【レクサス LX 新型】「Gクラスと同じ方向を目指すことが正しいのか」チーフエンジニア[インタビュー]
レクサスのフラッグシップSUV、『LX』がフルモデルチェンジした。この新型LXはレクサスのネクストチャプター第2弾として、これまでのLXとは違う視点も入れて開発されたという。開発責任者であるレクサスインターナショナル製品企画チーフエンジニアの横尾貴己氏に、その思いについて話を聞いた。
独自のポジションから多くの方の選択肢になるように
----:LXはこれまで3代に渡りレクサスのフラッグシップSUVとして君臨してきました。横尾さんが4代目となる新型LXの開発責任者になられた時、初めにどう思われましたか。
横尾貴己氏(以下敬称略):立場としては、開発当初はアシスタントチーフエンジニア、社内ではチーフエンジニア(CE)付きとして2017年くらいからスタートしました。そこから2019年に私が開発責任者に任命されましたので、既に作り上げていこうとしてるものの責任ある立場になったという感覚です。
私が車両の開発、製品企画という部署に配属になったのは2014年からです。それまでは駆動系の開発にいまして、そこから全体を見る立場になったんです。ちょうどLXのビッグマイナーチェンジの頃で、2015年からです。当時は別のチーフエンジニアが担当していました。LXは導入当初くらいということもあり、その方とともにレクサスブランドに対する統一感や考え方に関して、一緒に勉強しながら徐々にやっていたような感じはありました。
LXは、従来モデルも含めて特殊なポジションだったんです。セダン系は分かりやすく『IS』、『GS』、『LS』。SUV系は『NX』、『RX』とありましたが、それらの方向とLXはまた違うところにありました。以前は『ランドクルーザー』のレクサス版を作ろうという考えだったのです。
----:そこからフルモデルチェンジのLXを作るにあたり、どんなクルマにしたいと考えたのでしょう。
横尾:これもスタート、ドン!と始まったわけではないんです。特に基本骨格、プラットフォームなどはすでに始まっている状態でした。そんな中で、いまお話した特殊なポジションではなく、せっかくどこにでも行ける能力を持っているクルマだからこそ、多くの方の選択肢になりうるクルマにしたいという思いはありました。
Gクラスと同じような方向を目指すことが正しいのか
----:これまで特殊なポジションにいたことは、ユーザーから見るとLX独自のポジションとも考えられます。一方、RXなどのレクサスのSUVでは、多くの人が好みそうなクルマとして、それぞれのポジションが作られてきました。それらのキャラクターを近づけるようなことにもなりかねないと思うのですが、いかがでしょう。
横尾:重要視すべきはレクサスブランド全体の方向です。例えば、よく引き合いに出していただけるのがメルセデスの中の『Gクラス』です。あれはもう、メルセデスではなく「Gクラスそのもの」ですよね。あのクルマが良いという方達が購入しているわけです。確かにLXは少し似たようなポジション取りをしていたと思います。
そしていま、ネクストチャプターに向かっているレクサスの中で、LXがGクラスと同じような方向を目指すことがレクサスブランド全体として正しいのかを考えると、やはりLXもレクサスブランドそのものであってほしい。そしてその中の選択肢として捉えていただけるクルマであるということが、1番大事なのです。いま、ネクストチャプターとして、より強い商品や、多様なニーズにお応えするという言葉を使っていますが、よりブランドを強くすることのひとつとして、個車がそれぞれ好き勝手なことをやるのではなく、乗り味や、世界観などから、例えばポルシェだったらこうだねというように、レクサスだったらこうだよねとしていきたい。そういったことを従来よりももっとしっかりとお客さまに伝わることを目指しています。
----:レクサスという1本の道があるとすれば、そこにそれぞれのクルマが綺麗に並んでいて、これまではその線上からは離れたところにLXがいた。それが、新型ではその線上に近づけていくというイメージなのでしょうか。
