レクサスRC RC300h“F SPORT” 試乗レポート
知的なスポーツクーペの存在感
レクサスRCには、ハイブリッドモデルが用意されている。燃費性能の向上やCO2排出量の低減とともに、スポーティな走りを追求したという300h“F SPORT”をテストした。
いまという時代を反映した一台
低回転域を苦手とする内燃機関と、大容量の搭載が困難な電気をエネルギー源とするモーターが、お互いのウイークポイントを補完しあい、結果として優れた燃費と、高い実用性を実現させるハイブリッド車。
かくして、当初はその燃費性能ばかりが注目され、“走り”は置き去りにされがちだったというのは、否定しようのない事実だ。
「21世紀に間に合いました。」というフレーズとともに1997年末にデビューした、世界初の量販ハイブリッドモデルのプリウスによってもたらされた、そうした“鈍”なイメージは、黎明(れいめい)期のパソコンなどと同様、そのプリウス自身が見せた凄(すさ)まじいまでの進化ぶりによって、急速に覆されることになった。
実際、同様のアイデアによるシステムは、今や“スピード”の象徴であるF1マシンやルマンカー、あるいはポルシェやフェラーリ、ランボルギーニなどのスーパースポーツカーにまで搭載されようという時代なのだ。もはや、ハイブリッドシステムと走りは背反しない――どころか、“速さ”のためにも積極的に使っていきたいというのが世の流れになっている。
レクサス待望の新型クーペRCのハイブリッドバージョンの中に、“走り”を象徴する“F SPORT”グレードが設定されることにも、だからまったくもって異論はない。RC300h“F SPORT”というグレードは、いまという時代を見事に反映した一台なのだ。
“F”をモチーフとしたスピンドルグリル
欧米発のライバルに対しても、一歩もヒケを取らない流麗なフォルムで登場したRC。大胆なフロントグリルを出発点とするクーペならではの躍動感あふれるスタイリングのRCシリーズの中にあっても、特に“走り”のイメージを前面に打ち出した“F SPORT”の見どころは、まず専用のエクステリアデザインにある。
最新レクサス車の重要なアイコンでもあるスピンドルグリルは、実は下部へと行くにつれて“F”の記号をモチーフとしたメッシュパターンへと変化する凝ったデザイン。シリーズ中で最も大きな19インチのホイールは、クロスメッシュのスポークが外径一杯まで伸ばされたデザインにより、その大径ぶりがさらに強調されている。
加えて、そんなこのモデルの走りに対する情熱の高さを最も端的にアピールするのが、通常よりもはるかに手間のかかった工程を経てようやく実現されたという、ヒートブルーコントラストレイヤリング、ラヴァオレンジクリスタルシャインという、新開発の2つの“F SPORT”専用ボディカラー。光の加減や見るアングルによって見事に表情を変える、インパクトあるこれらの塗色が、“F SPORT”ならではの走りのダイナミズムへの期待度を、さらに引き立てることになるのだ。
LFA譲りのユニークなメーター
一方、インテリアでも心憎い“F SPORT”固有の演出を、随所に見ることができる。まずはダイナミックな走りを予感させるのが、インパクトある見た目の実現と同時に、表皮の張りを硬めにチューニングすることを可能にし、実際にホールド性を高める効果があるというフリーステッチがクッションサイド部に配された、彫りの深い専用のスポーツシート。
専用のディンプルを採用した3本スポークのパドル付本革ステアリングホイールやアルミ製のペダル&フットレスト、前出のステアリングホイールとコーディネートされたやはりディンプル付のATセレクターノブや専用デザインのステンレス製スカッフプレートなども、“F SPORT”ならではという独自のスポーティな雰囲気を盛り上げている。
そうした専用のアイテムの中にあっても、ひと際斬新で目を引く存在が、リング部分が左右に可動式とされたユニークなメーターだ。そんなアイデアは、レクサス渾身のスーパースポーツカーとして開発された、あのLFA譲りである。
リング内の8インチTFTディスプレイに表示されるのは、通常時はハイブリッドモデルならではのシステムインジケーター。それが、センターコンソール上のダイヤルでSPORT S/SPORT S+のモードを選択することでリングが右側へと移動しつつタコメーターのグラフィックへと姿を変えるのは、何度目にしても見事で楽しい演出ぶりだと感心させられる。
ハイブリッド技術の熟成度の高さを実感
エクステリア/インテリアがかくもアグレッシブに表現されたモデルであれば、当然その走りには派手なサウンドを伴うはず――と、そんな常識的な予想を覆して、RC300h“F SPORT”はスルスルとほとんど“無音”のままにスタートを切ってしまう。このモデルのモダンな側面をあらわにするシーンだ。
回り始めたその瞬間から大きなトルクを発し、パワー感がエンジンよりもはるかにレスポンスよくアクセルの動きに追従してくれるのは、電気モーターを動力源としたEV走行の特徴点。さらに、速度が増していくとまるで魔法のようにいつしかエンジンが目を覚まし、今度はこちらを主体とした走りに移行する。このパワーソースの滑らかで見事なバトンタッチの行程には、プリウスに始まったトヨタのハイブリッド技術の熟成度の高さを実感させられる。
最高178PSを発生する2.5リットルの直噴4気筒エンジンを相棒と選んだハイブリッドシステムが、トータルで発生可能な出力は220PS。1.7トン超の重量と組み合わされた結果に生み出される加速力は、率直なところ格別に強力というわけではない。
とはいえ、もちろん日常のシーンで不足を感じることなどは皆無だし、むしろ十分なゆとりがあるのでエンジンそのものが高回転まで回る機会もまれ。そもそも、特段のパワフルさを望みたいというユーザーに対しては、軽く300PSを超えるパワーを発生する強心臓を搭載する、RC350“F SPORT”も用意されているのだ。
“スポーツサスペンション”をうたいつつも、電子制御式の可変減衰力ダンパーを標準採用するフットワークのテイストは、しなやかに動いて路面凹凸による影響を巧みに吸収するというもの。ハイブリッドモデルにはRC350“F SPORT”では標準となる4WSシステムの採用はなく、その分動きのシャープさは控えめである。しかし、そうしたテイストはむしろ前述のパワー感とのマッチングがより優れていると、好意的に解釈できるものだ。
全身でスポーティな走りのダイナミズムをアピールしつつも、そこにハイブリッドモデル特有のパワーフィールを組み込んだRC300h“F SPORT”。それは、何とも知的なスポーツクーペとしての、独自の存在感を実現させた一台でもあるのだ。
(text:河村康彦/photo:峰 昌宏)
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