bZシリーズ発表、レクサスBEVブランド化、生産台数上方修正…トヨタBEV戦略は手のひら返し?

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トヨタ自動車が14日、EV戦略をアップデートして発表した。主な内容は、2030年までにBEV(バッテリーEV)のグローバルでの生産台数を350万台に。バッテリー関連の投資を1兆5000億円から2兆円に。BEV車両開発に2兆円。bZシリーズのラインナップ拡充などだ。その概要と意味を考えてみたい。

◆国内ディーラーにも急速充電器を整備・解放する
トヨタのEV戦略は、グローバルで1000万台規模の生産台数のうち800万台を電動化にすること、BEV+FCVの2030年までの販売台数を200万台とする計画、バッテリー技術への1兆5000億円の投資計画、CATLとのバッテリー供給に関する包括契約、BYDとのBEV製造に関する中国現地合弁プロジェクト、豊田通商によるリチウム開発事業などが発表されている。14日の発表では、これらに加え、よりプロダクツに特化した内容が目立つ。

記者発表冒頭では、すでに発表済みの『bZ4X』のシリーズとして、コンパクトSUV、スモールSUV、スモールコンパクトBEVの3車種を数年以内に市場投入することを発表した。2030年までにはBEVモデルをグローバル30車種まで広げることも合わせて発表し、会場には合計16台もの次期BEVが並べられた。

これらの中には北米向けと思われるピックアップトラックやEU向けデリバリーバン、オフロード4WDタイプの車両もあり、「グローバルでフルラインナップを展開するトヨタはBEVでも手を抜かない」という豊田章男社長の言葉を製品ラインナップで示すものだ。

16台のうちにはレクサスブランドの新しいBEVも含まれていた。『RZ』というクロスオーバーSUVや『LFA』をベースにしたと思われるスポーツタイプのBEVが紹介された。また、レクサスについては、2030年までにすべてのカテゴリーでBEVのラインナップを実現し、欧州、北米、中国でBEV100%、グローバルで100万台の販売を目指し、さらに2035年には、グローバルでBEV100%を目指すことも発表された。

会場で披露された車両はどれも市販前のモックアップと思われるが、トヨタはすべての車両は数年以内に市場投入するとした。

日本市場に直接かかわる発表としては、国内ディーラの急速充電器整備についても質疑応答の中で言及された。2025年までに国内トヨタディーラーに急速充電器(DCチャージャー)を整備するとし、さらにこれらは他社BEVにも解放される予定もあるという。日産は国内ディーラーのDCチャージャー配備が進んでおり、24時間公共充電器として解放されているところも多い。

◆BEV否定論者を否定したかったトヨタ
今回の発表で強調されたのは、「トヨタはBEV化に後ろ向きではない」ということ。このメッセージはとくに海外市場に向けて発信されたものと思われる。BEVや電動化に関する課題や問題(資源・エネルギー・商品力)は、グローバルでも日本でも本質的に変わることはない。日本と海外市場で違いがあるとしたら、脱炭素・カーボンニュートラルに対する取り組みや目標の考え方だ。

日本はエネルギー政策的に急激な電動化はできないという立場で、目標設定や戦略決定を明確にすることを避けてきた。脱炭素は必要だが電動化は先延ばししたい。あわよくば電動化の動きを阻止できれば今の産業構造を維持できる、という本音も見え隠れする戦略だ。海外は、エネルギーやベースロード電力などの問題を認識しつつ、痛みを伴っても産業構造を脱炭素にシフトしなければ長期的な成長維持ができないという判断をしている。

政府がエネルギー政策や産業政策に明確な方向性を示すことができれば、産業界もひとつの指標として追従しやすいが、資源国でない日本の場合、エネルギーミックスはリスク分散上、必然のため、電動化車両に対して全方位戦略を取らざるを得ない状況がある。対して、とくにEUは再生可能エネルギーのリスクを承知のうえ、高い目標を設定し政府(EU)の支援もコミットする。産業界も個別ロードマップの違いはあっても脱炭素やEVシフトを言いやすい。

目標設定も、日本(トヨタ)は軽はずみにコミットできない数字は発表しないが、欧米は高い目標を掲げてそれを達成する方策を考えていくスタイルだ(少なくとも脱炭素政策においては)。

これらの違いが、「日本は脱炭素に積極的でない」「EV否定論者だ」という評価につながっている。

◆急激な市場変化に応えるための戦略
戦略や国策の違いで、どちらがいい悪いの問題ではない。しかし、今回トヨタが発表の中であえてHEVという言葉を極力排し、BEVシフトを強調してきたのは、この1~2年の市場の急激な変化を感じたからだ。EV市場では、いまのところプレミアムカーからビジネスが広がっている。オーナー層の環境意識や先進テクノロジーへの感度が高いという側面があるからだ。レクサスが欧米中で100% BEV化すると発表したのは、グローバルでの市場の動きを受けてのものだ。BEVの台数を350万台に上方修正したのも、トヨタとしては市場の手応えを感じて、この数字なら達成できると踏んだからだ。

ライバル各社が2025年から35年のスパンでアグレッシブな電動化戦略、販売目標を掲げている。当然それに合わせて各社は新型EVの開発を着々と進めている。25年ごろの新型車ならば、このタイミングで商品企画が動いていないといけないタイミングだ。トヨタとしても、いまからBEVを仕込んでおかないと、グローバルで販売するタマがなくなる。そのためには、BEVの新型車開発に力を入れるだけでなく、市場からの評価も変える必要がある。トヨタはBEV否定派ではないというメッセージだ。

◆BEVシフトは手のひら返しなのか
このメッセージはおそらく多くの関係者に伝わったことだろう。発表直後で定量的な分析はできないが、発表を聞いた人は「トヨタが本気でEVを出す」という認識を持ったはずだ。これはトヨタの方針転換ではない。グローバルでフルラインナップを展開するトヨタは、発表の場でHEV、FCV、水素やバイオフューエルエンジンも辞めないとも明言している。「答えがない市場に選択肢を提供する」ためだが、ここは以前からブレていない。

プレゼン動画の中で豊田章男社長が、試作のレクサスRZ(BEV)を運転して、その加速性能にはしゃぐ場面が流れた。あの反応はクルマ好きのそれである。質疑応答の中では「いままでのBEVはあまり好きではなかったが、これからのBEVは市場に出して十分のたしいもので積極的に販売できるものだ」とも発言している。

自社からは方向性は示さず、ユーザーの声に応える形で既存の製品を超える製品を出すのがトヨタの伝統的スタイルだ。先駆者にはならないが、改善で市場を制覇するのがトヨタのお家芸でもある。後出し正義の戦略だが、変革期には主導権やイニシアティブを発揮しない戦略ともいえる。ユーザー主体の戦略は押し付けでないよいマーケティングだが、ユーザーの夢や新しい体験を提案・提供する感動は与えにくい。

今回トヨタのメッセージを、手のひら返しととるか、これまでどおり市場が熟したので参入してきた“トヨタセオリー”どおりと解釈するかは意見が分かれるところだろう。だが、EV市場が本格的に開花したとトヨタが判断したことは間違いない。

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  • BEV戦略を発表する豊田章男社長
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  • 航続700km、レクサスのスポーツBEV
  • トヨタがバッテリーEV戦略を発表 《写真撮影 三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY》

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