横尾:なかなか難しいところもあって、そうしていくと、それこそ同じ顔の同じようなものがサイズ違いで出来ていくということにもなりかねません。でも決してそれを狙っているわけではないんですね。なので共通した、特に走りに力を入れています。走りの味というものは共通して持たせつつ、各々のモデルの個性は、逆に、しっかり大事にしようというのがいまのレクサスの考え方です。
信頼性、耐久性、悪路走破性
----:では、LXの個性とはどういうものなのですか。
横尾:やはり、これはもう従来モデルからずっと続いてきている、信頼性、耐久性、悪路走破性。これは私から必ず口癖のように出てきます(笑)。これこそが従来のお客様、全世界のお客様からご評価いただいている根本の部分で、これだけは絶対に変えてはならないという思いがあります。そこがまずLXとしては絶対に守りながら開発をスタートしています。
----:それをベースにレクサスとしての味付けをしていくわけですが、具体的にはどういうものですか。
横尾:レクサスが目指す走りの味というのは、これはマスタードライバーの豊田(豊田章男社長)が常々話しているんですが、対話の出来るクルマです。それはどういうことかというと、ドライバーが操作をして思ったとおりに動いてくれ、そして反応が返ってくるといったことを重視しています。従来モデルでそういう見方をすると、当然良いクルマですが、ある程度の遅れや、気を遣う運転をしないといけないクルマでもありました。そこのところを、フレームの構造はしっかりと残しながら、ブランドとして目指す方向にして行く。それがすごく難しかったですね。
そして、今度は実際に活用した「武器」の話になるのですが、従来型でも採用していたアクティブハイトコントロール(AHC)というデバイスをより進化させました。運動性能に関してですが、オフロードは置いておいて、クルマの重心はやはり低くなる方が良い方向に働きます。ですので、AHCを上手く武器として使おうとしたのです。新旧をよくよく見比べていただくと、まずオンロードで走る時の車高自体は新型の方が低くなっています。その代わり、オフロードを走るときはしっかりと車高を上げるという考え方に変えているのです。
フルモデルチェンジだから出来ること
----:レクサスLXの市場状況について教えてください。
横尾:メインのマーケットは中東で5割ほど。続いて約2割がロシアです。北米はそこまで数はありません。サイズ感としてもっと大きいクルマたちが北米には多く、かつオフロードの性能を必要としないSUVが多く存在しているからのようです。
----:新型を開発するにあたり先代の振り返りもされたと思いますが、先代ユーザーからの評価はいかがでしたか。
横尾:先ほど挙げた3つ、信頼性、耐久性、悪路走破性に関してはやはりしっかりと評価をいただいていました、その上で、従来モデルにおいての1番の改善の声は、オンロード性能でした。重さも当然ありますし、あとはステアリングフィールの重さ感。V型8気筒5.7リットルという十分な能力を持ちつつも、どうしてもワンテンポ反応が遅れるといったこともご指摘としていただいていたのは事実です。
----:そこを今回は絶対に改善しようと。
横尾:そうですね。やはりフルモデルチェンジですからプラットフォームを変更出来るということもありますし、おおもとの目的として規制のクリアもありました。既にV型8気筒5.7リットルを積んだままでは、各国の排気の規制や燃費の規制に耐えられないことが分かっていましたので、それを刷新するために、今回のパワートレインを使ったのです。
ランドクルーザーとの差別化は考えていない
----:そこでランドクルーザーとの差別化は大きくやらなければいけないところだと思いますが。
横尾:まず訂正させていただきたいのは、あくまでもレクサスのフラッグシップのLXを目指して作りました。なので、考え方として、ランドクルーザーのレクサス版では一切ないのです。
----:しかしトヨタのフラックシップのランドクルーザーがあり、レクサスのフラックシップのLXがあります。この差別化はきちんと考えなければいけないのではないでしょうか。特に中東においては、両方とも人気車種です。そこではどういう意識を持って作り分けたのでしょうか。
