危険すぎるカースタント! 知られざるタカハシレーシングの仕事に迫る

ドラマや映画では時折見かけるカースタント。猛スピードでカーチェイスを繰り広げたり、車体が跳ねたり回転したりと見る人を惹きつけますが、当然そこには危険がつきものです。普段はそのドライバーにスポットが当たることはありませんが、今回カースタント界のレジェントと言われる、タカハシレーシングの高橋勝大さんにお話を伺いました。

人より目立ちたい! その気持ちがスタントマンへの第一歩

もともと芸能一家の三男として生まれた高橋さんは、子ども時代から子役として活躍。その流れから、半世紀以上前はまだ“スタントマン”という名前もなかった仕事に取り組むことになります。乗馬やアクション俳優として活動し始め、その流れでバイクや自動車のアクションにも活躍が広がっていったそう。

高橋勝大さん
高橋勝大さん

「昔から『人の上をいきたい、人にできない事をチャレンジしたい』という気持ちが強かったので、スタントの世界は向いていたとは思います」

カースタントマンとして初めて出演したのは1966年製作「パンチ野郎」から。そこから約50年、第一線で活躍しているということですが、骨折した場所は記憶の限りでは68ヶ所!! 「肋骨と鎖骨はよく折れるんだよ」と笑いながら話しますが、スケール感がすごすぎます。

1966年製作「パンチ野郎」
1966年製作「パンチ野郎」

一人のスタントマンが、カースタントのパイオニアになるまで

高橋さんは、約50年前にカースタントを始めとしたスタントグループを設立しました。当初は3人だけでしたが、現在はレギュラーが6名、準レギュラーが15名程の総勢21名のメンバーがいます。

「現在はロールオーバー(横転)やハードドライブを演じることが多いけど、予算の関係で
『一歩手前で止めてくれ』なんて注文が多いです。でも実は、横転しきらないのが1番難しいんです。あとは出演するだけでなく、保険会社などの事故検証に参加することもあります。当事者になりきって参加するので、意外と神経を張り詰める仕事ですよ」

あまり知られていないことですが、事故検証も担当しているとのこと。きっかけは1974年に報じられた『別府・3億円保険金殺人事件』の検証実験に協力してから、今も定期的に事故検証に協力することがあるのだそうです。

それ以外にも、ガードレールの耐久実験に参加した経験もあるとのことで、“カースタント”と一言で言っても、網羅する範囲が広いのです。

カースタントマンに向いている人は意外と地味

21人のスタントマンを管理、指導する高橋さん。特殊な職業であるカースタントマンには、どんな人が向いているのか、また日々の技術向上にはどんなことが大切なのか、教えていただきました。

「まず、すごく特殊な世界のイメージを持たれがちですが、基本は安全運転ができること。コツコツ練習を積み重ねることが何より大事だから『儲かりそうだから』とか『運転に自信があるから』といった人は、あんまり向いているとは思えないですね」

ちなみに1人完璧に育てあげるには、約2,000万円かかるといいます。採用されると、自動車だけでなくバイクや乗馬、船にダイビングにマット運動などアクション全般に必要な技術を覚える必要があるため、極めるまでには長き道のりがあるのです。

「運転だって、様々な車種を操れるのは当然として、昔のキャブレーター車も今のインジェクション車も両方運転できなきゃいけないから、両方乗りこなすのは大変だと思います。そでもやりたい、続けたいという人を育成していきたいですからね」

ガハハと大きく笑う高橋さんからは、業界の波を乗り越えた貫禄とおおらかさを感じました。

カーアクションをワンシーンとして見るときは、運転している側のことを考える余裕がないもの。でも今度目にしたときは、少しだけその世界に思いを馳せてみるのも、素敵な鑑賞方法かもかもしれません。

(取材・文:おおしまりえ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

[ガズー編集部]

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