ミッドシップ「シボレー・コルベット」。V8なのにEVみたいに乗れる!? 山田弘樹がリポート
大排気量の新型「コルベット」は、ライトウェイトスポーツカーのようなハンドリングが楽しめて、EVを思わせる静かなクルージングも実現する! そんな驚きの走りを山田弘樹が動画でリポートする。
スターターボタンを押すと、「ヴォン!」と6.2リッターV8 OHVが豪快に目を覚ます。“初爆”こそ、その高圧縮ぶりに驚かされたものの、最新型のLT2ユニットはとても礼儀正しくて、アイドリングではすぐに静けさを取り戻した。
走りだしからその印象は、筆者の知ってるコルベットとはちょっと違った。乗り心地は確かに良いのだが、そこにかつてのようなブワブワとしたアメリカンテイストはない。可変ダンパーがもたらすしなやかなダンピングの向こうに、ガッチリと芯のあるボディー剛性の高さが感じられて、極めてアスリート的なのだ。
そんな現代っ子のコルベットだから、街なかでのマナーもいい。常用域では豊かなトルクを生かして、極めておとなしく走ることができる。見た目はすこぶる派手だから、目立たないというのは無理な話。高速道路では盛大に周りの注目を集め、「ポルシェ911」のドライバーがこちらをガン見するほどだったけれど、とにかく静かに走り続けていられるから、それもどこ吹く風という感じなのである。
だーれもいなくなったところで、アクセルをグッと踏み込む。
すると、ショータイムが始まる。オータニサーン!
“ゾーン”に入るとOHVエンジンの動弁系が、後ろから気持ちよくメカニカルノイズを刻み始める。LT2ユニットのクリーンな吹け上がりは現行型になって、さらに磨きがかかっていた。現代の高性能V8ターボのように爆発的にトルクを発生するタイプではないが、そのぶん突き抜け感がすごい。回転が高まるほどにトーンがそろい、ビートが滑らかになっていくさまは感動的。メーターはデジタル表示だけど、まるでハイビートの機械式時計を楽しんでいるかのようなぜいたくさ。DOHCじゃなく、古典的なOHVを研ぎ澄ませたことでコルベットは、内燃機関の時代の末期に、大いなる趣味性を獲得したと思う。新型「Z06」はDOHCになっちゃうらしいけど。
それ以上に感激したのは、カーブでの身のこなしだ。
FR時代のおっとりとしたロードホールディング性とは比べものにならないほど、ターンインがシャープである。こんなにキレたステアフィールで、ルマンやデイトナの長丁場を戦えるのかと、思わず心配してしまう。
新型のミドシップ化の裏テーマとして、エンジンの騒音規制対策があったのでは? といううわさも聞いた。でもそんなことがどうでもいいと思えるくらい、新型コルベットのハンドリングはピュアでダイレクトに研ぎ澄まされていた。あぁ、このままクローズドコースへと連れ去りたい。ターンミドルからターンアウトでの動きは、どんな風なんだろう? このシャシーでZ06やスーパーチャージドモデルの「ZR1」が登場したら、どうなってしまうのか。
サクッと感想を述べるつもりが、思いっきりベタな試乗記となってしまった。でもそれくらい、現行コルベットのジキルとハイドっぷりは見事だったのだ。
1400万円という価格は安くはない。しかしその性能に対して十分な説得力があり、思わず背伸びしてしまいそうになる。新型コルベットはその日常における快適性や実用性で立派に“911イーター”の大役を務め、走らせれば“庶民のフェラーリ”を地でいく、お値段以上の価値を感じさせてくれることだろう。
だが一番大切なのは、運転するだけで幸せな気持ちになれる、この高揚感だ。それが得られたのは、開発陣が長年の夢だったこのミドシップ・コルベットを、楽しみながらつくったからだと思う。それが伝わるから、乗り手もウキウキできるのだ。
(文:モータージャーナリスト・山田弘樹)
[ガズー編集部]
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