【池原照雄の単眼複眼】再生エネを自ら造るトヨタの新EV…スタンダードとしたい技術
◆電動車での蓄積生かしたプラクティカルなクルマ造り
トヨタ自動車が2022年半ばに世界で売りだす電気自動車(BEV=バッテリーEV)の第1弾、『bZ4X』の詳細を公表した。バッテリーの長寿命化など、これまで培ってきた電動車での技術蓄積を生かし、同社ならではの実際的(プラクティカル)なクルマ造りが随所に見られる。なかでも、年間1800km走行分の電気を生み出すオプション設定の「ルーフソーラーパネル」は魅力的な存在だ。
このBEVの新シリーズはSUBARU(スバル)との共同開発によるもので、トヨタの電動車アーキテクチャーである「e-TNGA」に基づく専用のプラットフォーム(車台)を立ち上げるとともに、4WD車(4輪駆動車)はスバルのAWD技術を採用するなど、両社が得意とする技術を集結させている。
車名に冠した「bZ」は「ビヨンド ゼロ」の略であり、トヨタは「単なるゼロエミッションを越えた価値」の提供を新シリーズに託していく。第1弾の『bZ4X』はミッドサイズのSUVだが、25年までにこのシリーズで7車種を投入し、フルライン化を図る。車名はbZを共通に、数字は車体サイズを示し、末尾のアルファベットはセダンやSUVなど車型で使い分けていく計画だ。
BEVの性能やコストを左右するバッテリー(リチウムイオン電池)の容量(総電力)は、『bZ4X』では71.4kWhとした。既存モデルでは『RAV4』並みの大きめのクルマなので、バッテリーも十分搭載している。1充電当たりの走行距離(WLTCモードでの社内測定値)はFWD車(前輪駆動車)が500km前後、4WD車が460km前後と、充電ステーションの在りかを余り気にせずに遠出できる性能だ。
◆プリウスPHEVで確立したソーラー発電で走る技術を横展開
同時に、こうした電費(エンジン車の燃費に相当)が季節によって大きく変動しないような取り組みも行っている。BEVでは、とくに暖房のエネルギー消費により、冬場の航続距離が短くなるという課題がある。ガソリン車のように副産物であるラジエーターの温水を熱源には使えず、電気に依存するしかないからだ。『bZ4X』では空力性能の追求や電動ユニットの軽量化などに加え、新たにヒートポンプエアコンや前席足元の輻射ヒーターといった省エネ型の暖房対策で改善している。
また、長もちするバッテリー性能も追求している。使い始めから10年後または走行距離24万kmまで(いずれか先に到達した場合)の容量維持率が世界トップレベルの90%となることを開発の目標に設定したのだ。このように1990年代からハイブリッド車(HEV)やバッテリーの開発・生産に取り組んできた同社の知見が『bZ4X』には随所に反映されている。
注目の太陽光発電ユニットを張り付けたルーフソーラーパネルもそのひとつとなる。これは17年2月に発売した2代目の『プリウスPHEV(プラグインハイブリッド車)』に採用されたものだ。駐車時に発電した電気は走行用のバッテリーに蓄え、走行時の発電分については照明やオーディオなど補機用のバッテリーに供給する仕組み。量産車でソーラー発電を走行エネルギーに使うのは、これが世界初となった。
◆再生エネを造る「自立力」をもったユニークな存在に
トヨタの社内組織「トヨタZEVファクトリー」のチーフエンジニアで、『プリウス』シリーズの開発責任者も務めた豊島浩氏は「充電しなくていいPHEVを造りたいと手掛けた。プリウスPHEVではおよそ年間1000kmの走行ができるが、今回は技術進化も織り込んで1800kmになった。日本では年間1万kmの走行が一般的なので、その2割近くを再生エネで走ることができる」と話す。
クルマ自らが造り出す電気で走るだけでなく、災害時などエネルギー供給が途絶えた時にも、ルーフソーラーパネルは威力を発揮するので心強い。トヨタによるとソーラーパネルの発電能力は、プリウスPHEV用が0.179kWだが、『bZ4X』では約25%高めた0.225kWにしている。年間走行可能距離については、「名古屋市の10年分の日照データの年平均値を基に充電量をはじき、WLTCモードでの電費を社内算定している」(広報部)という。
製造過程の環境負荷で見た場合、通常の鋼板を塗装したルーフよりも、ソーラーパネルのルーフは使用エネルギーが多くなる。LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点から、ソーラーパネルのルーフが環境負荷で優位性をもつための条件は、使用環境に大きく左右されるので、筆者の力では算定し難い。ただ、ある期間を超えて長く使うことで確実にCO2削減に寄与できるし、電費の節約や電力供給が途絶えた時のバックアップは魅力だ。
プリウスPHEVの場合、ソーラーパネル装着のオプション費用(税込み)は28万6000円なので、恐らく『bZ4X』では30万円余りとなるのではないか。再生可能エネルギーを自ら生み出すという一定の「自立力」をもったBEVは、ユニークな存在になれる。『bZ4X』に続くbZシリーズでも設定してほしいし、スタンダードなオプション技術として育っていく予感がする。
