踏み間違いゼロ! 追突事故防止に! シンプルかつ画期的な「ワンペダル」とは

クルマの事故防止は、ドライバーにとって永遠の課題。昨今では、自動ブレーキやハンドル操作のサポート機能など、クルマの安全性は目覚ましい進化を遂げています。社会全体でもクルマの安全性への意識が高まるなか、「ワンペダル」に注目が集まっているのはご存知でしょうか。
ワンペダルとは、ブレーキとアクセルを文字通りひとつのペダルで操作できる製品で、もちろん車検も大丈夫です。そこで、ワンペダルの操作方法や開発の経緯などを、製造・販売元であるナルセ機材有限会社(熊本・玉名市)の荒田晃慎さんにお伺いしました。

社長の「踏み間違い体験」がワンペダルの開発へ

ワンペダルは「弊社社長の鳴瀬益幸の『踏み間違い』が開発のきっかけになった」と荒田さん。

「約30年前に鳴瀬がMT車からはじめてAT車へクルマを買い替えました。すると、3回ほど踏み間違いを起こしてしまい、そのうちの1回は大きな事故を招きかねないものだったそうです。AT車を購入したディーラーの担当者に尋ねたところ、『MT車からAT車へ乗り換えたから、操作に慣れていないだけ。運転をしていくうちに操作に慣れて、踏み間違いはしなくなる』と言われたそうですが、鳴瀬自身はその考え方に疑問を持ったそうです」

30年前というとAT車が主流になり始めた時期(1980~1990年代)です。MT車はクラッチペダルの切り替えでエンジンの動力を伝えるため、クラッチを切っていればいくらアクセルを踏んでもクルマが前に進むことはありません。しかし、AT車はアクセルを踏めばそのまま動力がクルマへ伝わります。

「アクセルとブレーキではその目的がまったく逆なのに、似たような形状のペダルが隣同士に配置され、しかも同じ右足で踏んで操作する・・・鳴瀬は『これがそもそもの間違える原因ではないか』と思ったそうです。踏んで(時として踏ん張って)作動させるブレーキは理にかなっている。それなら、アクセルはブレーキとは違う踏む以外の動作にした方がいいのでは!?と研究を始めたのが、ワンペダルの開発のきっかけでした」

数年にわたる研究の後、1991年に初号機が完成。その後も5~6回のバージョンアップを経て、現在のモデルに至ったそうです。すると、ワンペダルはすでに25年以上前から販売をしていたということになりますが、なぜここへきて、注目が集まるようになったのでしょうか。

「ワンペダルの認知度が一気に上がったのはここ数年のことです。TVなどで踏み間違いによる事故が頻繁に報道されるようになって、高齢者層を中心にクルマの安全性への意識が全体的に高まったことが要因ではないかと思います」

「あとコンマ数秒、早く……」という出会い頭の事故防止にも!

ワンペダルはその名のとおり、ひとつのペダルでブレーキとアクセルの動作を行うことができる製品ですが、具体的にはどのように操作するのでしょうか。

「ワンペダルの操作方法ですが、ブレーキは通常のペダルと同様に踏み込むことで作動します。しかし、アクセルはペダルの右側部にあるアクセルレバーを足先で横へスライドさせることで作動するように設計されています。また最大の特長は、アクセルを作動させている状態でも、そのままペダルを踏み込めば自動的にアクセルは解除されてブレーキだけが作動する構造になっているんです。つまり、「危ないっ!」という時に踏み替え作業なしで急ブレーキをかけられるのです。」

ワンペダルの操作方法のコツは、「踵(カカト)を支点に足先を横へスライドさせる時に、足首だけではなく、膝(ヒザ)ごと外側へ向けること。そうすると足先の可動域が広がるので運転も疲れにくく、ぐっと楽になるんです」と荒田さん。
ワンペダルの操作方法のコツは、「踵(カカト)を支点に足先を横へスライドさせる時に、足首だけではなく、膝(ヒザ)ごと外側へ向けること。そうすると足先の可動域が広がるので運転も疲れにくく、ぐっと楽になるんです」と荒田さん。

日本では1年間に約50万件の事故が起こっていますが、その半数は交差点などでの出会い頭の事故だといわれています。あと数メートル早くクルマを止められたら追突を回避できたのに……というケースは少なくありません。

「通常のペダルでは、走行中に『危ないっ!』と感じてからブレーキを踏み込むまでにアクセルからブレーキへの踏み替え動作が必要です(「空走距離」=下図参照)。しかし、ワンペダルではアクセルを作動させている状態でも、ペダルを踏み替えることなく、すぐにブレーキ(ペダル)を踏むことが可能なんです。クルマの運転では、わずかコンマ数秒の判断・動作・時間が事故を回避できるか否かの分かれ目になると言っても過言ではありません。たくさんのお客様から『ワンペダルは、踏み間違い事故防止だけではなく、出会い頭などの追突や衝突事故防止に大いに有効である』と非常に高い評価をいただいています」

