【ホンダ 0シリーズ】Thin & Lightのコンセプトで“ちょうどよく速い”…試作車に試乗
ホンダが1月のCES 2024で発表した「Honda 0シリーズ(ホンダ・0シリーズ)」の技術内容が、ついに明らかになった。それはまさにホンダらしい挑戦と革新のオンパレード。26年に登場する0シリーズの量産化第一弾に向けて、期待が一気に高まる取材となった。
◆ちょうどよく速い…CR-Vベースの試作車
国内外のプレスを招いて開催した「Honda 0 Tech Meeting 2024」。そのハイライトは何と言っても、試作車の試乗だった。ただし用意されたのは、『アコード』と『CR-V』に0シリーズの技術内容を盛り込んだもの。我々はCR-Vベースの試作車に乗ることになった。
1月のCESで発表された0シリーズは低全高セダンの『SALOON(サルーン)』とミニバン型の『SPACE-HUB(スペースハブ)』の2台だが、26年に0サルーンの量産型を北米で発売するのを皮切りに、小型から中大型まで全7モデルをグローバルで投入する計画。そこには当然、CR-V級のSUVも含まれるはずだ。
場所は栃木研究所内のハンドリングコース。直線を加速して緩やかな左コーナーを経て、アップダウンを伴うS字が続いた後、シケインで減速して終了という短いコースを5周ほど試乗した。
直線加速でもアクセル開度は最大4分の3程度に抑えたが、加速感は「ちょうどよく速い」という印象。CR-Vに期待する加速感に対して十二分と思う一方で、一部のBEVで経験するような怒濤の加速感とはまったく違うのが興味深い。
0シリーズには180kWの後輪駆動、前後に180kWを積むAWD、フロントが50kWでリヤが180kWのAWDという3つのバリエーションを用意するとのこと。試乗車がどれを積んでいるのかホンダは明言を避けたが、おそらく50KW+180kWだったはず。制御次第でもっと加速性能を上げられるにしても、あえてそれをやらないのが0シリーズの見識なのだと思う。
ちなみにパドルで操作する回生ブレーキは4段階。いちばん強いのがいわゆるワンペダルモードだが、アクセルオフでの減速感はやや控えめだ。怒濤の加速感やワンペダルの強い減速感は、BEVならではの魅力をわかりやすく伝えてくれるものだが、BEVの普及期に向けて開発している0シリーズは、そこを卒業したいのだろう。また、e:HEVで培ってきた電気駆動の気持ちよさの延長上に、0シリーズを位置付けたい意図も感じる試乗となった。
◆Thin & Lightなプラットフォーム
0シリーズのバッテリー容量は公表されなかったが、大小2タイプがあり、ホイールベースも2種類に大別される。床下のバッテリーケースはメガキャストでアルミ鋳造して充分な強度を確保。その外側に側面衝突の衝撃を吸収するアルミ押し出し材を配置するなどにより、電池パックをできるだけ外側まで並べられるように工夫した。バッテリー容量に妥協はなく、一充電航続距離は最大で300マイル(480km)以上を標榜する。
ただし、バッテリーをたくさん搭載して、言わば「力づく」で加速性能を高めたり航続距離を延ばしたりする方向性を、ホンダは明確に否定する。「力づく」ではバッテリーを収めるフロアが厚く=Thickになり、プラットフォームやボディが重く=Heavyになる。0シリーズは逆に薄くて軽い、Thin & Lightなプラットフォームを目指した。
バッテリーは韓国LGエナジーソリューション(LGES)との合弁による北米工場で生産する。パウチ型のセルを使うが、新たに背の低いセルを開発したわけではないので、セルを並べた電池パックが薄型化されたわけでもない。前述のようにパックを収めるケースをメガキャストでアルミ鋳造すると共に、その底面にある冷却水路や上面側のフロア骨格の断面を薄型化し、Thinなフロアを実現した。
アルミ鋳造のバッテリーケースはもちろんLightなプラットフォームにも貢献。さらにボディ設計思想を一新し、フロントの左右ストラットタワーをつなぐ部材、リヤの左右ホイールハウスをつなぐ部材を廃止して軽量化した。
BEVは重くなるからボディ剛性を上げるという従来の考え方をやめ、コーナーではボディをしならせて外輪に荷重を伝えるのが新しい設計思想。試作車の試乗でS字を抜けるときの心地よさは、これと新採用のステアバイワイヤの相乗効果だったのだろうと改めて思う。
◆M・M思想のパッケージング
