トヨタ アクア VS ホンダ フィットハイブリッド 比較リポート

日本のお家芸ともいえるコンパクトハイブリッド

“逆オイルショック”の勃発(ぼっぱつ)で、1年前には誰も予測しなかった突然の原油安。それを受けてのガソリン価格の下落を受けて、アメリカではまた大型車の人気が復活し、一方でハイブリッド車の人気は急減速……といったニュースも聞こえてくる。

とはいえ、これまでハイブリッド車のシェアが右肩上がりで伸び続けてきた日本の市場では、今のところそうした動きは見られないようだ。それどころか本年度から“エコカー減税”のハードルが上がったことをふまえ、「ハイブリッド車のシェアはさらに伸長する」という見方が有力である。
それに、罰則付きの厳しいCO2排出量規制が間もなく本格的に実施される欧州のメーカーからも、燃費が有利にカウントされるプラグイン機能を備えた新たなハイブリッド車が次々発表されているという状況だ。

そんな昨今のハイブリッド車事情だが、海外勢と大きく異なるのは、日本には「ハイブリッドの安価なコンパクトカーが存在する」ことだ。 そうした“身の丈サイズ”のハイブリッドモデルこそが実は日本のお家芸。代表格といえば、2011年末に登場したトヨタのアクアと、2013年秋に発売された最新型ホンダ フィットハイブリッドということで異論はないだろう。

定評のアクアに革新のフィット

ハイブリッド専用モデルであるアクアも、フィットのハイブリッドバージョンも、そのスターティングプライスはいずれも170万円前後から。これほどの価格で本格的なハイブリッドモデルが手に入れられる日本という国は、海外から見れば「ハイブリッド大国」と映っても不思議はないかもしれない。

加えて、そんなモデルは大人気! アクアはデビュー後ほどなくして日本のベストセラーモデルの常連に名を連ねているし、先代のモデルライフ途中から設定されたフィットのハイブリッドバージョンも販売台数の過半数を占める定番となっている。

ボディ骨格までを含め、すべてが全面的に刷新された現行型のフィットハイブリッド。見どころは「2基のモーターを用いるトヨタ方式にかなわない」と従来型で言われてきた燃費性能を、1モーター方式という機構上の特徴は継承しつつも一気に改善させた点だ。

実際、カタログ上の燃費データ(JC08モード)では、アクアの最高37.0km/Lに対して、新型フィットハイブリッドは36.4km/Lと肉薄。加えて開発陣は「走る楽しさでは、アクアに絶対負けない!」と豪語する。

初代プリウスから熟成が重ねられた定評のシステムを用いるアクアと、燃費以外にも訴求点を探る革新のシステムを搭載したフィット。単にハイブリッドだけというだけではなく、今や日本を代表する人気モデルでもあるそんな両車を、あらためて乗り比べてみた。

アクアのハイブリッドシステムは世界一スムーズ

日本車としては珍しいポップなカラーを前面に押し出したプロモーションと、親しみやすいネーミングによって、デビュー早々にして高い知名度を獲得したアクア。その顔つきやプロポーションなど、一見しての印象はまさに“プリウスの弟分”だ。それもそのはずで、なにせ北米での名前は「プリウスC」。プリウスファミリーの一員であることが示されているのである。

2014年末のマイナーチェンジで一部意匠の変更や地上高をアップさせたクロスオーバー風グレード 「X-URBAN」を追加設定するなどのリファインが行われたアクアだが、ハイブリッドシステムそのものにはわずかな制御の変更が報告されている程度。まずはモーターのパワーだけでスルスルと発進し、その後もしばらくはEV走行を継続……という走りのパターンが、日常シーンでは一般的となる。

そこには最高出力74psのエンジンに対してモーターの出力は61ps相当と、相対的に大きなモーターパワーを備えるシステムならではの走り味がある。気が付けばいつのまにかエンジンが始動済み……という動力の滑らかなバトンタッチも、さすがに手なれている。こうしたスムーズネスにかけては、間違いなく「世界一」と言えるのがトヨタのハイブリッドなのだ。

テスト車は、最上級の「G“ブラックソフトレザーセレクション”」。ダッシュボード前面が合成皮革張りになるなどそれなりに上質感の演出が見られるものの、自慢の合成皮革のシートが滑りやすいのは残念である。
パフォーマンス面においては、マイナーチェンジを機にボディのスポット溶接増しやサスペンションのチューニングのリファインも行われたとのこと。たしかに「劇的」とまではいかないものの、フットワークの安心感は従来型を確実に上回っているという印象を受けた。

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トヨタ アクア
真正面から見たアクア。2014年末のマイナーチェンジでバンパーの形状などが変更されている。