横尾:差別化という考え方は入れてないです。なぜかというとレクサスはそれこそセダンでいうと『LS』が目指すところは何かという考え方があり、ではSUVのトップであるLXはどこにいなければいけないのかを考えています。ただし、信頼性、耐久性、悪路走破性は持ったままですね。そういうところを念頭において作り上げていっています。
一方のランドクルーザーの方ですが、いまは別の人間が担当していますが、実は私はランドクルーザーも担当していました。こちらに関してはランドクルーザーとして、お客様が求めているものを作り上げたいという思いがあります。結果として出来上がったものが、差になっているという考え方です。ですので、ランドクルーザーをベースに、例えばここを豪華にしないといけないとか、材料をこう変えないといけないとか、そういった考えは一切ないのです。
----:つまり基本的には一緒に開発をしてはいるけれども、違うクルマという考え方ですね。
横尾:基本的にはそうです。私が同じ立場で両方を見てる時期がありましたので、当然、開発のメンバーもどっちのことかというのを混乱しないようにしないといけませんでした。そこで、わかりやすく作業着を必ず着替えていました。自分のマインドを切り替えるためも、ランドクルーザーの話をするときはトヨタの作業着。LXの時はレクサスの作業着にと。誰にこの話をしても響かないんですけどやっていました(笑)。
今回、歴代のLXとしては初めて走りや触感などについてもレクサスのTAKUMI(匠)が開発の初期から参加をしています。いままでのLXではトヨタブランドが考えるレクサスはこうだよねみたいなところもありました。しかし、レクサスのTAKUMIの、例えば内装の担当者がスイッチの触感というものをレクサス全体でどうであるべきかを決めて、それを各車全て揃えるということから始めたのです。私自身も“へー”と思いましたが、そういうことを地道に、これは私だけではなく、開発のメンバーもTAKUMIなどに教えを請いながら、レクサスはやはりこういうことをしていかないといけないと開発していったのです。マインドのところからレクサスを作ろうということが、非常に大事だったなと思いますね。
----:つまりどれに乗っても共通した触感が味わえるわけですね。
横尾:そうですね。
ラダーフレームでも上質さを追求した
----:“オフロードにおける上質さ”も今回のねらいだったと伺っています。これは具体的にどういうことを目指して、どう実現したものなのでしょうか。
横尾:オフロード走る時に上質さも何もないじゃないかという感覚もあるかもしれませんが、大事なのは安心感であり、余裕です。それを感じられるようにするためには、穏やかな動きであったり、余計な心配をするような音がなかったり、また、モニターも含めて、自分はここを走っていて大丈夫なんだなというようなところを感じていただける仕立て、ないしは、その制御の出し方にこだわりました。例えば大きな段差を片足で乗り上げる瞬間のあたりの柔らかさや、上屋がゆっくりと動くことで、その間に何が起きているのかわからない、怖いなという感触を少しでもなくしたいということです。
----:一方でラダーフレーム構造では、どちらかというとハードな足回りに仕上げざるを得ない場合が多いにも関わらず、今回は、どのあたりに基準点を置いて、どのように開発をしていったのですか。
横尾:簡単にいうと、従来モデルよりも信頼性、耐久性、悪路走破性を持たせるというそこに尽きます。そこでハードが決まりますので、その制御の部分では、この3つに対する味付けとして使えるわけです。なので、もっと荒々しくすることも当然出来ますが、それが、いま話した3つに対して効果がないのであればやる必要がないんです。ですから、柔らかい感じとかは、実は制御によるものだけではなく、プラットフォームを変えることが出来たおかげで、サペンションのストローク、特にリアの伸び側、リバウンドが20mmぐらい伸ばすことが出来ました。もう1つ大きかったのはボディの軽量化です。これによって重心がその分だけ下がりますから、上屋が振られる動きが穏やかになるんです。
電動化を見据えながらもいまは内燃機関がベスト
----:最後にこのLXで一番伝えておきたいこと、語っておきたいことを教えてください。
