レクサスRC VS BMW4シリーズ 比較レポート
熱さがほとばしるRCと手だれ感の4シリーズ クーペ
レクサスRCのライバルとなるのは、“ジャーマン3”のプレミアムクーペ。その中から典型的な欧州車の資質を備えるBMW 4シリーズ クーペと比較した。
“ISのクーペ版”ではない専用設計
レクサスRCをボディサイズや価格、性能だけで分類するなら、今回一緒に連れ出したBMW 4シリーズ クーペ、あるいは、アウディA5やメルセデス・ベンツCクラスクーペと実質的に競合する。このクラスを作る常套(じょうとう)手段は、量販のDセグメントセダンをベースに2ドア化することだ。
さすがにプレミアムブランド、しかもあくまで「クーペ」なので、各社とも外装にセダンと共通部品をほとんど持たないクーペ専用デザインが採用されているが、基本ハードウェアはセダンと共通なのが普通だ。
RCを開発するにあたり、レクサスが掲げた商品コンセプトは「ISとGSの間に位置するピュアなスポーツクーペ」だったという。これもまた、一読しただけでは前記のジャーマンクーペとほとんど同じ。セダンよりクーペのほうが高級……というのが欧州の伝統的な価値観であり、クーペになった段階でセダンより格上と見なされて、それにふさわしい内容であることが求められるからだ。RCもまた競合車と同様に「ISのクーペ版だな」と思われがちだ。しかし、それは誤解である。
RCの骨格設計構成は、大ざっぱに言うとエンジンコンパートメントを含むフロントまわりがGS、それより後ろのフロアからリヤセクションがIS、ボディ剛性に多大な影響を与えるロッカー(≒サイドシル)が断面積の大きい先代IS Cを使った混成プラットフォーム。現在のレクサスでは極端なモジュール設計思想を採っていないから、このRCの骨格も「マニュアル通りに組み合わせたらこうなった」のではなく、RCの開発チームが既存のワクをあえて取り払って、知恵を絞って理想を求めた結果なのだという。
RCが掲げる理想は単純。「低く、幅広く、短く、スモールキャビン。そして走りがいい」ということだ。
パワートレーンを絞ったRC、多面的な4シリーズ クーペ
その点、4シリーズはまさに、このクラスの欧州クーペの典型のようなクルマ作りを採る。現行型は「セダンより上級」というポジションをよりわかりやすく表現するために、あえて「4」という車名を名のるものの、クルマ作りの手法は先代までの3シリーズ クーペと大きく変わるところはない。
4シリーズも基本ハードウェアは3シリーズと共用しつつも、全体により俊敏なシャシーチューンが与えられており、日本では全車スポーツATを標準化するなど、スポーツ志向を打ち出した内容となっている。
しかし、例えば最も素に近い2.0リットル4気筒ターボのラグジュアリーグレードなどに乗ると、意外なほど穏やかでしゃなりとした身のこなしに驚く。ただ、4シリーズには(というか、BMWはどのモデルもそうだが)可変ダンパーから大径タイヤのほか、細かなグレード専用装備やオプションが用意されており、それらをトッピングしていくごとに、4シリーズは見る見るスポーツカーになっていく。その多面性は良くも悪くもあり、幅広いニーズや選択肢に応えられるが、「果たして4シリーズとはどんなクルマなのか?」と問われると答えに窮する面もなくはない。
RCもメカニズムの多様性はプレミアムブランドの名に恥じない。しかし、パワートレーンは2.5リットルエンジンベースのハイブリッドモデルRC300hと3.5リットルV6のRC350と、物理的に考えられる選択肢のうちで、よりぜいたくで高性能な2機種に絞られる。
RCも可変ダンパーのAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション)や、四輪操舵(そうだ)のLDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)などの自慢のハイテクがフル投入されたRC350“F SPORT”などは、スーパースポーツの領域をうかがわせる切れ味を見せる。
本格スポーツカーの走りを見せる両モデル
最新メカニズムを惜しげもなく装備すると、完全に本格スポーツカーの走りを見せてくれるのは、RCも4シリーズも同じだ。BMWの435iクーペ M Sportのフルトッピング版などは、まさにRC350“F SPORT”とがっぷり四つに組んだ好敵手である。
ただ、RCと4シリーズ クーペの決定的な違いは、どのパワートレーンを選んでも、RCはピュアスポーツクーペの味わいが徹底して貫かれていることだ。例えば最も穏やかなRC300h“version L”でさえも、ボディは異例なほど硬質で、ステアリングは強力無比、コーナリングは地を這(は)うようにピタリと安定している。300hは文字通りの従来でいう3.0リットル級のパワフルさだが、RCのシャシーは涼しい顔。4シリーズが選ぶグレードによって、ラグジュアリーセダンばりにフワリと柔らかな快適性を見せるのとは対照的である。
「カッコよさと走り」をというRCの理想は、パッケージレイアウトにも見てとれる。乗車定員はともに4名だが、ホイールベースやスタイリングからも想像されるように、後席空間は明らかに4シリーズ クーペに軍配が上がる。
4シリーズの後席はヘッドルーム(と2ドアの宿命である後席乗降性)にちょっとした我慢が必要なだけで、大人4人のフル4シーターとして十二分に使えるが、それをRCに求めるのはちょっと厳しい。RCの後席に実際に座ると、外から見て想像するよりは広く、シートの作りも本格的で快適なのはうれしい驚きだが……。
ラゲージスペースもしかりで、荷室の奥行きこそRCと4シリーズではほぼ同等だが、荷室幅や後席可倒機構の工夫、開口部の大きさで、より使いやすいのはやはり、明確に4シリーズである。
カッコよさ最優先という割り切り
もっとも、RCの潜在顧客の間で「後席やトランクがもっと広ければ」とか「もっとマイルドな走りが欲しい」といった声がある程度出てくるであろうことは、開発陣も先刻承知である。そうした実用性うんぬんを理由に、競合車を選ぶ人が少なくないことも覚悟している。しかし、RCはあえてそこを割り切って、カッコよさを最優先して、RC Fでなくともサーキットで真剣に楽しめるほどの走りを与えた。完全な確信犯である。
そういえば、開発陣に話を聞いたときに「実はラジエーターはGSと同じ容量のものを使っています。普通に走るだけでは必要ないのですが」と、いたずらっぽい笑顔を見せた。これはRC Fの話ではない。ここで取り上げるRC350やRC300hでも、このラジエーター秘話のみならず、本格的にサーキット遊びをたしなめるほどの高度な信頼性と高速耐久性を確保しているのだという。
FではないRCにサーキット走行の需要がどれほどあるかは疑問である。しかし、彼らはそれを承知で「それでも私たちはRCをそういうクルマにしたかった。レクサスの既存のワクを壊したかったんです」と言い切った。
RCは商品としてのポジションはISとGSの間でも、現時点で最も新しい時代のレクサスであり、レクサス唯一のクーペでもある。そして、若々しさとスポーツイメージをけん引するイメージリーダーである。
多様なニーズへの対応や実用性、パワートレーンやオプション選びによって性格を明確に変えていく……といった商品づくりでは、正直なところ4シリーズに一日の長があることも事実である。さすがの手だれ感。しかし、RCには「レクサスを変えてやろう、中途半端なクルマなどいらない」という熱さがほとばしっていることは確かだ。これほど作り手の思いが、表面にこぼれ出ているクルマは珍しい。
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