トヨタ自動車が2022年半ばに世界で売りだす電気自動車(BEV=バッテリーEV)の第1弾、『bZ4X』の詳細を公表した。バッテリーの長寿命化など、これまで培ってきた電動車での技術蓄積を生かし、同社ならではの実際的(プラクティカル)なクルマ造りが随所に見られる。なかでも、年間1800km走行分の電気を生み出すオプション設定の「ルーフソーラーパネル」は魅力的な存在だ。
このBEVの新シリーズはSUBARU(スバル)との共同開発によるもので、トヨタの電動車アーキテクチャーである「e-TNGA」に基づく専用のプラットフォーム(車台)を立ち上げるとともに、4WD車(4輪駆動車)はスバルのAWD技術を採用するなど、両社が得意とする技術を集結させている。
車名に冠した「bZ」は「ビヨンド ゼロ」の略であり、トヨタは「単なるゼロエミッションを越えた価値」の提供を新シリーズに託していく。第1弾の『bZ4X』はミッドサイズのSUVだが、25年までにこのシリーズで7車種を投入し、フルライン化を図る。車名はbZを共通に、数字は車体サイズを示し、末尾のアルファベットはセダンやSUVなど車型で使い分けていく計画だ。
BEVの性能やコストを左右するバッテリー(リチウムイオン電池)の容量(総電力)は、『bZ4X』では71.4kWhとした。既存モデルでは『RAV4』並みの大きめのクルマなので、バッテリーも十分搭載している。1充電当たりの走行距離(WLTCモードでの社内測定値)はFWD車(前輪駆動車)が500km前後、4WD車が460km前後と、充電ステーションの在りかを余り気にせずに遠出できる性能だ。
◆プリウスPHEVで確立したソーラー発電で走る技術を横展開
同時に、こうした電費(エンジン車の燃費に相当)が季節によって大きく変動しないような取り組みも行っている。BEVでは、とくに暖房のエネルギー消費により、冬場の航続距離が短くなるという課題がある。ガソリン車のように副産物であるラジエーターの温水を熱源には使えず、電気に依存するしかないからだ。『bZ4X』では空力性能の追求や電動ユニットの軽量化などに加え、新たにヒートポンプエアコンや前席足元の輻射ヒーターといった省エネ型の暖房対策で改善している。
また、長もちするバッテリー性能も追求している。使い始めから10年後または走行距離24万kmまで(いずれか先に到達した場合)の容量維持率が世界トップレベルの90%となることを開発の目標に設定したのだ。このように1990年代からハイブリッド車(HEV)やバッテリーの開発・生産に取り組んできた同社の知見が『bZ4X』には随所に反映されている。
注目の太陽光発電ユニットを張り付けたルーフソーラーパネルもそのひとつとなる。これは17年2月に発売した2代目の『プリウスPHEV(プラグインハイブリッド車)』に採用されたものだ。駐車時に発電した電気は走行用のバッテリーに蓄え、走行時の発電分については照明やオーディオなど補機用のバッテリーに供給する仕組み。量産車でソーラー発電を走行エネルギーに使うのは、これが世界初となった。
◆再生エネを造る「自立力」をもったユニークな存在に
トヨタの社内組織「トヨタZEVファクトリー」のチーフエンジニアで、『プリウス』シリーズの開発責任者も務めた豊島浩氏は「充電しなくていいPHEVを造りたいと手掛けた。プリウスPHEVではおよそ年間1000kmの走行ができるが、今回は技術進化も織り込んで1800kmになった。日本では年間1万kmの走行が一般的なので、その2割近くを再生エネで走ることができる」と話す。
クルマ自らが造り出す電気で走るだけでなく、災害時などエネルギー供給が途絶えた時にも、ルーフソーラーパネルは威力を発揮するので心強い。トヨタによるとソーラーパネルの発電能力は、プリウスPHEV用が0.179kWだが、『bZ4X』では約25%高めた0.225kWにしている。年間走行可能距離については、「名古屋市の10年分の日照データの年平均値を基に充電量をはじき、WLTCモードでの電費を社内算定している」(広報部)という。
製造過程の環境負荷で見た場合、通常の鋼板を塗装したルーフよりも、ソーラーパネルのルーフは使用エネルギーが多くなる。LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点から、ソーラーパネルのルーフが環境負荷で優位性をもつための条件は、使用環境に大きく左右されるので、筆者の力では算定し難い。ただ、ある期間を超えて長く使うことで確実にCO2削減に寄与できるし、電費の節約や電力供給が途絶えた時のバックアップは魅力だ。
プリウスPHEVの場合、ソーラーパネル装着のオプション費用(税込み)は28万6000円なので、恐らく『bZ4X』では30万円余りとなるのではないか。再生可能エネルギーを自ら生み出すという一定の「自立力」をもったBEVは、ユニークな存在になれる。『bZ4X』に続くbZシリーズでも設定してほしいし、スタンダードなオプション技術として育っていく予感がする。
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