横尾:ブランドとしてのお話をまず先にした方がいいでしょう。皆さん気になってると思いますし、聞かれることとして、電動化の話があります。今回はカーボンニュートラルに貢献する為にといいつつ内燃機関を続けました。その理由は、信頼性、耐久性、悪路走破性をまだ全世界のお客様にしっかりと保てた状態でお渡しするためには、まだ内燃機関がベストであろうと考えているからです。
ただし、レクサスは2035年には全モデルの電動化、バッテリーEV化を目指すと宣言もしていますので、今後の電動化ないしはそれに近しいものへの道筋は間違いなくその方向でしょう。そうすると大事になるのが、先ほどの3つとどうやって両立させるか。そして、メインマーケットの中東やロシアなどのエネルギー事情と見合ってこないといけないわけです。クルマだけ、レクサスだけで出来ない部分はやはりある。そういうことをずっと考えながら、現地ともやり取りをしながら作り上げていかないといけないんだろうなと思っています。ですから、LXは電動化をやりませんなんていうことは一切いうつもりはなくて、カーボンニュートルに向けてのレクサスの方向にしっかりと沿って流れていきます。まずこれがありますね。
で、個車においては新型がようやく出させていただける状況になりましたので、いまがスタート地点です。従来モデルは14年もモデルチェンジにかかりましたけれども、そこまで行くかどうかはさておき、新型も息の長いクルマだと思います。ですから、しっかりと作り上げましたが、これから色々なお客様の様々な声をいただきながら、それをしっかりとレクサスのLXの立場として改善をしていくということをやっていかないといけないという思いが強いです。
そしてもう一度強調しておきたいのは、このLXはもうランクルのレクサス版ではないということ。レクサスのLXです。そこをまず、しっかりといっておきたいですね。頭にレクセスがきちんと来ます。また、オフロードの能力を持っていますというアピールをした時に、でも、まあ使わないよねというお声も恐らくいっぱいあるんじゃないかなという気がするんです。ですが、そこが1つの価値であろうと考えています。起こってほしくないですけれど、災害等々があったときに、唯一最も苦にせずに、なんとか大事な人のところへ戻れるだとか、救いに行けるだとか、そういったポテンシャルを持っているクルマであるということが、プレミアム、ラグジュアリーブランドとしての価値だという気がします。
独自のポジションから多くの方の選択肢になるように
----:LXはこれまで3代に渡りレクサスのフラッグシップSUVとして君臨してきました。横尾さんが4代目となる新型LXの開発責任者になられた時、初めにどう思われましたか。
横尾貴己氏(以下敬称略):立場としては、開発当初はアシスタントチーフエンジニア、社内ではチーフエンジニア(CE)付きとして2017年くらいからスタートしました。そこから2019年に私が開発責任者に任命されましたので、既に作り上げていこうとしてるものの責任ある立場になったという感覚です。
私が車両の開発、製品企画という部署に配属になったのは2014年からです。それまでは駆動系の開発にいまして、そこから全体を見る立場になったんです。ちょうどLXのビッグマイナーチェンジの頃で、2015年からです。当時は別のチーフエンジニアが担当していました。LXは導入当初くらいということもあり、その方とともにレクサスブランドに対する統一感や考え方に関して、一緒に勉強しながら徐々にやっていたような感じはありました。
LXは、従来モデルも含めて特殊なポジションだったんです。セダン系は分かりやすく『IS』、『GS』、『LS』。SUV系は『NX』、『RX』とありましたが、それらの方向とLXはまた違うところにありました。以前は『ランドクルーザー』のレクサス版を作ろうという考えだったのです。
----:そこからフルモデルチェンジのLXを作るにあたり、どんなクルマにしたいと考えたのでしょう。
横尾:これもスタート、ドン!と始まったわけではないんです。特に基本骨格、プラットフォームなどはすでに始まっている状態でした。そんな中で、いまお話した特殊なポジションではなく、せっかくどこにでも行ける能力を持っているクルマだからこそ、多くの方の選択肢になりうるクルマにしたいという思いはありました。
Gクラスと同じような方向を目指すことが正しいのか