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ホンダ フィット
フィットのフロントまわりは、グリルとヘッドランプを一体化して水平につなぐデザインが採用されている。
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トヨタ アクア
全長は4mを切る3995mm。Bピラー上部を頂点に後方へ向かって低くなるルーフで、プリウスの「トライアングルシルエット」を継承。

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ホンダ フィット
フィットの全長は、アクアよりも40mm短い3955mm。ルーフラインは後部までほぼ水平で、ユーティリティを重視していることが伺える。
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トヨタ アクア
天地に薄いリヤウインドゥに縦長リヤコンビランプの組み合わせ。ランプの形状はマイナーチェンジを機に変更された。

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ホンダ フィット
エアスクープ状の(実際はカバー付き)ダイナミックなデザインのリヤバンパーが躍動感を感じさせる。全高は1525mm。

エンジン主体の印象が強いフィット

一方で、タイミング的にも大人気のアクアを隅々まで研究し尽くして現れたに違いないのが現在のフィットハイブリッドである。7速DCTにモーターを組み合わせるなど、ホンダらしく技術的に高いハードルへと挑んだ。 その制御の熟成不足からリコールを繰り返すという思わぬ“ミソ”は付いてしまったものの、ダイレクトな駆動力の伝達にレスポンスに優れたモーターパワーが上乗せされることで生まれる走りの感覚は納得の仕上がりだ。開発陣が「もう燃費だけのハイブリッドは作らない!」と言うだけのことはある。

同じハイブリッドモデルでありつつも、相対的にはフィットの方がアクアよりも「エンジン主体」の印象がはるかに強いのも特徴だ。
137psのシステム総出力に対して、モーター出力は30ps弱。一方のアクアでは、100psのシステム総出力に対してモーター出力が60ps強と、実際に“電気自動車度”はアクアの方がずっと高いのだ。それゆえ、アクアには装備されるエンジンを止めてモーターだけで走るモード(EVドライブモード)も、フィットには用意されていない。

日常シーンでも、フィットは速度が10km/h程度に高まった段階で、動力の主役を早くもエンジンにバトンタッチする。モーターのサポートを受けつつDCTでこまめに変速をして、エンジンが最も効率良く回れる領域を探りながら低燃費をたたき出す……これが、フィットのハイブリッドシステムの根本的な考え方であるわけだ。

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トヨタ アクア
モーターの守備範囲が広いハイブリッドシステムを搭載。37.0km/LというJC08モード燃費は、プラグインハイブリッドを除けば世界最高水準だ。

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ホンダ フィット
JC08モードで36.4 km/Lという良好な燃費を実現。デュアルクラッチ式のトランスミッションがダイレクト感のある走りをもたらす。

フィットはユーティリティ性も自慢

こうして、先行するトヨタ方式に対してあらためて全く異なるアプローチで挑んだハイブリッドシステムを採用するフィット。そのシステムだけをみても「“負けず嫌い”なホンダらしい」と思える作品である。もはやホンダ車伝統といえるセンタータンクレイアウトを生かし、事実上ガソリンエンジン車と変わらないユーティリティ性を実現させたあたりも、やはり意地の表れなのだろう。

2年近い登場時期の差を踏まえれば、フィットの方が勝るのも当然といえるかもしれない。とはいえこのカテゴリーのモデルとしてはなかなかフラット感に優れた、安定感のあるフットワークの仕上がりにも、あらためて感心した。

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トヨタ アクア
センターメーター方式を採用し表示をフルデジタル式とするなど、先進性を高めたインパネまわり。前方視界の確保を重視し、水平基調としている。

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ホンダ フィット
フラットパネルのセンター部分やタッチパネル式空調スイッチなど、インターフェイスに新しい試みが感じられる。
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トヨタ アクア
すべてをデジタルで表示するメーターは、プリウスを思わせるイメージだ。撮影車両は、フルカラー化し表示項目も標準状態より多いTFT液晶のマルチディスプレイを組み合わせる。

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ホンダ フィット
アナログのスピードメーターを中心に置き、その左右に液晶ディスプレイをレイアウト。イルミネーションがふんだんに盛り込まれるなど、先進的なイメージの演出ではアクアに負けていない。
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トヨタ アクア
シフトゲートはスタッガード式。オーソドックスな、誰にでも操作しやすいタイプだ。

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ホンダ フィット
プリウスと同じ、電子式のシフトを採用。Pポジションの選択はボタン操作で行う。
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トヨタ アクア
着座位置は昨今のコンパクトカーとしては低めに設定されている。テスト車のG“ブラックソフトレザーセレクション”には、合成皮革のシート表皮が採用される。

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ホンダ フィット
センタータンクレイアウトの影響もあり、前席の着座位置は比較的高い。体圧分布に優れたシートは長時間座っても疲れにくいもの。
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トヨタ アクア
左右席の座面中央部分をえぐったシート形状。座面下にバッテリーを搭載するが、クッションの沈み込み感が絶妙で不快な底付き感はない。

