レクサスLX試乗記【前編】 ~レンジローバーと乗り比べる

伝統が育んだ高級感

3台の高級SUV、レクサスLX、レンジローバー、メルセデス・ベンツGクラスに試乗。前編では、歴史あるSUVとして知られるレンジローバーと、レクサスの最上級SUVであるLXを乗り比べ、それぞれの持ち味を報告する。

快適性は四駆の基本性能

いわゆる「四駆」が、乗用車として多くの人々のショッピングリストに載り始めたのは1970年代以降の話だと思う。
それまでは、ごく限られた環境での特別な用途のために用いられていたこの手のクルマをレジャーユースとした、大げさにいえば民生化したのは、ジープやランドローバーだ。操作系のパワーアシスト化やサッシュドアにレギュレーター式のウインドゥ、肌触りのいいトリムなど、使いやすく快適なしつらえを施したモデルは、徐々にユーザーの心を掴んでいった。

レンジローバー3.0 V6 スーパーチャージド ヴォーグのコックピット。ステアリングホイールやシートは本革仕様となっている。レクサスLXと同様に、シートヒーターは標準で備わる。

ランドクルーザーとて、その波をキャッチしていなかったわけではない。67年に登場した50系は、一般のニーズを意識した乗用車然とした作り込みに加えて、オンロードでの走行性能にも気が配られたという。
2014年8月に、2015年6月までの期間限定で国内投入された70系ランドクルーザーが、悪路ですら乗り心地がよかったことには驚かされた。それを問うてみると開発主査は、「結果的に安全性へとつながる、乗員を疲れさせない乗り心地は、ランクルの伝統です」とおっしゃった。道の悪いところを長距離移動するという四駆本来の目的を考えれば、動的な快適性はクルマの基本性能といっても過言ではないのかもしれない。

レクサスLXと異なり、レンジローバーにはサードシートは用意されないが、標準モデル(写真)よりもホイールベースを200mm延長したロングホイールベース車がラインアップされている。

レンジローバーには流儀がある

現在は、ベースとなる車台に乗用車系のものを用いたSUVが百花繚乱(りょうらん)で、それらはおしなべて乗り心地も乗用車と何ら変わることがないほどに洗練されてきている。それでもこのカテゴリーにおいて長らく、そして現在も「快適性のベンチマーク」とされているのは、ランドローバー社のレンジローバーだと個人的には思う。

オールアルミモノコックのボディを採用し大胆に軽量化が施された現行型は、兄弟的な位置づけとなるレンジローバー スポーツと基本的なメカニズムを共有している。が、その性格はしっかり分けられている。レンジローバーの側は、あくまでラグジュアリーが第一とされており、それを成り立たせるようにメカニズムが整えられている。

レンジローバー3.0 V6 スーパーチャージド ヴォーグのセンターコンソール。ダイヤル式のギアセレクターや走行モード選択スイッチが整然と並ぶ。

初代と比べれば随分グローバライズされたとはいえ、レンジローバーのドライビングポジションはちょっと独特だ。背もたれを立て気味に、背筋を伸ばしてキチッと座ることでシートとのフィットがしっくりくる。車格の割にはステアリングの握りは気持ち細く、その断面は、真円よりもやや三角形に近い形状にかたどられている。

これらはレンジローバーが“イギリスのオフローダー”であることを示すために守っている流儀だ。クルマになじむ姿勢をとればおのずと身が律せられる車内環境。周囲に開けるクリーンな視界。そして悪路での繊細な操作が必要となる、各種の装置・スイッチ類の作り込み……。使用状況が多様化しても、レンジローバーはそこを守り続けることで、他車とは一線を画する世界観を生み出している。

レンジローバー3.0 V6 スーパーチャージド ヴォーグのフロントシートには、オプションでマッサージ機能を追加することができる。

オフロード性能とラグジュアリー性の融合

RXやNXといったレクサスの主力SUVと、LXとで最も大きく異なるところは、そのメカニズムの出発点を悪路走破性の側に置いていることだ。具体的には、200系のランドクルーザーが土台にあって、そのラグジュアリー性をレクサスのフラッグシップにふさわしいものへと磨き上げている。一目瞭然の外観のみならず、内装に関しても、ダッシュボードの周りやセンターコンソール、ドアのインナートリムなどそのほぼ全てがLX用に作り直されたもので、もちろん素材も、ランドクルーザーとは異なるものが用いられている。

レクサスLXの運転席まわり。インストルメントパネルは、ベースとなったトヨタ ランドクルーザーとは全く異なるデザインとなっている。

LXのボディサイズは、全長×全幅×全高=5,065×1,980×1,910mm。数字で見れば巨大な寸法ではあるものの、車内におさまってしまえば前後や側方の見切りははっきりしており、取り回しに意外なほどストレスが感じられない。これは路面状況を把握しやすいかどうかが走破能力につながる、オフローダーならではの性質であり、LXの出自がうかがえる。同様に、車格の割に最小回転半径が小さい点も、道なき道を走る上で必要とされる特性である。

