レクサスLX試乗記【後編】 ~メルセデス・ベンツGクラスと乗り比べる

比類なき安心感

3台の高級SUV、レクサスLX、レンジローバー、メルセデス・ベンツGクラスに試乗。後編は、長きにわたって販売されているメルセデス・ベンツのSUV、Gクラスをピックアップ。根強い人気を誇るその理由との対比によって、異なる個性を持つレクサスLXの特徴を浮き彫りにする。

軍用のすごみが伝わるGクラス

Gクラスの出自が、NATO軍を筆頭に世界各国の軍隊で採用される高機動車であることは、有名な話だろう。それをメルセデスが一般向けにアレンジして市場投入したのは1979年。つまり、もはや登場から36年の時がたっている。現在市販される乗用車の中では、長く生産されているモデルのひとつだ。

メルセデス・ベンツの代表的なSUVであるGクラス。今回は、中でもパワフルなエンジンや豪華な内装が与えられた高級モデルG63 AMGをピックアップ。レクサスLXと比較した。

巷での人気の高さは今に始まった話ではなく、むしろその人気に陰りがないことに驚かされる。それはGクラスがあまたのSUVとは一線を画する、軍の規格に合った強烈なオーバークオリティ感を、変わらぬたたずまいと共に有しているからだろう。

その点を、クルマを動かさずとも誰もが最初に感じ取れるポイントはドアである。ゴツい金具同士が発するカキンという開閉音は、精緻さや頑強さで鳴らしたいにしえのドイツ車を思い起こさせる。フレーム形状の車台の上に、路面からの影響を受けることのない上屋が載っていて、ヒンジやピラーの作りは異様に頑強だ。端々に宿る本物感は、男子の所有満足度をぐいぐいと高めてくれるに違いない。

悪路走破が大前提

交換しやすさや部品の保管のしやすさを考えて、全てのガラス窓は平板。フロントのウインカーは前隅を見切るマーカーとしても機能。さらに、光漏れ防止の加工もしやすいテールランプの形状……と、意匠の端々に軍用車の面影を残すGクラスは、メカニズムも悪路走破を大前提に作られている。

メルセデス・ベンツG63 AMGのサイドビュー。ボディの直線的なデザインが目を引く。

先述のフルフレームシャシーにつるされる前後のサスペンションは、強度と接地性に優れた、リジッド式と呼ばれる構造のもの。ヘビーデューティの権化ともいえる、トヨタの70系ランドクルーザーも用いる、純粋なオフローダーでは王道の作りだ。加えて、室内からボタンでコントロールできるデフロックはセンターに加えて前後輪と、3カ所を独立してコントロールできる。市販車装備としてはかなり珍しいこれらのメカニズムを全て作動させるような状況は、地図に道の引かれない、緯度経度を頼りに進むようなところしか考えられない。が、それはGクラスが醸す本物感の、ひとつの重要な要素でもある。

「出発点の違い」は見て取れる

いま、最もベーシックなGクラスは3リットルのディーゼルエンジンを搭載するモデルで、その価格はレクサスLXにほど近い。が、それ以外の部分ではLXとGクラスとは出発点からして大きく異なるクルマだ。LXのベースとなる200系ランドクルーザーは、ヘビーデューティなニーズを70系に委ねることにより、乗用車的な快適性や悪路における容易なオペレーションを大前提に設計されている。ゆえに、Gクラスのような目に見える剛質さも語れるディテールもないが、それは両車の優劣の材料にはまったく当たらない。

その前提でGクラスをみると、高機動車という元ネタをよくもここまで豪勢に仕立て続けてきたものだと感心させられる。最新のダッシュボードデザインにヒーター付きレザーシート、果てはクルーズコントロール機能を含めた先進安全デバイス……と、装備の各部を追う限り、最新のSUVに対しても見劣りする点はほとんどない。

ただし、日常遣いで不自由だと思う場面がまったく除去されているわけではない。車高調整機能を持たないコイル式のサスペンションゆえ、乗降性は普通のクルマのようにはいかないし、タイヤストローク優先で左右が狭められた荷室の形状は、ゴルフバッグなど長尺ものの積み方にも工夫を要する。車格の割には後席の居住性、特にニースペースなどは狭いと思う人もいるだろう。そういうところは、クルマのキャラクターに甘んじて許す必要がある。

エクステリアと同様に直線基調のデザインが採用された、G63 AMGのインテリア。悪路を走る際に役立つ装備と、豪華な内装材が同居している。

至れり尽くせりのLX

レクサスでは唯一の8シーターとなるLXは、もちろん使い勝手も今日的に洗練されている。セカンド&サードシートは独立可倒でのアレンジも可能、上下分割式リアゲートも併せて荷物へのアクセスも簡単だ。