今や数ヵ月待ちの大人気! ワンペダルの購入方法について

踏み間違いゼロや出会い頭などの事故防止にも画期的なワンペダルですが、取り付け方法や価格などが気になります。

「ワンペダルは、今お乗りのクルマに後付け装置として取り付けていくのですが、残念ながら一部の車種には取り付けができません。なので最初に取り付けが可能な車種なのかどうかをお尋ねください。」

ほとんどの車種に取り付けは可能だそうですが、実際に購入する時には、どうすればいいのでしょうか。

「ご購入を検討・希望される場合は、まず弊社へお問い合わせください。その時に、車種をおうかがいして取り付けの可否判断をいたします。ただし、これまでに取り付け実績がない車種の場合にはペダルの寸法測定などを行い、そのデータをもとに可否判断やハンドメイドで製作していきます。また、ワンペダルは汎用性がないため、「クルマを乗り換えた場合には、それまで利用していたワンペダルをそのまま付け替えて使用することができません(車種毎にペダル形状が異なるため)。その際は割引対応をさせていただいています。」

取り付け作業は御社(熊本・玉名市)でしかできないのでしょうか。

「取り付けについては、弊社に持ち込んでいただくか、遠方の場合は、近所のディーラーさんなどでも取り付けは可能ですよ。」

現在は大人気のため納期まで数か月待ちの状態だそう。ワンペダルの利用者にはどのような層が多いのでしょうか。

「購入者の約8割は高齢者の方ですね。あとの2割は下肢障がい者(主に右足不自由者)の方です。ワンペダルには右足で操作するノーマルタイプと、左右どちらの足でも操作ができる両足兼用タイプの2種類があります。そして、ワンペダルの知名度が高まるにつれて増えているのが脳梗塞などで右半身マヒになられた方々からの注文です。実は、私も4年前に病気で右足を切断し義足になったので、マイカーに両足兼用タイプを取り付けて左足で運転しています。右足切断後に左足でクルマの運転が再開できた時の喜びと感動は今でも忘れられません。そのことがきっかけで今の会社に入社したんです。とにかく私みたいな『左足運転を余儀なくされている人たち』に早くワンペダルを知って欲しい、使って欲しいと願い日々活動しています。そして、私の夢は2020年の東京オリ・パラリンピックでUD(ユニバーサルデザイン)製品であるワンペダルを世界に発信することなんです!(笑)」

こちらは両足兼用タイプのワンペダル。左右どちらの足でも運転可能なため家族でクルマの共用ができます。
こちらは両足兼用タイプのワンペダル。左右どちらの足でも運転可能なため家族でクルマの共用ができます。

そして、気になる価格ですが、およそ20万円(取り付け料込み)前後。また、場合によっては障がい者助成金制度をはじめ、健常者でも自治体独自の補助金制度を設けている地域もあるそうです。

現在は、高齢者の運転が社会問題となっており、免許を返納する人も徐々に増えています。免許を返納した人を対象として、タクシーやバスの割引チケットを支給したり、コミニュティバスを運行させたりなど様々な取り組みを行っている自治体もありますが、その利用率・満足度は決して高いものではないようです。特に「クルマ社会」と呼ばれる地方では、根本的な解決策に至っていないのが現状です。
こうした中、行政や自治体もワンペダルに注目をしているそうで、熊本県内外から補助金導入に向けた視察研修に訪れるケースも増えてきているそうです。

「ワンペダルはアナログですごくシンプルな機能。だからこそ、どの年齢層でも使い勝手がいいんです。近い将来、クルマメーカーさんがオプションとして取り扱っていただければ理想的なんですけどね。そうすれば、もっと安価となり普及率も一気に上がりますし、大幅な事故減少に貢献できると思うんです!」

さらに、「その使い勝手の良さは、実際に試乗してみないと分からない部分もありますから、ぜひ一度試して欲しいです」と荒田さん。
ナルセ機材有限会社ではワンペダルの普及のために、全国各地で試乗会を開催しているそうです。気になる方は、一度試乗会へ参加してみてはいかがでしょうか。参加方法や開催日また試乗会の要望などは、HP(『ワンペダル』で検索)で順次公開・受付しているそうです。

昨今のクルマは自動ブレーキなどの事故防止システムが組み込まれ、安全性はどんどん高まっています。AI技術による事故防止だけではなく、ワンペダルのような別の視点からの安全性も組み込めば、クルマはもっと乗りやすく、安全性の高い乗り物になるのかもしれません。

(取材・文:ヤマウチカズヨ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

[ガズー編集部]

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