0シリーズの「0」に込めた想いのひとつは「原点の0」。ホンダ伝統のM・M=マンマキシマム&メカミニマムの思想を「変わらぬ原点」と捉え、それをBEVとして進化させたのが0シリーズのパッケージングだ。Thinなプラットフォームはその鍵のひとつだが、もちろんそれだけではない。
前述のようにe-Axleは、180kWと50kWの2タイプある。どちらも重量当たりの出力や高効率を追求したものだが、180kWのe-Axleで特徴的なのは、モーターの側面にインバーターを組み込んだことだ。
インバーターは上に配置するのが一般的だが、それではリヤのe-Axleが乗員空間や荷室を侵食してしまう。一方、インバーターが従来サイズのままで側面配置すると、これもスペース効率が悪い。そこでハイブリッド車で培ってきた技術を活かしてインバーターを小型化し、側面配置を実現。e-AxleもThinにすることで、それに浸食されないパッケージングが可能になった。荷室の地上高はICE車と同等に抑えられるという。
50kWと180kWを組み合わせたAWDの場合、フロントの50kWのe-Axleにはインバーターを内蔵せず、リヤのインバーターでそれを駆動する。つまりリヤのe-Axleに2つのインバーターを備える、というユニークな構成だ。おかげで180kWが水冷なのに対して、50kWタイプは空冷にすることができ、ウォータージャケットや冷却配管を廃止して小型化・薄型化を徹底できた。
なお、フロントの出力軸はe-Axleの前端近く、リヤのそれは後端近くにあるので、どちらもホイールベース間にほぼ収まる。オーバーハングの短縮に寄与するレイアウトだ。フロントのe-Axleは前車軸と乗員空間の間に位置することになるが、それが180kWタイプの場合でも、前面衝突時にはe-Axleがフロア下に潜り込んで衝突エネルギーを吸収。これも小型化・薄型化のメリットである。
エンジンという大きなカタマリがないBEVはパッケージングの自由度が高いと、かつては誰もが考えていた。しかしBEVが増えてきた今、そうなっていないのが現実だ。バッテリーのためにフロアが高くなるし、重たいバッテリーは衝突時の衝撃吸収ストロークを伸ばしがちなのでフロントオーバーハングの短縮もままならない。
そんなジレンマを、0シリーズが打破してくれそうだ。今年のCESで発表された0サルーンの低全高モノフォルムのデザインが、量産型でどこまで再現されるのか興味津々。その答えは来年1月のCES 2025で明らかになる。
◆ちょうどよく速い…CR-Vベースの試作車
国内外のプレスを招いて開催した「Honda 0 Tech Meeting 2024」。そのハイライトは何と言っても、試作車の試乗だった。ただし用意されたのは、『アコード』と『CR-V』に0シリーズの技術内容を盛り込んだもの。我々はCR-Vベースの試作車に乗ることになった。
1月のCESで発表された0シリーズは低全高セダンの『SALOON(サルーン)』とミニバン型の『SPACE-HUB(スペースハブ)』の2台だが、26年に0サルーンの量産型を北米で発売するのを皮切りに、小型から中大型まで全7モデルをグローバルで投入する計画。そこには当然、CR-V級のSUVも含まれるはずだ。
場所は栃木研究所内のハンドリングコース。直線を加速して緩やかな左コーナーを経て、アップダウンを伴うS字が続いた後、シケインで減速して終了という短いコースを5周ほど試乗した。
直線加速でもアクセル開度は最大4分の3程度に抑えたが、加速感は「ちょうどよく速い」という印象。CR-Vに期待する加速感に対して十二分と思う一方で、一部のBEVで経験するような怒濤の加速感とはまったく違うのが興味深い。
0シリーズには180kWの後輪駆動、前後に180kWを積むAWD、フロントが50kWでリヤが180kWのAWDという3つのバリエーションを用意するとのこと。試乗車がどれを積んでいるのかホンダは明言を避けたが、おそらく50KW+180kWだったはず。制御次第でもっと加速性能を上げられるにしても、あえてそれをやらないのが0シリーズの見識なのだと思う。
ちなみにパドルで操作する回生ブレーキは4段階。いちばん強いのがいわゆるワンペダルモードだが、アクセルオフでの減速感はやや控えめだ。怒濤の加速感やワンペダルの強い減速感は、BEVならではの魅力をわかりやすく伝えてくれるものだが、BEVの普及期に向けて開発している0シリーズは、そこを卒業したいのだろう。また、e:HEVで培ってきた電気駆動の気持ちよさの延長上に、0シリーズを位置付けたい意図も感じる試乗となった。
