2020年ウォッチ コロナで明暗が分かれた決算発表---危機を脱したトヨタ

“五輪イヤー”の幕開けのつもりだった2020年新年は、早々にゴーン被告の逃亡事件のほか、自動車産業の未来に強烈なインパクトを与えそうなビッグニュースも飛び込んできた。サプライズを仕掛けたのはモビリティカンパニーに突き進むトヨタ自動車で、豊田章男社長が渡米し、ラスベガスの見本市「CES 2020」でモビリティ社会を実証する未来都市「ウーブン・シティ構想」をぶち上げた。

●街を作る

NTTをはじめ多くの企業と手を組み、富士山麓の裾野で実験都市を計画。自動運転、高度な情報通信、地下物流など、未来都市にかかわるファクターを盛り込み、社員家族ら数千人が実際に暮らすことで得られたデータをAIで解析、将来のビジネスチャンスを発掘するという夢を追う壮大なプロジェクトだ。その発表の日は、日本では豊田社長が会長を務める日本自動車工業会など自動車団体の賀詞交歓会が行われたが、年頭のあいさつを御子柴寿昭副会長(ホンダ会長)が“代行”。会場では「新年早々、ゴーン被告も豊田社長も海外“逃亡”」という話のネタに大いに沸き返っていたのを思い出す。

あれから1年、新型コロナの感染が世界に蔓延し、世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長が「パンデミック」を宣言したのは3月11日のこと。日本でも2月に帰港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」でも多数の感染者が発生するなど混乱が広がって事態が急変、新年早々からメディアが大騒ぎしたゴーン事件も、次第に洟も引っ掛けなくなった。特効薬もなくワクチン開発や収束のメドが見通せずに世界で猛威を振るうコロナ感染の脅威に比べれば、ゴーン被告の海外逃亡などは「コップの中の嵐」に過ぎない出来事に思えるからだ。

●意気込みを伝えたかった豊田社長

コロナの脅威は、自動車業界にも想像を絶するほどの甚大な影響を被った。都市封鎖や外出自粛でリモートワークを強いられ、自動車の生産が滞ったり、販売台数が落ち込んだ。2020年3月期決算ではすべての完成車メーカーが業績を大幅に落とした。5月の決算発表でトヨタの豊田社長は「(新型コロナの影響は)リーマン・ショックよりも、インパクトが大きい」と危機感を示した。

それでも各社が今期の業績予想を「未定」としたのに対し、トヨタはグループの2021年3月期の世界販売台数を、前期比15%減の890万台、営業利益は、同79.5%減の5000億円の黒字にとどまると発表。視界不良の厳しい中でも「歯を食いしばりながら赤字転落は回避したい」(豊田社長)との意気込みを伝えたかったからだが、翌朝の新聞各紙は1面トップで「コロナ直撃、トヨタ苦境鮮明、今期8割減益」などと、ネガティブに報じていたのは、さぞかし無念だったに違いない。

ただ、半年が過ぎて、自動車業界を取り巻く環境は様変わり。乗用車7社の20年9月中間決算ではトヨタ、ホンダ、スズキ、スバルが最終黒字を確保。とくに目立つのはトヨタで、通期営業利益予想を1兆3000億円に引き上げるなど「独り勝ち」が鮮明になった。それに対してコロナとは別にゴーン時代の後遺症で経営不振が続く日産自動車と三菱自動車,それにマツダの3社は赤字を計上し、明暗が分かれた。通期の予想も日産が3400億円、三菱自で1400億円の巨額赤字になる見通しで、両社とも構造改善計画を発表して拡大路線の転換に乗り出した。

●オンライン発表会やテレワークが普通に

緊急事態宣言後は各社の決算会見や新車発表などは電話やインターネットでのオンライン形式に切り替わった。いわば“実像”ではなく“虚像”のモニターの画面を介しての発表では微妙な表情まで読み取れないばかりか、会見後にも “囲み取材”ができないために真意もくみとりにくい。しかもセキュリティやネット回線の問題で参加者は事前登録が必要で人数にも制限があり、コミュニケーション不足に加えて一部のメディアを除いて企業との “分断”も懸念される。

一方で、在宅勤務などの社員にとっては、インターネットは生命線だが、テレワークの推進に水を差すようなトラブルも発生した。6月にはホンダが全世界の従業員とつながる社内ネットワークシステムがサイバー攻撃を受けて全社員のパソコンが突然ダウンし、業務連絡が途絶えた。コロナ感染の防止対策ばかりでなく、ネットワークのセキュリティ対策も徹底する必要もある。

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