----:これまで特殊なポジションにいたことは、ユーザーから見るとLX独自のポジションとも考えられます。一方、RXなどのレクサスのSUVでは、多くの人が好みそうなクルマとして、それぞれのポジションが作られてきました。それらのキャラクターを近づけるようなことにもなりかねないと思うのですが、いかがでしょう。
横尾:重要視すべきはレクサスブランド全体の方向です。例えば、よく引き合いに出していただけるのがメルセデスの中の『Gクラス』です。あれはもう、メルセデスではなく「Gクラスそのもの」ですよね。あのクルマが良いという方達が購入しているわけです。確かにLXは少し似たようなポジション取りをしていたと思います。
そしていま、ネクストチャプターに向かっているレクサスの中で、LXがGクラスと同じような方向を目指すことがレクサスブランド全体として正しいのかを考えると、やはりLXもレクサスブランドそのものであってほしい。そしてその中の選択肢として捉えていただけるクルマであるということが、1番大事なのです。いま、ネクストチャプターとして、より強い商品や、多様なニーズにお応えするという言葉を使っていますが、よりブランドを強くすることのひとつとして、個車がそれぞれ好き勝手なことをやるのではなく、乗り味や、世界観などから、例えばポルシェだったらこうだねというように、レクサスだったらこうだよねとしていきたい。そういったことを従来よりももっとしっかりとお客さまに伝わることを目指しています。
----:レクサスという1本の道があるとすれば、そこにそれぞれのクルマが綺麗に並んでいて、これまではその線上からは離れたところにLXがいた。それが、新型ではその線上に近づけていくというイメージなのでしょうか。
横尾:なかなか難しいところもあって、そうしていくと、それこそ同じ顔の同じようなものがサイズ違いで出来ていくということにもなりかねません。でも決してそれを狙っているわけではないんですね。なので共通した、特に走りに力を入れています。走りの味というものは共通して持たせつつ、各々のモデルの個性は、逆に、しっかり大事にしようというのがいまのレクサスの考え方です。
信頼性、耐久性、悪路走破性
----:では、LXの個性とはどういうものなのですか。
横尾:やはり、これはもう従来モデルからずっと続いてきている、信頼性、耐久性、悪路走破性。これは私から必ず口癖のように出てきます(笑)。これこそが従来のお客様、全世界のお客様からご評価いただいている根本の部分で、これだけは絶対に変えてはならないという思いがあります。そこがまずLXとしては絶対に守りながら開発をスタートしています。
----:それをベースにレクサスとしての味付けをしていくわけですが、具体的にはどういうものですか。
横尾:レクサスが目指す走りの味というのは、これはマスタードライバーの豊田(豊田章男社長)が常々話しているんですが、対話の出来るクルマです。それはどういうことかというと、ドライバーが操作をして思ったとおりに動いてくれ、そして反応が返ってくるといったことを重視しています。従来モデルでそういう見方をすると、当然良いクルマですが、ある程度の遅れや、気を遣う運転をしないといけないクルマでもありました。そこのところを、フレームの構造はしっかりと残しながら、ブランドとして目指す方向にして行く。それがすごく難しかったですね。
そして、今度は実際に活用した「武器」の話になるのですが、従来型でも採用していたアクティブハイトコントロール(AHC)というデバイスをより進化させました。運動性能に関してですが、オフロードは置いておいて、クルマの重心はやはり低くなる方が良い方向に働きます。ですので、AHCを上手く武器として使おうとしたのです。新旧をよくよく見比べていただくと、まずオンロードで走る時の車高自体は新型の方が低くなっています。その代わり、オフロードを走るときはしっかりと車高を上げるという考え方に変えているのです。
フルモデルチェンジだから出来ること
----:レクサスLXの市場状況について教えてください。
横尾:メインのマーケットは中東で5割ほど。続いて約2割がロシアです。北米はそこまで数はありません。サイズ感としてもっと大きいクルマたちが北米には多く、かつオフロードの性能を必要としないSUVが多く存在しているからのようです。
