【体験記】マニュアルミッションで運転を楽しみたい! 教習所で「限定解除」を受けてきた
日本の普通自動車運転免許には、どのような普通車でも運転できるものと、オートマチックトランスミッション車(AT車)のみに限られた「AT限定免許」があります。AT限定免許は1991年に誕生、現在では教習所に通う約7割が、こちらを選んでいるそうです。
しかし、クルマに興味を持ち始めると、一度はマニュアル車(MT車)を運転してみたいと思うもの。筆者もそのひとりで、「いつかMT車を運転したい」と限定免許の解除に挑戦しました。
教習所で限定解除
限定解除をするには、運転免許試験所での一発試験に合格するか、教習所に通って習得するのかのふたつの方法があります。筆者は一発試験で合格する自信がなかったので、教習所に通学することにしました。
- 通ったのは、東京都世田谷区にある上北沢自動車学校
入校時に必要な物は、運転免許証と判子、写真1枚、そして教習料です。上北沢自動車学校では67,176円(税込)でした。限定解除は学科免除で、初回教習から3か月以内に4回の実技教習を修了、さらに3か月以内に卒業試験に合格すればよいそうです。ちなみに教本の類はありません。というのも、限定解除は「免許を持っている人」 、つまり「ちゃんと交通ルールがわかっている人」が受けることを前提としているからです。
初回教習を受ける前に、まずは「適性検査」を受けます。検査結果は教習中に使うことはなく、客観的に自分の運転傾向を見つめるよい機会と思えばよいでしょう。
- 適性検査は約1時間で終了します
適性検査が終わると、いよいよ実技教習です。実技教習は1日2コマまで受講できますが、予約は1日1コマまで。2コマ受講したい場合はキャンセル待ちを活用します。つまり最短で限定解除するには、入校手続きと適性検査で1日、2コマの教習を2日間、卒業試験1日、最後に運転免許試験場で免許更新と、最短で5日間が必要となります。
4時間で仮免合格を目指すに等しい高難易度教習
教習はすべて所内で行ない、路上教習はありません。1回目の教習は、エンジンのかけ方と運転中の操作、そしてエンジンの停止です。
まず運転席に座り、ミラーを調整。その後ギアをニュートラルにし、ハンドブレーキがかかっていることを確認。クラッチを踏んでイグニッションキーを回し、エンジンを始動します。続いて少しだけアクセルを踏み、半クラッチで発進。動き始めたらクラッチを切ってアクセルを戻し、ギアを2速に入れ、またクラッチをつなぎます。あとはAT車と同じ感覚で運転、なのですが……。
- シフトレバーは手の平全体を使って動かすように、という指導を受けます
「乗車時に後方確認をしていない」「ハンドルの送り方がよくない」「目視確認を怠っている」といった指摘を次々に受け、普段の悪癖を修正することに悪戦苦闘することに。気づけば50分が経ち、1回目の教習は終了しました。
最初こそ戸惑ったクラッチ操作は、何度も行うことで慣れたものの、久々の教習はかなり疲れるものでキャンセル待ちをして1日2コマ履修は早々に諦めました。
- 誰もが一度は苦戦する坂道発進
教習2回目は、校内各所を回りつつMT車教習の難関「坂道発進」です。交差点は半クラッチを使って曲がるよう指示を受けます。その際、普段通りに交差点に進入しようとすると「もっと手前からウインカーを出して幅寄せをしてください。卒業試験の時に減点対象になりますよ」という恐ろしい話が。
限定解除の卒業条件は、クラッチ操作ができたうえで、さらに正しい運転ができること。つまり仮免試験と同じ内容だったのです。実際には第一段階で方向転換は行わないため、仮免試験より難易度が高く、しかも運転免許取得の第一段階が13時限であるのに対し、限定解除はたったの4時限で、しかも教本もない状態ですべてを習得しなければなりません。限定解除は想像外の高難易度教習だったのです。
- S字やクランクは「アウト側」を意識しながらクリアする。運転席からは、かなり狭いように見えるS字も、実際はこれほどの間隔がある
S字やクランクは、普段から運転している人なら比較的簡単にクリアできるでしょう。ただ、AT車がクリープとブレーキで通過するのに対し、MT車ではクラッチ操作で速度調整を行なうのが違い。ちなみに検定中に乗り上げて、そのまま通過したら一発検定中止とのこと。
