レクサスRC 自動車評論家 クロスレビュー
レクサスの新しいスポーツクーペRCには、3.5リットルV6自然吸気エンジンのRC350とハイブリッドシステムを搭載したRC300hが用意される。それぞれのモデルを、5人のモータージャーナリストが独自の視点で評価した。
レクサスRC300h
エレガントなクーペとしても使える懐の深さ
レクサスのRC、率直に言ってかなり上質な2ドアクーペだと思う。まず、ボディ剛性が非常に高い。プラットフォームはフロント部分がGSと共用だが、感覚的に剛性感は3割増しといったところ。おかげでサスペンションが狙いどおりの働きをしてくれる。
こんな風に基本のしっかりしたクルマだから、足回りのチューニングを問わずどの仕様でも完成度は高く、たとえばRC Fならハンドリング重視、RC350やRC300hの“version L”だったらコンフォート性優先に振れているというイメージで、どちらにしても「うまい」ことには変わりない。それでいながらロードノイズやハーシュネスはGSやISよりむしろ低く抑えられているから驚きだ。走りを意識したドイツ製のプレミアムクーペと比べても、まったく遜色がないと思う。
逆にこれだけ足回りのキレ味がいいと、レクサスハイブリッドの特徴である電気式無段変速機の“緩さ”がかえって気になってしまうから困ったものだ。そんなことこれまで一度も感じたことがないのに、RCに限ってそう思うのは、それだけこのシャシーが鋭敏に仕上げられている証拠だろう。
プロポーションは2ドアクーペらしいオーセンティックなものだが、緻密な作り込みとディテールへのこだわりにより凝縮感が強い。個人的には、あえてスポーティなドライビングを追求しなくとも、エレガントなクーペとしてゆったり走らせてもさまになる懐の深さに強く引かれた。
(text:大谷達也)
レクサスRC300h
レクサスらしい熟成されたハイブリッド
ついにこの手のモデルも「英語をしゃべるクルマ」になっちゃったか……というのが第一印象。レクサスというグローバル狙いの日本のプレミアムブランドであるのはもちろん、サイズからデザインまでが、完全にヨーロッパ車のソレだからだ。ボンネットをMRのフェラーリより低めた昔のプレリュードや、ピラーの細いソアラのことを考えると、ホントに懐かしい。
スタイルは誤解を恐れずに言うと、BMWやメルセデス・ベンツというよりは「アストン・マーティンをレクサス流に解釈した」風に、オザワには見える。あくまでもオーソドックスでセクシーなFRフォルムに、ハイテクディテールをまとったデザイン。グレードによって選べる三連LEDヘッドライトはもちろん、左右リヤバンパーのフィンがソレだ。ハイブリッド車にはないけれど、ハイパフォーマンスなRC Fには、ルーフとボンネットにCFRPを使ったバージョンもある。
走りはBMWともメルセデスとも言いがたいが、ドイツ流の高速でも超安心できるテイストをレクサス流にトゲを抜きまくって上質感を出し、サーキットでも楽しめるレベルに仕上げてるのがすごい。ステアリングの切り始めから動きは滑らかで、走行姿勢が手に取るようにわかる。
いわゆるFRスポーツ独特の“綱渡り感覚”はあるのだが、その「綱がメチャクチャ太い」というのが白眉RC。それにトヨタ流の熟成されたハイブリッドを組み合わせたこのRC300hが最もレクサスらしいRCではあるのだろう。だけどV6仕様やV8仕様に乗っちゃうと、パンチ不足はパンチ不足。街中ではほとんど本領発揮できませんけどね(笑)。
(text:小沢コージ)
レクサスRC300h“F SPORT”
ライトウェイトスポーツのような爽快さ
レクサスは現行ISからボディの生産技術に力を入れ始めたが、RCではそのメリットがより大きく感じられる。剛性感の高さが走りの良さを生み出しているのはもちろんのこと、ノイズやバイブレーションなどを抑制する効果も高いので、乗り味に高級感があるのだ。クルマは鉄板を組み合わせてボディが出来上がるが、普通に溶接するだけではなく、そこに接着材を使うと、細かな振動などがきれいに収まったりする。
