新型プリウスは愛すべきデザインをまとった「スペシャリティカー」

  • トヨタ・プリウス Z E-Four

愛車の条件って、何だろう?

それは、ひとこと「大好きになれること」だと思う。

クルマを手に入れる上で燃費や居住性、積載能力といった実用性は、確かに大切。でもそのマトリクスチャートをちょっとだけ度外視しても、手に入れたい魅力がひとつあることだと思う。

これからお送りするのは、そんな愛車を探すための試乗レポート。今回は大きく変貌を遂げた新型プリウス。その魅力が何なのかを、私、山田弘樹がじっくり解き明かそう。

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourを試乗した山田弘樹

○プリウスは「デザインのためのデザイン」をまとった

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourの橋の上の走行シーン

開発陣自らが、「愛車になることを目指した」というトヨタ プリウス。その最上級グレードとなる「Z」の4WDモデル、「E-four」が今回の主役だ。

新型プリウス最大の特徴は、なんと言ってもその攻めたデザイン。スポーツカー顔負けの大胆なウェッジシェイプ(くさび型のボディシェイプ)が大きな話題を呼んでおり、今回の試乗でも信号待ちで停まったりすると、特に若い男子から熱い視線が注がれた。

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourの左サイドビュー

新型プリウスで興味深いのは、「デザインのためのデザイン」であることだ。そもそもプリウスは燃費性能を追い求めたハイブリッド車であり、そのボディは居住性を高めた上で、いかに空力抵抗係数(Cd値)を低減させるかに、歴代心血が注がれてきた。

一般的にCd値は0.3を下回ると空気抵抗が少ないとされているが、先代モデルの値は0.24と、かなりの高偏差値。しかし新型プリウスは、その値が下がるのを承知でAピラーを寝かせ、デザイン上の力点となるポイントを、これまでよりも後ろよりに持ってきたのだという。

ちなみにその数値は0.27と僅かに悪化しているが、それでも0.3を切っている。もっと言えば肝心な燃費性能は、1.8リッター2WDモデル同士の比較だと、新型は32.6km/ℓ(Uグレード)と、先代モデルの先代の32.1km/ℓ(Eグレード)をきちんと上回っているところがトヨタらしい。

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourの乗り込むイメージ
  • トヨタ・プリウス Z E-Fourを運転するイメージ

工業デザインは芸術作品とは違い、道具の使いやすさを第一とした上で、毎日の生活が楽しくなったり、愛着が湧くデザインを盛り込むのがセオリー。またこうしたウェッジシェイプも本来は、スポーツカーの高速性能を高めるために用いられる。

しかし新型プリウスは、「見た目」のためにこのデザインを採用した。だから乗車時は、Aピラーをかわすようにしてコクピットに滑り込まなければならない。そこまでして得られるものは、速さでも燃費性能でもなく、「カッコよさ」だ。

○操作性と質感の高い室内空間

室内空間はプリウスだけの特別さがあるというよりは、最新のトヨタの方法論できれいにまとめられている。

ハンドルこそ操縦桿タイプにはなっていないが、メーターは小径なステアリングの上から見るトップマウントタイプで、これはピュアEVである「bz4X」でも採用された手法だ。

ダッシュボードのデザインも立体的で洗練されており、その継ぎ目には上級モデルだとアンビエントライトが一筋光る。中央に付くモニターもZグレードだと12.3インチとその大きさがうれしいし、ソフトパッドを多用するドアパネルの質感も高い。

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourのステアリングとモニター
  • トヨタ・プリウス Z E-Fourのオルガン式ペダル
  • トヨタ・プリウス Z E-Fourのドアの内張り

愛車視点でいうと、こういった現代的な車内装備偏差値の高さ以上に評価したいのが、操作系。前述した小径ステアリングは電動パワステの制御感と合わせてとても操作がしやすいし、レザーの質感もしっとり手に馴染む。
またオルガン式のアクセルペダルは支点がフロアに定まっているため、剛性が高く微妙な調整がしやすい。