LXのサードシートは、電動式の跳ね上げ機構付き。左右側面に格納することで、ラゲージスペースの容量を拡大できる。

電動スライド式セカンドシートは頭上の空間も足元の空間も十分で、お抱え運転手付きのショーファードリブンとして使っても差し障りのない、くつろぎが確保されている。前席の至れり尽くせり感は言うにおよばずだが、設定温度に応じてシートヒーターやステアリングヒーターまで作動させて室内環境を統括制御するクライメートコンシェルジュ機能は、煩わしさを和らげる、レクサスの新しいもてなしの試みだ。

レクサスLXのセカンドシート(写真)には、前後のスライド機構とリクライニング機構が備わる。フロントシートの背面に設置されたモニターは、オプションのリヤシートエンターテインメントシステムのもの。

Gクラスの“味”は唯一無二

使い勝手も異なるなら、それ以上に違いが顕著なのは乗り味だろう。Gクラスは、あくまでオフロード本位の足回りを持つだけに、路面からのフィードバックが逐一車体を細かく揺らす。それを少しでも和らげるべくサス設定やボディマウントも長きにわたって調律が加えられてきたが、それでも全てを取り除くことは難しい。Gクラスは強烈なハイパワーを大径・低偏平タイヤで受け止めるAMGモデルも用意されるが、そうなる細かなピッチやロールはますます顕著になってしまう。総じて、「乗用車としてはギリギリ我慢できる領域」といったところだろうか。

メルセデス・ベンツG63 AMGのフロントシート。インテリアのパッケージオプションを選んだ試乗車のものは、ダイヤモンドステッチ入りの本革仕様になっている。

しかし、Gクラスにそれを言うのはお門違いだ。むしろ出自や骨格を思えばよくここまで快適性を確保しているものだと感心する、その上で頑強無比なフレームやステアリングの支持部、タイヤの取り付け部など、あらゆる部位の並外れた剛性感によって、鋼の塊におさまったかのような感触が乗員を包み込んでもくれる。このタッチを一度知ってしまうと、他に変わるものは求められない。他に類を見ない存在感はファッション性のみに置き換えられがちだが、長らくGクラスを愛する人は、実はこのドライブフィールにこそ最大の価値を見いだしているのだろう。

Gクラスには、走行状況に応じて駆動力を4輪に配分する4ESP(4エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)が備わる。

LXは「癒やしのシェルター」

対するLXの個性はなにか。こちらもそもそもの、負荷や耐久性に対して余裕を持たされた設計からくる乗り味の豊かさは携えている。一方で、その余剰は、極端な悪路走破性やオンロードでの敏しょう性には振られていない。それらを適度にバランスさせながらも、あくまで平時のしなやかな乗り心地のために設計の余剰部分が用いられている。レクサスらしい快適性、すなわち音や振動などの濁りを一切廃した超スムーズ&フラットなドライブフィールに注力しているわけだ。初代LSでトヨタが総力を挙げて臨んだレクサスらしい乗り心地の構築―― そこから四半世紀の時が過ぎた今、その意思を最も色濃く受け継いでいるのは、実はこのLXなのかもしれない。

つまるところLXは、移動にまつわる快適さの種類が、ごく一般的なサルーンとは大きく違っているということだ。乗員は、ロードノイズや風切音といった外界の雑音から物理的に遠く隔てられ、路面の凹凸など気にとめることなく滑らかに走り続ける車内にいられる。車窓に流れる景色を一段高いところから眺めつつ、その鋼のゆりかごにでもいるかのような安心感に、どっぷりと身を委ねていればいい。現代人にとってそれは、癒やしのシェルターなのだろうか。LXに乗っているとそういう思いを巡らせてしまう。

(文=渡辺敏史/写真=高橋信宏)

<試乗車のスペック>

【レクサスLX570】
全長×全幅×全高=5,065×1,980×1,910mm/ホイールベース=2,850mm/車重=2,720kg/駆動方式=4WD/エンジン=5.7リットルV8 DOHC 32バルブ(377PS/5600r.p.m.、54.5kgf・m/3200r.p.m.)/トランスミッション=8AT/燃費=6.5km/L(JC08モード)/価格=1,100万円

レクサスLX570

【メルセデス・ベンツG63 AMG】
全長×全幅×全高=4,575×1,860×1,950mm/ホイールベース=2,850mm/車重=2,580kg/駆動方式=4WD/エンジン=5.5リットルV8 DOHC 32バルブ(544PS/5,250-5,750r.p.m.、77.5kgf・m/2,000-5,000r.p.m.)/トランスミッション=7AT/燃費=--km/L(JC08モード)/価格=1,867万円

メルセデス・ベンツG63 AMG

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road