このボディとハイブリッドの組み合わせは相性がいい。エンジン音の小さいハイブリッドでは風切り音やロードノイズなどが耳につくようになることが、それに対して有利だからだ。そんなわけでRC300hは、他に類をみないほどの静かさで優雅な気分にさせてくれる。アクセルを踏み込んだときに、エンジン回転の上昇と速度の伸びがリニアになるよう制御されていて、スポーティな感触も味わえる。
“F SPORT”はスタンダードより硬いが不快なほどではなく、ダンピングがしっかり利いているので、路面のギャップを通過した後に一発で収束し、上下動を残さずスッキリしていて乗り心地も好ましい。スポーティに走らせてみると、一体感の高さ、素直な操縦性が印象的。ボディがいいから、サスペンションがしなやかに感じられ、ライトウェイトスポーツのようにヒラリと舞う感覚があるのだ。RC Fとはまた違った、爽快なドライビングが味わえるのがRC300hの魅力だろう。
(text:石井昌道)
レクサスRC350
21世紀の技術で実現したスポーツカーの美学
RC Fが強烈なので、はっきり言って、RC350の印象がそがれたのは否定できない。それは、いかにもレクサス(トヨタ)らしい「そつのなさ」をも意味する。どこから観察しても、懐かしい20世紀の思い出を、21世紀ならではの新技術で丁寧にまとめ直してあるようだ。
すらりと長く伸びたノーズ、後方に低く構えるショートキャビン、流れるような猫背を見ると、きらびやかな黄金時代(50〜60年代)に完成したスポーツカーの美学そのものではないか。新しい時代の風を受けながら郷愁とも別れがたい私たちには、とても優しい造形だ。まあ、そこをうんと意地悪く表現すれば「大きな86」かもしれないが。
そのうえで、いかにもレクサスならではと称賛するしかない、細部の細部まで神経の行き届いたインテリア、特に華やかな色遣いなど、和みの奥に沸き立つ熱さも秘めている。ヨーロッパ的な階級社会とは無縁の環境で育ったはずの開発関係者が、見たり聞いたりの勉強だけでこんなレベルに到達したこと自体、驚き以外の何ものでもない。
そんなRCの魅力を最大限にまき散らすRC300hにも少し触れておきたい。累計700万台を超えるハイブリッドを手がけてきただけに、まったく危なげなく、欠点も見せず、23.2km/Lもの低燃費をたたき出すあたり、さすがとしか言いようがない。ことさら心にしみるのはEV走行モードだ。華やかなコスチュームをまとい、ほとんど無音でパーティー会場に乗りつけるシーンを想像するだけでも、自分のステージが一段か二段高くなったような気になる。
(text:熊倉重春)
レクサスRC350“F SPORT”
世界一静かでお行儀のよいスポーツクーペ
ぼくが乗ったのは、RC350“F SPORT”。5リットルV8を搭載するRC FがBMWのM4なら、RC350“F SPORT”はBMW 435iのM Sportだろうか。いずれにしても、スーパーカーではない、フツーのRCのトップモデルだ。試乗に出たのは、寒い早朝だった。スタートボタンを押すと、3.5リットルV6ターボは拍子抜けするほど静かに目覚める。まだ暗い住宅街。実にお行儀のよい318PSユニットだ。
室内灯をつけようと思って頭上に手を延ばしたら、ついた。エッ、つけようとするだけでつくの!? さすがにそうではなかったがタッチスイッチで、ライトに指先が触れるだけでついたのである。氷点下に近い寒さだが、速暖のシートヒーターとステアリングヒーターがありがたい。特に後者はまだ日本車には珍しい装備だが、かじかんだ指をすぐに温めてくれる。走りだしてから5分とたたぬうちに、ゆるゆると温風も出始める。至れり尽くせりである。
高速道路にあがると、空が白んでくる。100km/h時のエンジン回転数は8速トップで1700rpm。スポーツモードに切り替えると2段落ちの6速に入って2500rpmまで上がるが、エンジン音はまったく高まらない。300PSオーバーのスポーツクーペの中で、世界一静かではないだろうか。以上が、この日RC350“F SPORT”で走りだしてから30分間のロードインプレッションである。
(text:下野康史<かばたやすし>)
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