室内空間における明らかな難点は、リアクォーターにドアハンドルパネルが埋め込まれ、直接目視する場合斜め後ろの視界が悪くなったこと。

○大径タイヤは見た目だけではなく走りにも貢献

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourの右フロントビュー

新型プリウスの走りは、素直に言ってとても楽しい。
そのキーポイントは、195/50R19サイズとなった大径タイヤの採用だろう。

そもそもトヨタのハンドリングは、先代モデルが登場した2015年あたりから一段レベルが上がった。その主たる理由は、TNGAプラットフォームの採用だ。
シャシー剛性が上がった分そのダンピング性能も上がっており、これまではハンドリングの良さよりも、乗り心地の良さの方が評価されていた気がする。

操舵時のロール感や応答性の良さは、上質になるほど意識されにくい。わかりやすく言えばハンドルを切って、テキパキと反応する方が、一般的にはスポーティだと感じるジレンマがそこにはあったと思う。

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourの走行リアビュー
  • トヨタ・プリウス Z E-Fourの走行フロントビュー

新型プリウスはこれを、19インチタイヤの採用で、見た目の迫力と共に、ハンドリングのわかりやすさとして表現した。
ハンドルを切ったときのグリップの立ち上がり方は、これで俄然シャープになった。細身の195幅を採用するのは、タイヤの全面投影面積を減らして燃費性能を確保するため。その分インチを拡大して、接地面積を縦長に確保しているから、縦方向のグリップが高い。

また横方向の踏ん張りに対しては、サスペンションがもたらす接地性の高さもさることながら、リアモーターを駆動させる「E-four」の制御が効果を発揮していた。
これまでE-fourは、発進をサポートする4WDシステムだった。しかし今回からはステアリング舵角が入るとトルクがスプリットされ、適切に配分することで積極的にコーナーでの安定性を高めているのだ。

実際筆者も富士スピードウェイのショートコースでその走りを確かめたが、旧型ではコーナーでモーターが単なる“重り”になっていた。場合によっては慣性力が働いて、その挙動をオーバーステア方向に振ってしまう場面も見受けられたが、新型E-fourはカーブがとても安定している。
だからカーブを曲がるのが、楽しいのだ。

  • トヨタ・プリウス ZのE-Fourロゴ
  • トヨタ・プリウス ZのE-Fourの制御

その分、乗り心地は“ちょっとだけ”硬めになった。
とはいえまっさらな新車だったプロトタイプのときよりも、2400km強を走破した試乗車の足腰はこなれ感が出ていたし、愛車として距離を重ねれば、さらにしなやかさが増すだろう。
ここを気にしすぎてソフトにしすぎれば再びそのキャラはわかりにくくなるし、そのバランスは常に“追いかけっこ”だ。

今後の熟成はもちろんあるだろうけれど、まずは新型デビューの味付けとして、そのシャキッとした乗り味がひとつの個性だと言える。

○パワーユニットのパワー感は十分。追い求めたいのは“エモさ”

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourのリヤからの走行写真

2リッターの直噴ガソリンエンジンが、新たに加わったパワーユニット(以下PU)。そのメリットはずばり、質感の向上だ。先代モデル比でおよそ1.6倍となった196PSのシステム出力は、モーターで走らせる領域が広がっただけではなく、排気量アップの恩恵でエンジンが掛かったときの静粛性も大幅に高まった。

しかし愛車目線でPUのキャラクターを語れば、まだ“エモさ”は足りない。単純なパワー感で言えば、現状でも十分。ハイブリッドのプリウス、特にこのE-fourは、かなりリニアな出足を持っている。
そしてモアパワーが欲しいなら、より高出力なモーターで223PSのシステム出力を発揮する「PHV」を狙えばいい。筆者が言いたいのは、そこではないのだ。

  • 一般道を走るトヨタ・プリウス Z E-Four

一般道のスピードモラル意識が高いいま、PUにエモーショナルさを求める方法は、そのサウンドだ。といっても当然、それはガソリンエンジンの吸排気サウンドを盛り上げろということではない。サウンドメイキングを、デザインに負けないくらい攻めて欲しいのだ。

筆者もガソリンエンジンは、大好きだ。だからスピーカーから擬似的なエンジンサウンドを出したり、エンジン音を増幅させたり、倍音で多気筒サウンドを造り出すことに、違和感があるのはわかる。