◆Thin & Lightなプラットフォーム
0シリーズのバッテリー容量は公表されなかったが、大小2タイプがあり、ホイールベースも2種類に大別される。床下のバッテリーケースはメガキャストでアルミ鋳造して充分な強度を確保。その外側に側面衝突の衝撃を吸収するアルミ押し出し材を配置するなどにより、電池パックをできるだけ外側まで並べられるように工夫した。バッテリー容量に妥協はなく、一充電航続距離は最大で300マイル(480km)以上を標榜する。
ただし、バッテリーをたくさん搭載して、言わば「力づく」で加速性能を高めたり航続距離を延ばしたりする方向性を、ホンダは明確に否定する。「力づく」ではバッテリーを収めるフロアが厚く=Thickになり、プラットフォームやボディが重く=Heavyになる。0シリーズは逆に薄くて軽い、Thin & Lightなプラットフォームを目指した。
バッテリーは韓国LGエナジーソリューション(LGES)との合弁による北米工場で生産する。パウチ型のセルを使うが、新たに背の低いセルを開発したわけではないので、セルを並べた電池パックが薄型化されたわけでもない。前述のようにパックを収めるケースをメガキャストでアルミ鋳造すると共に、その底面にある冷却水路や上面側のフロア骨格の断面を薄型化し、Thinなフロアを実現した。
アルミ鋳造のバッテリーケースはもちろんLightなプラットフォームにも貢献。さらにボディ設計思想を一新し、フロントの左右ストラットタワーをつなぐ部材、リヤの左右ホイールハウスをつなぐ部材を廃止して軽量化した。
BEVは重くなるからボディ剛性を上げるという従来の考え方をやめ、コーナーではボディをしならせて外輪に荷重を伝えるのが新しい設計思想。試作車の試乗でS字を抜けるときの心地よさは、これと新採用のステアバイワイヤの相乗効果だったのだろうと改めて思う。
◆M・M思想のパッケージング
0シリーズの「0」に込めた想いのひとつは「原点の0」。ホンダ伝統のM・M=マンマキシマム&メカミニマムの思想を「変わらぬ原点」と捉え、それをBEVとして進化させたのが0シリーズのパッケージングだ。Thinなプラットフォームはその鍵のひとつだが、もちろんそれだけではない。
前述のようにe-Axleは、180kWと50kWの2タイプある。どちらも重量当たりの出力や高効率を追求したものだが、180kWのe-Axleで特徴的なのは、モーターの側面にインバーターを組み込んだことだ。
インバーターは上に配置するのが一般的だが、それではリヤのe-Axleが乗員空間や荷室を侵食してしまう。一方、インバーターが従来サイズのままで側面配置すると、これもスペース効率が悪い。そこでハイブリッド車で培ってきた技術を活かしてインバーターを小型化し、側面配置を実現。e-AxleもThinにすることで、それに浸食されないパッケージングが可能になった。荷室の地上高はICE車と同等に抑えられるという。
50kWと180kWを組み合わせたAWDの場合、フロントの50kWのe-Axleにはインバーターを内蔵せず、リヤのインバーターでそれを駆動する。つまりリヤのe-Axleに2つのインバーターを備える、というユニークな構成だ。おかげで180kWが水冷なのに対して、50kWタイプは空冷にすることができ、ウォータージャケットや冷却配管を廃止して小型化・薄型化を徹底できた。
なお、フロントの出力軸はe-Axleの前端近く、リヤのそれは後端近くにあるので、どちらもホイールベース間にほぼ収まる。オーバーハングの短縮に寄与するレイアウトだ。フロントのe-Axleは前車軸と乗員空間の間に位置することになるが、それが180kWタイプの場合でも、前面衝突時にはe-Axleがフロア下に潜り込んで衝突エネルギーを吸収。これも小型化・薄型化のメリットである。
エンジンという大きなカタマリがないBEVはパッケージングの自由度が高いと、かつては誰もが考えていた。しかしBEVが増えてきた今、そうなっていないのが現実だ。バッテリーのためにフロアが高くなるし、重たいバッテリーは衝突時の衝撃吸収ストロークを伸ばしがちなのでフロントオーバーハングの短縮もままならない。
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