----:新型を開発するにあたり先代の振り返りもされたと思いますが、先代ユーザーからの評価はいかがでしたか。
横尾:先ほど挙げた3つ、信頼性、耐久性、悪路走破性に関してはやはりしっかりと評価をいただいていました、その上で、従来モデルにおいての1番の改善の声は、オンロード性能でした。重さも当然ありますし、あとはステアリングフィールの重さ感。V型8気筒5.7リットルという十分な能力を持ちつつも、どうしてもワンテンポ反応が遅れるといったこともご指摘としていただいていたのは事実です。
----:そこを今回は絶対に改善しようと。
横尾:そうですね。やはりフルモデルチェンジですからプラットフォームを変更出来るということもありますし、おおもとの目的として規制のクリアもありました。既にV型8気筒5.7リットルを積んだままでは、各国の排気の規制や燃費の規制に耐えられないことが分かっていましたので、それを刷新するために、今回のパワートレインを使ったのです。
ランドクルーザーとの差別化は考えていない
----:そこでランドクルーザーとの差別化は大きくやらなければいけないところだと思いますが。
横尾:まず訂正させていただきたいのは、あくまでもレクサスのフラッグシップのLXを目指して作りました。なので、考え方として、ランドクルーザーのレクサス版では一切ないのです。
----:しかしトヨタのフラックシップのランドクルーザーがあり、レクサスのフラックシップのLXがあります。この差別化はきちんと考えなければいけないのではないでしょうか。特に中東においては、両方とも人気車種です。そこではどういう意識を持って作り分けたのでしょうか。
横尾:差別化という考え方は入れてないです。なぜかというとレクサスはそれこそセダンでいうと『LS』が目指すところは何かという考え方があり、ではSUVのトップであるLXはどこにいなければいけないのかを考えています。ただし、信頼性、耐久性、悪路走破性は持ったままですね。そういうところを念頭において作り上げていっています。
一方のランドクルーザーの方ですが、いまは別の人間が担当していますが、実は私はランドクルーザーも担当していました。こちらに関してはランドクルーザーとして、お客様が求めているものを作り上げたいという思いがあります。結果として出来上がったものが、差になっているという考え方です。ですので、ランドクルーザーをベースに、例えばここを豪華にしないといけないとか、材料をこう変えないといけないとか、そういった考えは一切ないのです。
----:つまり基本的には一緒に開発をしてはいるけれども、違うクルマという考え方ですね。
横尾:基本的にはそうです。私が同じ立場で両方を見てる時期がありましたので、当然、開発のメンバーもどっちのことかというのを混乱しないようにしないといけませんでした。そこで、わかりやすく作業着を必ず着替えていました。自分のマインドを切り替えるためも、ランドクルーザーの話をするときはトヨタの作業着。LXの時はレクサスの作業着にと。誰にこの話をしても響かないんですけどやっていました(笑)。
今回、歴代のLXとしては初めて走りや触感などについてもレクサスのTAKUMI(匠)が開発の初期から参加をしています。いままでのLXではトヨタブランドが考えるレクサスはこうだよねみたいなところもありました。しかし、レクサスのTAKUMIの、例えば内装の担当者がスイッチの触感というものをレクサス全体でどうであるべきかを決めて、それを各車全て揃えるということから始めたのです。私自身も“へー”と思いましたが、そういうことを地道に、これは私だけではなく、開発のメンバーもTAKUMIなどに教えを請いながら、レクサスはやはりこういうことをしていかないといけないと開発していったのです。マインドのところからレクサスを作ろうということが、非常に大事だったなと思いますね。
----:つまりどれに乗っても共通した触感が味わえるわけですね。
横尾:そうですね。
ラダーフレームでも上質さを追求した
----:“オフロードにおける上質さ”も今回のねらいだったと伺っています。これは具体的にどういうことを目指して、どう実現したものなのでしょうか。