しかしそれが「LFA」のV10サウンドや、「トヨタGR010ハイブリッド」のシステムサウンドだったりしたら、萌えないだろうか?
はたまた全くエンジンの音ではなくても、モーターの駆動や速度の盛り上がりがつかめるような、しかもエモい電子サウンドがアクセルやブレーキに連動していたら、面白いと思うのだ。

こうしたサウンドテクノロジーは既にEVの世界では始まっているし、今後絶対に磨かれて行く。少なくとも、周囲に騒音をまき散らさずクルマを楽しめる方法としては、発達して行くべき技術だと思う。

○新型プリウスの一番の愛車ポイントは「デザイン」

  • カーブを走るトヨタ・プリウス Z E-Four

新型プリウスは、どんなクルマなのか?

個人的な意見を言えば5代目プリウスは、「スペシャリティカー」なのだと思う。トヨタで言えば、「セリカ」だ。日産であれば「シルビア」。ホンダだと「プレリュード」。いずれも現代には残っていない、しかし今こそ復活し得るデザインコンシャスなスポーティカーたちである。

プリウスは「国民車」と言われるほどに普及し、かつてカローラがいたポジションを奪った。しかしハイブリッド技術が熟成し、あまねくトヨタ車たちにこれが搭載されるようになったことで、その役目をカローラたちに返して、次のフェーズへシフトしたのだ。

だからこのデザインに興味を引かれなかったら、「プリウスだから」と言って買うべきじゃない。燃費性能が良いのは、もはや当たり前。必要以上に寝かせたAピラー、低くなった全高。多少乗り降りしにくいのを覚悟の上で、このデザインに惚れた人が乗るクルマだ。

かく言う筆者も、少なからずこのデザインが好きだ。
クラウンから始まったハンマーヘッドデザインは、とっても近未来的。分厚いドアパネルを絞り込んで細く見せる、サイドのキャラクターラインはスポーツカーのように大胆だ。

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourの左リヤビュー

だが一番好きなのは、リアからの眺め。フェンダーは大げさな後付け感なくボリューミーだし、横一文字の極細LEDコンビネーションランプを配したブラックのバックパネルは造形が端正。そしてエンドをレクサスのように、下方へ下げてアクセントを付けているのも挑戦的。マイナーチェンジでこれがなくなったら、ガッカリだ。

攻めているのに、クールさはきちんと保っている。そんな新型プリウスのデザインに、筆者は愛車としての大きな可能性を感じた。

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourのモニターに表示されたPDA(プロアクティブドライビングアシスト)
  • トヨタ・プリウス Z E-FourのPDA(プロアクティブドライビングアシスト)は3段階で調節可能

PDA(プロアクティブドライビングアシスト)は走行中、駐車車両や障害物、人や自転車などを検知して、ブレーキ制御や操舵支援をしてくれる制御。この制御は支援感度を3段階で調節可能だが、一番強めても実にさりげなく、先回り制御してくれるのが素晴らしい。

  • トヨタ・プリウス Z E-Fourの後席
  • トヨタ・プリウス Z E-Fourのラゲッジルーム

静粛性が大きく上がった新型プリウスだが、後部座席に人を乗せるなら、リアタイヤや路面からの騒音を遮音してくれるオプションのトノカバーはあった方がいい。

(試乗車スペック)
トヨタ プリウス Z E-Four
価格:392万円(オプション除く)
燃費:28.6km/リッター(WLTCモード)

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4600×1780×1430mm
ホイールベース:2750mm
車重:1420kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.0リッター直列4気筒(M20A-FXS)
エンジン最高出力:152kw(112PS)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4400-5200rpm
モーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:83kw(113PS)
フロントモーター最大トルク:206N・m(21.0kgf・m)
リアモーター最高出力:30kw(41PS)
リアモーター最大トルク:84N・m(8.6kgf・m)
システム最高出力:146kw(199PS)
トランスミッション:電気式無段変速機
タイヤ:195/50R19
燃料:無鉛レギュラーガソリン
ボディカラー:プラチナホワイトパールマイカ

(文:山田弘樹 写真:雪岡直樹)