- 半クラッチ状態を維持しながらサイドブレーキをリリースする
難関の坂道発進は、サイドブレーキを引いた状態で半クラッチを維持、登り切ったらクラッチとアクセルを離してエンジンブレーキで坂を下りる、という手順です。指導員から「半クラッチになっているかどうかは、音で判断できます」と言われますが、正直よくわかりません。タコメーターを見ていれば比較的わかりやすいのですが、メーターを見ていると注意を受けます。半クラッチになると車体が沈み込むという感覚も、よくわからず。結果、エンストするか後退するかを繰り返すことに……。何とか坂道発進できると今後は踏切へ。
- 踏切では一旦停止した後、目視確認のほか運転席側の窓を開けて音で確認する
踏切も坂道発進が必要ですが、今度は一時停止したあとに左右確認が加わります。確認は普段からやっていることですが、通過後に「窓を開けましたか?」との指摘を受けました……。
- 方向変換する際は窓を開けて目視で後方確認する
教習3回目は方向転換。いわゆる車庫入れと縦列駐車で、普段バックカメラやアラウンドビューモニターに頼りきっている筆者としては、苦手な分野です。方向変換そのものは、普段運転しているので一回でできましたが、ここでも「バックをする際は窓から顔を出すように」といった確認不足を指摘されました。
- 教習所内を走行
教習4回目は、これまでの教習をひと通り行う「みきわめ」。その際「卒業試験では外周を時速30kmまで出して、時速40kmを超えると減点」とか「一時停止線の2m以内で停止、発着場では路肩に30㎝まで寄せる」「大きく縁石に乗り上げたら検定中止」という指示に従い走行します。
課題の坂道発進も一発でクリア。しかし、相変わらずの確認不足という指摘に、意識しすぎるあまりペースが乱れ、さらに何度もエンスト。それでも指導員からは「技術的にはできていますから、あとは落ち着いて受ければいい」と意外な評価をいただき、4回の教習は終了しました。あとは卒業検定を受けるのみです。
安全運転を改めて見直す良い機会
あまり考えたくないのですが、卒業検定に落ちた場合、追加の技能教習(税込4,644円)と再検定(税込5,400円) を受けなければなりません。「失敗したら1万円……」というプレッシャーが重くのしかかり、ほとんど寝付けないまま当日の朝を迎えました。
- 検定中の車両
検定は検定員が助手席に、後部座席に別の教習生が乗車して行われます。チェックは乗車前からはじまり、始動させて、検定員の指示に従い運転。まずは外周を回って時速30kmまで出したあと、坂道発進、交差点、踏切、S字とクランク、方向転換、そして発着場での幅寄せをし、停止動作を行い終了となります。
時間にして10分ほどですが、緊張のあまり足が震え、頭の中は真っ白。いつもよりときの流れが遅いように感じました。S字やクランクで検定員から「慌てないでいいですよ」と言葉をかけられましたが、わかっていても足が震えてしまって、半クラッチが維持できません。ここまでの緊張状態で運転したのは恐らく初めてで、正直なところ手ごたえはまったくありませんでした。
約20分後に結果発表。検定員からの「おめでとうございます」という言葉に耳を疑うとともに、年甲斐もなく目から涙が。ただただ「ありがとうございます!」を繰り返していました。そのあと、別室で技能審査合格証明書をもらって、限定解除教習は修了しました。
翌朝、運転免許試験場に行き更新手続きへ。更新料の1,400円を支払い、技能審査合格証明書と引き換えに免許証の裏に日付と限定解除のスタンプがつきました。これで筆者は晴れて公道でMT車を運転できます。
最初は「クラッチ操作を覚えるだけだろう」と、気軽な気持ちで臨んだ限定解除でしたが、十数年ぶりの教習所は、自分の運転を見直すよい機会でもありました。限定解除は社会人でも土日を使えば1か月あれば習得できます。MT車の運転に興味がある方は、挑戦してみてはいかがでしょうか。
(取材・文・写真:栗原祥光 編集:木谷宗義+ノオト)
<関連リンク>
上北沢自動車学校
https://www.kamikitazawa-drivingschool.co.jp/
[ガズー編集部]
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