横尾:オフロード走る時に上質さも何もないじゃないかという感覚もあるかもしれませんが、大事なのは安心感であり、余裕です。それを感じられるようにするためには、穏やかな動きであったり、余計な心配をするような音がなかったり、また、モニターも含めて、自分はここを走っていて大丈夫なんだなというようなところを感じていただける仕立て、ないしは、その制御の出し方にこだわりました。例えば大きな段差を片足で乗り上げる瞬間のあたりの柔らかさや、上屋がゆっくりと動くことで、その間に何が起きているのかわからない、怖いなという感触を少しでもなくしたいということです。
----:一方でラダーフレーム構造では、どちらかというとハードな足回りに仕上げざるを得ない場合が多いにも関わらず、今回は、どのあたりに基準点を置いて、どのように開発をしていったのですか。
横尾:簡単にいうと、従来モデルよりも信頼性、耐久性、悪路走破性を持たせるというそこに尽きます。そこでハードが決まりますので、その制御の部分では、この3つに対する味付けとして使えるわけです。なので、もっと荒々しくすることも当然出来ますが、それが、いま話した3つに対して効果がないのであればやる必要がないんです。ですから、柔らかい感じとかは、実は制御によるものだけではなく、プラットフォームを変えることが出来たおかげで、サペンションのストローク、特にリアの伸び側、リバウンドが20mmぐらい伸ばすことが出来ました。もう1つ大きかったのはボディの軽量化です。これによって重心がその分だけ下がりますから、上屋が振られる動きが穏やかになるんです。
電動化を見据えながらもいまは内燃機関がベスト
----:最後にこのLXで一番伝えておきたいこと、語っておきたいことを教えてください。
横尾:ブランドとしてのお話をまず先にした方がいいでしょう。皆さん気になってると思いますし、聞かれることとして、電動化の話があります。今回はカーボンニュートラルに貢献する為にといいつつ内燃機関を続けました。その理由は、信頼性、耐久性、悪路走破性をまだ全世界のお客様にしっかりと保てた状態でお渡しするためには、まだ内燃機関がベストであろうと考えているからです。
ただし、レクサスは2035年には全モデルの電動化、バッテリーEV化を目指すと宣言もしていますので、今後の電動化ないしはそれに近しいものへの道筋は間違いなくその方向でしょう。そうすると大事になるのが、先ほどの3つとどうやって両立させるか。そして、メインマーケットの中東やロシアなどのエネルギー事情と見合ってこないといけないわけです。クルマだけ、レクサスだけで出来ない部分はやはりある。そういうことをずっと考えながら、現地ともやり取りをしながら作り上げていかないといけないんだろうなと思っています。ですから、LXは電動化をやりませんなんていうことは一切いうつもりはなくて、カーボンニュートルに向けてのレクサスの方向にしっかりと沿って流れていきます。まずこれがありますね。
で、個車においては新型がようやく出させていただける状況になりましたので、いまがスタート地点です。従来モデルは14年もモデルチェンジにかかりましたけれども、そこまで行くかどうかはさておき、新型も息の長いクルマだと思います。ですから、しっかりと作り上げましたが、これから色々なお客様の様々な声をいただきながら、それをしっかりとレクサスのLXの立場として改善をしていくということをやっていかないといけないという思いが強いです。
そしてもう一度強調しておきたいのは、このLXはもうランクルのレクサス版ではないということ。レクサスのLXです。そこをまず、しっかりといっておきたいですね。頭にレクセスがきちんと来ます。また、オフロードの能力を持っていますというアピールをした時に、でも、まあ使わないよねというお声も恐らくいっぱいあるんじゃないかなという気がするんです。ですが、そこが1つの価値であろうと考えています。起こってほしくないですけれど、災害等々があったときに、唯一最も苦にせずに、なんとか大事な人のところへ戻れるだとか、救いに行けるだとか、そういったポテンシャルを持っているクルマであるということが、プレミアム、ラグジュアリーブランドとしての価値だという気がします。
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