レクサスLXのリアビュー。LEDシーケンシャルターンシグナルランプと名付けられたウインカーは、車体の中央から外側へと光線が流れるように発光する。

高級セダンを思わせる

LXのドライビングポジションは、レンジローバーのそれに比べれば、かなりおおらかな印象だ。表皮やトリム類の感触はしっとりとしていて、クッションも初期の沈みが大きく、ふわりと体を包み込む。もちろん大きな調整しろを使ってドライビングポジションをしっかり定めることも可能だが、その際にもレンジローバーのように型にピタッとハマったような引き締まり感はない。メインマーケットである、アメリカや中東の好みがよく反映されたタッチといえるだろう。

レクサスLXのシートにはセミアニリン本革が採用されており、本木目のパネル類とともに、上質な室内空間を演出する。

レクサスLXの操作系のフィーリングは、総じてソフトで滑らかだ。ガツガツとした路面からの入力が徹底的になめされた、その優しい感触は、少なからずスポーティネスを重視し応答のダイレクト感を重んじるRXやNXとは、一線を画すものだ。既存のラインアップで例えるならば、高級セダンのLSに近い。
そして日本の法定速度域で走るぶんには、静粛性は間違いなくクラストップ。つまり、「これ以上静かなSUVは恐らく望めない」という域にまで達している。振動の少なさも含めて、既存のレクサス車に共通している高級感を思い起こさせる。

レクサスLXには、プリクラッシュセーフティシステムやレーンディパーチャーアラート、アダプティブハイビームシステム、レーダークルーズコントロールがセットになった運転支援システムLexus Safety System+が標準で備わる。

飛ばさなくてもうれしくなる

走りの質感においてレンジローバーが見事だなと感心させられるのは、コーナリングでの所作だ。これまでより軽くなった上屋を支えるサスペンションは、ロールを無理に嫌がるでもなく、曲率や速度に応じて生き物のように四肢を路面にヒタッと吸い付ける。3リットルのV6スーパーチャージャーユニットを搭載していた試乗車はそこにノーズの軽さも加わる。操作に対してとがった動きの変化が見られず、身のこなしは自然だ。

レンジローバーには、今回試乗したスーパーチャージャー付きの3リットルV6モデルのほかに、同じくスーパーチャージャーを備える5リットルV8モデルもラインアップされる。

対してLXは、車体のサイズや重量がもたらす、ゆったりした乗り味が身上である。コーナリングに軽やかさは望めないが、わずかな外乱では動じないどっしりとした感覚は、日本の交通下では、やはり高速巡航において最も映えるだろう。
走行モードに連動してサスペンションを自在に制御するAHC(アクティブハイトコントロールサスペンション)やAVS(アダプティブバリアブルサスペンションシステム)などの電子制御と相まって、走行安定性は十二分に確保されているし、5.7リットルV8は、いつなん時でもアクセルひと踏みで必要十分なパワーを放ってくれる。

走行環境に応じた車高が3段階から選択できるLX。写真は主に悪路走行時に使うハイモードで、通常走行時のノーマルモードに比べ、フロントが50mm、リアは60mm高くなる。

しかし、結果として乗る側は、おのずと飛ばすよりも流す方がうれしく感じられるはずだ。静寂な空間の中、ゆったりとしたシートに身を預け、マークレビンソンの澄み切ったサウンドに耳を傾けつつ淡々と目的地を目指す。そういう乗り方をする上で、現在考えられるあらかたのものが標準搭載された先進安全デバイスは、ドライバーの疲労を最小限にとどめてくれるだろう。(後編につづく

(文=渡辺敏史/写真=高橋信宏)

<試乗車のスペック>

【レクサスLX570】
全長×全幅×全高=5,065×1,980×1,910mm/ホイールベース=2,850mm/車重=2,720kg/駆動方式=4WD/エンジン=5.7リットルV8 DOHC 32バルブ(377PS/5600r.p.m.、54.5kgf・m/3200r.p.m.)/トランスミッション=8AT/燃費=6.5km/L(JC08モード)/価格=1,100万円

レクサスLX570

【レンジローバー3.0 V6 スーパーチャージド(340ps) ヴォーグ】
全長×全幅×全高=5,005×1,985×1,865mm/ホイールベース=2,920mm/車重=2,340kg/駆動方式=4WD/エンジン=3リットルV8 DOHC 24バルブ(340PS/6,500r.p.m.、45.9kgf・m/3,200r.p.m.)/トランスミッション=8AT/燃費=8.5km/L(JC08モード)/価格=1,339万円

レンジローバー3.0 V6 スーパーチャージド(340ps) ヴォーグ

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road