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ホンダ フィット
フィットの後部座席は広さが自慢。座面のチップアップ機能やセンターアームレストが備わるなど、利便性にも優れる。
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トヨタ アクア
バッテリーを後席の下に配置することで、ラゲージスペースは低めのフロア高を実現。奥行きもしっかり確保されている。

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ホンダ フィット
ラゲージスペースの広さは、初代モデルから受け継がれる美点だ。
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トヨタ アクア
後席は6:4の分割可倒式。スイッチ操作で簡単に折りたためるが、フロア部分との間には段差が生じる。

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ホンダ フィット
後席の座面は、折りたたむと同時にダイブダウン。低くフラットな床面を作り出すことができる。
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トヨタ アクア
荷室部分の床が低いのが印象的だが、そのぶん、床面とシート部分との段差が目立ってしまう。

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ホンダ フィット
完全にフラットな床面を作り出すことができる。大きなものを積む際などに、そのメリットが光る。
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トヨタ アクア
床下にはパンク修理キットのほか三角表示板などを積むスペースが用意されている。

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ホンダ フィット
床下収納はごくわずか。写真に見られるくぼみの上には、三角表示板がおさまる。
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トヨタ アクア
オプション装着車に限られるが、ステアリングスイッチでエアコンの温度設定 と内気循環を操作できるのは便利。

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ホンダ フィット
フィットの技ありポイントは、チップアップ機能を持つ後席だ。室内にベビーカーを積めるなど、幅広い使い方ができる。

異なるアプローチでトライ

一方のアクアも、この先もちろんこのまま黙っていることはないはず。トヨタ式のシステムの特徴である“EV濃度の高さ”を生かした上で、現状フィットに先行を許したと言わざるを得ない、よりダイレクトで小気味よい加速感やフットワークのしなやかさについて改良を加えてくるだろう。どのようにレベルアップを図ってくるのか、今後の最大の見ものと言ってよさそうだ。

いずれにしても、日本のすべてのモデルたちの中にあって、常に上位の売れ行きを占めるこの両車には、売れるだけの理由とその資格があるのだ。

同じカテゴリーに属しつつも、それぞれの強みを生かす、異なるアプローチでクルマづくりにトライする――そんな競争は、これからも大歓迎だ。

(text:河村康彦/photo:田村 弥、峰 昌宏)

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トヨタ アクア
センターコンソール前方に2本分のカップホルダーがあり、その奥にはめがねケースなどが置けるスペースも確保される。

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ホンダ フィット
アクア同様に2本分のカップホルダーと小物入れが用意される。
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トヨタ アクア
サイドブレーキレバーの横に、スマートフォンなどが置ける。

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ホンダ フィット
小さな2つのトレイを装備。キーや小銭を置くのに便利だ。
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トヨタ アクア
上級グレードの「G」は大型のセンターコンソールボックスを備える。グレードによってはトレイ状の小物入れとなる。

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ホンダ フィット
主要グレードに装備されるセンターコンソールボックスはタブレットPCが納まるサイズ。深さもたっぷりある。
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トヨタ アクア
グローブボックスの上には、オープントレイが設けられている。2段式の収納とすることで、利便性を高めている。

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ホンダ フィット
ごく一般的な形状のグローブボックスを組み合わせる。助手席前の収納力では、オープントレイを備えるアクア優勢。
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トヨタ アクア
フロントドアのアームレスト部にはプルハンドルを兼ねた小物入れが備わる。

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ホンダ フィット
ドアハンドルのポケットはアクアと同様。細かいものを入れることはできる。
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トヨタ アクア
サンバイザーのチケットホルダーは大きなカードも挿せるベルト式。

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ホンダ フィット
ベルトの位置が違うものの、サンバイザーポケットの実用性はアクアと同等。
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トヨタ アクア
フロントのドアポケットには、500mlサイズのペットボトルと小さな冊子が収納可能だ。一方リヤドアにはドアポケットが備わらない。

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ホンダ フィット
ボトルホルダーが備わるものの、収納力はほどほど。ただし、アクアと違い後席にもドアポケットがある(写真は前席)。
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トヨタ アクア
後席乗員のためのボトルホルダー(1本分)をセンターコンソール後方に設置。

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ホンダ フィット
インストルメントパネル右端にドライバー用のドリンクホルダーを配置。リッドが可動し、携帯電話などもしっかり固定する。
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トヨタ アクア
助手席の後ろには、冊子類を入れるためのシートバックポケットが備わる。

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ホンダ フィット
アクアと同様、助手席の背もたれにシートバックポケットを完備。
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トヨタ アクア
運転席の正面にトレイがあり、右側はスマートフォンを入れても落ちにくいように深く設計している。

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ホンダ フィット
オーソドックスなメーターレイアウトを採用。アクアのような、運転席正面の収納スペースは用意されない。