じさせるが、そうした演出も実は”主張しすぎない奥ゆかしさという解釈で、新たなオーナーへ向けてアピールしているかのように見えた。
◆利休とロールス・ロイス
また、インテリアを見ればそれは歴然だ。木目基調のワイドなインパネと、いかにも座り心地の良さそうなシートは確かに垂涎ものだが、華美なデザインというよりも、上品なシンプルさの頂点を極める方向を示唆しているように思えた。ここで千利休のとある茶室が頭を過ぎった。2畳分しかないとされる極狭の薄暗い「待庵」という茶室だ。ここは、茶室内に一点の陽の光が差し込み、飾ってある一輪の花をそっと照らすという究極の雅を演出した間として知られているのだが、それが新型ゴーストの車内天井の星空の演出と見事に被るのだ。夜間の暗い車内に無数の小さな光が満点の星空を演出する様は、見せ方は違えどまるでふたつの空間が究極のおもてなしという観点だけで創られ、共通の価値観が存在しているかのように思えてならない。特別な人をおもてなす特別な空間作りという理念、それはどこか心の平安をもたらす、そんな空間作りの思想がロールス・ロイスにも息づいているように思えた。
◆テクニカルは先代から全てを一新
新型ゴーストのコンポーネントは、先代から受け継いだのはわずか2つ。フライング・レディと呼ばれるエンブレムの"スピリット・オブ・エクスタシー"、そしてドアに仕込まれたアンブレラのみ。つまりそれ以外はイギリス・グッドウッド生まれの先代ゴーストから全てを一新させている。
試乗コースは、中禅寺湖北岸を西へと向かい、金精峠を抜けて群馬県の丸沼高原までのワインディングルートと、宇都宮までの高速ルートのふたつが用意された。新型ゴーストに搭載されるエンジンはV12の6.75リッター(最高出力571ps /最大トルク850Nm)というハイパワースペック。至極滑らかなに噴き上がるのは当然で、ワインディングではアクセルを踏み足すと景色は一変した。まるで余暇にヨーロッパの山間部を駆け抜けていく、そんなリッチな気分を想像したくなる。さらに、GPSで前方のカーブを読み取り、最適なギアを選択してくれる新搭載の「サテライト・エイデッド・トランスミッション」は躊躇なくゴーストを峠へと押し進めてくれる。ステアリングフィールは適度な重さとしっかりとした手応え感があるが、ハンドリングは想像以上にクイックだ。とにかく運転がしやすいことに驚かされた。
車内の静寂ぶりも「動く貴賓室」そのものだ。エンジンが"ささやいている"と言った方が良いのかもしれない。それくらいのわずかな音が聞こえる程度だ。その遮音性には合計100kgもの防音素材を使用しているとのことで、「静粛性の方程式」を知るロールス・ロイスの拘りと言える。
高速道路でもそのボディサイズ(全長5,545mm 全幅2,000mm 全高1,570mm 車重2,540kg ※サンルーフ装着車は2,590kg)からは到底想像つかない軽快な走りが楽しめた。まさに極上フィーリングだ。前述した滑らかな噴き上がりはもちろん、巡航時は旅客機が上空で安定飛行しているときの、まるで浮遊しているかのような感覚だ。ただロールス・ロイスではこれを「マジック・カーペット・ライド」と呼ぶ。確かに魔法の絨毯の方が素敵な例えだ。
◆乗り心地への飽くなき探求精神
後席にも座ってみたのだが、いつ眠りに落ちてもおかしくないほどの乗り心地の良さが提供される。この乗り心地の良さには大幅なメスが入っていることもお伝えしなければならない。今回刷新された「プラナー・サスペンション・システム」は、通常のフロントサスペンションのウィッシュボーン部にダンパーを装着し、さらなる安定感と快適性を狙った世界初の「アッパー・ウィッシュボーン・ダンパー」という仕組みが採用され、ボディへのエネルギー伝達を抑える働きをしている。そして、これに連動してフロントガラスに一体化されたステレオカメラが前方の路面状況を検知してサスペンションを最適化する技術も盛り込まれており、一貫した「乗り心地への飽くなき探求精神」というのが、ロールス・ロイスの根底にあるのは確かだ。
千利休のおもてなし精神と、どこか通ずる感じがするロールス・ロイスの理念。そのクルマづくりは意外にも日本人が共感できるエッセンスがふんだんに盛り込まれていることに気付かされた試乗会だった。
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